魔法少女リリカルなのは -天才少年と金色の魔物-   作:遥人

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説明回です。今回は少し長めな上、管理局に関する設定を独自に改変しています。予めご了承ください。



LEVEL3 - 邂逅、そして歯車は回り始める -

 

PM 8:24

 

時刻は午後八時を回り、早いところでは店仕舞いを終えている時間である。そして、路地で少し迷いながらも清麿とガッシュを連れたフェイトは喫茶翠屋にやって来た。

 

「さあ、ここだよ」

 

「え……?ここ?でも、もう店は閉まってるみたいだけど…」

 

見れば明かりは点いているが、店の扉には『Close』と書かれた札が掛けられている。

 

「大丈夫、話は通してあるから」

 

そう言ってフェイトは迷わず扉を開けた。すると、客がいない筈の店内の奥の方、そこには一つのテーブル席で自分達を待つなのは達がいた。

 

「あ……フェイトちゃーん、こっちだよ」

 

なのはに招かれるままにフェイト達はそのテーブル席まで足を運ぶ。六人掛けのそのテーブルで、はやてとなのはが一緒に座り、対面にアリサとすずかが座っている。

 

「随分遅かったわね。何してたのよ?」

 

「ごめん、ちょっと道に迷って…」

 

待ちくたびれた様子のアリサにフェイトは苦笑いを浮かべて軽く謝罪した。

 

「それで……えっと、そっちがフェイトちゃんが言ってた人達なんだよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

なのはが気を回してフェイトの後ろで控えている清麿とガッシュに視線を向ける。

 

「話はフェイトちゃんから聞いてるで。まあ立ち話もあれやし、とりあえず座ったらどうや?」

 

はやてがそう促すと、彼女達は間を詰めてそれぞれ一人分のスペースを作り、フェイトははやてとなのは側の席に腰を掛けた。

 

「じゃあお言葉に甘えて…」

 

そして、アリサとすずか側の席に着こうとして清麿は見覚えのある顔に気付いた。

 

「あれ?君はさっきの……?」

 

「ええ、さっきはどうも」

 

目を合わせようとせず、素っ気ない態度のアリサに清麿とガッシュは少し困惑する。

 

「アリサちゃん、そんな言い方は駄目だよ」

 

「う……わ、分かってるわよ…」

 

すずかに注意されてアリサはその場で立ち上がり、彼らに向き直って言った。

 

「あ、あの……さっきはその……た、助けてくれてありがとう…」

 

「あ、ああ、怪我が無いならそれで良いよ」

 

「どういたしましてなのだ‼」

 

紡ぎ出したお礼の言葉を清麿とガッシュは快く受け取ると、アリサも満足して着席する。

 

「はい、良くできました」

 

「ふ、ふん、このぐらい楽勝よ……って子供扱いするんじゃないわよ‼」

 

仲睦まじい二人の様子を眺めつつ、改めて清麿は腰を掛ける。それにより席がいっぱいになったので清麿はガッシュを自分の膝の上に乗せる。

 

「ほな、まずはお互いに自己紹介からやな。私は八神はやて。はやてでええよ」

 

「私は高町なのは。私もなのはで良いよ」

 

「フェイト・(テスタロッサ)・ハラオウンです。さっきは助けてくれてありがとう。私も名前で良いから」

 

はやてから順々に進めていき、折り返し地点であるフェイトがアリサに目で合図する。

 

「アリサ・バニングスよ。まあ……とりあえずよろしく」

 

「月村すずかです、よろしくね。あ、私達のことも名前で良いからね」

 

彼女達の柔らかい物腰のお陰で清麿の緊張もほぐれ、落ち着いて話すことができる。

 

「俺は清麿。高嶺清麿だ」

 

「私はガッシュ・ベルなのだ‼」

 

互いに軽く自己紹介を終えると、清麿は最初に疑問に思ったことを訊ねた。

 

「なあ……もう閉店時間みたいだけど、ここを使わせて貰ってて良いのか?」

 

