AM 7:50
既に朝日は昇り、春の日差しがカーテンの隙間から覗いていた。
「清麿、朝だぞ‼いつまで寝ておるのだッ‼」
いつものようにガッシュは清麿を叩き起こす。
「う…ん……何だよ…ガッシュ。折角の休みくらいゆっくり寝かせてくれ…」
あまりにも普段と変わり無い日常のお陰で清麿は寝惚けた様子で二度寝を始めようと布団を頭まで被る。
「何を言っておるのだ?もうリンディ殿とフェイト殿は朝ごはんの用意をして待っておるのだぞ‼」
そんな清麿の寝惚けた頭もガッシュの喝で一気に覚醒することになる。
「ん………はッ‼そうだ、忘れてた‼」
清麿は跳ね起き、昨日の内に用意してもらった服に着替えて部屋を出た。
「あ、おはよう、清麿。そんなに慌ててどうかしたの?」
すると、アルフの朝食の用意をしているフェイトと顔を会わせる。
「あ、ああ……おはよう。悪い、ちょっと寝過ごしちまった」
「ううん、大丈夫。昨日は夜も遅かったし、色々あったから疲れてたんだよ、きっと」
二人がそんな会話をしていると、そこへリンディが洗濯物の入った籠を抱えてやってくる。
「あら、おはよう、清麿くん。昨日はよく眠れたかしら?」
「あ……おはようございます。お陰さまでぐっすりと。それよりすいません。泊めていただいたのに何も手伝えなくて…」
「もう……そんな事は気にしなくて良いのよ。ところで服のサイズはどう?クロノの服はちょっと小さそうだったから主人の昔の服なんだけど」
「はい、ちょうど良い感じです。ありがとうございました」
着心地が良さそうな清麿の様子にリンディは満足げに頷いて笑顔を浮かべる。
「そう。それじゃあ朝ごはんにしましょうか。清麿くんは先に顔を洗ってらっしゃいね」
そう言い残してリンディは洗濯物を干しにベランダへ向かう。
「洗面所は廊下を出て二番目の左のドアだから」
「ああ、分かった」
そして、フェイトから洗面所の場所を聞いて清麿もその場を後にするのだった。
◇◇------------------◇◇
『昨日、海鳴市で起きたひったくり事件が原因の事故は幸いにも死傷者はゼロ。なお、ひったくり事件は中学生の少女のお陰で未遂に終わりましたが、犯人は未だ逃走中で地域の住民は不安の声を漏らしています』
朝のニュース番組の声を背景に昨晩と同様に四人と一匹はテーブルを囲んで朝食を食べていると、リンディからある話が持ち上がった。
「模擬戦……ですか?」
唐突な話に清麿は怪訝そうな表情を浮かべてそう聞き返す。
「ええ、そうなのよ。貴方達のことは次元漂流者として管理局が保護することになったのだけど、その漂流者が異能力者の場合、その力のデータを取る必要があるの」
「元の世界に帰る手掛かりにもなるし、きっと清麿達の特訓にもなる筈だよ」
リンディはこれまでに至る経緯を説明し、それに続いてフェイトも模擬戦をするメリットを補足として付け足す。
「なるほど……分かりました。そういう事なら俺達からは特に言うことはありません」
清麿は模擬戦の必要性と利点を理解すると二つ返事で了承した。
「良かった。それじゃあ色々と説明するわね。まず今回の模擬戦にはDSAAルールが使われるの」
「DSAAルール?」
「何なのだそれは?」
早速出た初めて聞く単語に清麿とガッシュは頭の上に疑問符を浮かべる。
「正式名称はディメイション・スポーツ・アクティビティ・アソシエーション。略してDSAA。ライフ制のバトル形式で、攻撃を受けるとライフが減るのと同時に受けたダメージに応じた疑似痛覚が与えられるの」
「強度打撲や骨折なら痛みと動きの制限、斬られて大量出血なら痛みとライフの順次低下や意識混濁、その他諸々ね」
