Devil Sisters   作:千代里

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<16>Side:Luna-道化師の心

「ねえ、そこにいるとダンテと合流できないんだけど?」

 

 

 目の前の巨大な存在に対して物怖じもすることもなく、寧ろ何の感動すらも感じさせない口調でルーナは語りかけた。

 あたかも目の前の事象が何でもない事のように、父を名乗る悪魔との2年ぶりの再会にも感動も驚嘆も憤怒も欠片も見せず、彼女は言う。

 

 

「あなたなんてどうでもいいから、早くどいてよ。ダンテの所に行けないじゃない。何言ってるかは分かるよね?」

 

 

 ルーナの父である悪魔も、流石に彼女のその様子には面喰った。周りの低級悪魔を一閃して一刀の元に退かせた後、彼女が発した言葉は彼の予想をどれも裏切っていた。

 他の誰有ろう、目の前の存在に家族を奪われ家を奪われ、自分の常識すら崩壊させられたというのに。

 

 

『随分と悪魔のような物言いをするのだな。ルーナよ』

 

「私は人間だよ、ダンテがそう言ってくれたから私は人間だって信じられる」

 

『……ほう? 貴様も自身が人間であると主張をするのか? あの姉のように?』

 

 

 そう言いつつ、悪魔はちらりと背後を見やる。剣撃の音は未だ収まる様子を見せない。今ダンテと戦っているもう1人の悪魔が自身の姉だと言われても、ルーナは驚く様子もなく、事実を確認するだけの淡々とした声で言った。

 

 

「私は自分が人間だなんて思わない」

 

 

 まるで矛盾していることを言っているように聞こえて、しかしそこに一切の戸惑いもない。恐怖のあまり気が狂っているという様子もなく、ただ怒りというよりも苛立ちを見せて彼女は父の前に立つ。

 その体から見れば父親は何倍の大きさにも見えただろうに、物怖じもすることもなく寧ろ挑みかかるように。

 

 

『そうだ、貴様は実の母親に否定された。人間だけではなく、お前自身をな』

 

 

 その時、僅かにルーナの瞳が見開かれた。彼女の反応が漸く自分の予想通りのものだったからか、悪魔は喜色のようなものを浮かべ声を荒げる。 

 

 

「あの時貴様にも聞こえたはずだ。『お前さえいなければ』と貴様の母親が、言ったのをな……!」

 

「――そうだね、だから何?」

 

 

 目の前の男に、自分が蓋をした記憶を穿り返されてもルーナはあくまで平静を保っていた。先ほどの動揺は嘘だったかのように、何の感情も一切浮かべず少女は父親を見据える。

 この様子には悪魔も絶句するしかなかった。およそ人間の心など理解できない彼ではあったが、彼なりにその言葉は彼女にとってトラウマとなっているだろうと思っていたのだ。

 

 幼い娘が母親に全ての死の責を負わされ、そして目の前でその母親が死す姿を目撃する。自分が人間でないことを伝えられ、自身の存在価値を見失わせるために、姉のように人間の心を抱えたまま自らの手から零れ落ちることがないように。そのために、わざわざ彼は一芝居を打ったのだ。

 娘の心を絶望に染め人間への未練を断ち切るためにしたはずの行為は、しかし、予想外の波紋を生み出してしまったことを彼は今まざまざと見せつけられていた。

 

 

「おかーさんは死んじゃった。私が弱いから。私が弱いせいで人が死ぬ。私が弱いから、人は私を見限る。なら、私は誰もいらない。私が壊せないダンテ以外、誰もいらない」

 

「……ははははっ!!! そうか、貴様はそのように歪んだか!!! その考え、その心、まさに悪魔と呼ぶにふさわしい!!!」

 

「うん、そうだね。でも、あなたもいらない。私の世界を傷つける奴は、いらない!!!」

 

 

 ルーナの声が高らかに響き渡ると同時に、彼女に吹き飛ばされていた悪魔が呼応するように咆哮する。死神の鎌が地面を擦る音。悪魔の棺が石畳を穿つ音。

 ムラマサを構え、先ほどまでの平静が嘘のように怒りと焦燥をルーナはその顔に滲ませていた。鐘の音と同時に突進を行う悪魔――ヘル=ヴァンガードの一撃を、音高く弾き上げ、返す刀で魔力で生成した短剣を打ち返す。

 半ば予想通り、ヘル=ヴァンガードはそれらを全て鎌で叩き落とし、笑いながら虚空へと消え去った。次はいつどこに現れるのか、気を張っている時に背中に寒気を覚えてルーナは咄嗟に振り返る。