「ああ、それなら気にしなくて良いよ。ここは私のお父さんが経営してるお店だから」

 

「これなら他の人に話を聞かれる心配も無いし、ゆっくり話もできてええやろ?」

 

「なるほど、そう言うことか」

 

清麿の疑問の一つの解消すると、はやては遂に本題へと移ろうとする。

 

「さて、挨拶はこのぐらいにして早速やけど話を聞かせてもらおか?」

 

「あ……ちょっと待ってくれないか」

 

だが、清麿からそれを制止する声が掛かった。

 

「何や?トイレか?」

 

「いや、そうじゃなくて………俺達のことを話すのは別に構わないんだが、その前に先にそっちの事情を聞かせてほしいんだ」

 

「一応、理由を聞いてもええか?」

 

はやてのその問いに清麿は静かに頷く。

 

「はっきり言って俺達は今の状況をまるで呑み込めていない。でも……そっちは違うんじゃないか?」

 

「……何でそう思うんや?」

 

「理由は二つ。一つは、はやて達が落ち着いている……いや、落ち着き過ぎいることだ。普通なら俺達の力を知れば、動揺や混乱してこんな非現実的な話なんてとても信じられるものじゃない」

 

「でも、私は実際にそれを見たわけだし……」

 

「そうよ、私とすずかもこの目で見たんだから疑う余地なんて無いわよ」

 

清麿の主張にフェイトとアリサが異議を唱える。

 

「じゃあ聞くが、例えば友達がUFOを見たって言って来たら信じるか?」

 

その問いに二人は答えが分かっていながら口にすることができなかった。

 

「まあ……まず信じないよね。ただの冗談だって思うのが普通だもん」

 

代わりになのはが一般的な答えを述べる。

 

「そう……俺達の力はあまりに現実離れし過ぎている。なのに、はやてとなのはは何の疑いもなく信じた。それは君達が普段からこう言ったことに慣れているからなんじゃないのか?」

 

「ははぁ……凄いな、清麿くん。この短い時間でそこまで分かってまうなんて」

 

「否定しないんだな」

 

「そこまで確信を持って言われたら下手に誤魔化しても逆効果になるだけや。別に隠すつもりもないし、それに他にも根拠があって言ってるんやろ?」

 

「まあな……と言ってもその言葉を聞くまでは半信半疑だったんだけどな」

 

意外にもはやては素直に認め、清麿も素直に肯定する。だが、実はこの時、二人の間では密かに腹の探り合いが行われており、互いに相手の力量を測っていた。

 

「ほな、二つ目の理由を聞かせてもらおか」

 

「ああ、それについてなんだが………フェイト、君は何故あの時間、あの場所にいた?」

 

「え……?何故ってそれは…」

 

「あんな人通りもなければ何も無いただの路地裏に女の子が一人で来る理由なんて無い筈だ。最初は近道をしようとしていたって可能性もあったが、その割には君はあの路地に対して疎過ぎた」

 

清麿はフェイトの不可解な行動の意味を追求する。

 

「つまり、一つ目の理由(さっきの話)と今の状況を踏まえて考えると、君は何らかの方法であの場所に俺達がいたことを察知した。だから君はあの場所にいた。違うか?」

 

「……………………」

 

無言を肯定と受け取り、清麿は言葉を続ける。

 

「でも……普通の人間にそんなことができるわけがない。だから俺は、君らにも何か特別な力があると思ったんだ」

 

これまでの出来事を整理して分析を行い、状況から可能性を推測し、この答えを導き出した清麿は彼女達の反応を待つ。

 

「なるほどな……そこまで分かってるなら先に私らのことを話した方が余計な混乱も無いやろうし、理解も早そうやな。うん、ええよ」

 

探り合いの末、清麿の頭の回転の早さや切れの良さを直感したはやては先程の彼の要望を受け入れる。

 

「(……随分と肝の据わった女の子だなぁ…)」

 

それと同時に清麿も彼女の洞察力や状況判断力に優れていることを感じ取った。そして、清麿の要望に応えたはやては自分達のことを話し始める。

 

