新年、明けましておめでとうございます‼
前回の説明回に続き、今回は語らい描写が多いため長くなりました。次回からはようやくストーリーを進めて行けると思うので、もう少しお付き合い頂けると有り難いです。
PM 9:51
長い一日を終え、フェイトは清麿とガッシュの二人を連れて帰宅する。
「ただいまぁ」
その声を聞き付け、一匹の子犬が元気よく駆け出して来ると勢い良くフェイトの胸に飛び込んだ。
「おっかえり~フェイト‼」
「ただいま、アルフ。遅くなってごめんね」
アルフと呼ばれた子犬を抱き締めながら優しく頭を撫でるフェイト。すると、すぐに奥から一人の女性が出迎えてくれた。
「お帰りなさい、フェイト。清麿くんとガッシュくんもいらっしゃい」
「お、お邪魔します…」
「ウヌ、お邪魔するのだ‼」
ガッシュと違って少し緊張気味の清麿にリンディは優しく声を掛ける。
「そんなに緊張しなくても良いのよ?ここにいる間は自分の家だと思ってゆっくりしてね」
「あ、あはは……ありがとうございます」
自分の心情を一瞬で見抜かれ、清麿は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「改めて挨拶させてもらうわね。フェイトの母親兼時空管理局総務統括官のリンディ・ハラオウンです。今日は色々と大変で疲れたでしょ?」
「いえ、こう言うことには慣れてるんで……」
その時、誰かの腹の虫が空腹を訴えた。
「……す、すまぬのだ。しかし、私はもうお腹がペコペコなのだ…」
自分のお腹に手を置いてガッシュがそう言うと、また腹の虫が空腹を訴える。
「あら、ごめんなさいね。すぐに夕食にするから少し待っててね」
「手伝うよ、母さん」
リンディの後に続くようにアルフを降ろしてフェイトもキッチンへ向かう。
「あ、俺も何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫だよ。すぐに準備できるから清麿達は適当に寛いでて。アルフ、二人をリビングに案内してね」
「はーい」
清麿達をアルフに任せてフェイトはリンディと一緒にキッチンへと消えていった。そして、言われた通りにリビングのソファで休んでいると、本当に僅か十分足らずの時間で夕食の準備が整った。
「それじゃあ頂きましょうか」
リンディとフェイトの向かい側に清麿とガッシュは着席し、それを確認したリンディが音頭を取って全員が手を合わせる。
『いただきまーす』
「いっただきまーす♪」
四人は綺麗に声を揃えて食べ始め、アルフもワンテンポ遅れてからすぐ傍でドッグフードを食べ始める。
「そう言えば、見たところ清麿くんは中学生みたいだけど、年はいくつなの?」
学生服姿の清麿を見てリンディが訊ねる。
「十四です。と言っても元の世界では後二ヶ月くらいで中学三年生になりますけど」
「あ、じゃあ私と同い年だね」
「へぇ……てことは他のみんなもそうなのか?」
「うん、みんなこの春に進級して今は三年なんだ」
フェイトはリビングの一角に視線を向けると、清麿もそれを追うように視線を向ける。二人の視線の先には桜の写真が大きく印刷されたカレンダーがあり、そこには四月と書かれていた。
「もうかれこれ五、六年の付き合いよね。しかもクラスもずっと一緒なの」
「うわ、凄いなそれ」
あまりの確率の低さ、奇跡と言っても過言ではない確率であるリンディの発言に清麿は目を見開いて驚きを見せる。
「……騙されちゃ駄目だよ、清麿。最初の頃は母さんが仕組んでたことなんだから」
「……は?」
フェイトの言葉に清麿は思わず間の抜けた声を出す。
「だってぇ……人と接することが苦手だったフェイトが初めての学校でちゃんとやれるかどうか心配だったんだもの」
「はぁ……はやての復学手続きの時にもグレアム提督に根回ししてたでしょ」
