その瞳に映る世界   作:竹鶴永寿

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上、下で出すって言ったんですけど、色々考えて、少し文字数が増えたので、上、中、下で書きます。計画性なくてごめんなさい。


虚構の悪夢――中編――

「く、るみ……?は?なんで……」

士道は、今まで話していた狂三を見てから、新たに現れた狂三に視線を向けた。それは間違いなく狂三だった。

影のような黒髪も、真珠のような肌も――左目に光る時計も、今までと同じ。ただ、その表情は違った。先ほど倒れた狂三が浮かべたような混乱の表情ではなく、余裕に満ちた妖しい微笑である。

「まったく、この子にも困ったものですわね」

狂三は、先ほどまで倒れ伏す狂三を貫いていた右手を払い、血を飛ばす。すると、狂三の影から無数の手が生え、狂三の死体を影の中に引きずり込んだ。

「あんなに狼狽えて。――まだ、この頃のわたくしは若すぎたかもしれませんわね」

「な――」

「ああ、でも、でも。士道さんのお言葉は素敵でしたわよ?」

冗談めかすように身をくねらせ、狂三が笑う。

士道は、言葉を失っていた。目の前で起こったことが理解できない。今、確かに時崎狂三という存在は士道の前に、二人存在していた。そして、士道と話していた方の狂三が、後から現れた狂三に殺された。そして、影に喰われた。

「何、が……」

士道は呆然と喉から声を漏らす。狂三はそれを聞き、可笑しそうに笑った。

「さぁ、さぁ。もう間怠っこしいのはやめにいたしましょう」

狂三がそう言った瞬間。士道の足元から手が生え、両足をホールドした。

「うわ……っ!?」

足を捕まれ、士道は堪らず尻餅を突いた。狂三が士道に近づき、その頬に冷たい手を添えた。

「まずわ貴方の力……いただきますわよ、士道さん」

士道の顔が恐怖で歪む。狂三はその笑みをより深くした。しかし、次の瞬間。

「――あら……あら」

狂三は、自分の手を襲う痛みに、眉をひそめる。そして、身を翻し、後方に跳ひ退く。

狂三が視線を向ける前に、第三者の声が聞こえた。

「私のために、おはようございます。あなた方のために、はじめまして」

身の丈より大きな鎌を構え、狂三の腕を切り飛ばしたと思われる女が、そこに居た。

 

 

 

時間はほんの少し戻る。

私の目覚めは最悪だった。硬い床。吹き付ける風。そしていつの間にか出来ていた打撲。取り敢えず、ここが何処かを確認するため、視線を巡らせる。すると、自分のいる場所に二人、片方は見知った顔である五河士道。もう一人は、日頃の姿とは異なるが、少し聞こえた声から時崎さんであることを確認した。

「さぁ、さぁ。もう間怠っこしいのはやめにいたしましょう」

時崎さんがそう言った瞬間。五河君の足に、白い手が絡み付いた。私は一瞬恐怖した。ただ、声が出なかったのは良かった。しかし、時崎さんが五河君に近づいて行く。私は咄嗟に、先ほど夢でみた事を実行した。私は、呼んだ。とても小さな声だった。

「……『サリエル』」

瞬間。私の体を、光が包み、私に『記憶』が流れ込んで来た。しかしそれを気にすることなく。私は起き上がり、走った。体がとても軽く。考えるより先に体が動いた。先ほど手に入れた記憶は、『力』の使い方だった。それにより得た知識で、自分の手にいつの間にか現れた身の丈程の『鍵』。アンティーク調の所々に小さな装飾を施された鍵。その形を変化さて、身の丈よりも大きな鎌。『大鎌』をつくり、五河君と時崎さんの間の空間目掛けて大鎌を下から振り上げた。

そして、時崎さんの右手が、天高く舞った。

 

 

 

五河士道にとって、今目の前で起こった現象は自身の思考を一時的に停止してしまうほどの出来事だった。

「怪我はありませんね?五河君」

自分を危機的状況から救ってくれた彼女。先ほどまで意識なく横たわっていた速水京子が、自身の身の丈より大きな鎌を振り上げた姿勢を解きながら聞いてくる。

「……お、おう。大丈夫」

自分を助けたクラスメートの姿を、士道はその視界に入れる。

彼女の体を包むのは来禅高校の女子の夏服ではなく、藍色のビスチェドレス。慎ましやかな胸を包むのはハートカットネックによって華奢な肩と鎖骨が露出したデザイン。スカート部分の裾は右から左に斜めに切られ、細めの右脚が時々その白い肌を覗かせる。胸元やスカートの裾には、白のフリルが施されている。それだけならパーティーにでも行くための服装なのだが、首には藍色のチョーカーが巻かれており、小さな南京錠が吊り下げられている。その南京錠と、彼女が手にしている身の丈より大きな得物。内側に付いた刃は、相手を切るのではなく刈るための武器であることを示している。それに、彼女はほんの少し前。その武器でもって、狂三の右腕を切り飛ばし、自分を窮地から救った。

しかし、この状況下において、彼女。速水京子の変容は、ある一つの事実を士道に伝えていた。

彼女。速水京子は――精霊である。ということを。

 

 

 

