五河君達が教室から出てきて学校案内が始まった。構図的には五河君が窓側で時崎さんが教室側を歩いている。私は目が良いので、少し遠くからその様子を見ている。何か面白いことでもあれば良いのだけれど、あの二人全く会話してないし、時崎さんなんて五河君見つめてるだけだ。それに気付いた五河君が何か言ったみたいだけど、何故彼は顔を赤く染めて忙しなく顔を触っているのだろうか?後、時々時崎さんから見えない様に彼女には見えない方の耳を突いたりしているのは何故か。
「何か入れたのはそちらの耳でしたか」
私は彼が耳に何を入れたのかが知りたい。幸い私は目が良い。耳に入れたものが時崎さんが居る側とは違うのであれば、私は向かいの校舎から五河君の耳を見れば、何が入っているのか分かる。
何故私は他人のイチャコラを見せられなければいけないのか……。
だって、おかしいよ。私見てたけどなんで時崎さんが階段で五河君に見えるようにスカート焦らしながら捲ってるの?そしてなんで五河君は止めるためとはいえ時崎さんのスカート握ったの?あんなの仲の良い人達のやり取りじゃない。
「……リア充、爆発四散して欲しいです」
もう見たくない。私はお腹一杯です。後は若い二人でどうぞ。
私が目的も忘れかけて帰ろうとした時、見えた。赤い耳に填められた機械。あれは多分、インカムだと思う。いや、私が知っているインカムより小さいけれど、昨今の科学の発展には凄まじいものがある。軽量化されて小型化していてもおかしくはない。ただ、ならば何故彼は今それを着けている?
あぁ、簡単だ。『何処か』に居る『誰か』と話ている。
他人を学校案内している最中に失礼だとは思うけれど、私には関係ない。けれど――
「貴方は私を飽きさせないですね」
彼への興味は深まるのだ。彼が何を成そうとしているのか。私は見届けたいと思った。取り敢えず、目的は果たした。後は帰るだけだ。向こうでは私と同じ様に後を追っていた鳶一さんと夜刀神が見つかったようだ。まぁ、彼女達は割と近くで見ていたようだし、見つかるのも仕方ないですね。そう思って、私は一階の昇降口に向かい始めた。
「―――ッ!!」
そして私は、とてつもない寒気を感じた。何か得体の知れないものに首筋を掴まれたような、本能的に触れてはいけないと思えるようなナニかに、私は一瞬囚われた。でも、そんなのは一瞬で、夏服の下で出た冷や汗も、すぐに引いていった。私はまた、昇降口に歩きだした。
翌日、いつも通りに登校したら時崎さんが遅れてきた。
「もう、時崎さん。遅刻ですよ」
「申し訳ありませんわ。登校中に少し気分が悪くなってしまいましたの」
「え?だ、大丈夫ですか?保健室行きます……?」
「あら、よろしいんでしょうか?わたくし、遅刻してしまいましたし……」
申し訳なさそうな顔で言う時崎さん。
「だ、大丈夫ですよ。じゃあ、保健委員の――」
「付き添いお願いできませんこと?ねぇ、『速水京子』さん?」
「………えっ?わ、私ですか?」
時崎さんが指名したのは私だった。
「だめ、ですの?」
あぁ、まただ。五河君もこれを受けて学校案内を快諾したんだった。
「……分かりました」
私と時崎さんは、教室を出て保健室に向かう。その過程で会話は無いのだけれど、後ろを付いてくる時崎さんが私を見てる。その割に話したいという訳ではないようで、沈黙を貫いている。
「つ、着きましたよ」
やっと保健室だ。後は彼女を常駐する保健の先生に預けて私は教室に戻るだけ。そう思って、保健室のドアを開けた。でも、誰も居ないようだった。
「あらあら、誰も居ませんわね」
保健室の中を見回している時崎さんに声をかける。
「じゃあ、私は教室に戻ります。常駐する保険の先生が来たら、事情を説明して休ませてもらってください」
「あらあら、つれないことを言わないでくださいまし。少し速水さんと。いえ、『京子さん』とお話がしたいですわ」
この後私は後悔する。この時少し残るなんて言わなければ、私の人生は、もう少しまともになったのだから。
「ねぇ、京子さん。わたくし、貴女に興味がありますの」
「……興味、ですか?」
「えぇ、えぇ。昨日、わたくしが士道さんに頼んで学校案内をしていただいたのは知っていますわよね?」
「……知ってますよ。教室で名指しまでして頼んでたんですから」
あらあら、恥ずかしいですわ。なんて言いながら時崎さんは話を続ける。
「あの時、わたくし達を追いかけていた方々が居ましたの」
この時、私は少しゾッとした。まさか、バレているのではないか。そんな考えが浮かぶ。
「えぇ、えぇ。居ましたわ。分かりやすく追いかけてくる方が二人。そして、――遠くから覗く方が一人」
私は、それを聞いた瞬間。背筋に昨日と同じ様な悪寒が走った。
「ねぇ、京子さん。貴女、『目』がとってもよろしいんですのね」
私は無意識に立ち上がり、気付けば壁を背にして時崎さんに詰め寄られていた。
「………」
何かを言いたいのたが、何も言えない。時崎さんは私に手を伸ばし、瞼を沿うように指を這わせた。
「貴女は、何が……」
「うふふ、一度学校というものに通ってみたかった、というのも嘘ではございませんのよ?でも、そうですわね、一番となるのはやはり――」
そこで一拍おき、顔を互いの息がかかるくらいの距離まで近づけてくる。
「――士道さん、ですわね」
「――ッ!!」
私の反応を見て、時崎さんはその笑みを深くする。
「彼は素敵ですわ。彼は最高ですわ。彼は本当に――美味しそうですわ。ああ、ああ、焦がれますわ。焦がれますわ。わたくしは彼が欲しい。彼の力が欲しい。彼を手に入れるために、彼と一つになるために、この学校に来たのですわ」
時崎さんの言っている事が理解できなかった。美味しそう。というのは、言葉通りに受けとるのなら、彼の貞操が危ない。まさか食べるなんて事をするはずがない。そして、『彼の力』とは?私のように、彼も何かしらの『力』を得ているのだろうか?考えても、私には分からなかった。
「京子さん。速水、京子さん。あなたも――素晴らしいですわよ。士道さんと同じぐらい、美味しそうですわ。ああ、たまりませんわ。たまりませんわ。今すぐにでも食べてしまいたい」
こ、この子は両刀なんだろうか?
頬を上気させ、息づかいを荒くしながら、左手を胸元に這わせ、右手で足をなぞって、スカートの中をまさぐりだした。
「……や、やめてください」
「ふふ、そうつれないことをおっしゃらないでくださいまし」
そう言って、私の頬に長い舌で唾液の線を引く。自分の長い黒髪が、濡れた部分に貼り付いて気持ち悪かった。
「ああ、ああ、でも駄目ですわ。駄目ですわ。とてもとても惜しいですけれど、お楽しみはあとにとっておかなくてはいけませんわ」
時崎さんが大仰に首を振り、私の首筋に口づけを残し、身体を離していった。
「貴女は、士道さんの後に。――ゆっくりといただきますわ」
そう言って、時崎さんは踵を返して保健室から出ていった。後に残された私は力なく壁に寄りかかり、やがてその場に座り込んだ。
その後保健の先生が来て、私は早退させてもらった。
次こそは三巻の終わりまで持っていけたら……いいなぁ。まぁ、こんな感じで割と話数管理が出来てないのですが、次話も投稿したらよろしくお願いします。誤字脱字の指摘、感想等お気軽にどうぞ