GOD EATER-BURST~縋る神なきこの世で~   作:A-Gyou

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世界は絶えず選択を迫る。

そして、人はそれを受け入れ、選択する。

それが、どのような結果をもたらすのかを知らずに。

そしてそれは、世界にも分からないのだ。


原点/0

___アナグラ

 

イリヤ・アクロワはあの司法取引に応じて以来、新しくいくつか付け足された制約と共にあの監獄(特別留置場と言うらしい)から出て、特別待機室(機能は独房と同じ)に移された。

 

新しい部屋は、前にいた独房よりもずっと衛生的で、何よりもほどよく広かった。

 

ソファと前の部屋よりも上質なベッドを備え付けている部屋を看て、ある光景と重ね合わせてみる。

 

「……ここに13人詰め込むのは……流石に無茶だな」

 

久しく会っていない家族のことを思い出す。

 

(無事でいてくれよ)

 

壁にもたれかかり、天井を見つめながらそう願う。

 

(……滅びの神あれど救いの神は無し……じゃあんまりだ)

 

理不尽と不条理に包み込まれている世界だと知りつつも、彼はせめて生きる努力ぐらいは見逃して欲しい、と願い続ける。

 

そうじゃないと、余りにも酷いじゃないか。

 

生きること自体が罪深い、等と言われたら“少なくとも普通の経歴ではない人達”は何を支えにしたら良いのか分からなくなる。

 

(……今難しいこと考えるのはやめとくか)

 

結論を得ようにも、きっとかなりの時間を要すると言うことは、容易に想像できたので彼は、途中で考えるのをやめた。

 

今はただ、向こうの言うとおりに動くのが1番安全なのだ。

 

下手に反抗すれば、今度こそ後がない。

 

だがしかし。

 

そう言った理屈は分かっていつつも、暇を持て余している自分がいることも確かだ。

 

(どうしようかね……)

 

今のイリヤは、特に何も指示は受けていない。

 

ただ、この部屋でジッとしてろ、それだけを言われて放置されているのだ。

 

彼は壁から離れて、ソファに座り込んだ。

 

「……これは、アイツ等に渡すと絶対取り合いになるな」

 

ソファの座り心地を堪能しながらそんなことを呟く。

 

 

つまるところ、今彼がすべきことは、無い。

 

 

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___ラボラトリ

 

研究室の中で造り上げた自分専用のPC類と背後に山となって積み上げられた数々の書類に囲まれながら、恐らく現人類において最高峰の頭脳の持ち主、ペイラー・榊はとある人物のバイタルデータにかじりついていた。

 

データの諸元にされている人物は、イリヤ・アクロワ。

 

少し前に執り行われた裁判で、彼は司法取引に応じてゴッドイーターとなり、人類の救済の礎となることによる今まで犯してきた罪の贖罪を受け入れた。

 

まぁ、彼が選んだ道だ。

 

彼自身の選択には、何も言うまい。

 

しかし、だ。

 

彼がその道を選んだからには、だからこそとも言えるが、彼に適合する神機の調整やら、新しい彼専用の腕輪「P53型アームドインプラント」の用意など、神機使いを運用管理する側の責任としてやるべき事が、榊の背後にたまっている書類の山以上に舞い込んでくる。

 

「…フム、実に興味深い子だね」

 

イリヤ・アクロワという少年のバイタルデータは、榊の目から見れば「興味を持つなと言う方が無理な話だね」と言わせるほどのものだった。

 

神機使いになるために、必要最低限満たしていなければならない条件は、偏食因子に適合する身体であること。

 

これを満たしていない限り、神機使いを目指す道その者が閉ざされる。

 

だが、これは一般常識(神機使いにとっての話)である。

 

しかし、その実かなり深い部分まで調べて、被験者の適合不適合、他にも神機使いとしてのパラメーターや伸びしろを引き出す必要がある。

 

たとえばの話、A、Bと言う2人がいたとする。

 

2人とも、神機使いになるための必要最低限は満たしている。つまり、偏食因子への適合だ。

 

さて、ここで問題になるのが2人の適合神機が一緒なのだ。

 

フェンリルとしては1人しか選択できない。

 

ならば、必然的に神機使いとしての未来が有望な方の人間を選ぶことになる。

 