見ればまさに、棺を持った悪魔がその棺を勢いよく振り回そうとしているところであった。

 

 

「私は強くならないと……ならないと、また……!」

 

 

 焦りを感じつつも、心が揺れすぎることはない。夕暮れ時の路地裏での戦いとは違う。何故なら今は、ダンテがいる。安心感と同時に、先ほどの痩身の悪魔が相当の手練れであることも分かっており、不安が脳裏をよぎる。

 振り下ろされる棺をムラマサで強引に受け止めるも、彼女の膂力では十分に抑えきることができない。踏んばりの利かない姿勢では押し切られることを察知し、棺を弾くようにして後退する。

 トン、と軽い足音と共に着地するやいなや魔力で練り上げた短剣を棺の悪魔の脚部に投擲。足へのダメージで棺の重さに耐えきれずふらつく悪魔を尻目にほぼ同時に響く鐘の音と現れるヘル=ヴァンガードの猛攻を今度は跳び上がることで回避する。

 

 

「……強くならないと、ふむ、そうか。……貴様、恐れているな?」

 

「何のこと? 知った風な口を利かないでよ!!」

 

 

 たかだか2体。されど2体の悪魔の挟撃をどうにか回避しつつルーナは言いかえす。そんな彼女の様子を、さながら授業参観で子の活躍を見るような期待を混ぜた瞳で観察する彼女の父。

 だが、それは子を見守る親としてはやや慈愛に欠けているようではあった。

 

 

「貴様がいらないのではないのだろう。貴様は恐れているだけだ。なるほど、やはりどこまでも人間界の甘えがしみついているとみえる。やはり再度生成し直す必要はあるということだな」

 

「知った風な口を利くなって、言ってるよね!! それとも耳が聞こえない!?」

 

 

 ようやく棺の悪魔の背後をとり、その脆い本体を真っ二つにした彼女が叫ぶ。ヘル=ヴァンガードの鎌を振るう大ぶりな攻撃を屈んで回避し、懐に潜り込んでカウンターとばかりに一閃。

 やっとのことでその掃討に成功したルーナは既に肩で息をしていた。一撃で仕留められるような雑魚でもなく、防御をしたり瞬間移動をしたりする相手と戦うのは彼女にとって今日が初めてだ。

 それでも体力を損耗させるだけで肉体的損傷がなかったのは、ただ単純にムラマサと相手の相性が良かっただけのことだ。

 

 

「だが戦闘能力は上々。それはダンタリオンが報告した通りというわけか」

 

「ダンタリオン……?」

 

 

 目の前の悪魔と通じているような存在が自分の周りにいたということか。ルーナは疑問を感じて眉を顰める。だが、彼の視線が自分の持つ魔剣に向けられていると気が付いて、ルーナははっとした。

 いるではないか。今自分が持つ魔剣の持ち主は、今目の前にいる父親そのものなのだから。

 体を操られて、それでもダンテの側にいる自分に必要と思って手放すことはなかった魔剣。もしそれが最初から父の思惑通りのことだとしたら。その考えに至り、思わず恐る恐る魔剣を見る。それは、黙して何も語らない。

 

 

「2年間。私の傷が癒えるのにかかり、また策を練るのにかかった時間だ。そして今が、あの女の協力もあって漸くこぎつけた好機だ。これを逃す手はあるまい?」

 

 

 彼は嗤う。鎧のようなものを装着しているためか外見は剣士のように見えるが、その顔はどこか知的好奇心にあふれた子供に似ていた。それでもルーナは彼を父親ではなく、あくまで障害物として処理することを考える。

 

 

「(こいつを倒せば、ダンテの元へ行けるかな……)」

 

 

 悪魔の戯言など耳にも入れず、彼女は魔剣を構える。例えこの魔剣がスパイ代わりだったとして今の持ち主は自分だと思い、それを使うことに一切の躊躇いを見せない。信頼しているようにも見えるが、その怖い者知らずはどこか恐ろしく見える。

 

 鍔のない日本刀の姿をしているそれを、居合斬りの姿勢で構えるルーナ。以前路地裏での戦いでも見せた抜刀からの斬撃を飛ばす、ムラマサの特性を活かした技を放つ。

 軌道自体は直線であり、目視できるならば対応自体は簡単だ。その脅威は飛んでくる斬撃の速さが尋常ではないという点だ。但しその利点は、相手が回避しようとするからこそ意味がある。

