森に覆われた世界に二つの国があった。

コルコスティア帝国と、アレフィナチル王国。

お互いに似た環境にある為、交流は楽だったが、流通は難しい。統合しようという案が出たが、お互い政権を譲るまいと対立して8年。戦争が始まった。森には、EOT(エネミー オン タイラント)と呼ばれる化け物が跋扈している為、膨大な交戦はないが、被害は大きい。
そして、4年経ち、戦争が終わる。
一般的には、コルコスティアの防衛システムがダウンし、パニックになった隙に攻め落としたとされるが、違う。
そうなったのは【かれら】への配慮である。

これは、その真実を記したもの。

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ある日見た夢のお話

それは、終戦の二日前の日。思い返せば、この時から不吉な予感はしていたんだ。

 

あたりはすでに暗く虫の音さえ聞こえず、しかしいつまでたっても月は上がろうとしない夜。

灯したランプが唯一家の一部を照らしている。ちまたでは、ルーンなんていう魔術もあるが、この家の中でそれを使いこなせる者はいない。

家の中では、カチャカチャと二人が遅めのご飯を食べていた。

一人はまだ若い男で、屈強な体をしている。もう一人は、まだ幼い男の子だ。

 

「なぁ、瞬。また戦争が起きるから、しばらく帰れなくなる。」

 

若い男が最初に喋った。

 

「父さんも、一緒に行くの?」

 

「ああ、翔も一緒に行く。悪いな、なかなかに合わせてやれなくて。」

 

二人は、一見親子のようには見えるが、違う。子供、瞬の父、翔は軍の中でも一番の精鋭部隊のトップで国からの信頼も厚い。しかし、妻は早いうちに病気で亡くなり一人で育てることになったのだが、やはり一人の軍人では限界があった。そこで子供を親友の昴に預けた。昴は翔と同じ精鋭部隊だが、2番隊に属している。

 

「ううん、父さんも昂おじさんも、国を守ってくれてるんだもん、大丈夫だよ。」

 

瞬は笑顔で返してくれた。

 

「そうか、偉いな。この国は好きか?」

 

「うん、この国も、僕らを守ってくれてるお父さんたちも、大好き!!」

 

「それじゃあ、がんばらないとな…。」

 

 

 

二人のいる国、コルコスティア帝国は、隣国、アレフィナチル王国と戦争中だった。大陸はほとんど森に覆われ、人が住む国や村、集落以外はほとんど森である。その森の中には、EOMと呼ばれる怪物が跋扈している。両国は最初に互いを認識したころは仲は良かった。しかし、同じような土地である以上、物の流通は難しい。合併しようなんて考えも出て、互いに賛成派があったのも確かだが、政権を譲るわけにはいかないと対立してしばらく経つ。激突が起きたのは4年前。お互いに広大な領地と備蓄があり、戦争はなかなか終わらない。戦争という殺し合いは今までに3回。回数こそ少ないが、お互いに多くの犠牲を出している。前線は前後し、敵国に近づけば守護兵器が発動し返される。後退すれば逆。この異例の戦争は、永遠に続くんじゃないかとも噂されている。

 

 

夜が明け、あたりが照らされ明るくなる。昂は、いつも通り軍事施設に赴いてトレーニングに向かう。

 

「じゃあ、しばらく帰ってこれねぇから、いい子にしてろよ。何かあったら、近くの家に行け。事情は説明してあるから。」

 

「うん、いってらっしゃい。」

 

「いってきます。」

 

 

 

家を出、軍のところまで徒歩で向かう。二輪駆動車両もあるが、使うような距離ではない。

少し歩き、角を曲がれば秩序の証である鉄の門が現れる。

 

その日のトレーニングは午前中だけだった。腕立て、腹筋などの筋トレ、重りや装備を担いでのランニング。昼食をはさんでからの施設内での解散だったが、昴は能力の調子の確認を続けた。

 

この世界の人間は、ルーンという魔法か、ルーリティと呼ばれる特殊能力を操ることができる。コルコスティアの人間は、ルーリティを扱う人間が多い。昂もその一人で、自身のルーリティをウインド・ピアスと呼んでいる。

