AM 7:42
この町の名前は、モチノキ町。
IQ190の天才的な頭脳を持つ少年 "高嶺清麿" と、千年に一度の魔界の王を決める戦いで優しい王様を目指す魔物 "ガッシュ・ベル" が暮らす町。
「行ってきまーす」
「行ってきますなのだッ!!」
そんな至って普通の町で、普段通りの朝を迎えた清麿とガッシュは新しく仲間に加わったテッドとジードを見送った後、一緒に家を出る。
「はぁ……」
朝の通行人も
「ヌ?どうしたのだ、清麿?今日は朝から元気が無いのだ」
「…どうしたもこうしたもあるかよ。昨日の戦いでこっちは疲れてるってのに何でお前は今日も元気なんだ……」
「何を言うか、あの程度の怪我など一晩ぐっすり眠ればどうと言うことは無いのだ!!」
「はぁ……調子に乗んな」
相変わらず能天気なガッシュに呆れた清麿は二度目の溜め息を零すと、隣を歩くその頭を軽く叩いた。
「な、何をするのだ清麿ッ!!」
ガッシュは一歩前に出て清麿の正面に立つと、今の仕打ちに対して抗議をする。清麿も足を止め、三度目の溜め息を堪えながら口を開いた。
「何するんだじゃねぇよ。昨日はテッドとジードさんが助けに来てくれたから何とかアースを追い払うことができたんだ。お前だって立ってるのがやっとだったじゃねぇか」
「ウ、ウヌゥ……それはそうなのだが…」
「もし仮にあのまま戦っていればどうなっていたか……最悪の場合、負けていたのは俺達だったかもしれないんだぞ。分かってんのか?」
昨晩、その圧倒的な強さを見せたアースとの戦闘が二人の脳裏を過る。
「これから先の戦いは今まで以上に過酷になる。昨日みたいに誰かがいつでも助けてくれる訳じゃないんだぞ」
「そ、それは……ッ!!」
頭では正論と理解しつつも抗議を続けようとしたガッシュは清麿の目を見て言葉を飲み込んだ。そして、静かに深呼吸をしてから改めて口を開く。
「……もちろん、分かっているのだ。私よりも強い者がたくさんいることも、私自身がまだまだ弱いということも」
「……………………」
「私は清麿のように頭は良くないし、ティオのようにみんなを守れるような強い盾もない。ウマゴンのようにパートナーと心で会話することもできないのだ」
「当然だ。お前は俺でもなければ、ティオやウマゴンでもない。他の誰でもないんだからな」
「ウヌ、だから私は……私にできることをしようと思うのだ」
「……それで、お前にできることって何だよ?」
「それはこれから考えるのだ」
「おい」
続けて『俺の感心を返せ』と文句を言おうとするもガッシュの次の言葉で遮られる。
「ただ、これだけは言えるのだ」
文句を言いたい衝動を何とか抑えて清麿は次の言葉を待った。
「私はまだ強くなれる、と言うことなのだ」
「……何でそう言い切れる?」
「私には優しい王様という夢がある」
「ああ、知ってるよ。今までそのために戦ってきたんだからな」
「それだけではないのだ。魔界に帰ったみんなの思い、こんな私と一緒に戦ってくれる大切な仲間達、私はその全てを背負っている。だから、私はまだまだ強くなれるのだ!!」
「……ッ!!」
正直、清麿はガッシュがここまでしっかりとした考えを持っていることに驚いていた。普段は年相応な子供であるはずが、いざとなれば別人のように逞しく勇ましい。
「(…これなら余計な心配はいらねぇか…)」
謎の建造物とアースが語る魔界の脅威について、清麿は何とも言い知れぬ不安と危機感を抱いていた。だが、今のガッシュを見て清麿は不思議と安堵した。
「……結局、弱かったのは俺の心の方だったって事か」
そう清麿は小さく呟いた。
「ヌ…?何か言ったか清麿?」
「何でもねぇよ。分かってるならそれで良い」
清麿は適当に誤魔化すとガッシュの隣を通り過ぎていく。
「おかしな清麿なのだ」
そんな清麿の言動にガッシュは首を傾げるも、すぐに清麿の後を追い掛けていった。