 相手が悪魔であり、それが魔力を操るものならば、当然魔力の塊をぶつけて相殺することも不可能ではない。

 父親の放つ魔力そのもので斬撃の全てを粉砕され、流石に2年ごときの修練では上級悪魔を上回る力を身につけることは不可能だったかとルーナは舌打ちした。

 ならば、彼女ができる手段は最早小細工を弄した技術の見せ合いではなく、剣を用いた純粋な技の応酬のみ。

 

 

「随分と、反抗的な娘になったものだな。あの時のお前はもっと素直だったというのに」

 

「生憎私は反抗期みたい。パパがいなくなったせいでグレたのかもね!!」

 

 

 声を荒げ、恐れを払拭し、気合いを入れ直して接近する。幼くとも血は半分悪魔。スピードだけは常人を遥か越え、その勢いを殺さず自分の一撃に加える。

 下段からの斬り上げ、悪魔は自らの片腕でそれをいなす。今度は切っ先を縦に掬い上げるようにして、悪魔の身体を2つに切り裂こうとする。勢い余って自分の身体も上空に持ち上げるほどの斬り上げ攻撃となってしまった。

 慌てることなく、寧ろその高さを活かして加えて重力の勢いを付加した大上段からの一閃。だが、そのどれもを彼はあろうことか自らの腕で防御した。何か特別な魔具をつけているわけでもないのに、その皮膚は今までの悪魔よりも固い。まさか腕で防御されるとは思わず、1度距離をとろうとするが逆にムラマサを掴まれ、それごと投げ飛ばされる。

 

 

「いった!!」

 

 

 それなりの上背がある相手に思いきり投げられて頭を打ち付けたのに、痛いで済む体を今はありがたく思う。人間なら打ち所が悪かったら失神していたからかもしれないのだから。

 だが、叩きつけられたということは姿勢を崩されたということだ。一瞬目を離した隙に、彼女の父親は目の前にいた。まるでその存在感を誇示するかのように彼女を睥睨する。彼は迷うこともなくルーナの利き手である右手を踏みつけた。

彼の足と石畳の間で手がみしり、と嫌な音を立てる。骨の何本かは折れたのではないかという激痛に声をあげることもなく、ただ肉体の反射条件として涙だけが彼女の瞳に浮かぶ。

 

 死ぬのかな、とルーナは思う。だが同時に、彼が自分を殺すわけがないという確信に満ちた思いがある。先ほどのまるで試すかのような口ぶり、そして圧倒的な力量差があるのに今まで自分を死に至らしめるような攻撃をしていないという現実。

 これらが彼女の中で彼は自分を殺しに来たわけではないという予測を打ち立てさせていた。

 

 

「力は十分に見せてもらった。お前が不十分であることも、また十分になる可能性があるということも」

 

「……私も、パパがいう十分な力が欲しい」

 

「そうか、漸く貴様も私の理想を理解してくれるようになったか」

 

「でも、それは私がする。誰かに押し付けられた力なんて、いらない」

 

 

 一瞬喜色に染まった彼の顔が、今度は嫌悪に歪む。なまじっか期待をさせられたせいか、その表情はより醜悪なものとなっていた。

 

 

「そうか、ならば貴様の魂は最早不要だ。その悪魔と人間の血を併せ持つ体さえあればいい。我の協力を求めぬ魂など、百害あって一利なしというものだ」

 

 

 ルーナはそこで漸く気づく。もしかしたら。万が一でも。この男が自分を真に欲しており、ダンテを傷つけようとしなかったのなら。自分はこの男の手を取っていたのかもしれないと。

 だが、結局自分そのものではなくこの『人と悪魔が交わったという類を見ない存在』を欲しているだけなのならば、ルーナにとってこの誘いかけは無意味のものだ。

 

 ムラマサは彼女が笑っていることに気が付いた。父親に追い詰められその死を宣告されても尚、彼女は薄く笑みを浮かべる。それは喜びではなく諦めの笑み。自分が思っていた現実が再度現実として突きつけられた者の諦念から浮かんだものだ。

 無論ムラマサがそれに気が付くわけもない。ただ、彼はその笑みの意味を知りたいと思った。ただそれだけを感じていた。

 

 そして、父親の手が彼女に伸びようとしたその時、一条の雷撃が2人の間に割って入った。

 

 

「悪いけど、今度はこっちの相手をしてもらおうかしら? あなたの放った相手じゃ物足りなかったわよ」

 

 

 金髪の美女が凄味のある笑みを浮かべて2人に近づく。夜風が彼女の金髪をたなびかせ、彼女のいる場所だけあたかも絵画のように非現実めいた印象を与える。

 流石の彼も見過ごすことができず、ルーナに伸ばした手を止め彼女の方を見やる。足止めに放った悪魔は、彼女の相手をするには些か脆弱すぎたようだった。

 