「別に良いじゃない。他の誰にも不都合は無いんだし、途中からは本当に何もしてないのよ?」
「そう言う問題じゃありません」
子供のように開き直るリンディと、母親のように叱るフェイト。まるで親子の立場が反転しているような会話のやり取りを見て清麿は思った。
「( 学校のクラス分けに口を出せるって一体何者なんだこの人は…?)」
そんな感じで楽しい夕食の時間は過ぎていった。
◇◇------------------◇◇
AM 1:48
街の明かりが次々と消え、やがて街も人も眠りに就こうとする時刻。
「…………………………」
清麿はそんな時刻になっても一人眠れず、ベランダに出て夜風に吹かれていた。
「……こっちの世界はもう四月なんだな…」
春先とは言え、まだ僅かに肌寒い季節の風に清麿は少し震える。それでも今はこの夜風に当たっていたい気分だった。
「清麿」
不意に声を掛けられて清麿は振り返る。すると、そこには寝巻き姿のフェイトが両手に一つずつマグカップを持ってその場に立っていた。
「何だ、まだ起きてたのか?」
「うん……まあね。隣、良いかな?」
「それは良いけど、外はちょっと冷えるぞ?」
「平気。そのために持って来たんだもん」
そう言うとフェイトはベランダに出て清麿の隣に並ぶように立ち、マグカップを一つ彼に差し出す。
「はい、清麿。ホットココアだけど良い?」
「ありがとう、貰うよ」
ココアの香りを漂わせたそのマグカップを清麿は有り難く受け取り、一口だけ飲んで一息ついた。
「眠れないの?」
「ああ……こっちの世界に来た時、俺達の世界はまだ朝だったからな。ちょっとした時差ボケみたいなもんだよ」
「ガッシュはよく寝てるけどね」
「あいつはそう言うの鈍いからな」
そこで会話が途切れ、静寂が訪れるも、フェイトによってそれはすぐに破られた。
「……やっぱり不安?」
「うーん………いや、そうでもないかな。確かに不安じゃないって言ったら嘘になるけど、不思議と今は落ち着いてるよ」
「そうなんだ。じゃあ何か考え事?」
「まあそんなところだ」
清麿はまた一口だけココアを飲んで言葉を続ける。
「俺達がこの世界に迷い込んだことで王を決める戦いはどうなるのかなって思ってさ」
気持ちを落ち着かせて清麿はさらに心中を吐露する。
「俺達がいなくなっても王を決める戦いは続く。最悪の場合……ガッシュが魔王候補から外されるかもしれない。そう考えると眠れなくてさ」
「それは……」
フェイトは掛ける言葉が見付からず言葉に詰まると、代わりに率直な疑問を口にした。
「ねぇ……清麿達にとってその魔界の王を決める戦いはそんなに大切なことなの?」
「え……?」
あまりにも意外過ぎるフェイトの問いに清麿は思わず聞き返してしまう。
「私は魔界の王を決める戦いについては何も知らないけど、話を聞く限りきっと凄く過酷なんだと思う。そんな辛い戦いを続けてまで王様になる必要ってあるの?」
フェイトが先の問いの真意を話すと清麿は目を僅かに伏せて語り始める。
「……もう半年くらい前になるのかな。俺達はコルルという一人の魔物に出逢った。その子は戦いなんて好まない本当に心の優しい女の子で、本の持ち主だった人もコルルを妹のように可愛がってさ……まるで本当の姉妹のようだったんだ…」
「
「ああ、魔界に帰った。それも……俺がコルルの本を燃やしたんだ」
「え………で、でも、コルルは戦いが嫌いだったんでしょ?だったらどうして清麿達と戦うことになったの…?」
短い時間ではあるが、これまでの清麿の人となりを見てきたフェイトは彼の性格を多少なりとも理解していた。故に、清麿は戦いを望まない相手に攻撃を仕掛けるような人間だとは思えなかった。
「俺もできれば戦いたくはなかった。でも、コルルのような戦いを好まない魔物には本人の意志とは関係無く別の人格を植え付けられるようになっているんだ」