「ところで清麿、あのアースという魔物が言っていたことは分かったのか?」
「ああ、それなんだが……あれから色々と考えたけど分からなかった。狙いは俺達が持つバオウを消し去ることだとは言っていたが、結局は俺達にトドメを刺さずに逃げていったからな」
「それはテッド達が助けに来てくれたからではないのか?」
「いや、テッド達が助けに来てくれたとは言え、アースならすでにボロボロだった俺達にトドメを刺すことぐらい簡単にできたはずだ」
最後の切り札であるバオウを使ってもアースは倒せなかった。それにこちらはガッシュはほぼ戦闘不能、自分は心の力を使い果たし、まさに絶体絶命という圧倒的不利な状況だった。
「それなのに、あっさり剣を退いた。あれだけ魔界の脅威というものを恐れ、必死にバオウを消そうとしてた奴が、目の前のチャンスを棒に振るような真似をするとは俺には思えない」
例えるなら、ガッシュが大好物のブリを目の前にして、それに手を付けない事と同じくらい清麿の中ではあり得ないことだった。
「しかし清麿、本当にバオウが魔界の脅威と言うものなのか?私にはそうは思えぬのだが…」
「まあお前の言うことも分かるが、謎の建造物の事もあるし、現状では嘘だと決め付ける確証も無い。俺もあいつの言う事を全て信じてるわけじゃないが、無視もできない」
これは嘘ではない。ただ口には出さないが、清麿は一つの疑念を抱いていた。
「(そもそもバオウは他の術とは根本的に性質が違う。発動条件が必要な術は確かにあるが、心の力を使えば使うほど力を増すというのはやはり他の術と比べてどこか異質だ)」
清麿は鞄から赤い魔本を取り出すとバオウ・ザケルガのページを開いた。
「(俺達の最大攻撃呪文にして最後の切り札。第四の術、バオウ・ザケルガ。この術には何か秘められた力が今も眠っているというのか?)」
こうして見ると普通の呪文と何ら変わりはない。それなのに清麿の中の疑念はさらに膨れ上がる。
「(はぁ……今は幾ら考えても無駄か…)」
疑念は残るが、思考が泥沼に落ちそうになった清麿は赤い魔本を閉じて思考を停止させた。
「とにかく、バオウについてはひとまず保留だ。まずはナゾナゾ博士に連絡して、今ある情報から謎の建造物について詳しく調べてもらおう」
すると、清麿はすぐ傍でポストを見付け、これまでの出来事を纏めた資料と謎の建造物が映っているニュースのダビングテープが入った封筒を投函した。
「他のみんなにも近い内に集まってもらってこの事を話そうと思う。たぶん、俺達の手に負える事態では済まなくなるだろうからな」
「おおッ!!では久し振りにみんなに会えるということなのだな!?」
「……だから何でお前はそういつもいつもお気楽というか能天気というか…」
今後の先行きが不安になる清麿だが、咳払いを一つして思考を切り替える。
「良いか?結論から言うと、今の俺達に出されてる課題は全部で三つ」
そして、今の状況を冷静に分析し、自分達のやるべきことを整理した。
「一つ、謎の建造物の正体を突き止めること」
そう言って清麿は人差し指を立てる。
「二つ、消えた謎の建造物の居場所を特定できる力を持つ魔物を探すこと」
続けて中指を立てる。
「三つ、俺達自身の強化」
最後に薬指を立てて清麿は三つの課題を挙げた。
「謎の建造物の正体はひとまずナゾナゾ博士に任せるとして、問題は次の課題。ある意味ここが一番の鬼門だ。たとえ謎の建造物の正体を突き止めたとしても、その居場所が分からなければ全てが後手に回ってしまう」
「ウヌゥ……しかし、どうやってその魔物を探せば良いのだ?」
「そこが問題なんだ。さすがにこればっかりは俺もお手上げだ。一応はナゾナゾ博士にも相談するが、そう都合よくはなぁ…」
解決策の無い山積みの問題に清麿は頭を悩ませ、足を止めて空を仰いだ。
「それで清麿、三つ目の課題というのは具体的に何をすれば良いのだ?」