 

「そうか、それは悪いことをしたな。だが、相手をするのは私ではない」

 

 

 新たな悪魔を召喚するのかとトリッシュが身構えた時、彼はルーナの潰れた右手が未だ握りこむ魔剣を見つめて言った。

 

 

「ダンタリオン、その力をルーナに使え」

 

「……え?」

 

 

 ルーナの魔剣は、黙して何も語らない。だが急速にルーナの視界が何者かに突き飛ばされたように見える景色から遠くなる。

 

 この現象は2年前もあったことだ。1度目は自分がダンテに助けられた時。2度目はダンテが自分を孤児院に連れて行くという話をしていた時。

その後のことはよく覚えている。ムラマサが勝手に自分の身体を使ってダンテと戦った。あの時の高揚と、そして決定的に自分が人間と違うと分かった時の絶望は計り知れないものだった。

 そして、その事件の後ムラマサは言ったはずだ。自分はもうルーナに干渉できるほどの力はない、と。ルーナもダンテもそれを信じていた。

 けれども、今その証言が嘘だと分かる。自分の意思を暗闇へと引き摺りこむ力はより強く、魔剣から伝わるムラマサの人格はより強く外へと飛び出ようとしている。

 

 

「やめて、ムラマサ!!」

 

『久々の体だが、相変わらずこの娘は使いやすいな』

 

 

 悲鳴をあげた声と、その後響く低い声。彼女の右手を踏みつけることを悪魔は止め、そして彼女は立ちあがる。刀を慣れた手つきで鞘に納める彼女の瞳はまるで空洞のように虚無を映しているのに、その顔はまるで道化師のように不自然な笑みを浮かべていた。

 不自然に折れ曲がった指を痛みに顔を歪めることもなく無理矢理戻し、彼女の姿をした何かはただ笑っていた。

 

 

「ダンタリオン、貴様の全力を用いてダンテとその仲間を殺せ。ルーナが2度と、人間の心を得られぬようにな。魂だけでなく体の底まで刻み付けねばならぬ」

 

『……2度と立ち直らぬようにか』

 

「もとよりあの男は私の実験を2度も邪魔した奴だ。失敗作でもルーナ同様私の作りあげた半人半魔、相手をするのは流石に骨だろう」

 

 

 トリッシュは目の前の悪魔らの発言に表情は余裕を崩さず、だが内心で歯噛みした。

 ダンテは今相手をしている存在がルーナにとって恐らく腹違いの姉と分かれば、いや例えそうでなくても彼はきっと、ルーナやあの女悪魔を手にかけられない。もしどうしようもない状況に陥ってしまったのなら話は別かもしれないが、救済の余地があるのなら彼はそれに賭ける。

 

 一方、目の前の相手や先ほどの悪魔を、手を抜いた状態でその意識を刈り取ることができるかといえばトリッシュでも即断できかねた。

 ならば自分がせめて、ダンテが今戦っている悪魔に対して何らかの決着をつけるまでルーナに宿った魔剣の相手をするしかない。

 

 

「それで? 私の相手をしてくれるのは、その魔剣ってことでいいのかしら?」

 

『律儀に1対1で相手をしてやる必要もないがな』

 

 

 ムラマサがそう言った瞬間、少女の姿が掻き消える。気が付いた時はトリッシュの目の前で、抜刀の姿勢で彼女がいる。まさに空中の妙技とも言えるほどの足さばきと瞬発力だ。

 神速の居合斬りをその特性とする魔剣にとってこの間合いは最早首に刃をかけているも同然。

 

 

『貴様の首なぞ、瞬きもせぬ間に落としてみせよう』

 

 

 命の危機を感じてか、急速に間延びしたような時間感覚の中、ルーナの体が魔剣の鞘を抜く。月明かりを浴びて鈍く光る刃は狙い違わずトリッシュの首へと吸い込まれていこうとしていた。

 

 

***

 

 

 足下が覚束ないはずなのに、誰かが勝手に自分の足を動かしているような違和感。視界が暗い。そのくせにはっきり見える気がする。

 手に握るカリバーンは、いつもなら軽々と振り回せるはずなのに今は鉛のように重い。なのに腕はまるで誰かが操るかのように動く。

体中が悲鳴をあげているのに、外側から体を動かされているような違和感。

 