「私達は数多に存在する次元世界の管理と維持を行う管理局の魔導師や」

 

「平たく言えば世界の平和を守る魔法使い……って感じかな」

 

はやてとなのはの突拍子も無い発言に清麿の目が点になる。

 

「……は?ま、魔法使い?それっておとぎ話とかに出てくるようなやつか…?」

 

「あはは、そこまでメルヘンチックなもんやないで。なのはちゃん、ちょう見せたったらどうや?」

 

「うん、良いよ」

 

二つ返事で了承したなのはは掌を出して小さな魔力弾を形成する。

 

「こんな感じで自分の魔力を形にしたり、空を飛んだり、高速で移動したりできるのが私達の魔法だよ」

 

「おお、とても綺麗なのだ‼」

 

「まさか魔法なんて物が実在するとは……いや、俺達も人のこと言えないけどさ…」

 

純粋に目を輝かせるガッシュと驚きの表情を見せる清麿の反応になのは達は小さな笑みを浮かべる。

 

「それじゃあここにいるみんなはその魔導師ってやつなのか?」

 

「あ……ううん、そう言うわけじゃないの」

 

「私とすずかはただの真人間よ。そもそも魔法を使える人間なんてこの世界でも極一部、数える程度の人間だけ。一般的には魔法なんて知られてないのが普通なのよ」

 

清麿が勘違いをする前にすずかがそれを否定し、アリサが間違いを訂正する。

 

「まあそんな訳で……今回は突然この街に現れた謎の魔力反応があって、それを調べてみたところ…」

 

そこではやては視線を清麿に向ける。

 

「俺達だった……ってことか」

 

「そう言うことや」

 

清麿の中で今、先程の自分の仮説が証明された。さらに彼女達の話の中に矛盾点が無いことから、ここまでの辻褄が合っていることにも納得する。

 

「それじゃあ今度は清麿達の話を聞かせてもらっても良いかな?」

 

そして、自分達の話が一段落したところでフェイトが話を切り出した。

 

「ああ、分かった。ただ……こっちもかなり突拍子も無い上に信じられないような話なんだが…」

 

「にゃはは、私達もそれなりのことには慣れてるから心配しなくもそうそう驚いたりはしないよ」

 

なのはに促され、清麿は意を決して話し始める。

 

「まず……ガッシュは普通の子供じゃない。魔界からやって来た魔物の子なんだ」

 

「何や、勿体振ってどんな事を言い出すかと思えばただの魔物かいな……魔物?」

 

そこから彼女達の理解が追い付くまで約10秒。

 

『は……はぁああああああああああああッ!?』

 

喫茶翠屋に彼女達の叫びが木霊(こだま)する。

 

「ちょ、ちょう待ち‼ま、魔物ってそれこそおとぎ話に出てくるあの魔物かいな!?」

 

「こ、こんな小さな子供が…!?」

 

「それに魔界って……ッ!?」

 

「お……驚くのは無理もないが、とりあえず落ち着いてくれ。ちゃんと説明するから」

 

驚愕のあまり興奮状態になる彼女達を宥め、清麿は改めて話し始める。

 

「さっきも言ったようにガッシュは魔界からやって来た魔物だ。そして、ガッシュの他にも百人の魔物がこの人間界に送られている」

 

「な、何でそんなことを……?」

 

「魔界では千年に一度、王を決める戦いが人間界で行われるんだ。選ばれた百人の魔物は人間界に送られ、人間のパートナーと共に最後の一人になるまで戦い続ける」

 

「どうして人間のパートナーが必要なの?」

 

「ああ、その理由はこれだ」

 

そう言って清麿はテーブルの上に赤い魔本を置く。

 

「魔物は人間界では自由にその力を使うことができない。この本を読める人間が呪文を唱えることで初めて魔物は力が使えるようになる」

 

「読ませてもらってもええか?」

 

「良いけど、たぶん読めないと思うぞ?」

 

「……?どういう事や?」

 

「まあ見てくれれば分かるよ」

 

