―――地獄を見た。
燃え盛る炎。赤く染まる家々。
―――地獄を見た。
肉が焼け焦げる不快な臭い。濃密な鉄の臭い。
狭まる視界と、夜を迎えて尚紅い空。
―――地獄を見た。
周囲から響く呻き声、誰かの悲鳴。
見える景色が、自分が仰向けで倒れていることを示していた。起き上がろうとすると、右足に激痛が走った。少しずつ視線を自分の右足に向けてみた。あぁ、動けない訳だ。俺の足は、倒壊した家屋に挟まっていた。取り敢えず、できる限りで足を挟んでいる角材とか、その他諸々の瓦礫を退けた。それでも、足は抜けない。折れている訳ではないのだが、抜けないのだ。
どうやら、今退かそうとしているのが、俺の足が挟まった原因の瓦礫のようだった。
どれだけの時間が経っただろうか、煙を吸いすぎたのだろうか、体が、動かない。そのまま仰向けに倒れた。自分の荒い息づかいと、早鐘を打つ心音が、やけによく聞こえた。体に力が入らない。周りは今も燃えている筈なのに、肌を焼く程に熱い筈なのに、徐々に意識が曖昧になり、体は感覚を失い、冷えていく。
――誰か、助けてくれないだろうか。
絶望的状況の中で考えたのは、そんなあり得ない願望。
――誰でもいい。なんでもする。だから――
(――助けを求める君。無力な君。ねぇ、この絶望を覆す力が欲しくはない?世界を助ける為の、世界を変革出来るほどの力が、欲しくはなぁい?)
もう、何も見えないけれど、その言葉は確りと俺の耳に届いた。
「だ……れ?」
渇いた喉で、言葉を紡ぐ。
( 誰か?なんて、今はどうでもいいと思わない?ただ、私は君に力を与えられる。この地獄を生き延び、未来を手にする為の力を、ね)
どうだい?と、その『誰か』は俺に再度聞いてくる。
聞かれている。今ここで焼かれて死ぬか、その『力』を得て生き延びるか。答えなんて、決まっている。ただ、このまま焼かれて死ぬのは御免だ。
「くだ……さい、その、……『力』」
(承ったよ。君がこれから、その力で何を成すのか、楽しみにしているよ)
薄れ行く意識の中、暖かい何かが、俺の中へ入ってくるのを感じた。何が起きたか分からなかった。ただ、もう一度頑張ってみようと思った。生き延びるために、腕を突っ張って足を挟んでいると思われる最後の瓦礫を退かし始めた。必死だった。無事な左足で瓦礫を足の突っ張りも加えて退けようと試みたり、そうしていると、ついに最後の瓦礫が足から退いた。俺は、痛い足を引きずり、安全だと思われる方向に、進み続けた。
これは、俺が俺であった最期の記憶。そして、俺が私になった始まりの日
プロローグ的なのです。短いです。本格的な文量になるのは予定では三話からになります。これからよろしくお願いします