業務日誌短編集   作:りふぃ

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あ号よりも前の話
本編で雪風が軽巡最強のおっぱいをスルーしていた理由


やくそく

 

「ふむ、生きてる?」

「……一思いに殺すっぽい」

「まーだ余裕あるわね、とどめを刺しそこなったか」

「鬼がいるっぽいー……」

 

その日、駆逐艦夕立が解放されたのは十五戦目の演習を終えた時だった。

海上で完全にノックアウトされ、帰港した工廠の床に這いつくばった夕立。

必死に首だけ動かすと余裕の笑みで見下ろす演習相手の姿があった。

 

「五十鈴さん動きがおかしいっぽい」

「あんたら駆逐艦の方が、海上じゃよっぽど異常な挙動してるから」

「むぐぅうううううう」

 

息を整えた夕立は上体を起こし、手にした12.7㎝連装砲を見る。

その重さも破壊力も既に慣れたもの。

しかし五十鈴と対峙した時に感じる物足りなさは身に染みて実感した。

砲の射程が違う事は言い訳にならないだろう。

なにせこの演習は双方5000㍍の位置から必ず同航戦で行っていたのだから。

 

「この三日で四一戦。その中で一度も以前の異常な火力が出ていない……あんた本気だしてんの?」

「真面目にやってるっぽい!」

「まぁ、確かに手抜きしてるような様子も無かったけれど」

「あたしはいっぱい頑張った。でもやればやるほど五十鈴さんが強くなっちゃって手も足も出ない」

「其処はある程度割り切りなさい。艦種が違うし、何より後半は身内読みが入ってきちゃって純粋な海戦能力とは違う部分で勝敗が決まってきてたから」

「身内読み?」

「あんた個人の癖よ。同じ白露型や別個体の夕立にもあるかどうかわからない、此処にいるあんたの癖の事」

「……理不尽っぽい」

「あんただって同じだけ、五十鈴の動きを見ていたじゃない」

「でも五十鈴さん癖とか無いっぽい! 砲撃のモーション全部同じだし回避方向は毎回違うし、攻撃だって足狙いで止めてきたリ魚雷撃ち抜いて一発大破仕掛けてきたり何でもやってくるっぽい」

「分かりやすい癖くらい意識して隠すに決まってるわ」

「ズルいっぽい!」

「ほざきなさい、負け犬が」

 

容赦なくこき下ろす五十鈴だが、夕立の言い分もある程度理解できる。

相手を観察するにはある程度自分に余裕がなければ難しい。

火力でも装甲でも速力でも五十鈴に分がある現状、翻弄される事が多かった夕立に其れを求めるのは酷かもしれない。

五十鈴はそう思う反面、劣勢だからこそ相手をより観察して弱点を探す必要があるとも思うのだ。

 

「第一、五十鈴はこの演習期間であんたの癖はなるべく覚えないようにしてたのよ? そもそも勝ち負けはどうだっていい演習だし」

「……勝ち組の余裕っぽい」

「あんたはまぐれでも一度は五十鈴に撃ち勝ったじゃない」

「だ、だから今イジメられてる?」

「何とでもおっしゃいな」

 

夕立の邪推をあえて否定せずに受け流した五十鈴。

彼女は以前第二艦隊との演習で夕立に一撃で潰された事がある。

そのこと自体を恨んでいるわけではない。

五十鈴の意識の中では遠洋航海に耐えられる帝国海軍の駆逐艦は既に巡洋艦と変わらない。

そして軽巡と重巡の区別は搭載している砲の大きさであり、火力である。

あの時夕立が放った主砲が秘めた大火力は、同僚の重巡洋艦である足柄に迫るものがあった。

排水量も馬力も、そして砲の口径すら劣る相手がそれを成した。

夕立の見せた火力の原因はなんなのか。

それを自分には取り入れる事は出来ないか。

五十鈴は己に期待される役割の中で不得手は無いが、生まれが軽巡洋艦である以上出せる火力には艦種的な限界がある。

しかし夕立はその限界を目の前で超えて見せたのだ。

そんな彼女に対して好奇の気持ちはあれど、根に持ってイジメるなど考えたこともなかった。

 

