【完結】もしパンドラズ・アクターが獣殿であったなら   作:taisa01

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本短編は原作9巻にあたります。



終 もしパンドラズ・アクターが獣殿であったなら

 

 ナザリック地下大墳墓 第九層会議室

 ナザリック独立に向けた、王国および帝国への対応が守護者達と主であるアインズによって話し合われていた。

 

「以上が、計画の概要およびポイントとなります」

 

 デミウルゴスが提示した計画は、謀略において右に出るものが居ないと言わしめるに十分なものであった。アインズを含むナザリックの戦力を持ってすれば十分に実現可能な範囲で、実行後の占領政策に有利となる畏怖や恐怖を植え付けることが可能としていた。

 事実、守護者統括であるアルベドとしても、抽出する戦力などに意見がある程度で計画の骨子に異論はなかった。

 無論主であるアインズは内容を理解しきれておらず、結論だけ頭に叩き込んでいる状態なのだが。

 

「一点だけ良いかな」

 

 この完璧とも思える計画に、あらゆるベクトルの美男美女が揃うナザリックにおいて、さらに突出した美貌を持つもの。黄金を携えたパンドラズ・アクター。またの名をラインハルト・ハイドリヒが声をあげた。

 

「何かなラインハルト」

 

 デミウルゴスは右手で軽くメガネの位置を直し、ラインハルトに顔を向ける。デミウルゴスは自分の計画に対する対案を複数準備している。しかしこの黄金の男は、予想外の提案をしばしするため、議論を楽しむことができる稀有な存在なのだ。

 

「まず、我が(半身)に問おう。私の能力の開陳および全力使用は可能かな」

 

 アインズは急に振られた質問に対し、条件反射で回答する。

 

「ふむ……能力の開陳はこの場であれば良し。使用については計画次第だ」

 

 アインズは最近の支配者ロールプレイにも慣れはじめ、多くを語らず結論を告げることで、細かな検討を部下に任せるという技術を身に付けつつあった。

 

「では、卿らに私の能力を開陳しよう。私の能力は、想念を集め対象に似た存在を生み出すことだ。生み出したものは、元となった存在の7から8割程度の能力を有する。しかし、想念とは移ろいやすいもの。この身に降ろす場合を省き、生み出した存在は不安定な虚像なのだ」

 

 ラインハルトが言うやいなや、二人目のアインズがあらわれた。そして隣にはこの場に居ないはず至高の一人、タブラ・スマラグディナがいたのだ。

 その仕草。雰囲気。すべてにおいて二人のアインズは見分けがつかず、突然あらわれたタブラの姿・雰囲気は当時のそれであった。

 しかしタブラはしばらくすると虚空に露と消えてしまったのだ。

 

「これが、私の能力であり限界でもある。もっとも我が(半身)は、私を創造する際、取り込んだ存在を永遠の存在とすることを考えていたのだがな」

「それは……」

 

 あまりにも壮大な構想。話を聞いた守護者達は、アインズによる神への挑戦の一端を感じざる得なかった。

 無論アインズは暴露される黒歴史にのたうち回っていた。

 

「しかしこの限界もワールドアイテム(聖約・運命の神槍)と私の超位魔法によって超越することができる。最低でも数千の命を取り込んだモニュメント()を生み出せば、虚像は実像となり長期に渡り顕現が可能となる」

「なるほど、ナザリックにとって戦力の増強。人間にとっては目に見える恐怖の象徴の出現により、その後の統治と戦略が有利となる。ということですか」

「防衛面でも有用ね。下等生物(人間)にとっては、目に見える拠点が最初の攻略目標となる。しかし私達にとっては防衛戦力をナザリックから抽出する必要ない。なにより栄光あるアインズ様の座があるナザリック地下大墳墓に、下等生物(人間)が土足で踏み込んでくるリスクが減る。すばらしい案ね」

 

 デミウルゴスとアルベドその案に賞賛する。

 1手で複数の益を得るのは当たり前。しかし現在のナザリックにおける急務の課題といえば、戦力の増強である。また戦略のためとはいえ、先日の帝国の人間によるナザリック侵入は、心情的に許されないものであった。二度は無いというのがアインズを含む守護者たちの共通認識である。そのため、今回のラインハルトの提案は非常に魅力的なものであった。

 

「デミウルゴス。パンドラズ・アクターの案を取り込むことは可能か」

 

 アインズはデミウルゴスに計画修正の確認をする。実際、ユグドラシル時代に実施したテストでは、パンドラズ・アクターが言うようにモニュメント(尖塔)が出現した。そしてモニュメント(尖塔)が破壊されるまで、影法師が破壊されても、すぐリポップするため厄介極まりない戦力となった。これはアインズの各種アンデッド創造と比較しても勝るとも劣らぬ戦力なのだ。

