GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~ 作:A-Gyou
まだ、何も起きていない。
それはただ、まだ時が満ちていないだけと言うこと。
それまでは、平穏なのだ。
ALISA's Viewer
(個人ごとのベスト……)
アリサは、お世辞にも綺麗とは言えない自室のベッドに横たわりながら、リッカの言葉を反芻する。
彼女の専属医___大車ダイゴによるカウンセリングが終わったのは30分ほど前の話だ。
カウンセリングの最中でさえ彼女の心の中に居心地悪く残り続けるリッカの言葉は、やはり大車にも気付かれてしまい軽く注意されたほどだ。
逆を言えば、それほどに彼女にとっては影響力の強い言葉であったとも言える。流石は、我流で神機使い達の相談相手をこなしてきた彼女の言葉だ。
アナグラの神機使い達を見て、アリサが真っ先に抱いた印象は決して良い物では無かった。
彼女がロシア支部で極東支部とそこの神機使い達について教育を受けた際は、各地でも類を見ないほどにアラガミの数も新種の発生率も高い危険地帯でありそれに対応している神機使い達も皆精鋭揃いである、と聞かされた。
故に彼女は期待したのだ。今まで培ってきた技術、ロシア支部の新型神機使いであると言うプライド、それらを思う存分活かせる場所に行けるのだ、と。
そして何よりも彼女の期待値を上げていたのは、彼女の転属先である部隊だ。
フェンリル極東支部対アラガミ部門討伐班第1部隊。
神機使い達の中でも言わずと知れた精鋭精強。そんな部隊に行けるのだから、彼女の興奮は醒めやらぬ物にまで沸騰していた。
それがどうだ。
いざ来てみたら、最低限にまで形骸化した規律、締まりの無い空気、最前線だというのに博打やら遊戯に精を出す意識の低さ。普段の生活の雰囲気でさえ彼女を幻滅させるのに十分すぎ、そして実戦に出てみればどいつもこいつも教本に無いような滅茶苦茶な動きをして、戦略も戦術も無く不合理極まりない戦闘をする始末だ。
何よりも彼女を傷つけたのは、着隊当日のアレだ。
『女の子ならいつでも大歓迎だよ!』
あの男の言葉で、彼女の中にあった、極東支部に対する期待は粉になる直前くらいにひび割れたと言って過言では無い。
後は、現場を見れば見るほどに彼女の中にあった期待は砂の城の如く崩れていった。
代わりに芽生えた物は、彼女の目についた全てが蔑むべき対象である、と言う偏りきった価値観だ。
最たる例が、第1世代神機を使っている隊員は先頭に置いて足手まといにしかならない、と言う考え方だ。
極東支部はほぼ全ての隊員が第1世代神機を使っているので、彼女の価値観に合わせるとそれら全員が彼女にとっては邪魔者になる。
ここで、極東支部の隊員と彼女との対立が明確な構図になる。
「サイッテーです……」
寝返りを打ちながら呟いた言葉は、案外自分自身にも向けられている。
未だに、リッカの言葉が頭の中で反響し続ける。それも、反射するごとに音が大きくなっていく感じでだ。
(要するに私の価値観が全てだと思い込んでるだけのイタイ奴ってことじゃないですか……)
だが、アリサはそこまで辿り着いていてなお、それでもリッカの言葉を完全に受け入れられていない。
どうやっても、アナグラの雰囲気は彼女にはとうてい許容できないのだ。
彼女が最低だとぼやくのは、聞き分けの悪い子供のような自分の内面を見せつけられ、それにふて腐れてしまう自身の幼稚さに対してであるが、彼女自身はそれ自体にはまだ気づけていない。
アリサは、それ以上考えるのも精神に毒だと考えて寝ることにした。
(ほんと、サイテーです……)
意識は微睡みの波にさらわれていった。
楠リッカという少女は、立場的には一般の神機使い達よりも上にある。彼女に与えられた肩書きは“極東支部対アラガミ部門技術課神機整備班主任技術官”と言う見た目には全く似つかわしくないものだ。この肩書きを神機使いの階級に合わせるならば、少佐か中佐くらいになる。
つまり、相当偉い立場と言う事だ。
故に、例えば新人フロアにいる隊員などが容易に踏み入れないフロアにも平然と立ち入ることが出来る。
今彼女がいる技術開発フロアもそのうちの1つだ。
技術開発フロアでは、主に新たな適合者が見つかった封印中の神機を復活再調整したり適合者の都合で特別調整を必要とする神機の調整整備等々、神機の管理に関わるほぼ全てを担っている。
そんなフロアで、今回彼女は特別調整神機のメンテナンスのために赴いていた。
相手にする神機は、ついこの間管理替えで来たばかりの新型神機___つまりアリサの愛機だ。
「主任、お疲れ様です!」
「うん、お疲様~」
すれ違う部下達からの挨拶に、いつもと変わらぬ明るい調子で応じる。
彼女に仕事が舞い込んでくる場所の大概は、神機保管庫と今いるフロアの通路だ。このフロアに彼女の部屋はあるが、彼女自身の念の入った要望で部屋に直接来ないようにしている。