清麿の言葉にはやては頭の上に疑問符を浮かべつつ本を開き、それを除き込む形でなのは達も本の中身に注目する。

 

「何やこれは……?」

 

「見たことない文字だね…」

 

本に書かれた文字を見た彼女達は先程の清麿の言葉の意味を理解する。

 

「清麿はこの本を読めるの?」

 

「ああ、魔物のパートナーとなる人間だけがその本を読むことができるんだ」

 

「何ともまあ不思議な話やなぁ…」

 

そう言ってはやては本を閉じてテーブルの上に戻す。

 

「魔物同士の戦いのルールは至って簡単。戦って相手の本を燃やすこと。それだけだ」

 

「それだけって……本を燃やしたらどうなるのよ?」

 

「その魔物は魔界の王を決める戦いから脱落し、すぐに魔界へ強制送還される」

 

「凄くシビアだね…」

 

アリサの疑問に答えた清麿に対してすずかが感想を口にする。

 

「別にそんなに悪いことばかりじゃないぞ?確かに中には悪い魔物もいるけど、心の優しい魔物も大勢いるし、頼れる仲間もできた」

 

「ウヌ、ここまで私が生き残れたのもみんなのお陰なのだ」

 

仲間達との出逢いと別れ、乗り越えてきた修羅場の数々、そしてライバル達の存在が今の自分達を形作っていると清麿とガッシュは自負している。

 

「何か良いね、そういう信じ合える人がいるのって」

 

「うん、何となくだけど分かる気がするよ」

 

なのはとフェイトだけでなく、ここにいる彼女達全員が清麿達のそれに共感する。

 

「まあ俺達のことについては大体こんな感じだ。それでこの街に来た経緯についてなんだが…」

 

そして、今回の一件の根幹となる部分と、これまでの経緯を清麿は余すことなく全て話した。

 

「……という訳なんだ」

 

「不思議な石と足下に現れた黒い魔法陣……か」

 

「うーん……それだけの情報やとまだ何とも言えやんけど、たぶん転移系の魔法の一種やと思うわ」

 

清麿から得た情報を元になのはが手掛りとなりそうなキーワードを復唱し、はやてはそこからおおよその見当をつける。

 

「清麿、他に何か気付いたことはない?どんな小さなことでも良いから」

 

「……すまない。何せ突然のことだったし、目が覚めた時にはもうさっきの路地裏にいたからこれ以上のことはちょっと…」

 

フェイトの問いに清麿は申し訳無さそうに首を二回ほど横に振ってそう答える。

 

「ガッシュくんはどう?」

 

「ウヌゥ……私もよく覚えておらぬのだ…」

 

「そっか、じゃあ仕方ないね」

 

なのはがフェイトと同様の質問をガッシュにするも、有力な情報は得られなかった。

 

「ところで、その原因の石はどうしたのよ?それがあれば何かの手掛かりになるんじゃないの?」

 

そこでアリサが尤もな指摘をすると、清麿の表情が少し曇った。

 

「それが……無くしたみたいなんだ。もしかしたらあの路地裏にあるかもって思ったんだけど、色々あって探せなかったんだ…」

 

「あ……もしかしてこの石だったりする?」

 

そう言ってフェイトがポケットから取り出したのは小さな結晶のような石だった。

 

「そ、それだよそれ‼どこで見付けたんだ!?」

 

「さっきの路地裏で拾ったんだ。でも……あんなことがあったからついポケットに入れてそのまま持って来ちゃったみたい。ごめんね」

 

「いや、助かったよ。ありがとう」

 

唯一にして最大の手掛りである石の無事に清麿は心の底から安堵する。

 

「ただ、私の方で一応調べてみたけど、この石には魔力どころか何の力も無かったよ」

 

「え……い、いや、そんな筈はないッ‼俺達は確かにその石で…‼」

 

「大丈夫、別に清麿の話が嘘だとは思ってないから安心して。私が言いたいのはこの石は何の変哲もないただの石(・ ・ ・ ・)だってことだから」

 