「別の人格って…………まさかッ‼」
「そう……好戦的で極めて危険な人格を無理やり植え付けて戦わせる。それがコルルの本の力だった」
「…………ッ‼」
その非人道的な行いにフェイトは声にならない驚きを見せる。
「ある日、車に轢かれそうになったコルルを守るために本の持ち主は咄嗟に呪文を唱えてしまい、呪文の力によって凶暴化したコルルは我を忘れて暴れまわった」
当時の惨状はまるで地獄絵図そのもの。その光景は清麿の記憶にしっかりと残っていた。
「街や人を無差別に攻撃するその力はコルルの意志ではどうにもできない。ガッシュとコルルの本の持ち主が体を張って止めたからその時は何とかなったが、今後も止められるとは限らない」
「だから……清麿はコルルの本を燃やしたんだね」
「ああ、コルルは正気に戻ると俺達に自分の本を燃やしてほしいって頼んできた。本心ではここに残りたい筈なのに、一度でも呪文を唱えてしまえば周りを傷付けてしまうことがコルルには堪えられなかったんだ」
マグカップを持つ清麿のその手には悔しさから僅かに力が入るも、すぐに脱力して言葉を続ける。
「そして、コルルが魔界に帰る前に言ったんだ。魔界に優しい王様がいてくれたら、こんな辛い戦いはしなくて良かったのかなって……そう言ったんだ」
「優しい……王様」
フェイトは実際に口にすることでその言葉の重味を噛み締める。
「それからだな……ガッシュが優しい王様を目指すようになったのは」
「うん、凄く素敵な夢だと思うよ」
「あはは、ありがと……とまあここまでがガッシュが王を目指す理由だ」
そこでフェイトは今の清麿の一言に疑問を持った。
「じゃあ清麿は違うの?」
「まあな。勿論、コルルのこともあるけど、俺自身があいつを王にしたい理由は別にある」
「へぇ……どんな理由なの?」
「……………………」
すると、清麿はいきなり無言になり、フェイトの目には心なしか彼の表情が曇っているように見えた。
「あ……も、もしかして聞いちゃ駄目な事だった?それなら無理に話さなくても…」
フェイトは今更ながら不躾な質問をしたと慌てる。
「いや、そうじゃないんだ。ただこれはまだ誰にも話したことがないから不安……というかちょっと緊張してるだけだ…」
「そ、そう……?無理してない?」
「ここまで来たんだ。中途半端にしてうやむやにするより最後まで話してスッキリさせたい」
そう言うと清麿は意を決して自身の過去を語り出す。
「実は俺さ、中学に入った頃からガッシュに出会うまで不登校だったんだ」
「えッ!?清麿が……!?」
「おいおい……確かに驚かれるとは思ったが、そんなに意外だったか?」
「うん……何と言うかその…今の清麿からは想像できないなって思って…」
不登校と聞くと、大抵の人間が抱くイメージとしては良くないものが多い。そんな単語が清麿の口から出たことにフェイトは驚きを隠せなかった。
「そうか……じゃあやっぱり俺は変わったんだな」
その反応を見て清麿は改めて自身の変化を自覚し、そう小さく呟くと気を取り直して話を戻す。
「その頃の俺は誰にも心を開くことができずに周りを見下してた。毎日が退屈で、自分が生まれた意味や生きる意味って何なんだろうな……とか考えてた」
「………………………」
生まれた意味と生きる意味。それはフェイトが
「そんな時、俺の前にガッシュが現れた。最初は全く相手にしてなかったのに気が付けばあいつはいつも俺の傍にいた。そして、一緒に過ごして行く内にあいつは氷のように冷たい俺の心に火を点けてくれたんだ」
「( 何となくだけど……似てる )」
聞けば聞くほどフェイトは思う。なのはと出会う前の自分と似ていることを。
「大切な友達や仲間、人と触れ合う温もり………俺はあいつから色んなものを貰った。掛け替えの無い時間を貰った。だから俺は……そんなあいつに恩返しがしたいんだ」