「……ふむ」

 

とはいえ、演習における原因究明にも限界があるとみるべきだった。

これだけ繰り返しても再現できない以上、何か別方面からのアプローチが必要だろう。

負けが込んでいる夕立が腐りかけている事もあった。

これ以上の演習は時間の無駄と割り切った五十鈴は、脳内で今後の対応を組み立てる。

 

「もういいっぽい! 雪ちゃんに言いつけてやるっぽいっ」

「雪ちゃん……あぁ、雪風ね。あいつが何だって?」

「五十鈴さんにいじめられたって泣きつけば、雪ちゃん立場上放置は出来ない筈」

「まぁ、本当に虐められてるなら放置は出来ないでしょうね」

「やーい五十鈴さんのおっぱいお化け、いじめっ子!」

 

言い捨てて逃げ出そうとした夕立の背中に五十鈴の声がかかる。

 

「艤装、ちゃんと片付けていきなさいな」

「―――っ!」

 

心底悔しそうに五十鈴を睨んだ夕立。

涙目になったまま12.7㎝連装砲を拾うと、舌を出しながら工廠から逃げ出した。

 

 

 

§

 

 

 

雪風が五十鈴の元にやってきたのはその翌日。

僚艦に泣きつかれた第二艦隊旗艦は胃痛に泣かされながらも五十鈴の私室にやってきた。

掛けられた声に返答し、入室の許可を出す五十鈴。

入ってきた雪風は明らかに顔色が悪い。

 

「……大丈夫?」

「……何とか」

「何死にそうな顔してるわけ?」

「なんなんでしょうね……夕立がいろいろ喚いていたんでお願いがあって来たんですが……」

「ふむ」

「大和さんも赤城さんもお話しててどうと言う事はなかったんですけど、軽巡の方に意見しに行くと思った瞬間にもの凄まじい胃痛が……」

「……駆逐艦の本能かしらね。夕立は平気そうだったけど?」

「由良さんの記憶がよっぽど美化されてるんじゃないですかねぇ」

「あの子も甘くはなかった筈だけどね」

 

所属艦艇が少なく、二人部屋を占有している五十鈴である。

リビングに当たる部屋に案内して椅子を勧め、温めたミルクを提供する。

 

「あ、ガムシロ追加でおねがいします」

「残念、無いわ……ちょっと、白い膜ついてるわよ」

 

口元を汚した雪風にハンカチを貸しつつ息を吐く五十鈴。

礼を言って口を拭った雪風は上目遣いに五十鈴を見やる。

怒っている風でもないが、どことなく機嫌が悪そうに見えた。

瞬間、胃酸の分泌量が増加したことを感じる雪風。

ゆっくりと胃をさすりながら嘔気に耐える。

一方五十鈴は精神的に気圧されているらしい雪風に、話す準備が出来るのを辛抱強く待った。

どうせ要件は分かっているが、どのように切り出してくるかで対応は変える必要がある。

深呼吸した雪風がいつの間にか下がっていた視線をもう一度五十鈴に向ければ。今度はしっかり目が合った。

反射的に逸らしかけた視線を根性で固定した雪風は、なるようになれと口を開く。

 

「五十鈴さーん」

「何かしら?」

「おっぱい触っていいですか?」

「…………ん?」

「おっぱい。触っていいです?」

 

五十鈴は雪風の発言の意味を理解しかね、首を傾げて黙考する。

夕立の件に関する苦情は予想していた。

しかしこの駆逐艦は何と言った?