焦る清麿の言葉を遮ってフェイトはさらに口を開く。

 

「そうなると考えられる理由は一つ。この石は蓄えたエネルギーを使って力を発揮するタイプの物で、言うなれば今は車で言うガス欠状態なんだと思う」

 

「せやね……詳しい分析とかは専門の機関に頼まんと分からんけど、そう考えるのが妥当ちゃうか?」

 

フェイトの仮説に、はやても同意の意思を示す。

 

「清麿くんさえ良ければ私達の方で詳しく調べてみるけど……どうかな?」

 

すると、なのはがこの謎に包まれた石の分析を買って出る。

 

「……そうだな。それじゃあよろしく頼む」

 

「うん、任せて」

 

その申し出を清麿は有り難く受け、なのはは笑顔で力強くそう答えた。

 

「さて……もう夜も遅いんだし、話の続きはまたにしたらどう?」

 

アリサが自身の腕時計で時刻を確認して言うと、全員が店の時計に視線を向ける。すると、既に時刻は九時を回ろうとしていた。

 

「そうだね、清麿達も必要なら私達の方で帰りの手配をするよ?」

 

「えっと……何から何まで世話になって悪いな…」

 

「気にしないで、これも仕事の内だから。それで場所は地球の日本……で良いのかな?」

 

「ああ、日本のモチノキ町っていう町だ」

 

「了解、すぐに手配するね」

 

そう言うとフェイトは黒を基調としたスマートフォンを片手に席を立つ。

 

「この時間なら母さんに連絡した方が早いかな…」

 

そして、電話帳から自宅の番号をタップし、電話をかけながら少し離れた場所に移動する。

 

「あら、お話はもう終わったの?」

 

すると、フェイトが席を離れるのと入れ替わるように店の奥から一人の女性が姿を見せる。

 

「うん、今日のところは一応ね。お母さんの方は後片付けは終わったの?」

 

「ええ、士郎さんが後は任せろって」

 

「そうなんだ」

 

そこでなのはは女性の紹介の場を設ける。

 

「あ、二人にも紹介するね。この人はこの喫茶翠屋のパティシエでもあり、私のお母さんの…」

 

「どうもはじめまして、高町桃子です」

 

「高嶺清麿です」

 

「ガッシュ・ベルなのだ‼」

 

「あらあら、元気が良いわね。これからもなのは達と仲良くしてあげてね」

 

「はい」

 

「もちろんなのだ‼」

 

そして、ガッシュの頭を撫でようと手を伸ばそうとして桃子は自分の手がやや大きめの箱で塞がっていることを思い出す。

 

「あ、そうだわ。はやてちゃん、頼まれた物の用意ができたわよ」

 

「ほんまですか?ありがとうございます」

 

桃子からその箱をはやては上機嫌で受け取った。

 

「何を頼んでたの?」

 

「え……?ああ、何ってそんなん決まってるやん」

 

そう言ってはやてはテーブルの中央に箱を置き、蓋を開けて中を見せる。すると、そこには六種類のケーキが一つずつ詰められていた。

 

「ほな……なのはちゃん、後は頼んだで」

 

「ふぇ……ッ!?もしかしてこのケーキのお金って私が払うの!?」

 

「だって約束したやんか。ケーキ奢ってくれるって」

 

「こんなにたくさんなんて言ってないよ!?」

 

「でも、一つだけとも言うてへんで?それに何でも好きなケーキ奢ってくれるって言うたやん」

 

「そ、そんなぁ……」

 

見事にはやての目論見に嵌まったなのはは項垂れる。

 

「(……策士だ)」

 

その光景を清麿はただ憐れむように眺めていた。

 

「うぅ……はやてちゃん、絶対に最初からこうなること狙ってたでしょ…」

 

「さあ?それはどうやろねぇ」

 

「はぁ……もういいよ…」

 

あくまでしらを切り通すはやてに対し、なのはは溜め息を吐いて代金を支払った。すると、諸々の手配を終えたフェイトが戻ってくる。

 