空気を振動させ、射程内の目標を穿つ能力である。施設内にある立体射撃場を予約し、駆け抜けながら立てられた的を両手を繰り出し、撃ち穿ちながら一周し、タイムを計る。

 

(右前…上、右下、左待ち伏せ、右上、左上下………)

 

しばらく繰り返した後、好記録が出たところでやめて外に出ると、舜の父親である翔がいた。

 

「よう、やっぱここか。熱心だな。」

 

待機用のベンチに座ってた翔は、昴が出てくるのを見ると、手を上げた。

 

翔もルーリティ使いで、氷のようなオーラを纏い、変形させて戦う。体に纏えば鎧にもなるし、足だと跳躍力が上がる。腕に纏い変形させればリーチの長い剣にもなる。汎用性が高く、だからこそ上の人間に注目されている。

 

「俺のかわいい息子は元気か~?」

 

「ああ。」

 

気の抜けた調子で振る舞ってみせる翔。昔からずっと変わらずにいて、おかげさまでこちらも付き合いやすい。上に立つ者としてどうかとも思うが、変わってしまう様子も想像できない。

 

「悪いね、いつも。」

 

「いいってことよ。この戦争も、そろそろ終わるだろ。そしたら会いに行ってやれよ。」

 

「当たり前だ。明日、終わらせよう。」

 

突然と真剣な表情で言うその言葉に、昂は違和感を覚えた。

 

「そりゃ、難しいな。まだ互いに蓄えは残ってるだろうし。」

 

「いや、明日終わる。」

 

「まぁ、その心意気で頑張るか。」

 

翔はその言葉を聞いて、やっと表情を崩し、苦笑いした。

昂は何を考えてるのかわからなかったが、もしわかったら、未来も変わっただろうか。

 

「じゃな。明日、疲れを残さないようにしろよ。」

 

そういって翔はどこかに行った。装備の確認かもしれないし、作戦を聞きに行ったのかもしれない。

結局、夜の作戦の説明まで出会うことはなかった。

 

あたりが再び暗くなり、静寂に包まれる。それぞれの部隊長は会議室に集められ、説明を受けていた。この部屋では、命を賭けあう前日だけあって、漂う緊張は慣れたものじゃない。

 

「まず、我らが前線部隊の1から5班までがEOMがいないか確認して道を切り開く。ファーストウェーブがまず出て、30分後にセカンドウェーブ、それから1分ごとに一班ずつ出撃して、5班全員出たら防衛隊以外は全員森に突撃する。質問はないか?」

 

手は上がる気配はない。

 

「そうか。では、解散だ。就寝前に、よく説明しておけよ。」

 

参謀やお偉いさんが全員出ると、ぞろぞろと各部隊長も出て行った。翔に話しかけようか悩んだが、真剣な表情をしていたからやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――次の日

 

昼前。あたりを包んでいた朝の冷気が晴れたが、鈍色の天気のせいで暖かくなる様子はなく、それが場の緊張感を保たせていた。

 

 

「ファーストウェーブが出てそろそろ30分だ。各自準備。」

 

翔の部隊が出てから30分。昴も隊員に支持をだし、それぞれ武器を構えて前傾姿勢をとる。

 

「行くぞ。3…2…1…ゴー!!」

 

一斉にに駆け出し、森の中につっこむ。が、すぐに足を止めた。隊員の一人が声を上げたからである。

 

「小さな音を確認!なにかいます!」

 

その方向を見ると、茂みが動いた。

 

「確認!警戒態勢!」

 

全員が各々の武器を構え、昂佑がじりじりと距離を詰める。

茂みを分け、その向こうを覗くと、

 

「瞬!?おまえ、なんでここに!?」

 

瞬が倒れていた。迷わず飛び込み、起こしたが意識はない。手にべったりと血が付き、すでに瀕死だと気づく。

 

(血…?まさか!!)

 

「隊長!あぶない!!」

 

瞬の倒れていた一つ向こう側の茂みから巨大なカマキリが飛んできた。

 

(EOM…獣虫種!)