おそらく自分は相当不可解な、怪訝そうな顔をしているのだろう。

目の前で脅える雪風を見れば自分で思うより険悪な表情になっているかもしれない。

此処は怒って良い所なのだろうか。

自分でも自覚があることだが、五十鈴は基本短気である。

そして自覚があるからこそ理性に強靭な鍵を掛けていた。

 

「あんた何しに来てるわけ?」

「ひうぅっ」

「夕立に泣きつかれて文句を言いに来たんじゃないの?」

「夕立は……えっと、五十鈴さんは怒りん坊のいじめっ子のおっぱいお化けだって」

「言っていたわね。いや、増えてるけど」

「雪風も五十鈴さんはいいおっぱいしてるなーって思ってはいたのです。だけどほら……阿賀野型以前の軽巡のお姉さん方っておっかないですから遠慮していたんですけどー」

「……」

「やっぱり直接対峙した夕立からおっぱいお化けなんてほめ言葉が聞けた以上、その見事なモノを素通りするのはおっぱいに失礼かなって」

「おっぱいお化けってほめ言葉なわけ?」

「雪風としましては、言われてみたい負け惜しみランキングで三指に入る言葉でした」

「……良いわ。それはきっと、個人的な価値観の差よね」

「富裕層の五十鈴さんに雪風の気持ちなんてわかりませんよぅ」

 

拗ねたように息を吐く駆逐艦をよそに、視線を下げる五十鈴。

目の前には自分の足元の視界を塞ぐ脂肪の塊がある。

雪風がなんでこんなものに執着するのか理解しかねるが、何となく胸の下で腕を組んで持ち上げてみた。

そのまま雪風に視線を戻す。

すると奥歯を噛み締めた雪風が同じように胸の下で腕を組み、ゆっくりと上に滑らせる。

駆逐艦の両腕は阻むもののない平坦をすり抜けた。

 

「……」

「いや、そんな事でにらまないでよ」

「そんな事ぉっ!?」

「あ、ごめん」

 

身体的な特徴で相手をあおるのは五十鈴の品性に照らして美しい行為ではない。

納得のいかない部分は多々あるが、傷つけたのは自分だろうと謝った五十鈴。

しかし凶悪な視線を寄こした雪風が諦めたように首を振り、あまつさえ呆れたように語りだした時は五十鈴も思わず拳を握った。

 

「五十鈴さんはかつてから優秀な艦艇でいらっしゃいましたが、艦娘としての経験では雪風に一日の長があるでしょう。どうも世界の真理を会得するには至っていらっしゃらないご様子です」

「…………へぇ。ならば語ってごらんなさいな。あんたがこっちで見出したっていう、この世界の真理とやらを」

 

雪風は頷くと、マグカップに残る冷めたミルクを飲み干した。

 

「この世界は大変、不公平に出来ています。持つ者があれば持たざる者あり。その差を個性と呼び変えて当たり障りのない慰めを振りまくことも出来ますが、人の形をして生きていく上での有利不利は誤魔化しようがありません。これはよろしいですか?」

「……まぁ、そうね」

「持つ者とは全てを手に入れる者の事です。天は人に二物を与えずなんて嘘っぱちです。持ってる人は全部持っていきますし、一つだけでも何かを与えられたならそれは勝ち組。本当の負け組、持たざる者は本当に何もありません……努力して身に着けるなり持ってるものから奪うなりして後から手に入れる事は出来ると、個人的には信じたい所ですが」

「ふむ、続けて」

「では人型が生きていく上で持つべきモノとは何でしょうか? これは人型に雄型と雌型があり、生きる上での役割が違う以上別々のものであると思うのです」

「なるほど」

 

五十鈴は聞きながら長くなりそうだと首を巡らせ、壁掛けの時計を確認する。

そして五分聞いたら話を切ると心に決めて雪風の発言に集中した。

 

「まず雄型が持つべき天性……それは顔です」

「顔?」

「はい。人型の雄と生まれたものは顔の良し悪しによって人生が決まるのです。イケメンで生まれた者の人生はイージーモード。ニコっと笑えばマダムが引っかかり、頭を撫でれば少女が釣れる。働かなくても雌が勝手に貢いでくれますし、ライバルだってツンデレの味方に早変わりしてしまうのです。老若男女に無条件で好かれる顔……これこそ人型の雄が持つべき最強の優良遺伝子と言えましょう」

「それは極論で暴論じゃない?」

「次に雌型を分別する要素ですけどぉ」

「……聞きなさいよ」

 

