【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったなら 作:taisa01
起
ナザリック大墳墓 第九層宝物殿の奥の一室。
荘厳な一室で死と黄金が対峙していた。
一人はナザリックの主であり、
「どうしたのかな。卿が連日訪れるなど、奥の霊廟でかの似姿を作っていた時以来ではないか」
パンドラズ・アクター。
いやラインハルト・ハイドリヒはどこか懐かしそうにつぶやく。
対して主であるはずのアインズは、歪むはずのない骸骨の表情を歪め要件を伝える。
「非常に。ヒジョーに不本意ではあるが、相談にきた」
アインズにとって、日々巨大化するナザリックの組織運営は、手に余っていたのだ。
現実世界での鈴木悟は部下というものを持った経験もなく、例えるならば平のサラリーマンがいきなり独裁的な財閥会長の地位に付いたような状態なのだ。
「卿からの相談などはじめてだな。常に冷静に検討し己で実行してきたではないか」
(やべえ。こいつもナンダカンダいって高評価だよ)
全てを見下す傲岸不遜の態度を取るパンドラズ・アクターからの高評価に、アインズは驚きを隠せなかった。
「そんな卿の相談とはどんなものかな。この無辜を慰めてくれるものであればなお良いが」
しかし、アインズの考えなど読み取るそぶりも見せず、
いつのまにか存在していた紅茶を口元に寄せながらラインハルトは話題を続ける。
「わたしはナザリックの支配者である。しかし支配者だからこそのできないことがある」
爽やかなマスカットフレーバーがアインズの鼻孔をくすぐる。もしアインズが現実で紅茶に詳しければ、ダージリンのセカンドフラッシュであることを気付けるのだが。もっともなぜこんなものがここに在るかは理解できないだろう。
「なるほど。そういうことか」
(えっ。こいつこれだけでわかったの?)
アインズは宝物殿に来る前、自分の帝王学を含む組織管理技能の欠如をナザリック最高の知恵者に悟らせず、補佐をさせるための言葉を必死に選んでいた。しかし、最初の一言目で目の前の黄金野郎は理解したというのだ。
「つまり卿は、私に監査・補佐役を含む卿の代理人を依頼したいということだな」
(はえええよ。一言でまじ全部理解しやがったよ)
「そ、そうだ」
アインズは必死に取り繕いながら、ラインハルトの言葉を肯定する。
しかし、ラインハルトの次の言葉に驚愕し感情の強制沈静化が発動する。
「では手段の指定などはあるかね」
そう、ラインハルトはあえてアインズの意見を聞いてきたのだ。
最近のデミウルゴスやアルベドはその完璧ともいえる頭脳で、アインズの示した方針にそって結果を出している。状況報告はあがるが、手段を聞かれることはなかった。それはひとえに両者がアインズの御心を推し量り、最適と思われる行動をしているためである。
しかし、現実の社会人経験から、どうしても違和感や不安があったのだ。
「手段はお前に任せる。お前ならば最良の結果をだしてくれるだろう」
「卿はナザリックの支配者である。その支配者にふさわしい対応ですすめるとしよう」
とはいえ、アインズは腹案を持っていなかったため今回は任せることとした。
「うむ。まかせるぞ」
しかしこのやり取りで、アインズのラインハルトに対する警戒心は一気に無くなったと言って良い。自分の黒歴史を詰め込んだとはいえ、その能力は優秀の一言であり、さらに設定も最高級の俺つええええ状態。そんな存在が自分を的確に補佐してくれるのだ。最近はアインズとモモンという二重生活をおくっていただけに、肩の荷を下ろせることに嬉しさを噛みしめるのだった。
承
「ということだ」
ナザリック第九層の一室で、ラインハルトとアルベド、デミウルゴスという、ナザリックを代表する知恵者が集まり打ち合わせを行っていた。
「なるほどアインズ様はそのようなお考えを」
ラインハルトはアインズから与えられた任務のため、守護者統括アルベドと緊急時の代理を務めるデミウルゴスに組織改造の計画を伝えていたのだ。
「デミウルゴス。私は卿の行動を肯定しよう。その上で評価し報告もしよう。卿の行動はナザリックひいてはアインズ様のためであると。しかし、これからやることの一部は、卿らの職責と重複する」
現在のナザリックは、アインズから評価をもらうことができる守護者や側近は別として、監査や評価などの多くをデミウルゴスとアルベドが行っている。アインズに奉仕するのは当然であるが、その任務が能力に合ったものか、必要な能力・物資・環境が整えられているか、障害の有無の確認は別の問題なのだから。