「それが……清麿がガッシュを王様にしたい理由なんだね」
「変……だったかな?」
「ううん、そんなこと無いよ。凄く立派だし、素敵な理由だよ」
「そ、そうか。なら良いんだ」
全てを語り終えると清麿は肩の力を抜いて残っているココアを一気に飲み干した。
「ごめんね、立ち入ったこと聞いて」
「気にするな。俺の方こそ話したら思いのほか気持ちがスッキリしたよ」
「うん……ありがと、清麿。私も二人が一日でも早く元の世界に帰れるように全力で協力する。だから一緒に頑張ろ」
「ああ、頼りにしてるよ」
フェイトの励ましの言葉で幾分か元気が出た清麿の表情は和らいでいた。
「あ……一応、念のために言っておくが、今の話はガッシュには内緒だぞ」
「どうして?話してあげれば良いのに。ガッシュならきっと喜ぶよ?」
「いいや、絶対に駄目だ。そんなことしたらあいつは調子に乗るに決まってる」
顔を少し赤らめて清麿はそっぽを向く。その彼の仕草が照れ隠しだと察したフェイトは小さく笑った。
「ふふ……分かったよ。今はそういうことにしておいてあげる」
「何か含みのある言い方が気になるが、まあ良いか。頼んだぞ」
「うん」
口止めを約束したところでフェイトはあることを思い付く。
「あ、そうだ。清麿だけ話すのも不公平だよね。今度は私のことを話すよ」
「そこまで気を遣わなくても良いんだぞ?」
「別に気を遣ってるわけじゃないよ?ただ私が清麿になら話しても良いって思っただけだから」
「まあ……そういうことなら聞かせてもらうよ」
「そうそう。こういう時は素直になるのが一番だよ」
語り手と聞き手が入れ代わり、今後はフェイトが語り始める。
「清麿なら気付いてるかもしれないけど……私、ここの養子なんだ」
「ああ……やっぱりそうなのか」
特に驚く様子もなく清麿はそう言った。最初にリンディと挨拶した際、彼女とフェイトの名前の僅かな違いから清麿はある程度の見当は付けていた。
「私が九歳の時にね、ある事件があったんだ。事件の名前はジュエルシード事件………またの名を
「おい……テスタロッサってことはもしかして…」
「うん、私の本当の母さんが起こした事件なんだ」
その一言に清麿は衝撃を受けたが、冷静にフェイトの次の言葉を待った。
「きっかけは、ジュエルシードと呼ばれるどんな願いでも叶えてくれると言われている二十一個のロストロギア。私は、それを探しにこの海鳴市にやって来た」
「フェイトには何か叶えたい願いがあったのか?」
「ううん……それは私じゃなくて母さんの方で、私は母さんのためにジュエルシードを集めてたんだ」
目を閉じて静かに当時を思い返すと、今でも鮮明に覚えており、フェイトの中で次々と記憶が蘇る。
「当時はなのはもジュエルシードを集めてたの。まあ私とは違う理由だったけどね」
「違う理由って……ジュエルシードには願いを叶える以外に何かあるのか?」
「ううん………そうじゃないの。そもそもジュエルシードは使用者の願いを歪んだ形で叶えてしまう欠陥品なんだ。ごく稀に正しく機能することもあるけど危険な物には変わり無いの」
「……………………」
清麿はこれまで数々の本を読破してきたが、願望器とはいつの時代、どんな世界でも得てして災いしか招かないと心の中でそう思った。
「だから、なのはは街を危険から守るためにジュエルシードを集めて封印してたんだ。しかもその頃のなのはね、魔法の素人だったんだよ?」
「え……?そうなのか?」
「うん、たまたま魔法と出逢って魔導師になって、街や人を危険から守って……なのはなりの思いと覚悟を持って戦ってたんだ」
フェイトは当時、なのはのその真っ直ぐな意志と不屈の心に憧れていた。それは今でも変わらず、彼女の良いところでもあることを自負している。