 

「可能です。ラインハルトと調整し、より万全な計画といたします」

 

 デミウルゴスは、脳裏により強固になったナザリックの姿を思い浮かべながらアインズにうやうやしく礼を取った。

 

 

 

 

 

 

 王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを中心とした、司令部は困惑していた。

 

「これはどう言うことだ」

 

 今にもはじまろうとしている王国と帝国の定例とも言える戦争。

 しかし今回はアインズ・ウール・ゴウンという稀代の魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)の参戦により、従来と幾分違う準備が行われた。

 ガゼフは、アインズという魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)の実力の一端を知るため、強烈な魔法による広範囲殲滅で先手をとってくると予想していた。そのため部隊を分散し移動させ、たとえ部隊が2・3潰されようともカッツェ平原の拠点に必要数の部隊を集結させることを考えていた。

 しかし現実は小さな遭遇戦が発生し集結場所を変え(・・・・・・・)ざるえなかったが、王国全体から見ればごく僅かな損害で25万に及ぶ戦力を集結することができたのだ。

 

「順調すぎる」

「アインズ・ウール・ゴウンが戦士長の言うほどの人物ではないのであれば、今回も従来通りの帝国との戦闘と考えられるのか」

「先般説明したとおり、法国の陽光聖典を無傷で壊滅する御仁。本当に参戦しているのであれば、甚大な被害が……いや、そもそも参戦すらしていないのか」

 

 ガゼフとブレイン・アングラウスは、現状を分析する。

 

「もし、アインズ・ウール・ゴウンが以前俺が合ったシャルティア・ブラッドフォールンと同等の化物であったと仮定しよう」

「たしか高位のバンパイアだったか」

「普通の剣や武技では傷つけることさえ出来ず、一方的に虐殺が可能だろう。そうなれば、ガゼフの持つ宝剣を含む、数少ない武具とそれを扱える人員で押さえなければ被害を増やすだけだ」

「もしやそれが狙いか」

「それなら納得もできる。混乱に乗じれば数の不利を跳ね除けることも可能だろう。王国は徴兵した民兵中心に対し、帝国は専任騎士がほとんどだ。戦争の定石とはいえ嫌になるほど的確な戦術だよ」

「そうだな」

 

 ガゼフとブレインはこのように結論づける。

 この二人は消して無能ではない。得られた情報から、状況を想定し対策を検討できるのだから。しかし残念なことに、想定が弱すぎた。原因をあえて特定するなら、「人間の枠に当てはめて考えた」ことと言えるだろう。

 そう彼らの相手は人間でなく、死の支配者(オーバーロード)なのだから。

 

 

 

 

 

 カッツェ平原 帝国軍居留地。

 帝国軍と王国軍が集結し今まさに戦争がはじまろうとしている。

 

「卿には悪いことしたな」

 

 伝言(メッセージ)でパンドラズ・アクターはアインズに詫びる。

 

「なぜかね」

「卿の楽しみを一つ奪ってしまったからな」

「ああそのことか」

「卿であれば、まだ試していない超位魔法の実験などを考えていただろう」

「ああ、黒き豊穣への貢(イア・シュブニグラス)の使用を検討していた。しかし成功してもレベル90台の戦力が1・2体できるだけだろう。それを考慮すれば、おまえの案のほうが理にかなっていた。それに戦闘が今回で終わりということもあるまい」

「その通りだ、闘争は始まったばかり機会はいくらでもめぐってこよう」

 

 聞くものがいたとすれば、あまりにも物騒な伝言(メッセージ)が終わる。

 

「ゴウン魔導王陛下」

 まるで見計らったように、後ろに控えていた帝国将軍が声をかけてきた。

 

「うむ」

「そろそろ頃合いかと」

「良かろう」

 

 アインズは配下を引き連れ王国軍の前に進み出る。

 彼が引き連れるのは、500に満たない僅かな手勢のみ。ただしその内訳は驚愕すべき内容だろう。たった2体で都市を一つ廃墟にしたソウルイーターや高位の悪魔。バンパイア。1体でも遭遇すれば死が確定するような存在が500体近く控えているのだから。

 

 知識のある元冒険者は、正しくその危機を理解し撤退を進言する。

 知識のない民兵であっても、その冒涜的な雰囲気に飲まれ指先すら動かすことができずにいる。

 たとえ味方と認識している帝国兵でさえ、固唾を飲んで息を潜めるように見守ることさえできないのだ。

 

 アインズは手を掲げ宣言する

 

「全ての生きとし生ける物よ。活目せよ」

 

