GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
そして、物語のピースは揃った。
果たして、パズルは何を描くのか___
廃寺エリア。任務区域から少し外れた撤退用の退路を2人の神機使いの男が必死に走っていた。
通常はアラガミを任務区域___つまり通常のエリアに誘導してから討伐任務を発行する。この2人の男は、その誘導するべきアラガミから逃走している。
服は所々が焦げていたり、破れていたり。片方の男は左肩から血を流し、もう片方の男は背中に3条の鋭い裂傷を背負っている。2人が滴り流す血液が、道標の如く彼等が走ってきた路を汚していく。
真っ白な大地に、鮮やかな赤、赤、赤___
まるで赤い水玉模様のようだが、現状はそんな朗らかなものでは無い。
本物の、死活問題だ。
「畜生……畜生……!」
背中の傷の男が、泣きそうな声で喚く。
傷の深さが、彼の生きる気力を自身の血液と共に外へと流し出していく。
「……大丈夫だ……あともう一息なんだ、耐えろ!」
左肩の傷の男が、今にも生き延びることを諦めようとしそうな男を、冷静に、必死に鼓舞する。否、冷静は偽りだ。それを装って、その実内心では相方と同じくらいに絶望している。
・・・
(畜生! 何だってんだアイツは……!?)
2人は“ヴァジュラのような何か”に追われていた。
本当は彼等は、2人では無く3人だった。
彼等の所属は、ナンバー部隊では無く偵察部隊だ。その任務は先に挙げたように、任務区域外のアラガミを捕捉、そのアラガミを任務区域に誘導することだ。
今回の彼等に与えられていた任務。それは、討伐の確認がされずに消息を絶ったヴァジュラの再捕捉だった。いつだったか、廃寺エリアに侵入規制をかけていたあのヴァジュラ。あれのことだ。
「……見えた!」
少し開けた場所に、ブラックホークがスタンバイしていた。いつでも飛べる状態だ。
だが___
___絶望とは
今そこにある望みを絶つからこそ絶望なのだ
2人の目の前で、機体が爆発した。
「なっ!?」
爆風で飛び散った破片が、2人を襲う。小さな金属片が背中の傷の男の頬をかすめ、肉を深く抉る。
背後からの、咆哮。
2人の心臓が、鼓動を跳ね上がらせた。
ジワリ、と滲み出る汗。それは、負傷のショックから来る脂汗ではなく、純粋な生命の危機を悟った冷たい汗。
恒温動物は自身の命の危機を悟ったとき自ら体温を下げると言われている。ならば、この2人もその例に漏れないのであろう。背筋が、身体の底から、訳の分からない生理的に嫌な寒気を感じたのだから。
「畜生……畜、生………ちく……しょ………」
ガタガタと震えが止まらない。
身体を支配する感情は、恐怖。
死ぬと身体が分かっている、奇妙な感覚。
「やるっきゃ……ねぇのかよ」
左肩から溢れる液体が、腕を伝い、指先へと溜まり、含みきれなくなって地に落ちる。さび付いた歯車のように、ぎこちなく身体を振り向かせる。
咆哮。
それと同時に視界が真っ黒に染まった。
(え……?)
奈落に落ちる直前、ほんの一瞬、赤が視界の端をかすめたような気がした。
___……Οдин……Два……Три………!!
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「_____だってさ。ヤバいよな」
「悪ぃ、途中から聞いてなかった」
エントランス2階のソファ。イリヤのお気に入りのスペースで、イリヤはコウタが聞いた噂話を聞いていたはずなのだが、途中から全く聞いていなかった。
コウタの口から“ヴァジュラ”の名前を聞いた瞬間、胸がジクリと鈍く痛んだ。
イリヤに植え付けられたトラウマの根深さがそれで分かる。
「いや、だからさ。ある意味精鋭揃いの偵察部隊が3人のチームで任務に行ったら、1人が喰われて、残りが重症になって帰ってきたんだってさ」
「任務内容は何だ?」
「詳しいことは知らないよ。ただ、廃寺エリアのあたりで行方が分からなくなってたヴァジュラを探してたんだってさ」
「……なるほど」
状況はなんとなく理解できた。
「あと何だっけなあ~……比較的マシだった方の隊員が何かを聞いたって話なんだよな……何だっけ?」
コウタが、忘れてしまった内容を必死に思い出そうとして、ぐぬぬと唸る。大変失礼なことだが、その姿は普段のコウタには似つかわしくない。イリヤの中のコウタ像は、言葉を選ばなければアホの子の一言に尽きる。コウタは、ノリと明るさだけで充分だ。
「無理に思い出さなくても良いんじゃねぇか?」
「いや、あともうちょっとで出てきそうなんだ」
「俺には煙が出そうに見える」
「酷くねぇ!?」
コウタが訴えてくるが、そこは軽くスルー。コウタにはこれくらいの扱いが丁度良いのだ。
「んで? そのマシだった奴が聞いたってのは何なんだ? アラガミの鳴き声とか言ったらはっ倒すぞ?」
「いや、そんなんじゃなくてさ。女の声だったって話だったような………あじん? だったかな。駄目だ、ちゃんと思い出せねぇや」
「あじん?」
イリヤはその単語を聞いたとき、酷く懐かしい感覚を覚えた。何せ、その発音は彼の母国語にも全く同じものが有るのだ。
Οдин___アジン___ロシア語で、1。
となると、思い当たる節がある。
「Οдин Два Три………か?」
「あ! そうそう、それだよそれ! アジン、ドゥバ、トゥリー! どうして分かったんだ?」
「まぁ、な。俺の母国語だよ。ちなみにそれは1、2、3って意味だ」
「凄ぇ……え? じゃあ何でイリヤって日本語ペラペラなんだ?」
「……気にすんな。また煙り出るぞ」
「出してないから! 煙!!」
またコウタが必死な顔で訴えてくるが、またもやスルー。まともに受け答えするだけ時間の無駄だ、と言えば言い過ぎなのか。
だが、そんなことはイリヤにとってはどうでも良い。それよりも、何でその男がロシア語を耳にしたのかの方が気になる。この土地に来てからかなり長い間耳にすることの無かった母国語を久々に聞いた瞬間、どう言うわけかイリヤは酷く微妙な気分になった。
理由はよく分からない。ただ、何となく、そう感じたのだ。
(偵察部隊をほぼ壊滅させたヴァジュラと、生き残りが聞いたロシア語、か)
「あ、そうそう。ヴァジュラも何か普通の奴じゃ無かったらしいぜ。まぁそうだよなあ。じゃないと、偵察部隊の人達がやられるわけ無いしなあ」
偵察部隊は、ナンバー部隊の隊員以上に戦技に長けた精鋭だけで構成されている。神機使いが戦いやすい通常エリアよりも更に過酷でアラガミに都合の良い区域で活動している。そのため任務中での死亡率もだんとつで高い。
だが、構成メンバーはそれぞれ単独での戦闘能力はもちろんチーム戦での戦闘能力は極東第1部隊と互角かそれ以上とされている。
つまり、チームでヴァジュラに挑んだら例え負傷者が出たとしても派遣部隊壊滅と言う事態はほぼあり得ないのだ。
即ち、彼等が相手にしたヴァジュラ___果たして本当にヴァジュラなのかも怪しいが___がどれほどに強力な存在だったのかを、逆説的に物語る。
「普通の奴じゃ無い、ねぇ……」
それが一体どんな正体なのかは分からないが。
イリヤは嫌な胸騒ぎを、ただの気のせいだと流すことが出来ないでいた。