「でも……目的が同じ者同士、当然の如く私達は対立した。何度も戦ったし、何度も奪い合った」
争いとは、互いに譲れない想いがあるからこそ衝突し、その想いが強ければ強いほど戦いは激しさを増していく。勿論、それはフェイトとなのはも例外ではない。
「最初の頃は動きも鈍いし魔法も満足に扱えない素人魔導師で、全く話にならなかったのに……戦っていく内にどんどん強くなるなのはを見て私は単純に凄いと思った」
それはフェイトが初めて他人に抱いた感情で、なのはの存在が自分の中で大きくなり始めていた確かな証拠だった。
「それでも母さんのために私は負けるわけにはいかなかった。それが例え、私が母さんにとって憎い存在だったとしても……私にとっては母さんだけが全てだったから」
「( 憎い存在? )」
清麿はフェイトの言葉の節々から不穏な気配を感じ始めていた。
「でも、結局は最後の最後で私は負けて母さんの願いを叶えることができなかった。そして、そんな私を母さんは許して……ううん、本当は最初から私の存在が許せなかったんだと思う」
「えっと……さっきも気になったんだが、母親から憎まれてるとか存在が許されないとか……それってどういう意味なんだ?」
清麿はフェイトの意味深な言葉を聞いてその真意を訊ねた。
「……そうだね。まずはそこからちゃんと話さないと駄目だよね」
彼女は自分でも無意識の内に自身の過去を話すことを躊躇っていることに気付くと、深呼吸して今度こそ覚悟を決める。
「清麿、実は私ね……母さんの本当の娘、死んだアリシア・テスタロッサのクローンなの」
「………は?い、いやいや、ちょっと待て。本当の娘?アリシアのクローン?いきなり過ぎて話が全く見えないんだが…」
「うん、ちゃんと順を追って説明するよ」
想像を越えた突然のカミングアウトに混乱する清麿のためにフェイトは順序立てて語り始める。
「その昔、ある魔導実験の暴走で起きた大事故でアリシアは命を落とし、それが原因で母さんは変わってしまった。あらゆる違法な研究と実験を重ね、アリシアを生き返らせようとして生まれたのがクローンである私」
もう後戻りできないと自分に暗示を掛けてフェイトは包み隠さず全てを自分の口で話す。
「アリシアの記憶を受け継いだ私だけど、母さんの求めた物には届かなかったみたいで……よく殴られたり、酷いこともたくさん言われたんだ」
「何…だよそれ……命を何だと思ってるんだッ‼」
激情を抑えられずに清麿の怒りが露わになる。
「あ……わ、悪い。つい頭に血が上って…」
「ううん、気にしないで。清麿が優しい人だってことはもう分かってるから怒るのも無理ないよ」
怒りで頭に上った血は一気に平常にまで下がり、我に返った清麿は冷静さを取り戻した。
「なあ……お前の母親がジュエルシードを集めてた理由ってアリシアを生き返らせることだったのか?」
「うん……正解だよ」
核心を突いた清麿の言葉をフェイトは肯定する。
「なのはとの勝負に負けた後、母さんはジュエルシードを強引に奪って自分の願いを叶えようとしたけど……」
「失敗したのか?」
清麿がそう訊ねるとフェイトは夜空を見上げ、どこか悲しげな表情を見せる。
「どうなんだろ……母さんとアリシアの体は虚数空間に落ちて生死は不明。被疑者死亡という形で事件は幕を閉じたの」
「………………………」
そんなフェイトの横顔を見て清麿は彼女にどんな言葉を掛けるべきか迷った挙げ句、何も出なかった。
「身寄りを無くした私を今のリンディ母さんが引き取ってくれて、なのはの友達になりたいって言葉が絶望の中にいた私を救ってくれた。今の私があるのは周りのみんなのお陰なんだ」
そこでフェイトはココアを一口だけ飲んで人心地が付くと清麿の反応を伺う。
「どう?やっぱり驚いた?」
「……これで驚いてないように見えるか?」