苦い顔をした五十鈴は雪風に話し合う心算がない事を悟った。

一方的に自説を展開したいだけらしい雪風は相手の迷惑を顧みず、大層気持ちよさそうに喋っている。

 

「雌型の持つべきもの。それこそがおっぱいに他なりません。艦娘は基本全員が雌型なわけですから、艦娘の素質は全ておっぱいという分かりやすい基準に集約すると申しても過言ではないかと」

「過言でしょ。ってか、帝国海軍の艦艇を祖に持って現代に蘇った私達の素養が胸についた脂肪で決まるっておかしいでしょう? 戦闘能力こそ軍艦の本分でしょうに」

「いつまで戦うおつもりです?」

「は……そりゃ、戦争が終わるまででしょ」

「そうですね。深海棲艦が現れてから正確な年数はちょっと知りませんけど、戦闘開始から数十年はたっているようです。なら今後数十年たっても深海棲艦に勝てないかもしれません」

「そうね。だから――」

「ですが、かつての大戦は大体五年で終結しました。あれだけの地獄がたった五年です。深海との戦いだってそれくらいで終わっちゃうかもしれませんよ。そうしたら五十鈴さんどうします?」

「む……」

「まぁ、それは仮定の話ですし。戦いが続こうが終わろうが雪風がおっぱい至上主義なのは変わらないので其処は構わないんですが」

「……あんたが何を言っているのか、五十鈴にはわからないわ」

「一言で申しますと、大きいおっぱいは正義の印。小さなおっぱいに人権無し! です」

 

艦娘に人権とは笑える冗談だと思う五十鈴。

しかし今回の論点は其処ではない。

頭の中で雪風の主張と自分の意見を整理する。

ふと、自分はどうしてこんな無駄な時間を過ごしているのかと考え気分が落ち込んだ。

五十鈴は祈るように手を組むとテーブルに肘をつき、親指の上に額を載せて頭痛に耐える。

 

「どうなさいました五十鈴さーん」

 

塞ぎこんだ五十鈴に心底不思議そうな声がかけられる。

雪風は五十鈴に対し、艦娘としては自分に一日の長があると言った。

確かにそうかもしれない。

軍艦だった時代には分からなかった五感や、体調の変化。

そして自分の行動にノイズのように割り込んでくる感情の波。

其れすら楽しんでいるように見える雪風に対し、いまだ自分を完全な制御下に置くことが出来ない五十鈴だった。

 

 

 

§

 

 

 

「あんたの主張は良いとして……」

「はい」

「……目的は何だったかしら」

「えっと、恵まれない雪風にその素晴らしい天然モノを手に取って堪能させていただけないかと交渉にきました」

「あぁ、そう。そうね……そう言っていたわね」

 

投やりに答えた五十鈴はさっさと触らせて追い出そうと決める。

諦めきった五十鈴が顔を上げた時、雪風は反射的に椅子から腰を浮かせた。

この距離で座ったままでいる事に生存本能が危機を訴えたらしい。

五十鈴の雰囲気はそれほどまでに刺々しかった。

 

「こんな……ん?」

 

こんなもの触りたきゃさっさと用事を済ませて消えろ。

そう言いかけた五十鈴だが、もう一度理性のカギをかけなおす。

 

「……」

 

苛立つ感情をため息に乗せて吐き出し、来訪者を観察する。

今でこそ持ち直しているものの、雪風は此処に来るとき脅えていたではないか。

五十鈴はそれを旗艦として筋を通しに来たのかと思っていた。

しかし実際は自分と雪風の間に埋めがたい価値観の相違を確認する事となった。

雪風が大切なものと五十鈴が大切なものは重ならない。

ならば双方が損をしない交渉が成り立つのではないか。

五十鈴は雪風の目の前で腕を組み、今一度……

今度は意識して見せつけるように自分の胸を持ち上げた。

 