「ただいま……って、どうかしたの?」

 

なのはの項垂れている様子を見てフェイトが訊ねる。

 

「あ、あはは………まあちょっとな。とりあえず今はそっとしておいてやってくれ」

 

「そう?あ……あと二十分くらいで迎えが来るからそれまでここで待ってて欲しいって」

 

「そうか。ありがとう、助かるよ」

 

「どういたしまして」

 

清麿とフェイトがそんな会話をしていると、彼女のスマートフォンに着信が入る。

 

「あれ……?母さんからだ」

 

電話を終えてからまだ数分と経っていない状況での折り返しの電話に疑問を抱きつつ、フェイトは電話に出る。

 

「もしもし、母さん?どうかしたの?」

 

そして、電話の向こうから告げられたはりつめる知らせにフェイトは思わず自分の耳を疑った。

 

「え……それ、本当なの?何かの間違いなんじゃ…」

 

その会話の雰囲気を察したのか、先程まで和やかな空気から一変して店内には不穏な空気が漂い始める。

 

「うん……うん……分かった。また何か分かったら連絡して」

 

結局、最後までフェイトの表情は晴れることもなく険しい表情のまま彼女は電話を切った。

 

「………清麿、それにガッシュ、二人とも落ち着いて聞いてね」

 

そんな前置きをするほどに事態は深刻なのだと清麿とガッシュ以外の全員も心の準備をする。

 

「清麿達の言うモチノキ町はこの日本……ううん、この地球上のどこにも存在しないことが分かったんだ」

 

「な……ッ!?」

 

「ど、どういうことなのだフェイト殿!?」

 

告げられた事実に清麿は言葉を失い、ガッシュは激しく取り乱す。

 

「うん……母さんが言うにはモチノキ町って名前の町はこの世界だけじゃなく管理局のデータベースにも無かったって…」

 

「え……?管理局にも無かったの?」

 

「それっておかしくない?管理局って全ての世界を管理してるんじゃないの?」

 

すずかとアリサの二人は揃って首を小さく傾げて疑問を口にする。

 

「それは違うよ、アリサ。管理局が把握している世界にも限界はあるし、それこそ世界は無限にある。それを全て管理するなんてことはできないんだよ」

 

「じゃあ清麿くん達の世界はその無限に広がる世界の一つってことなの?」

 

すずかがそう訊ねるとフェイトは首を横に振った。

 

「それもおかしな話なんだ。確かに世界は無限にあるけど、同じ世界は原則として存在しない」

 

「……ああもうッ‼何かややこしいわねぇ‼つまりはどういうことなのよ!?」

 

アリサが考えることを放棄したその時、今まで口を閉ざしていた清麿が一言だけ呟いた。

 

「……平行世界……」

 

その一言にフェイトを除く全員がはっと息を飲む。

 

「そう……次元世界とは異なる概念を持つ世界。それが平行世界。そして、その存在は管理局でもまだ把握できてはいない」

 

「た……確かに平行世界なんて管理局でも聞いたこと無いけど、そんなことってあり得るのかな…?」

 

いかに魔法に精通しているなのは達と言えど、今回の事例は初めてな上に話が飛躍し過ぎているので戸惑いを隠せないでいた。

 

「……分からない。今、母さんが詳しく調べてくれてるけど、たぶん望みは薄いと思う…」

 

その事実が当事者である清麿とガッシュに重くのし掛かり、店内も重い空気に包まれる。すると、なのはの桜色のスマートフォンに着信が入ってきた。

 

「え?ユーノくん?」

 

ディスプレイに表示される名前に驚きつつも、なのはは電話に出る。

 

「もしもし、ユーノくん?ごめんね、今ちょっと立て込んでるからまた後で…」

 

一言だけ断りを入れてから電話を切ろうとしたなのはだが、ユーノから用件を聞かされるとそうはいかなくなった。

 

「え……う、うん、分かった。それじゃあスピーカーにするね」

 

なのはは通話をスピーカーにしてこの場にいる全員にユーノの声が聞こえるようにする。

 