私は、背後に五河君を庇う形で、此方の様子をうかがっている時崎さんと相対する。

「あら、あら。京子さんですの?随分と素敵な姿になられましたわね」

私の姿を見て、時崎さんが言った。

「そうでしたの。わたくしと同じ精霊さんでしたか。けれど、なんのつもりですの?わたくしの邪魔をしないでくださいまし」

「そういう訳にもいきませんよ。私的には、時崎さんが諦めてくれれば良いんですけどね。私は目覚めたばかりで、力の加減が分かりませんし」

「まぁ、怖いですわ。恐ろしいですわ」

時崎さんは戯けたように言う。

「でぇ、もォ……わたくしも今回は本気ですの」

時崎さんはそう言うと、ステップを踏むように両足を地面に打ち付ける。

「さぁ、さぁ、おいでなさい――〈刻々帝(ザアアアアアアアフキエエエエエル)〉」

瞬間。時崎さんの背後の影から、ゆっくりと、巨大な時計が姿を現した。

「……っ、これは――天使……っ!?」

背後で五河君が声を上げる。

――天使。『形を持った奇跡』。精霊が持つ唯一にして絶対の力を誇る武器。私の記憶にも、確かにある。

「うふふ……」

時崎さんが笑うと、巨大な時計の文字盤から短針に当たる銃が外れ、時崎さんの手に収まる。そして、

「〈刻々帝(ザフキエル)〉――【四の弾(ダレット)】」

時崎さんがそう唱えると、時計に刻まれた『Ⅳ』の数字から、影のようなものが漏れ、時崎さんの握る短銃に吸い込まれた。私は大鎌をいつでも横薙ぎに振れるように両手で構える。見る限り、彼女の天使は銃。遠距離が主体だと思った。しかし、時崎さんは自身の短銃を自分のあごに押し当て、引き金を引いた。瞬間。時崎さんの頭部が揺れ、その一瞬後、私が切り飛ばした右腕がまるで逆再生されるように元通り。切られる前の状態に戻った。

「うふふ、良い子ですわ、〈刻々帝(ザフキエル)〉」

時崎さんは笑っているが、私としては何も笑えない。

「時間を巻き戻すなんて……」

「あら。ご名答ですわ」

ならば、彼女の天使を封じなければ、私に勝機はない。その手段を、私が得た『記憶』において、私は持ち合わせている。でも、私の天使の持ちうる能力の中で、絶大な効力を持っている反面、代償も割と大きい。今の私の『鍵のストック』では、使えない。

 

「さぁ、さぁ。始めましょう。わたくしの天使を見せて差し上げますわ」

言って、時崎さんは右手の短銃を掲げる。

「〈刻々帝(ザフキエル)〉――【一の弾(アレフ)】」

先ほどと同じように、『Ⅰ』文字盤から影が染みだし、時崎さんの握る短銃に吸い込まれた。そしてまた、自身のあごに当て、引き金を引く。

瞬間。時崎さんの姿が掻き消える。私は冷静に、大鎌の石突きで自身のすぐ横を突く。

「――っ!?」

すると、驚愕の表情を浮かべながら、私の突きを躱した時崎さんの姿が、常人でも視認出来る速度になり、追撃をしようと大鎌を横薙ぎに振ると、時崎さんはすんでのところで身を躱し、給水塔の上まで後退した。

「あ、ありえませんわ!時間を早めたわたくしを最初からとらえるだなんて……」

私は大鎌を自分に立て掛けるように抱え、タネ明かしをする。

「何も不思議なことはないですよ。私は、目がいいので」

タネを明かした後、私も攻める事にした。自身の出せる最速でもって近づき、精霊としての膂力でもって横薙ぎに大鎌を振る。時崎さんは自身の天使の文字盤から長針に当たる銃。歩兵銃を取り外し、私の振るう大鎌の刃の軌道上に両の手の銃をクロスさせ、防御。私の精霊としての腕力は高く無いので押しきれず、競り合いになる。

「ねぇ、時崎さん」

私はその状態で語りかける。

時崎さんと私の視線が、重なる。

「――私のを見てください」

瞬間。時崎さんは目を押さえて後退した。

「……っ!?あ、貴女。何をしましたの」

そう言いつつ時崎さんの目は私とは少しズレた場所を見ている。

「あぁ、目眩でも起こしましたか」

時崎さんは地面に少し屈み、治まるのを待っているようだ。

 

「そのまま動かない方が良いですよ。酷いと吐き気も誘発しますから」

言いつつ私は五河君に近づく。取り敢えず、今のうちに彼を安全な所に連れて行こうとした。―――瞬間、私は自分に迫るブレードをとらえた。

間一髪で大鎌を軌道上に滑り込ませ、直撃を防いだ。

「――っ!?」

ブレードを引き、私に蹴りを放って来た。私が難なく防ぐと、そのまま私の鎌を足場に蹴って距離をとり、五河君の近くに着地した彼女。

「真那!」

五河君の知り合いだろうか?彼がその少女の名前を呼んだ。

「はい。――また、危ねーところてしたね」

よく分からない機械のボディスーツを着た少女が、私の前に立ちはだかった。

「ひさしぶりじゃねーですか、〈ラビリンス〉」

彼女は、私の『記憶』に刻まれた名で、私を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




再度の謝罪を、計画性なくてごめんなさい。次回もよろしくお願いします。
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