「あんた、これが欲しいのね?」

「はい! 欲しいですっ」

「あげようか?」

「え? 切り取って渡されても嫌なんですが……」

「誰が切るか。そうじゃなくて、今日みたいにプライベートなら五十鈴の用がない限り、好きに触らせてやってもいいって言ってるの」

「ぜひお願いします」

「即答か」

「即答です。それで? 雪風は何をすればよろしいのでしょう」

「あら? 五十鈴はまだ何も言ってないけど」

「五十鈴さんにその気がなくとも、其れほどの好待遇を約束されては対価を払わないと後が怖いよぅ」

「良い心がけだわ」

 

ほぼ無意識に伸びてくる雪風の手をさっと払う五十鈴。

払われたことで正気に戻ったらしい雪風は自分の手を見ながら苦笑している。

一つ息を吐いて五十鈴を見つめる雪風は、思考の階層を切り替えた。

 

「五十鈴さん、ご自分の艦隊を作るおつもりですか?」

「ええ。あんたが求めるなら五十鈴の身体の一部を上げる。代わりにあんたは、持っているものを全部五十鈴に捧げなさい」

「雪風が五十鈴さんの部隊に入る……と言う事ですかー?」

「あんただけじゃない。あんたの第二艦隊、そっくり五十鈴に寄こせって事よ。もちろん、あんたごとね」

「あー……そう来ますか」

「悪い話じゃないでしょう? 別に第二艦隊から引き抜こうってわけじゃない。あんたも、あんたの艦隊も、私にとっては魅力的だわ」

「……」

「五十鈴は最強の水雷戦隊を作りたいの。あらゆる水上艦を魚雷で沈め、潜水艦を爆雷で捻り潰し、対空戦闘で航空母艦を丸裸にするような、そんな艦隊を組みたいの」

「……そんなにうまく行きますかねぇ」

「……五十鈴だってそんな事、出来ると思っていなかった。だけどこの世界は優しいんだか残酷なんだか……可能性と糸口がちらちら見えているんだもの」

 

五十鈴が熱く語ったのは駆逐艦夕立の可能性。

そして現時点ではそれすら凌ぐ島風の身体能力。

それらをまとめながら自らも高い戦闘能力を持つ雪風。

この三隻が前線で暴れながら羽黒が戦線を補強している。

敵にしたとき非常に厄介な事は演習で思い知ったが、これをそっくり自分の物に出来ればどれ程の艦隊が出来るだろう。

 

「五十鈴さんのおっぱいは確かに軽巡さんでも一、二を争うモノだと思いますけどー……引き換えに艦隊一個というのは流石にぼったくりじゃないですかねぇ」

「あんた自分で言ったじゃない。持つ者は全てを手に入れるんだって。五十鈴にとってこんなもの脂肪の塊だけど、あんたにとっては至高の価値を持つんでしょ?」

「持ちますねぇ」

「五十鈴は何でも出来るけど、特に耳には自信があるわ。水中だろうと空中だろうと、異音は最初に潰してあげる」

「水平線の上と下を五十鈴さんが制圧して、羽黒さんの砲撃で敵の艦列を揺らして雪風達が突っ込むんですね」

「そう! それだけでも十分な戦果を挙げられる。だけどそれだけじゃないわ」

「と、仰いますと?」

「あんたの所の夕立は艦種の限界を超えて見せた! あれは何なの!? なんであんな火力を駆逐艦がだせるのよ!」

「分かんないですよぅ」

「それは結構。わからないならあの火力、五十鈴が出せる可能性もあるわけでしょう?」

「……なるほど。面白そうですねぇ」

 

対潜、対空を五十鈴が固めて羽黒による砲撃支援。

その援護を背負いながら肉薄する自分たち駆逐艦。

はまれば様々な艦種に対応出来る艦隊になるだろう。

更に五十鈴は自ら火力を出せるようになろうとしている。

雪風は息苦しさを感じて胸に手をやり、自分の鼓動が早くなっている事に気づく。

五十鈴の思い描く水雷戦隊。

五十鈴と、羽黒と、島風と、夕立と、自分。

それぞれが歯車の一つとして噛み合った時の戦闘能力は、未だ想像の域ながら雪風の胸を熱く焼いた。

 