ただでさえ仕事の多い彼女は、せめて仕事の搬入窓口は少なくしたいのだ。そうすれば、仕事が増える勢いも気持ち抑えられるから。
「あのぉ……楠主任。今時間よろしいでしょうか?」
不安げな様子で声をかけてきたのはリッカの直属の部下である女性の整備官だった。名前はレベッカで北米支部から転属してきた彼女は数少ない同性の部下であり、リッカにもよく気に入られている。
「ん? あぁレベッカ! どうしたのかな?」
「8号計画の技術検証実験の件で少し問題が起きてしまって……」
「8号は……あぁ、本部から押しつけられてたアレのことだね。新しく来た神機のメンテ終わったら直接そっち行くから、詳しいことはそっちで聞くよ。それまで少し待ってて」
「あの、でしたら私もお手伝いします!」
「あはは~、気持ちはありがたいんだけどキミはチームに戻って。キミがチームリーダーなんだから」
「うぅ、はい。すみません……それではお待ちしております」
じゃあまたあとでね、と手を振りながらその場を後にするとリッカは目的の部屋まで足を運ぶ。
特別調整を要する神機は、例外なく科学技術フロアの特別整備室で整備を受けることになる。
普段リッカや他の技官達が神機保管庫で行っている整備は通常整備と言われる表面的なメンテナンスだ。故に、技術さえ持っていれば誰でもやろうと思えば出来る。しかし、特別調整になってくると、若干ややこしくなりそれを行える人間も限られてくる。
ちなみに極東支部でそれが行えるのはリッカと榊博士だけだ。
「ん?」
目的の部屋が見えた瞬間、リッカは足を止めた。
部屋の中から見知らぬ男が出てきたのだ。黄色いバンダナを巻いた小太りの中年くらいの男性。
少なくとも、彼女直属の部下では無くそして技術課内でも見た覚えは無い。
ふと、男と目が合った。
彼女の、視力1,8の目が男のネームプレートに記された名前を素早く捉える。
(オオグルマ……?)
男もリッカの身の上を悟ったのか頭を下げて礼をして、そのまま何も言わずに立ち去っていった。
(誰……?)
不審に思いながらも、整備室の前まで進む。一応、異常が無いかを目で見て分かる範囲で探す。
が、変なところは見当たらない。
引っかかるものは確かにあるものの、それ以上追求する術も無く、彼女は諦めて部屋の中へ入る。
中で彼女を待っていたのは、アリサの神機だった。
リッカも、数回しか見たことのない正統派の第2世代神機。初めて見たときの印象は、イリヤが使っているシノ___試作型よりもスッキリとまとめられた癖の無いデザイン、言い方を変えれば特徴が無いデザインだな、ということだ。
基本的に多くに普及するデザインは大衆に対して最大公約数を取らざるを得ないので、特徴が無いのも仕方が無いことではある。
「やあ、調子どう?」
神機を整備する前の、彼女が欠かさないルーチン。神機とのコミュニケーション。
「今日キミの中の方を少し調整させてもらうよ。勿論痛いことはしないから安心して」
親しげな口調で話ながら、同時に調整の準備も進める。
今回彼女が行う作業は、神機の外部指示受領動作変換機能の反応速度調整だ。
特別調整の中でも比較的簡単な作業ではあるが、かと言ってそこで機を緩めるほどリッカも甘くは無い。
外殻を外していき、アーティフィシャルCNSをむき出しにする。
アーティフィシャルCNSは人工的に調整したアラガミコアであり、よって定期的な整備調整にも人が携わることになる。
専用のプラグを差し込んで、調整用の外部端末と同期させる。
「ここまで来たら後はすぐ」
とリッカが独りごちると同時に、機械が勝手に調整を開始する。
数分待つと、作業達成率を示すゲージが満タンになり作業が終わったことを示していた。
端末から吐き出されるデータグラフを読み取りながら、異常なく調整が終わったことを確認していく。
異常があった場合、それが分かるような事象は2つある。
1つはグラフの中にノイズが生じる、と言うものだ。これに関しては機械が悪いときもあるから少しややこしいが、まだ安全ではある。
ならばもう1つは何だと言うことであるが、それは神機が暴走する、と言う形で示される。無論、かなり危険なことである。過去に他の支部でそう言った事故の果てに技官が捕食されてしまった、と言う話もあるくらいだ。
今回の結果は。
「うん、ノイズも無いしオッケーだね」
作業が問題なく終わったことを確認して、リッカは手早く場の撤収にかかる。
彼女は、普段の態度にはおくびにも出さないが思いの外多忙なのだ。
「えぇと、次はレベッカのところだったね」
走る手前くらいの速度で特別整備室を飛び出して、レベッカ達がいるラボまで急ぐ。
……彼女は本当に多忙なのだ。
さて、少しずつ調子を取り戻そうと頑張っておりますアギョーです。
もう少しで……あと、もう少しで!!!!
完結するわけじゃ無いですけど頑張ります!!!!