 そんな状態でも、クラリスは笑えた。目の前にいる男の姿を見たその時から、先の見えない地獄に光が差したような言い知れようのない安心感を彼女は覚えていた。

 

 

「(……もう、終わらせてくれ)」

 

 

 以前見た時とは違う紅いコートの男に、そうとは分からないだろうがクラリスは微笑みかけた。

 

 

***

 

 

「悪いが、そんなにふらふらになっているなら御嬢さんは病院に行った方がいいかもな?」

 

 

 ダンテにそう声をかけられた彼女の姿はまだ波長の合わないラジオのように、悪魔と人の姿を行きつ戻りつしていた。

 ダンテのリベリオンは悪魔を討ち滅ぼすには十分すぎるものではあったが、相手の意識を奪い戦いを中断させるのには向いてはいない。

 一方相っている悪魔から垣間見える女の顔はまるで死人のようだった。そのくせ、その手足だけはしっかりと戦いを続けようとしている。

 

 今も鍔迫り合いをしているというのに、油断をすればこちらを押し返そうという勢いすら感じられる。どうにか力で押し込み剣を弾こうにも、押し負けると分かれば無茶はせず彼女は後退を選ぶ。

 理性はないように見えて妙な所で冷静なのは、今までの戦闘経験が為せる技なのだろうか。

 だからこそ、手を抜きたくても抜けない。全力を出したら勝てることは確実だが、全力を出したら彼女がどうかなってしまうかもしれない。

 一方、気になるのは目の前のことだけでもない。決着をつけ、ルーナたちの様子を見に行く必要がある。

 

 

「(ルーナが相手をするには、流石に荷が勝ちすぎる相手だな。本命はそっちか……?)」

 

 

 彼女の姿が見えなくなる前に垣間見えた悪魔の群れを思いだし、ダンテは内心で舌打ちをした。

 らしくもない思考を重ねていたら、ブルンッと今日何度目かのバイクのエンジン音のような轟音が響く。リベリオンをへし折るのではないかと思うほどの力が鍔迫り合いの均衡を崩そうとする。

 ダンテは歯を食いしばり出し惜しみ無しの全力を以てそれを押し返す。勢い余って相手を吹き飛ばしかねない一撃。予想通り、彼女は吹き飛び、それでも足並みを整え再度食らいつこうとする。だが、

 

 

「その気合いだけは認めてやるが、今はお休みの時間だ。後で話は聞いてやる」

 

 

 片手でリベリオンを構え、踏み込みと同時に突き出す。ただ単純な突きではあるが、それはまるで鉄の竜巻のように接近をしようとしていた彼女の腹を確かに幾分か抉った。

 今まで極力傷つけまいとしていたからこそ、この一撃は今回の攻防において初めての血の流れる傷であった。傷を負い、動きの鈍った彼女に間髪入れず近づき、ダンテは彼女の腕を掴み一気に捻りあげた。

 彼女の持つ剣が、捻りあげられた掌から零れ落ちて石畳に落ちる。そして目の前の悪魔を纏った魔力が、まるで張りつめた糸を断ち切ったようにほどけていく。

 

 漆黒の鎧から現れたのは、先ほどから垣間見えていた女性の姿だ。皮膚には火傷の痕があり、しかも本来悪魔の治癒能力で塞がるのが常なのに不自然な魔人化の影響か一向に塞がる気配が見られない。

 ダンテが与えた傷も塞がる様子も見せず、血だまりをその場に作っている。

 

 

「バージ……ル」

 

「喋れるだけ気力があるなら十分だ。今はそこで休んでおきな」

 

「…………」

 

 

 赤く光る眼は空色へと変わり、彼女は瞼を閉じた。魔力を限界まで使い果たして体が眠りを欲したのだろうか。

 依然として傷は塞がってはいないが、今できることなどたかが知れている。それ以上に先ほどからやけに静かなルーナ達がいた方の路地に向かわねばならない。

 ダンテはリベリオンを担ぎ直し女性を壁に凭れかけさせた後、再度戦いの渦へと足を向けたのだった。

 

 




ご無沙汰です。少し間が空いてしまいましたが、話自体は割と前からできていました。
後から自分の書いたものを読むと発見と不足点が見つかっていて毎度面白いものです。
この時点では悪魔と戦う戦闘力としては最下位に位置するルーナ。その相手としては些か以上に分が悪いようですが、果たしてどうなるのやら。
ムラマサの本名は悪魔学における悪魔の1体から頂いています。
その悪魔の特性はそのまま彼の魔剣としての力に繋がっています。
続きもできるだけ早く書けたらと思っています、頑張ります。
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