そう言った状況のためにも、榊を始め他の科学者や技術者達は個人の事細かなバイタルデータを取る。

 

そして、榊がイリヤのバイタルデータをどうして興味深く見ているのかというと。

 

(心肺機能はかなり高い。骨格にしても、激しい戦闘や動きにも耐えうる強度を持っている。強靱な身体だ。筋肉も白筋と遅筋のバランスは良く取れている。脳から全神経にしても、各細胞の浸食免疫が最適値だ。アラガミ化をきわめて起こしにくい体質だ。ゴッドイーターとして生きていくつもりなら、これほどの逸材はいないと断言できるね)

 

つまり、イリヤは神機使いになるには恵まれた身体条件を揃えている、そう言うことだ。

 

そうして榊がイリヤのデータに入り浸っているときだった。

 

とうとつに、研究室のドアが開放された。

 

「榊博士ー」

 

呼ばれているのにも気付かず、榊はデータに入り浸る。

 

「博士……」

 

「フム……おぉ、実に素晴らしい!!!」

 

「……博士…」

 

何にも気付かないまま、入り浸る。

 

研究室に入ってきた人物はとうとう堪りかねてしまった。

流石に我慢の限界だ、と憤りながら榊のデスクの目の前に立つ。

 

そして、大きく息を吸い込んで。

 

「榊・は・か・せ!!!!!」

 

少女は怒鳴った。

 

「うわぁ!? 何だい突然……あぁ、リッカ君じゃないか。いやぁ、突然だったから驚いてしまったよ。突然大きな声を出さないでもらえると、こちらとしても有難いね」

 

博士は、ふてぶてしい。

 

しかも、それが無自覚だ。

 

少女__楠・リッカは、そんないつも通りの榊のリアクションにもはや呆れしか含んでいない溜息を吐いて。

 

「新しく入ってくる人の腕輪。形は出来てるんだけど、あとはどれくらいの期間をおいてどれくらいの量の偏食因子を投与させるかって言う最終調整がまだなの」

 

文の終わりに近付くにつれて、彼女の語気に怒気が含まれていく。

 

それが分からないほど、さすがに榊も鈍感ではない。

 

「! あぁ、そのことか!! それについてのデータならもう出来ているんだよ。出すから少し待っててもらえるかな?」

 

そう言うやいなや、榊はおびただしい量のデータを出力させている画面に背を向けて、ゴミ山と言って過言でない状態になっている書類の山と対面した。

 

「どこだったかな……えぇっと、あのデータは確かファイルに……どこにしまったかな……」

 

ぶつくさ言いながら、無配慮に書類の山を切り崩していく。

 

絶妙な重心位置のおかげで崩れずにいた書類の山が、グラグラと揺れる。

 

(まぁ、なるべくしてなるんだろうなぁ)

 

その様子から目をそらして溜息を吐いたのと同時に、榊の悲鳴と共に書類の山が土砂崩れを起こした。

 

「はぁ……榊氏の住宅(専用デスク)は土砂(数々の書類の山)に埋もれていますが、まだ救助隊の捜索は入っておりません。なお、そこに住んでいる榊氏本人の安否も確認が取れておらず、現在調査中です」

 

リッカが淡々と、それはもう冷たい目で見下ろしながら、淡々とそうナレーションを加える。

 

「…そんなナレーション、どこで覚えたんだい? 皮肉にもなっていないよ。それに言葉に棘もあるんだけど」

 

紙によって新しく形成された床の下から、榊のくぐもったこれと評価が帰ってくる。

 

「嫌味だからかなー。博士、毎回言ってるんですけどせめて紙類くらいはちゃんと片付けて下さいね」

 

駄目な大人を見るめで、見るような目ではなく、見る目で紙におぼれている榊を見下ろす。

 

そして、榊の救出から書類の片付けまでを、累計20分程度ですませて。

 

「はい、リッカ君。これが資料だよ」

 

「はい、確かに。ちゃんと片付けして下さいね?」

 

「何を言うんだい。君だって……」

 

その瞬間、リッカがどこからともなく巨大なレンチを取り出した。

 

「え、何ですか?」

 

「いいや、何でもない。腕輪の件、よろしく頼むよ」

 

「任せて下さい」

 