 

獣虫種は数あるEOMの中でも一般的なもので、ビースト・ビーとも呼ばれている。

瞬を餌にして他にも獲物を狩ろうとしたのか、その企みはうまくはいかせない。

昂佑は瞬を抱えると、隊員のもとに飛び込んだ。カマキリは構わず突進してくるが、隊員の一人が障壁を張り、ひるんだところで他が応戦しに出る。

 

「ん…昂おじさん…?」

 

瞬を木を背にして座らせると、か細い声が聞こえた。

 

「そうだ、おれだ!お前、なんでここに来た!?」

 

「ここ・・・なら、お父さんに・・・会えると思って。

ごめん・・・なさい、いい子にできなかったよ。ごめんなさい・・・おとう・・・さ」

 

「おい!クソッ」

 

それ以上の反応はなかった。治癒しようにも治癒能力は珍しく、各隊に配備されてることはない。いったん基地まで戻る必要がある。その場から距離がある。どうしようもない…?それ以前に、何かがおかしい。

 

(なんでEOMがいる?ファーストウェーブはどうした?きたなら翔は瞬に出会ってるはず…)

 

判断は早かった。そして、すぐに正しかったことを知る。

 

「ここにEOMがいるということは、ファーストウェーブが失敗したと判断する!撤退するぞ!」

 

急いで後方の基地まで戻る。ファーストウェーブが出てない以上、危険だ。攻め込まれても、優れた兵器である程度の時間は一定の距離は離したままで済む。

 

筈だ。しかし、基地に戻るといろんな部隊の人間が右往左往とし、街を囲んでいる防衛システムが全てダウンしていた。

 

(何故…?)

 

理解が追いつかずただ立っている昴に、1人の通信士がやってきた。

 

「昴さん!大変です!!第一部隊が…」

 

「どうした!」

 

「反乱です‼︎第一隊隊長が、制御室を襲い、防衛システムを全てダウンさせ、玉座に向かいました!」

 

昴はそれを聞くや否や、すぐに駆け出した。

 

『明日、終わる。』

 

(バカが…クソ!)

 

城の門は開け放たれていた。何事かと人が集まり、壁を作る。兵士も何もいないが、近づこうという人は誰1人いない。

 

「どいてくれ!軍の者だ!急いでいる!」

 

野次馬達が、ただならぬ剣幕で走る彼を避け道を開ける。駆け抜け、城に入ると、兵士が皆倒れていた。

 

(怪我はしているが、死んじゃいない。アイツ、本気で…?)

 

玉座まで一直線に向かった。第一部隊の誰かがいるかと思ったが、どうやら誰もいない。翔は、単騎でこれを成立させようとしているようだった。

 

「翔――――――――‼︎」

 

玉座へのドアを勢いよく開ける。普段ならそんなことをすれば下手をすれば罰が下るが、そんな暇はない。もっとも、もう刑を下ろす人間は…死んでいた。

 

染まる紅。絵の具のチューブのように切り裂かれたところからそれを吐き出し続ける豪勢な服を着て倒れているオブジェクトが一つ床の上、そして。

 

「お前…」

 

そして、腕に氷を連想させる冷たい刃を纏った人間が1人、立っていた。

 

「ああ、昴か。」

 

男は、入ってきた親友に気がつくと、静かに振り向いた。

 

「お前、なんで…」

 

「終わらせる為だ。」

 

あの時、射撃場の外で見せた寂しげな笑みを浮かべた。

 

「この無意味な浪費を、この戦争を。全部、終わらせる為に。いつまでこれを繰り返す?いつまで、俺たちは死に続ければいい?いつまで……殺さなきゃいけないんだ。もっと相手にするべき存在があるだろう。なのに、なぜこんなにも争いを続けるんだ?4年間、4年間俺たちは殺し、殺された。いったい、いままでビースト・ビーに襲われた人数と、どっちが多いんだろうな。」

 

男は、続ける。全てに疲れたように、苦しい笑みを浮かべながら。

 

「…………そんな無意味な全てを、終わらせる為にここに来た。これで、やっと瞬に会えるんだ。やっと、あいつと一緒に平和に暮らせる……」

 

男は、そこで始めて違う笑みを浮かべた。安らぎと安堵。何かから解放されたような表情。そのまま親友に背を向け玉座を向き、天井のステンドグラスから降る光を仰いだ。一方、それらを聞いていた親友は逆に表情を歪めた。