『みんな、久しぶり。ちゃんと聞こえてるかな?』

 

「聞こえてるよ、ユーノ。もしかして今回の件に何か関係あること?」

 

『うん、さっきリンディさんから連絡を貰ってすぐに調べてたんだけど、やっぱり平行世界に関する記述は多くなくてね』

 

「そうだよね……ん?ちょっと待って。多くないってことは無いわけじゃないの?」

 

危うく右から左へと聞き流すところでなのはが違和感に気付き、ユーノにそう訊ねた。

 

『まあね。ただかなり古い物ばかりな上に全て暗号化されてるから誰も手をつけないんだ』

 

電話の向こうでユーノは苦笑いを浮かべる。

 

『これから幾つかある文献を修復して暗号を解析するとなると時間は掛かるけど、何かしらの手掛かりは掴めると思うよ』

 

「ほ、本当なの?ユーノくん」

 

『うん、それからその彼らが持ってた石の解析もクロノに頼んでおいたからこっちに送ってほしいんだ』

 

「わ、分かった。じゃあ後で送るね」

 

まさかの急展開。絶望から一転して希望の光が射してきたこの状況に全員が唖然としていた。

 

『えっと……清麿、それにガッシュ。自己紹介が遅れたけど、僕はユーノ・スクライア。大体のことはリンディさんから聞いてるよ』

 

「あ、ああ……よろしくな、ユーノ」

 

『よろしく。それで物は相談なんだけどさ、君達の時間が取れた時で良いから一度僕のところに来てくれないかな?直接会って話してみたいし、何より魔物って存在に興味があるんだ』

 

「分かった。落ち着いたら行かせてもらうよ」

 

『うん、楽しみにしてるよ。あ……ごめん、そろそろ仕事に戻らないと。また何か分かったら連絡するね』

 

ユーノのその言葉を最後に電話が切れる。

 

「ふぅ……とりあえずしばらく様子見ってことよね」

 

「でも、意外に何とかなりそうだし、良かったんじゃないかな」

 

アリサは背もたれに体を預けて脱力し、すずかは安堵の声を零す。

 

「いやぁ……それにしてもさっき連絡したばっかりやのにリンディさんの手回しの早さが尋常じゃないな。ユーノくんの仕事の早さも驚きやけど」

 

「にゃはは、そうだね」

 

解決の目処がつくと先程の重苦しい空気は失せ、和やかな空気が戻ってくる。

 

「それで……?これからどうするのよ?」

 

「え?どうするって何を?」

 

アリサの言葉の意図が分からなかったフェイトが訊ね返す。

 

「あのねぇ……帰る手段が無い以上、今の清麿達は行く宛なんて無いんだからそれをどうするのかって聞いてるのよ」

 

「あ、そっか。じゃあしばらくの間は誰かの家に泊めてあげたら良いんじゃないかな?」

 

「それなら私の家はどう?部屋も余ってるし、母さんがいるから情報も集めやすいと思うし」

 

なのはの提案にすぐさまフェイトが名乗りを挙げる。

 

「良いのか?今日が初対面、それも会ってまだ数時間しか経ってない相手にそんなことして…」

 

「良いも何も清麿達だって見ず知らず私とアリサを助けてくれたでしょ?それと同じだよ。それに助けてくれたお礼もまだだったしね」

 

そこまで言われてしまうと、流石の清麿も返す言葉も無かった。

 

「決まりやな。ほな、改めて今日のところはお開きにしよか」

 

そして、全員が席を立つのを確認してはやては本日の締めの挨拶をする。

 

「今日はみんなお疲れさん。続きはまた明日、フェイトちゃんの家に朝十時に集合やで」

 

その解散の合図を最後に全員がそれぞれの帰路に就いて行った。

 

 

 

To Be Continued.

 

 





執筆していたらいつもの倍くらいの量になったので切りが良いところで半分に分けることにしました。

誤字・脱字・感想・ご指摘などがあれば宜しくお願い致します。
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