 アインズは複雑怪奇な立体の魔法陣を展開させながら、ゆっくり一歩一歩王国軍に向けて歩みをすすめる。その無防備な姿は、敵を屠る絶好の好機であった。しかし、アインズの放つ畏怖のオーラに飲まれ、誰一人攻撃どころか逃げ出すことさえできなかった。

 

(せっかくの好機に仕掛けてこず、超位魔法さえ見過ごす。プレイヤーはいないか)

 アインズはボヤく。結局今回もシャルティアに対しワールドアイテムを使用した相手を見つけることができなかった。アインズはアンデットである。精神作用無効により怒り狂うことはない。しかし今も静かに怒りを貯めているのだ。

 アインズが睨み合う王国軍と帝国軍の真ん中まで歩みでたところ、両手を広げる高らかに唱える。

 

その男は墓に住み(Dieser Mann wohnte in den Gruften, )あらゆる者も あらゆる鎖も ( und niemand konnte ihm keine mehr, )

 

 王国戦士長ガゼフは撤退を指示した。しかし遅すぎた。

 

あらゆる総てを持ってしても(nicht sogar mit)繋ぎ止めることが出来ない( einer Kette,binden. ) 」

 

 王国の民兵はその詠唱を聞きいても、動くことはできなかった。

 

彼は縛鎖を千切り 枷を壊し (Er ris die Katten auseinander)狂い泣き叫ぶ墓の主(und brach die Eisen auf seinen Fusen. )

 

 帝国の兵士達は、これからおこる暴力が自分達に向けられないことを感謝し安堵した。

 

この世のありとあらゆるモノ総て(Niemand war stark genug,)彼を抑える力を持たない(um ihn zu unterwerfen. ) 」

 

 王国の貴族の一部はわけも分からず恐慌に陥った。

 

ゆえ 神は問われた 貴様は何者か(Dann fragte ihn Jesus. Was ist Ihr Name?)愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう(Es ist eine dumme Frage. Ich antworte. )

 

 ナザリックから見ていたアルベドをはじめとした守護者たちでさえ、巻き起こる魔力の放流に固唾をのんで見守った。

 

我が名はレギオン (Mein Name ist Legion― )

 

(なんで詠唱してるの。馬鹿なの、死ぬの)

 アインズは、超位魔法発動に不要な詠唱、しかもドイツ語のそれを聞いて盛大に感情の強制沈静化が発生していた。むしろ沈静化エフェクトが連続過ぎて、何らかのダメージを負っているのではないかと疑うほどにだ。

 

創造 至高天・黄金冠す第五宇宙 (Briah― Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall )

 

 超位魔法 黄金練成が発動し、一陣の光が駆け巡る。その光に触れた王国軍中央、約10万人がまるで糸が切れたように倒れ伏したのだ。突然のことに誰もが反応できなかった。死んだことさえ認識できないものが多数いた。しかし後に続いた現象で嫌がおうにも理解させられた。

 倒れ伏した王国軍の屍の上に巨大な城が出現したのだ。そしてまるで溢れだす泉のように、大地と城は赤く染めあげて……。

 

(なんじゃこりゃああ)

 それがアインズの反応だった。先ほどまで超位魔法の詠唱に心が削られていたが、ユグドラシル時代のものなど比較するなどおこがましい規模のモニュメント ()の出現に、さしものアインズも驚愕した。ユグドラシルの魔法やアイテムは、この世界に来て最適化・変質しているのは認識していた。例えば中位アンデット創造。触媒無しであれば従来と大差ない。しかし死体などの触媒有りとなると時間が立って消え去ることさえなく存在し続けるアンデットを生み出すことができるなどの明確な違いがあったのだ。これは、生け贄に捧げた魂の数または質で、効果が増幅された結果とアインズは推測を立てていたが、今回の件はある意味その推論を後押しする内容とも言えた。

 アインズは魔力系魔法詠唱者(マジック・キャスター)である。また覚えた魔法の数で言えばユグドラシル随一の可能性さえある魔法マニアだ。それが……そのような男がこの現象を見れば興奮し分析せざるえなかった。

 

(いで)よ我が爪牙。我らが敵を討ち滅ぼせ。Dies irae(怒りの日)のはじまりである」

 

 アインズ・ウール・ゴウンは高らかに宣言した。

 その声に応じるように固く閉じられた城門は開かれ、そこから無数の邪悪が現れ王国軍に躍りかかった。

 

(まて、優先保護目標がいるのだぞ)

 アインズは、その状況に慌ててパンドラズ・アクターに伝言(メッセージ)を飛ばす。

「爪牙にはすでに指示している。発見したら卿に伝えよう。もしすでに死んでいたらそこまでの者であったということだけだ」

(そうなっていないことを期待するよ。あれはアレで気に入っているのだから)