 

バカが………瞬はもう…

 

『この国も、お父さん達も、大好き!』

 

脳裏によぎる暖かかった筈の言葉は、逆に体を冷やして行った。

 

「ああ、そうだな。」

 

小さく呟き、

 

「終わったんなら、瞬のとこまで、送ってやるよ。」

 

親友は、自らの能力で、背を向けている親友に右手を伸ばし、

 

 

(クソッタレ――――――――)

 

 

能力を、

 

 

 

 

 

発動させた。

 

 

 

 

男は胸に穴を開けられながらも、倒れざまに親友を見た。親友も、男の最後の顔を見た。本当の、安らぎを見た。

 

「アレフィナチル王国、精鋭部隊、ゼネストだ!おとなしく……」

 

開け放たれたままのドアから数人の人間が流れ込んできた。あまり見ない服装から、昴も見ただけでアレフィナチルの人間だと気づく。ゼネストと名乗った部隊の全員が、昴がやって来た時と同じ反応をを見せた。もはや自身の色すらなくなったモノと、代わりに紅を拡げる二つ目のオブジェクト。そして、そこに立っている男は、殺した親友と同じ、苦しくて、寂しい笑みを浮かべていた。

 

「ああ、やるよ。こんな何もない、無意味な国なんかな。」

 

もう、何も残っちゃいない……

 

男は、自決用に隠し持っていた銃を自分のこめかみにあて、ゆっくりと、引き金に、手を当てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうなったの?」

 

あたりはすでに暗く虫の音さえ聞こえず、しかしいつまでたっても月は上がろうとしない夜。支給されたマジックアイテムが、部屋全体を照らしている。部屋は広間のようで、大きなテーブルとイスが9つほど。男が1人、角の席をとり、女性がその角を挟んで横の席に座っている。他にも人の気配はあるが、皆それぞれの部屋で寝ていた。

 

「ギリギリで止めたよ。あの城、全部石造りだったからね。おかげで玉座がすぐにみつかった。…なんだっけ?そうそう、引き金を引き切る前にとっさに先に拳銃を撃ち抜いてそいつの手から弾いたんだ。初めましてで一か八かだったけど、明後日の方向に向かった。いや〜、いい判断だったと思うよ?」

 

軽くジェスチャーを踏まえて説明し、おどけて自画自賛する男に、女性はため息をついた。

 

「はいはい。で、彼から話を聞いてそれだけの情報を得たのね。で、その彼はいまどうなってるの?」

 

「ん〜とね、しばらく気が病んでいたから、カウンセリングしたり、向こうの国の知り合い呼んで話させたりして、まぁ時間かかったけど、立ち直った。」

 

「へぇ、意外。」

 

「まぁ、最後はいくらの俺でも流石にあんなことするとは思わなかったよ。」

 

そういう男は、人に対しての動向の予測に自信があるようだった。

 

「あんなことって?」

 

「こう…バチーン!ってさ。」

 

「え?叩いたの?」

 

「うん。多分、誰かに咎めて欲しかったんだろうね。妹だっていう人がいたからずっと話してもらってたんだけど、ビンタして出て行っちゃった。」

 

「へぇ…」

 

「なんでも、軍に入る時に近くに住みたいって理由で離れてたらしいよ?で、話を聞かせたら会いたいって。最初は平行線でね。妹は誰も咎めない、少なくとも私は許すって。そう言ってたんだけど兄は頑なに自分を責め続けていた。それで、最終的にビンタだね。」

 

「最終的にって…まぁ、立ち直ったならいいか。」

 

「そのあと、彼は旅に出たよ。多分、自害とかないだろうし、彼なら何かに襲われて死ぬこともないと思う。」

 

「あんたがそう言うなら、そうでしょうね。」

 

「だけど彼が旅に出た次の日、妹が来たんだ。兄はどうですかって。立ち直って旅に出たこと説明したら、泣いちゃった。何も言わずに出たからって。優しいね。彼も、彼女も。」

 

「ええ、そうね。」

 

「でも、何かで出会ったらビンタだろうなぁ…」

 

2人とも強烈だった、と男は最後に付け足した。


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