「前の演習を見る限りあんたは部下の掌握は出来てる。そのあんたが五十鈴に従えば楽に乗っ取れるわ」

「雪風としましては、面倒な旗艦業務を五十鈴さんがやってくれるなら大歓迎ですよ」

「ええ、全部五十鈴がやってあげる。その代わり、駆逐艦の中の面倒はあんたが見るのよ。これはもうやっているだろうから、特に増える仕事じゃないわよね」

「はい、頑張ります!」

 

話はまとまったとばかりに雪風は報酬に手を伸ばす。

しかし五十鈴は再び手を払う。

 

「むぅー……」

「あくまで成功報酬よ。現時点で直ぐに編成出来る部隊じゃないわ」

 

雪風達の鎮守府は立ち上げたばかりで艦艇が少ない。

第一艦隊には対潜要員が五十鈴しかおらず、雪風達第二艦隊は唯一の補給部隊として使っている。

この構想が実現するには今少し人員に余裕がいるだろう。

しかし艦隊を再編する時が来れば、古参である自分たちの要望は通りやすい。

それまでは我慢が必要と分かっているのだが、雪風としてはやや不満だった。

 

「そうですけどぉ、少しくらい前払いがあっても良いじゃないですか」

「駄目よ。前払いが欲しけりゃ五十鈴の求める結果を出しなさい」

「ん……何か事前準備がありますか?」

「夕立の超火力を高く安定させなさい。今のままだと不確定過ぎてあてにならないわ」

「あー、なるほど」

「五十鈴がいくらつついてもあの子は一度も目覚めなかった。今の所分かっているのは、あんたが指揮した一度に其れが出たという事実のみよ」

「確かに、それは急務ですねぇ。わかりました。雪風の方でも原因を探してみます」

「五十鈴の方でも自分であれが出来ないか、試してみる必要があるわ。まぁ、自力で至れる可能性は極小だってわかっちゃいるけど……出来る可能性があるならアレは習得しない手はない。あんたの夕立観察にも期待してるわ」

「了解しました。なんとかぽいぬちゃんを強い方に落ち着かせるように頑張りますね! ……で、それが出来たら前払い貰えるんですよね?」

「お好きになさいな」

「五十鈴艦隊が組めたら、そのおっぱいは雪風のモノで間違いないんですよね?」

「良いわよ。せいぜい励みなさい」

「約束ですよー」

 

雪風は右手を差し出し小指を立てる。

長い艦齢を持つ筈の雪風が見せる子供のような仕草に苦笑した五十鈴だが、これでやる気が出るなら誰も損はしない。

自分も右手を差し出し、雪風と小指を絡めた。

その小指を解かずに引き寄せ、五十鈴の手を取る。

きょとんとしている五十鈴に悪戯っぽく微笑むと、雪風は手の甲にやうやうしく唇を落とした。

 

「五十鈴さん! 何時か絶対、一緒に戦いましょうね」

「ええ、あんたと艦列を組む日を楽しみにしているわ」

 

雪風は五十鈴の手を放し、手を振って未来の上司の元を辞した。

その姿が扉の向こうに消えるまで見送った五十鈴は心底深い息を吐く。

雪風の相手は本当に疲れる。

もし先ほどの話が実現すれば、この疲労と毎日付き合っていくことになるのだろう。

それはきっと騒がしく、しかし五十鈴を退屈させない日々になるはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後書き


五十鈴さんと雪風の話。

書いててちょっと気分が落ち込みました。

ぱぱっと思いついて手が動いた話なんで4時間くらいで書けたものですが……



皆さま夏イベお疲れ様でした。

今回は新艦は同時に狙えるし4マップしかないと本当に優しいイベントでしたね!

全甲クリアも成し遂げたしアクィラも水無月もしっかり取った!

でもなんでだろうね。

燃料13万とバケツ1200個って今までで一番損耗したよ・・・?

本当になんでだ・・・まだ備蓄全然戻ってないよ・・・


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