ペイラー・榊と言う人間は自分の身の回りのことがあまり出来ない。頭は良いが、仕事もそんなに得意では無い。

そして、他人の逆鱗の一歩手間手前まで、無自覚につついてしまうクセがある。

 

「いやはや、若い人は殺気……もとい活気に溢れているね」

 

あのまま殴られたいたらどうなっていたのだろうか、等と考えて身を震わせる榊だった。

 

 

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____特別待機室

 

その部屋に閉じ込められてから、少なくとも2日以上は経過している。

 

「すぅ…………すぅ………」

 

イリヤはもはや寝ていた。

 

寝るくらいしかやることが無いのだ。

3度の飯と、暇な時間。部屋からは出してもらえない。

 

向こうから何もするつもりがないなら、むしろ下手に気を張り詰めすぎる方がよっぽど無駄だ、と言う彼特有の感覚によるところだ。

 

しかし。

 

コンコン、とドアがノックされた。

 

その瞬間、彼は覚醒し、音も無くそして速く動き、ドアの左側に背を壁に預ける姿勢で張り付いた。

 

彼の、生き残るために時間をかけて身体に刻み込つけた条件反射だ。

 

スライド式のドアが開く。

 

「イリヤ・アクロワ!! これより適合試験をぅわっ!?」

 

入ってきた軽武装の治安維持隊員に向かってタックルをかまし、相手がよろめいた瞬間自分の腕を相手の首に絡めて拘束した。

 

警備員を拘束しながら、入り口に向き直ると。

 

「ん~。相当警戒されてるね、これは」

 

そこには、先の1連を見て目をパチクリさせてから、苦笑する少女が立っていた。

 

若々しくやや油に汚れた、灰色の髪。

遮光グラスをレンズにした赤縁のゴーグル。

頬にも油汚れをたずさえた、やや童顔な顔立ち。

科学者然とした白衣の下から覗く、タンクトップとつなぎ服。

 

冷静な観察をしている自分に気が付き、ようやく半ば寝ぼけた状態から完全に覚醒したことを、イリヤ自身が自覚した。

 

そして。

 

「ん? あぁ、悪いな。いつものクセだ」

 

ようやく自分の胸元でもがく警備員に気が付き、拘束を解いた。

 

警備員が咳き込みながら、その場にへたり込む。

 

「あぁ、さっきの入り方じゃ駄目だ。さっにみたいに敵の急襲に遭って不利な状況に陥りかねないからだ。ドアが開いた瞬間、入り口をくぐる前にまず1呼吸おく。そして、素早く迅速に突入して、4周の安全確認。まぁ、基本的な話だが覚えておいても損は無いぞ?」

 

へたり込んでいる男に、イリヤはだめ出しとアドバイスの両方を叩きつける。

 

「んで、あぁ……お嬢、いや君、か? ガードに対してやや遠い。護衛対象とガードの距離は、縦ならだいたい2歩半~3歩程度の距離だ。それ以上近いと、ガードしてる側の人間の動きの妨げに、遠ければなお危険にさらされる事になる」

 

イリヤは、少女にもだめ出しをいとわない。

 

と言うよりかは、余りにも長い時間、無言かつ暇に過ごしていたため、何かしらの形でストレスを発散したかった、と言う側面の方が強い。

 

「あ、えぇと…ありがとう。うん、覚えておくよ」

 

「俺の方もすまなかった。……ただの悪いクセだ」

 

男と少女に向かって、軽く頭を下げる。

 

「いや、まぁ、良くは無いけど、あんまり気にしないで。それより、イリヤ君だったよね。ちょっとギリギリになってるんだけど、あと少ししたら君の適合試験が始まるんだ。それで呼びに来たんだけど……良いかな?」

 

「別に問題ない」

 

「うん、なら、早速行こっか。私に着いてきて」

 

少女に誘われてイリヤは部屋を出た。

 

「あぁ、あとキミ。さっきあんな風にやられたから仕方ないとは思うけど、イリヤ君を余り警戒しないで良いと思うよ」

 

「ですが…」

 

「キミは銃を携帯している。それでイリヤ君から4歩離れた後ろを歩く。私はイリヤ君から4歩離れた前を歩く。これで充分だと思うよ。そう言うことでしょ?」

 