「え……あ、ああ、その事か。簡潔に言うと、ザグルゼムをより有効に使った戦術スタイルを身に付けることだ」
「ザグルゼムをより有効に?それはどう言うことなのだ?」
「これまでの戦いでザグルゼムにはエネルギーの蓄積と連鎖の爆発という二つの特性があることが分かった。これを上手く使いこなせればバオウを温存することもできるし、危機的状況を逆転させることもできる」
先日のコーラルQ戦やデボロ遺跡でのデモルト戦がその例である。
「それだけじゃないぞ。もしかしたらザグルゼムにはまだ他にも俺達の知らない力があるかもしれない。そう考えるとこれほど応用力のある術はそうそう無いだろうな」
「おお、それは凄いのだッ‼」
「ただし、どんなに強い術や便利な術があったとしてもそれを使いこなせなければその術に意味はない。だから、そのための戦術スタイルを確立させるんだ」
これが三つ目の課題、自分達の強化に繋がると清麿は考えている。
「ウヌ、分かったのだ‼では早速特訓に行くぞ清麿ッ‼」
「おう……ってアホかッ‼これから学校だ‼」
「おおっと、そうだったのだ」
自分の手を引いて今にも全力で駆け出して行きそうなガッシュを清麿は寸前のところで止める。
「まったく……それじゃあ俺は学校に行ってくるからな。念のために言っておくが、ついて来るんじゃないぞ」
「ヌ!?わ、私も学校に行ってはダメなのか!?」
「当たり前だッ!!お前、さてはまた学校について来るつもりだったな!?」
「良いではないか!!清麿が学校に行ってしまっては私は一人になってしまうではないかッ‼」
「ええい、やかましいッ!!学校は遊びに来るところじゃないっていつも言ってるだろ!!今日はウマゴンもいるんだから公園で遊んでろッ!!!」
それから少しの間、二人の言い争いは続き、やがては揉み合いになって騒ぎ出す二人の見慣れた光景がそこにあった。
―― 数分後 ――
「はぁ……はぁ……いい加減にしろ!!何度も言うが、学校には来るな…!!」
「はぁ…はぁ……い、嫌なのだ!!私も学校に行きたいのだ!!」
その時、ガッシュのマントからバルカン300が地面に落ち、またその中から小さな結晶のような石の欠片が飛び出していた。
「大体お前はいつもいつも俺の言うことを聞かずに……ん?おい、ガッシュ。その石は…」
「ウヌ?……おお、そうであった。清麿にはまだ見せてなかったのだ」
そう言うとガッシュはバルカン300とその石の欠片を拾い、自慢げにその石を清麿に見せ付ける。
「私の新しい宝物なのだ!!」
「いや、そういうことじゃなくて……お前、どこでこの石を見付けた?」
「どうしたのだ清麿?何をそんなに……ああ、さては清麿もこの石が欲しいのだな‼でもダメなのだ‼これは私の宝物…」
ガッシュの物言いに苛立つ清麿の額に青筋が一つ浮かび、その顔は一瞬にして鬼麿へと変貌する。
「良・い・か・ら・答えろッ!!!」
「ウ……ウヌ、わ、分かったのだ。た、確かあれはアースと戦った後…」
そして時は遡り、テッド達と共闘してアースを撃退した昨晩の事だった。
◇◇------------------◇◇
清麿達は体力の回復のために少しの間だけ河原で休んでいた。
AM 0:46
「テッド、今日は助けてくれて本当にありがとうなのだ!!」
「なぁに良いってことよ。大切な友達のためだ。このくらい朝飯前だぜ!!」
清麿は少し離れた河川敷に腰を掛け、ガッシュとテッドの様子を遠目から眺めていた。
「あいつら随分と仲良くなったな」
そこへテッドの本の持ち主であるジードが清麿に歩み寄って来た。
「あ……ジードさん、さっきは助かりました。ありがとうございます」
「気にすんな。上手い飯と宿の礼だ。それより体の方は大丈夫か?」
「はい、心の力を使いすぎただけなので、少し休めば大丈夫です。俺よりガッシュの方が……」
自分より身体的な疲労とダメージが大きいはずのガッシュへ視線を戻す。
