GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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引き金は引かれた

吐き出されたその魔弾は確実に標的へと向かって飛んでいく

それが当たるまでの時間は、言うまでも無く短い


The Crazy Gun/Pull the Trigger

イリヤは新人区画の自動販売機スペースのソファにもたれかかっていた。

 

自動販売機の照明は、電力の関係か機械自体の問題なのか弱々しい光で点滅している。

 

周囲には、誰もいない。

 

ここ数日は目立ったアラガミの活動も確認されなかったため、非番を言い渡されていた。

 

榊博士との協力を結んだ日から、1週間が過ぎようとしていた。

 

とは言え、いくら協力関係になったからと言ってイリヤの身の回りにすぐに変化が現れるわけも無い。むしろ、急な変化は周囲に不信感を与えかねない。

 

___申し訳ないんだけど、キミの現状にに対して直接僕から手を出せるわけじゃ無いんだ___

 

そう榊が言っていたのをふと思い出す。

 

本音を言ってしまえば、直接的に何かしてもらえない、と言う状況はありがたくない。とは言え、そこに駄々をこねるほどイリヤは物分かりが悪いわけでも無い。

 

ならば、今はそれを甘んじて受け入れて耐えるしか無いのだ。

 

しゃあねぇ、と呟いて立ち上がる。

 

軽く背を伸ばすと、背骨やら肩甲骨やらが小気味よく音を鳴らしていく。

 

任務が無いのは死ぬ心配をしなくて言い分気楽だが、逆にやることも思いつかなくて暇を持て余してしまう。

 

とりあえず自室に戻ろうとしたところで、自動販売機で目がとまった。

 

そう言えば、自室の冷蔵庫には支給品のビールが3本しか残っていない。それ以外の飲料らしき物は、無い。

 

ついでだし何か買っとくか、と考えて取りあえず200fcを機械に入れる。

 

ミネラルウォーターにしようかと思ったが、いつも水とビールだけだと物悲しいと感じて、他の物を探す。

 

幾つかの炭酸飲料、コーヒー、日本茶、紅茶等々と選んではみる。が、どれもめぼしいとは思えない。

 

そして、不服ながらも水以外に目が行ってしまった物があろうことにも冷やしカレードリンクだった。

 

何でそれに目が行くんだ手前ぇは、と自分に突っ込みを入れるが止まってしまった物は仕方が無い。そもそも、水とビール以外の飲み物を、ろくに飲んだことが無いのだ。冷やしカレードリンクを除いて。

 

2度目のしゃあねぇ、を呟いて冷やしカレードリンクのボタンを押す。

 

 

___機械、沈黙を維持

 

 

「……は?」

 

 

___5秒経過するも、未だ沈黙

 

 

おい待て、金の飲みこんだまま黙りとかふざけんじゃねぇぞオイ、と内心で焦り始める。

 

あちこちの目に付くボタンやらレバーを押したり引いたりしてみるが機械は黙ったまま。

 

すでに、1分近く経っている。

 

イリヤは、今でこそ金に困っているわけでは無いがそれでもほんの僅かでも無駄な金の損失を嫌っている。しかしながら、リカバリーが利くときと利かないときの区別はつくし、今は利かない方だ。

 

一度、大きくため息を吐く。

 

そして、畜生やられた、と思って諦めるために心の整理をしようとしたときだった。

 

ガコンガコンと、自販機の中から冷やしカレードリンクが落ちてきた。

 

落ちてきたのは、2本。

 

「ほぼ壊れてんじゃねぇか……」

 

新たに80fcを自動販売機に入れてから、イリヤはその場を立ち去った。

 

自動販売機は、その80fcに反応を示すことも無く素直に飲み込んでいた。

 

 

 

______________________

 

 

場所は変わって、羽黒ミコトの自室___

 

彼女の部屋には、本人の他には誰もいない。

そして、本人以外の誰かを入れるつもりも無いし、事実ほとんど入れたことも無い。

 