「わかっております。ラインハルト。貴方の考えを伺っている以上否はありません。いや、むしろナザリックはより強力な組織となり、アインズ様の
「さすがだ。卿は組織というものをよく理解している」
ラインハルトはデミウルゴスとの短時間の会話の中で、その忠誠心と持論を把握していた。だからこそ世界征服という目的のために強靭な組織が必要と論じ納得させたのだ。もとよりラインハルトの計画は、デミウルゴスの趣味嗜好とも合致しており、すんなりとすすんだのである。
「アルベドも良いか」
「アインズ様の命であれば、否はありません」
「まあ、卿にはナザリックのためというよりも、モモンガ様のためと言う方が理解されることだろう」
同様にアルベドについても、その一部危険な思想も含めて把握していた。だからこそ、あえてアインズの名ではなく愛するモモンガの名を出したのだ。
「それは!」
そしてアルベドはその言葉の差異を的確に認識し、言わんとすることを理解する。
アルベドにとっては秘めたる想い。その想いは敬愛するモモンガの意にそぐわない可能性さえあるものを見透かされたと判断し、無意識に腰をあげる。
「私は全てを肯定しよう。卿がどのように思っていたとしても、その行動はモモンガ様のためであると造物主の
しかし、ラインハルトから帰ってきたのは肯定の言葉である。
アルベドは、ラインハルトこそ「かつてのモモンガ」であると認識している。そのような存在からの肯定されたのである。
「ああ、モモンガ様は私の思いに気付いておいでなのですね」
アルベドは上気した表情で、その熱い思いをつぶやく。そして最近この発作が多いアルベドを見るデミウルゴスの表情は、若干つかれたものになる。
そんなアルベドの想いを知ってか知らずか、ラインハルトはアインズの心境を語る。
「無論だとも。しかし同時に慈悲深き君でもある。全てのものを等しく愛そうともしている」
「たしかに。
先ほどまでの恍惚とした表情はどこにいったのか、苦虫を噛みしめるように怨嗟をはき出す。
「しかしあの方は私と同じである。その愛を破壊でしか表現できない」
その言葉に、アルベドだけでなくデミウルゴスまで何かを感じたようだ。
「そう」
「しかし、卿が壊れぬ存在であることを示すことができればあるいは……」
ラインハルトの言葉にアルベドは花が咲くように反応する。
「そう。そうよね。すなわち寵愛をいただくにふさわしい証明になる」
そんなラインハルトとアルベドの会話を静かに聞いていたデミウルゴスは、メガネの位置を直しつつ疑問を投げかける。
「それにしても、随分とアルベドの肩をもつのだな」
ナザリックにおけるアインズの王配レースは、アルベドとシャルティアが二強と言える。もちろんアウラのようなダークホースはいるものの、ナザリックのほとんどのものは数少ない一部中立を省きどちらかの陣営にいる。しかしデミウルゴスとしては、このようなやり取りにラインハルトが参加するとは思っていなかったのだ。
「もしシャルティアのことを言っているのであれば、アレはすでに
「それもそうね」
ラインハルトの言葉に、二人は全力の愛に耐えられなかったものという序列がついている……と認識したのだ。
「では行くとしよう。卿らが愛するに足りる存在であることを期待しているよ」
「モモンガ様の期待に答えてみせるわ」
「アインズ様の期待に答えてみせましょう」
三人は席を立ちそれぞれの職務に向かう。
転
「パンドラズ・アクターか」
「卿に状況を報告しておこうと思ってな」
夜半、アインズの私室にパンドラズ・アクターが訪れていた。
「そうか。して(組織を)どのようにする」
(いや~経緯を知らず結果だけ聞かされることが、最近おおかったから正直たすかるわ~)
言葉とは裏腹に、アインズは状況報告という行動に素直によろこんでいた。
結果をいきなり聞き驚愕を隠しつつ指示を出さずに済むからだ。
「私を中心とした監査・監督部門を立ち上げる。エイトエッジアサシンなどを中心とした内定と、デーモンを中心とした直接部門だ。しかし、それでは現在展開しているプロジェクト全てに人員を貼り付ける必要がある。それは大いなる無駄というものだ」
「そうだな」
話を聞く限り至極真っ当な施策であった。なによりアインズにとってわかりやすいのだ。
「そこで内定・直接の監査を行うことを公表する。そして、ナザリックに所属する全ての要望・報告は私が分け隔てなく受け取ろう」
「それは密告など恐怖政治に繋がるのではないか」