「ガッシュ、
「ウヌ、こう……かの?」
「違う違う。もっとこう腕を真っ直ぐにして拳を前に突き出す感じで…」
「こ、こうかの?」
「そうそうッ!!その感じでステップを踏んで、全身でリズムを取ってだな……」
清麿の心配を他所にガッシュはテッドから近距離戦闘のレクチャーを受けており、とても激戦の後とは思えないほど元気だった。
「……そうでもなさそうだな」
「……ですね」
ジードと清麿は改めて魔物のタフさを実感した。
「ははっ、魔物の回復力はスゲェな」
「あはは……そうですね」
その時、冬の肌寒い風が二人の間を吹き抜ける。
「うぅ……流石に冷えてきたな。そろそろ帰るとするか。立てそうか?」
「はい、もう大丈夫です」
そう言って清麿は立ち上がるとガッシュとテッドに向けて呼び掛ける。
「おーい、お前らそろそろ帰るぞ~!!」
「ウヌ、分かったのだ!!」
その時、ガッシュの視界内で一瞬だけ何かが小さく光った。
「ヌ?あれは……」
確かめに行くと、そこには月明かりに照らせれて光る小さな結晶のような石の欠片が落ちていた。
「……とても綺麗な石なのだ…」
月に
「何やってんだガッシュ!!置いてくぞ~!!」
「ウ、ウヌ、いま行くのだ!!」
清麿の声に、ガッシュは慌ててその石をバルカン300の中に入れ、急いで清麿達の後を追い掛けたのだった。
◇◇------------------◇◇
「……と言う訳なのだ」
ガッシュが石の欠片を手に入れた経緯を話すと、清麿の顔もいつも通りになる。
「そうか。お前
「も?と言うことは清麿も拾ったのか?」
「ああ、実は……」
清麿はズボンのポケットからガッシュが持っていた石の欠片とよく似た石の欠片を取り出した。
「俺もあの戦いの後でこれを拾ったんだ。こんなただの石の欠片なんて普段は全然気にもしないはずなんだが、どうも気になってな。今日もこうして持ってきちまった」
「……清麿、私の欠片と清麿の欠片、もしかしたら二つで一つなのではないかの?」
「ああ、俺も同じことを考えていた。考えていたんだが……」
そこで言葉が詰まる。何故なら清麿はこの欠片同士を合わせるかどうかを躊躇っていたからだ。
「(あの戦いの後と言うことは恐らくこれはアースの持ち物。もしそうだとすれば、何かしらの手掛かりになる可能性は十分にある。)」
そう考えると試す価値はある。だが、そこで清麿はメリットとデメリットを天秤に掛けて悩んでいた。
「(ただ問題なのは何が起こるか分からないところだ。魔物絡みだと何が起きても不思議じゃないからな)」
突然大爆発が起こったり、超巨大なドラゴンが飛び出してきたりするのではないかと言う想像が清麿の脳裏に浮かぶ。そう考えると、どうしても躊躇ってしまう。
「清麿、そう考えてばかりいては何も前に進まぬのだ。それに今はどんなに小さな事でも手掛かりが欲しい。そうではないのか?」
「あ、ああ、それはそうなんだが……」
「ならば迷う必要など無いではないか‼例え何が起きようとも絶対に私が清麿を守ってみせる‼だから迷うなッ‼考える前に走ってしまえッ‼」
「……ッ‼」
それは以前、銀行強盗に巻き込まれた水野鈴芽を助けに行くことを躊躇っていた自分にガッシュが言った言葉だった。
「そうだな。お前の言う通りかもしれないな」
ガッシュに喝を入れられた清麿は覚悟を決める。
「じゃあ……行くぞ」
「ウ、ウヌ」
意を決してお互いの石の欠片を合わせると、二つの石の欠片が一つとなり、元の形となった。そして次の瞬間、石は突然輝き出して二人の足下には謎の黒い魔法陣が展開された。
「な、何だこれはッ!?」
「き、清麿ッ!!」
眩い光が周囲を覆う。やがて、光が消えた時には二人の姿はそこには無く、その場には清麿の鞄とガッシュのバルカン300だけが残されていた。
To Be Continued.
誤字・脱字・感想・ご指摘などがあれば宜しくお願い致します。