 

 アインズの心配など気にせぬと切って捨てたパンドラズ・アクターは、繰り広げられる恐怖劇を特等席で鑑賞するのであった。

 

 

 

 

 

 

 その後カッツェ平原で発生したのは、戦争でなくただの蹂躙だった。

 

 ジャイアントに潰される人。

 吸血鬼に血を吸い尽くされた人。

 獣人に頭や手足を引きちぎられた人。

 リッチの魔法で焼きつくされた人。

 魔人の剣戟で袈裟斬りにされた人。

 

 約25万の王国軍で生きて帰れたのは10万人を割り込んでいた。むしろあの状況であれば、10万人が生かされたと言えよう。そして生きて帰ることができた者達は生きている喜びを噛み締めると同時に、「平野に地獄の城が誕生した」と口々に伝えたのだった。

 

 その地獄に佇むアインズに、パンドラズ・アクターは静かに近づき声をかけた。

 

「どうだったかね、勧誘のほうは」

「振られてしまったよ」

 

 アインズは先程の掃討戦の中、要保護指定を出していた人間の一人、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを部下にすべく赴いていたのだった。しかし、そのガゼフは部下になるどころか、一騎打ちを提案。その生命と引き換えにアインズの情報と、国民や王が撤退する時間を稼いだのだ。

 

「しかし愛すことはできたのだろう」

「ああ。できれば殺したくはなかった」

 

 アインズは思い返す。国を思う男。仲間を助けるためにみっともなくとも割り込もうとした男。その一騎打ちはあっけないものであった。手を抜き殺さず良くやったと讃え、ガゼフを生きて返すこともできた。

 しかしアインズはそれをしなかった。

 

「一騎打ちに臨む男の魂が美しかったのだよ。だからその魂に報いるために、妥協のない一撃で終わらせた」

「それが卿の愛ということだ」

 

 アインズの声に後悔は無かった。その嘘偽りの無い言葉にパンドラズ・アクターは肯定の意を示す。

 

「人は美しい。仲間や家族を思う心、自己犠牲、努力、希望は魂を美しく磨く」

「ああ」

 

 パンドラズ・アクターは人間を賛美し、アインズは同意する。

 

「人は卑しい。人は安念だけ与えればすぐに停滞しその魂は淀み色褪せる」

「そうだ」

 

 パンドラズ・アクターは人間を貶め、アインズは同意する。

 

「だが地獄があれば。闘争があれば人は腐らず、その魂を磨くことができる。いつしか友情に溢れ、困難を乗り越え、信念を燃やし美しく磨かれた者たちが卿と我らナザリックの前に立ちふさがるだろう。それはとても素晴らしく美しい光景ではないか」

「それがお前の目的か」

「私は人も人外も平等に愛している。そして愛しているからこそ、美しく磨き、そして破壊したいのだよ。いつしか破壊できぬ愛を見つけるために」

 

 パンドラズ・アクターの望み。アインズはパンドラズ・アクターの能力については、ほぼ全てを理解していた。しかし、この世界に転移してからというもの、その心までは理解できていなかった。そんな男がはじめて目的を口にしたのだ。

 

「卿は家族であるナザリックを守りたい。可能性が低いかもしれないが仲間を探したい。可能なら冒険などを通して未知を楽しみたい。モモンガ個人としては、その過程にどれほどの屍が積み上げられようとも構わない。しかし万が一仲間が見つかった時、その所業を見て非難を受けたくない。または仲間が非難にさらされないようにしたい。だから大義名分を欲したのだろう」

「……そうだ」

「その胸の内を言われるものは聖人君子であっても、不愉快だろう。しかしこれだけは伝えておこう」

 

 そして同時にパンドラズ・アクターは、アインズの目的を明確にした。それはある意味人間らしく、ある意味化物の思想であった。それに気付いていながらも、指摘されたアインズは若干不機嫌になる。

 

「私にとってもっとも美しいのは卿の魂だ。卿の望みは苦難の道だろう。しかしそれも含めて私はすべて認めよう。そして卿の望みを叶えよう」

 

 その言葉は、アインズがある意味もっとも欲し、しかし守護者のだれもが言うことのなかった言葉であった。 

 

「さて家族がまっているぞ。ナザリックに凱旋といこうか」

「ああ、家族の元に帰ろう」

 

 そういって二人は転移門に消えていった。

 地獄と化したカッツェ平原には、生きるものは誰もいない。残るのはただ命を積み上げて生み出された髑髏の城ただ1つだけであった。

 

 




タイトルにあります通り、短編メイン筋はこれにて完結となります。

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