少女はイリヤを見て笑う。

 

「正解だ」

 

イリヤも少女に対してそう返した。

 

「なら、早く行こっか。時間結構迫ってるし」

 

イリヤ達は歩き出した。

 

 

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____適合試験用試験室

 

イリヤは少女に誘導されて、その部屋にいた。

 

部屋と言うには、いささか広いし、そもそもそんな雰囲気の空間でも無い。

どちらかと言えば、地下格闘技場とか、正に“空間”と言う方がぴったりな場所だ。

 

中央には、大きな剣のような武器を立て掛けられているプレス機の様な大がかりな機械が鎮座している。

 

剣のような部分が目立つが、銃の1部にも見えるパーツも一緒にくっついていて、しかも柄と武器の接合部分が黒い肉塊のような何かで繋がれている。

 

「……何か禍々しいな」

 

イリヤが最初に抱いた印象はそれだった。

 

『久しぶりだね、イリヤ・アクロワ君』

 

突然、自分の名を呼ぶ、聞き覚えのある声が流れた。

 

『改めて、フェンリルにようこそ。私はフェンリル極東支部支部長のヨハネス・フォン・シックザールだ。今から君は、ゴッドイーターとなるため試験を受けてもらう。何、緊張することは無い。落ち着いたら、始めてもらう。そっちの方が、より良い結果が出やすいからね』

 

自己紹介、今から何をするのか、をまとめて言われた。

向こうが何を言っているのかは理解した。

 

理解はしたのだが、まだ少し気が乗らない。

 

あの武器に抱いてしまった印象が、彼を警戒させているのだ。

 

そこで、イリヤは考える。

 

仮にもし、今から逃げ出してこの場を離れたとしてその後どうなるのか。

 

自分は、司法取引によって、今の機会を与えられている。

つまり、取引を蹴るような行為をすれば、たちまち犯罪者のレッテルを貼り直され、そして今度こそ救いの手が無くなる。

 

そしてそれは、待ちに残してしまった子供達から更に遠くに離れてしまうと言うことに繋がる。

 

それは嫌だ。

 

ならどうするのか?

 

今、自分が選べる選択肢は2つ。

 

適合試験を受けるか、逃げ出すか。

 

ここまで来たら、選ぶ選択肢など考えるまでも無かった。

 

 

イリヤは、おもむろに1歩を踏み出した。

 

そして、機械に向かって歩いて行く。

 

機械の前に立った。

 

丁度右手の高さの位置にくぼみがある。そこ右手を置け、と言っているのだろう。

 

彼は、右手を溝に合わせておいた。

 

その瞬間。

 

プレス機の上で待ち構えていた部分が自分の右手首を挟んだ。

 

そして___

 

「あ゙っ、があ゙アアあぁぁぁああぁあっ!!!!」

 

激痛。

 

それも、骨折したときの痛みや、火傷をしたときの痛みとは訳が違う、異次元の痛み。

 

身体が何かを拒絶しているかのような反応を示す。

脂汗が全身から吹き出し、全身はがくがくと震え、目眩と吐き気を覚え、身体の中は暑い。

 

そして、何よりも彼を苦しめるのは痛みだ。

 

それも、ただ右手が痛いのでは無い。

 

右手を基点にした身体の“中が”痛いのだ。

 

「うぅアがぁぁぁアアあぁぁああああっ!!!」

 

そして、痛みの中で彼は聞いた。

 

 

___自分のでは無い、誰かの拍動を。

 

それが聞こえたとき、痛みは消え去った。まるで、最初から何も無かったかのようにピタリと。

 

『おめでとう。これで君もゴッドイーターだ。今後の活躍を期待しているよ』

 

その声と共に、試験は幕を閉じた。

 

彼は、もう引き返せない。

 

だが、彼自身引き返すつもりも無い。

 

彼は、まだ知らない。

自分が選んだ道が、どれだけ苦難に満ちているのかを。

どれだけ理不尽に埋め尽くされているのかを。

 

たが、進むしか無い。

 

その日、世界は動き出した。

 

進むその先に、何が待っているのかは、まだ誰にも分からない。

 

 





お帰りイリヤ君!!

お帰り主人公!!!!!!

さて、次はどんな話にしようかなぁ

楽しみにしてて下さい!!!
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