事の顛末を聞き終えると清麿は頭を抱えた様子で額に左手を置いて気持ちを整理させていた。
「あはは………そうだよね。いきなりクローンだとか言われても困るよね。もし私のことが気味が悪いならなのはやはやての所にでも…」
「確かに驚きはしたが、それだけだ。フェイトはフェイトだってことに変わりはないだろ?」
悲観的になるフェイトの言葉を遮って清麿は平然と言った。
「え……?」
予想もしていなかった清麿の言葉にフェイトは思わず間の抜けた声を漏らし、そんな彼女を無視して清麿は言葉を続ける。
「俺はアリシアって子のことは何一つ知らない。でもな……優しくて、気が利いて、誰かのために真剣になれることがてきるフェイト・T・ハラオウンという女の子は知っている」
空になったマグカップを傍に置き、清麿はフェイトに向き直る。同じように無意識でフェイトも清麿に向き直り、お互いが向い合わせの状態になる。
「大事なのはどう生まれたかじゃない。どう生きるかが問題なんだ。そして、ちゃんと自分の意志を持って行動できるのなら、それはもうお前という一個人の存在。フェイト・T・ハラオウンだ」
真剣な眼差しで清麿はフェイトの目を真っ直ぐ見てそう言い切った。
「だから俺はお前が誰かのクローンだろうが何だろうが関係ない。これでもまだ、自分は普通じゃないとか言うつもりか?」
意地悪く、若干の皮肉を込めて清麿は改めて訊ねる。
「……ううん、もう言わないよ。清麿の気持ちは確かに伝わったから」
「本当だな?もしまた同じこと言ったら今度は本気で怒るぞ」
「言わない言わない。ちょっとは私を信用してほしいんだけど…」
「今し方、自分は普通の人間じゃないから気味が悪いなら出て行ってくれて構わないなんて馬鹿なことを言う奴を信用しろってか?」
「ええー……人のこと励ましておいてその反応って酷くない?」
「酷いも何も事実だろ?」
フェイトの非難の声に対し、特に悪びれる様子もなく清麿は寧ろ堂々と開き直った。
「…………………………」
「…………………………」
そこで会話が途切れて少しの沈黙が訪れる。
『ぷっ……あはは‼』
すると、二人は同時に笑いが込み上げて来た。
「何やってるんだろうな俺達。まだ出会って半日しか経ってないのに二人してこんなこと話してさ」
「さあ?でも、私は話せて良かったと思ってるよ?」
「だな。俺もそう思う」
再び楽しそうに二人は笑い合う。
「あーあ、それにしても励ましに来たつもりが逆に励まされちゃうなんて思わなかったよ」
「いやいや、そんなことは無いぞ。俺も十分に励まされたし、素直に嬉しかった」
清麿はフェイトに視線を向け、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、フェイト」
不意に見せた清麿の笑顔にフェイトは自身の胸が高鳴るのを感じた。
「ぁ……ど、どういたしまして…」
今だけは清麿を直視できずに視線を逸らし、フェイトは小さな声で彼の感謝の言葉を受け取った。
「そ、それじゃあ私はもう寝るね。清麿も明日に備えて早く寝ないと駄目だよ」
「分かってる。フェイトのお陰で気分も晴れたことだし、今夜はもう寝るよ」
「も、もうそれは良いから。じゃあおやすみ、清麿」
「ああ……おやすみ、フェイト」
清麿を残し、赤くなった顔を隠しながらフェイトは一足早くベランダを後にして自室へと戻っていった。
「……俺、何か変なこと言ったかな?」
フェイトの唐突な挙動の変化に対し、清麿は自身の言動を思い返してみるも心当たりは無く、幾ら考えても答えは出なかった。
To Be Continued.
清麿の笑顔はあのトップアイドルですら頬を染めるほどの攻撃力がある。(アニメ第15話参照)
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