パンドラズ・アクターの案とは、少数の見える監査部門と見えない監視、そして要望を聞くという形の密告を組み合わせた監視網である。それに気がついたアインズは懸念を口にする。ナザリック外であれば恐怖政治であっても問題にしないが、身内であるナザリックでは避けたいと考えているからだ。
「卿は、ナザリックに密告が必要なものが存在すると本当におもっているのかね」
「そんなことは思っていないさ」
「なら、卿は信じ平等に愛せば良い。それが支配者の器というものである」
(たしかにそうだ。僕はみんなの子供であるNPCたちやナザリックに所属するものを信じたいのだ)
事実元NPC達の行動は、誤解はあれど、裏切りは無いのだ。
「それに必要なのは抑止力であり、万が一事態が発生したときの対処である。その活動にはアルベド、デミウルゴス両名の了承も取り付けている」
「では、私も承認しよう」
指示をして1日、すでに了承までとってあるというのだ。
数日悩み実現できなかったアインズとしては、ある意味自分を隠す必要のない部下の行動に助かっていた。
「では、近日中に盛大にお披露目といこうか。それが抑止力になる。その時ばかりは卿にも協力してもらうぞ」
「わかった」
そして数日が経つ。
結
ナザリック大墳墓 第六層闘技場
重大な報告があるとアインズ様から各階層守護者経由でナザリック全体にアナウンスがされた。
ナザリックでも高位のものは全て闘技場に招集され、それ以外のものにも中継がされるという徹底ぶりである。
これは先日のアインズ様による世界征服宣言と同等の対応といえる。
「よく集まってくれた。栄光あるナザリックに集うものたちよ。今日皆に告げるのは私の新たな挑戦である。ナザリックは
アインズの一言から発表ははじまった。
アルベド以下ここに集うものの脳裏には、みな先日の
「そのために、私はこのモノに新たな組織の設立と権限を与えた。私の代理人としてその言葉を傾聴せよ」
その言葉に促されるように闘技場の真ん中に進み出る黄金。そのカリスマは闘技場の隅々まで満たし、その立ち姿は気品と優美さは見るもの感嘆させるものであった。また背後に悪魔、獣人、バンパイア、13人の多種多様な種族が一様に黒い軍服を纏い付き従う姿は王者のそれであった。
少し前からある噂がナザリックに流れていた。
曰く、人間の姿でありながら人間を超越したモノがナザリック内にいる。
曰く、その姿はアインズ様がオーバーロードになる前のお姿である。
曰く、その姿、立ち振る舞いを見れば、アインズ様の偉大さのはじまりを感じることができる
曰く、その方に声をかけられれば1日幸運になる
この者こそ噂の存在であり、アインズ様の過去であると。
「私はアインズ様の
アインズの顎は外れんばかりに落ちる。
「我らの職務は我らが主に逆らう愚者を、その肉の一片までも塵にかえすことである。これはナザリック外だけではない。内部においても同様である」
「……ふぅ」
「私は卿らを平等に愛そう。公平に皆の声を聞こう。功績あるものは正確に評価しよう。罪あるモノには厳格に罰をあたえよう。ナザリックに集うものたちよ。我が爪牙は常に卿らの傍らにあると知れ」
あまりの恥ずかしさで強制沈静化が発生したアインズを横目に、ラインハルトは手に持った黄金の槍を掲げ、王者の覇気をまとう。
その輝きは、闘技場に多くの影と異変を生み出す。それは影の中から闘技場の真ん中にいる黒軍服。いや聖槍十三騎士団と同じ軍服を纏うものが一斉に現れたのだ。その数は数千を超え、中には至高の御方に似た姿さえ見え隠れする。
この一瞬をもってナザリックを掌握せしめることをしめしたのだ。
槍を横一線に振ると同時に影は消え、騎士団はアインズに傅く。
全ては主のいのままであるというように。
その姿にしもべ達は、いままで謎であった守護者のちからの一端と忠誠。そして目標に向かいナザリックも変革していく。そんな激動の時代を感じずにはいられなかった。
「……期待しているぞ」
しかしアインズは生ける黒歴史の言動に精神の強制沈静化に見舞われていた。しかしなんとか場をつなぐことだけはできた。
その後アインズは、定期的にあがる正確な論功行賞の報告と、懲罰報告のおかげでナザリックの組織が適切に運営されていることを確認できるようになった。論功行賞の中には、アインズ自らが声を掛け褒め称えるなどのあり、人心掌握にも配慮さえされていたのだ。
しかし、同時にナザリック内でときどき見かける黒い軍服姿の存在をみると、アインズの無い胃は痛み、アンデット用の胃薬が無いか真剣に悩むようになった。