GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
何もかもが憎い。
ソーマの心の闇は深い___
薄暗い部屋。壁には無数の斬撃痕と銃弾痕が穿たれており、スクリーンにも数カ所穴が開いていた。床には拳銃弾の薬莢と空になったマガジンが無造作に打ち捨てられている。家具らしい物もあるにはあるが、それらは本来の用途を発揮していない。
椅子だろうが、テーブルだろうが、ベッドだろうが。ほとんどの家具には、今まで使ってきた神機のブレードパーツが無造作に放置されていた。
その部屋を一言で表現するなら、荒れている、と言うところに落ち着くだろうか。
そんな薄暗い空間の中で、ガンッ、と人が住む部屋にはあるまじき鈍い音が響いた。
「……クソっ!」
音を響かせた張本人___ソーマはそう吐き捨てながら壁にもたれ床に座り込む。
蹴りつけた壁がへこんでいる。この部屋に新しく刻まれたソーマの感情だ。
彼は、不愉快な気分だった。
何がソーマを不愉快にさせているのか。
それは、イリヤと言う男の存在だ。
思い出せば出すほどに腹が立つ。自分のことをどうとも思っていないと言うあの態度が。
挑発的な、あの喋り方が。
自分と同じ土俵に立とうとするあの男の神経が。
イリヤという男の存在が、ソーマの心をとことん不愉快にさせる。
そもそも、ソーマという青年は“ニンゲン”が嫌いだ。おもむろ憎んでいる、と言っても良い。いつからそう思うようになったのかは覚えていないが。
ソーマの出生はかなり特異なものだ。ある意味で言って試験管ベイビーと呼んでも間違いでは無い。
ソーマは簡単に言えば、彼は両親の愛故に産まれた子供では無い。人類の希望となることを前提に発生させられた、いわば生物兵器として望まれた存在だ。
彼は幼少の頃から、同世代のニンゲンとの関わりが無かった。代わりに、自分に兵器としての強さを求め続けるニンゲンに囲まれて育った。
___お前が人類の希望なのだ
___アラガミを殺すために産まれたのだよ
___君はヒトという種を超越している
___アラガミをこの世から抹殺しろ。それがお前に与えられた運命だ
彼の心などには一切関心を向けずに、周囲はただ力の象徴としての彼を望んだ。
そして、13歳のとき、彼は兵器としての真価を発揮させる。
神機使いになったのだ。
その戦果は、彼の幼少期を囲っていたニンゲン達にとっては、それはもう興奮を抑えきれないほどのものだった。
単独での戦闘能力は並の神機使い10人分に匹敵し、また通常の神機使いとは全く異なるプロセスで産まれた彼は、身体の組成からして普通では無かった。
ただ、普通では無かった。
それだけだったのだ。
いつの日からだろうか。
彼は極東支部の神機使いとして戦果を上げていく最中、周囲から畏怖の目で見られるようになったのは。
いつからだっただろうか。
彼が“死神”と呼ばれ周囲から忌み嫌われるようになったのは。
ソーマは自分のことを力としてしか認識していなかったニンゲンに囲まれて育ってきた。
そして、次にソーマの周囲を囲んでいたのは、彼を“化け物”、“死神”と嫌悪するニンゲン達だった。
思えば、そのときからだったのだろう。
ソーマは、自分自身のことをバケモノだと自称するようになったのは。
そのときからだったのだろう。
バケモノという視点から、ニンゲンを蔑視するようになったのは
___オレはお前等とは違う
___バケモノのオレに関わるな
___オレに近付くな
彼はニンゲンを拒むようになった。
自身のことをバケモノと貶すニンゲンを憎むようになった。自身を取り巻く、全てのニンゲンが憎くて憎くてしかたがなくなった。
いつの間にか、彼の近くにいたニンゲンは既にほとんどがいなくなっていた。
周囲は更に彼を畏れた。
死神のあだ名が定着した。
ほとんどのニンゲンが、自分のことをヒトとして扱ってくれなかった。
扱って欲しい、と言う欲求でさえ無くなっていたのだからソーマの心も、その時点で固く閉ざされていたのだろう。
だから。
あの任務へ行く途中。輸送ヘリの中でイリヤが見せた、自分に対する純粋な殺意が___
_____恐かった
そう、恐かったのだ。
蔑視していたはずのニンゲンに向けられた殺意が、どうしようも無く恐かったのだ。
だから、ソーマは苛立った。
心のどかで見下していたはずのニンゲンが、自分と同じ土俵に上がってきたことが。面白くなかった。
自分のことを、肯定も否定もしないイリヤの不気味とさえ言えるあの態度が、気に入らなかった。
全てを見透かしたような、あの目が憎かった。
そのことに、何だか自分がコケにされたような気分になり、そしてそんな風に感じられる自尊心だけが健在な自分に腹が立った。
「___クソっ」
ぶつける場所すら分からなくなった苛立ちは、心の中を彷徨って、結果的に罵声を吐き捨てるところで落ちつく。だが、相手のいない罵声など虚しい独り言とさして変わらない。
心の中にはモヤモヤが溜まったままだ。
___おい、バケモノだ
___アイツに近寄るな。厄もらうぞ
___またアイツと一緒に行った奴が死んだんだとよ。どれだけ死なせば気が済むんだ
___なぁ、うぜぇ奴とかをアイツと無理矢理一緒の任務に行かせるってのはどうだ? アラガミは討伐される。うざい奴は消える。どうだ? 皆ハッピーじゃねぇか!
___お? 死神サマ~ってか?
___ゲスイこと考えるなぁ、お前
___でも、それくらいでしか役に立たねぇだろ
___違ぇねぇな
___死神とハサミは使いよう、だな
ニンゲンの声が次々と蘇ってくる。
自分を忌み嫌うニンゲンの声が。彼自身が憎むニンゲンの声が。
彼の頭の中を駆けずり回って、彼の中のバケモノを責め立てる。
___また死んだんだとよ。アイツ、これで何人目だ? 誰か数えてねぇか?
(………煩ぇよ……)
___アイツまだ生きてんのか?
___違ぇよ、死人の数だけ長生きすんだよ
___はっ、流石死神だな
(……………黙れ)
___ソーマ
(やめろ)
___『死にたくねぇならな』ってか?
(黙れ)
___お前といたらソイツが死ぬって言う、その辺な思い込みはやめろ。不愉快だ
「_____っ!! 黙れえぇぇっ!!!!!!!」
手元に落ちていた拳銃を拾い上げて、めくらめっぽうに撃ちまくる。
弾は、6発しか込められていなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ………」
クソっ、と吐き捨てながら手にした拳銃を反対側の壁に向かって投げつける。
ろくな手入れを受けていないその拳銃は、虚しい音を立てて壁にぶつかり、その衝撃でバラバラに分解した。
床に落ちていたボロボロのヘットフォンを耳につける。音楽は流れない。
だが、これで少しは楽になれる。
両膝を抱え込み、全てを拒む。
音も、匂いも、色も、温度も。
___本当に拒みたいのはバケモノの彼自身だ
書いてて、作者自身が陰鬱になるという事件(白目)
原作ソーマってもう少しマシだったはずなんだけどなぁ……ここまで酷いキャラじゃ無かったはずなんだけどなぁ(遠い目)