理由は簡単で、未だに人がパーソナルスペースの中に入ってくることが苦手だからだ。

 

彼女の部屋の光景は、至極シンプルだ。もはや、殺風景と言っても過言では無い。

 

内装は、部屋をあてがわれたときから何も変えていない。中央のスクリーンに映す画像でさえ初期の設定のままで、定期的にランダムに画が変わる程度。

せめてもの装飾は、白く小さい磁器製の花瓶とそこに生けられた1本のタンポポだ。

 

流石に、毎日掃除はしているから汚いわけでは無いが、その代わりに人がいない部屋の様な薄ら寒い雰囲気が漂う。

 

そんな部屋で、ミコトはソファで横になりながら日本人が書いた詩集を流し読みしていた。

 

彼女の目を通じて、頭の中に流れ込んでくるその言葉達からは優美だとか煌びやかな物は感じられない。空虚さの方がよっぽど目立つ。

 

「愛する者が死んだのなら死ななければならないって……」

 

そう独り言ちながら詩集を閉じる。

 

悪態にも似た感想だが、彼女はおもむろこう言った空虚な感覚を好む傾向がある。感情を昂ぶらせるような物語を読んだ後に、現実の冷たさを感じるのが嫌だから、と言う独特な理由だ。

 

そして、彼女もその傾向があることは自覚している。そして、それを治す気も無ければ必要も無い。

 

しかし、過度に空虚さに吞まれるのもよろしくない。彼女が空虚さを好むのは、それで心の波が落ち着くからであるが、やり過ぎたら逆にネガティブになりかねない。

 

いざというときにそのネガティブな気持ちが尾を引かないように、適度に調整する必要があるのだ。

 

「今日はこのくらいでいっか」

 

そう呟くとソファから起き上がって、ベッドの方へ向かう。

 

眠いわけでは無いが、他にやることが無いのだ。いつもの猫パーカーを脱いで、ラフな姿でベッドに寝転ぶ。

 

「…………お姉ちゃん、今の私を見ても褒めてくれるのかな……」

 

そう独り言を漏らしながら、枕カバーの中に手を突っ込む。ゴソゴソと手を動かしていると、目当ての物が指先に触れた。

 

枕の中から取り出された物は、随分と色褪せた茶色い革製のカードケースだった。サイズは、胸ポケットに収まる程度で形は長方形。例えるなら、いわゆるメモ帳とよく似た形状だ。

 

厚みは、彼女の手にあるケースの方がよっぽど薄いが。

 

仰向けになったままそれを開くと、中には2つの押し花と1枚の写真が左右に納められていた。

 

押し花は、これもまた2つともタンポポ。

 

そして、写真には今よりも少しあどけなさが残るミコトと彼女とよく似たもう1人の女性が写っていた。写真の中の2人は、それぞれ神機を携え、活力のある笑顔をしたまま肩を組んでいる。

 

撮影された日は、2年前の5月5日___ミコトの17歳の誕生日であり同時に神機使いになった日でもある。

 

「……お姉ちゃん……」

 

写真に写るもう1人の女性___羽黒マコトの輪郭を指先でなぞる。

 

ジワリ、と視界が滲む。

 

 

___アタシ、ちゃんと頑張ってるから……許して

 

 

心の中に浮かぶその言葉は、果たして謝罪なのか懇願なのか。

 

どちらにせよ、彼女もまた過去に呪われていることだけは確かで、そして未だに自分を追い込むことでしか心の平穏を保てないでいるのも事実と言える。

 

彼女はせめて涙は零すまいと、頑なに真っ白なだけの天井を睨み続けていた。

 

 

 

 




どうも、アギョーです
こんばんちりはm(_ _)m

取りあえず、復活してから2回目の投稿です

内容とタイトルが噛み合っていないことについては見なかったことにして下さい。タイトルセンスが微妙なのは散々晒しているので(白目)

取りあえず次からはどうなることやら……アレ?

おうえんよろしくおねがいします!!!

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