フェイトとリンディの二人による解説を清麿はすぐに頭へ入れる。
「本来は魔法戦競技の大会とかで使われるシステムなのだけど、こう言った場合でもたまに使われることがあるのよ」
「ちなみに余程の大怪我でさえなければシステムを解除するだけで受けた傷や痛みは消えるから安心してね」
「お、おお……それは凄いのだ‼」
小難しい単語の数々にガッシュの頭は最初の時点で考えることを放棄し、その代わりにリアクションだけは大きく行う。
「おい……ガッシュ。今の話、本当にちゃんと理解してるのか?」
「いや、全く分からぬのだ」
逸早くそれを見破った清麿の指摘をガッシュは特に否定することなく素直に認め、そのあまりの変り身の早さにフェイトとリンディは椅子に座りながら器用にずっこける。
「はぁ……どうせそんな事だろうと思ったよ」
「あ、あはは……まあガッシュにはちょっと難しい話だったかな」
体勢を戻しながら苦笑いを浮かべるフェイトとリンディの代わりに清麿が要点を簡潔に纏めて話す。
「要は実戦的な戦闘とほぼ大差無い戦いが安全にできるってことだ」
「なるほど、それは凄いのだッ‼」
清麿の噛み砕いた説明によりガッシュの理解も得たところでリンディは次の話を切り出した。
「あ、そうそう。二人にこれを渡しておくわね」
そう言ってリンディが手渡したのはブレスレット状の簡易版ストレージデバイスだった。
「あの……これは?」
「DSAAルールではクラス3以上のデバイスの装着が義務付けられているの。ダメージ判定や安全面のためにも二人はこのデバイスを付けてちょうだいね」
「分かりました」
続けてリンディは次の用件へと話を進める。
「それで二人の模擬戦の相手なんだけど、今回は本人の希望もあってフェイトに任せることにしたの」
「何?フェイト殿が私達と戦うのか?」
思わぬ所からの参戦にガッシュは目を見開く。
「うん、私も執務官を目指すなら色んな経験をしておいた方が良いと思うし、清麿と色んな話をしていく内に二人の戦いに興味が出たんだ」
「ウヌ?清麿と何の話したのだ?」
「あ……えっと、それは……その…」
「……………………………」
不覚にも墓穴を掘ったフェイトは清麿に助け舟を求めて視線を送るが、清麿は『絶対に言うなよ』という意味を込めた視線で返すばかりで助けてくれる気配は無い。
「……な、内緒…かな?」
「二人だけズルいのだ‼私も仲間に入れてほしいのだッ‼」
「私も気になるわねぇ。二人で一体どんな話をしたのかしら?」
「あたしも気になる‼」
苦し紛れに出た言葉も事態の収拾に至るどころかリンディとアルフまでもが嬉々として便乗してくる。
「き、清麿……どうしよ…」
さらに追い詰められたフェイトは今にも泣きそうな顔で再び清麿に助けを求めた。
「はぁ……ガッシュ、あまりフェイトを困らせるんじゃない。誰にでも言いたくないことはある」
「ウ、ウヌゥ……」
「リンディさんとアルフもそのくらいで勘弁してもらえませんか?」
「はーい」
清麿に叱られたガッシュは縮こまり、アルフは大人しく引き下がる。
「うふふ、ごめんなさいね。フェイトの反応が面白くてつい」
「か、母さん‼」
「あら、怖い怖い。そんなに怒ると折角の可愛い顔が台無しよ?」
「もう……」
良いように弄ばれたフェイトの表情からは心なしか疲労の色が見える。
「と、とにかくそういう訳だから今回の模擬戦の相手は私が努めるね」
「分かった。でも、やるからには本気で行かせてもらうからな」
清麿が発破をかけると、先程までの出来事を忘れたかのようにフェイトの表情から疲労の色が消える。
「当然だよ。私も全力でやらせてもらうから覚悟してよね」
早くも激しい火花を散らす二人を眺めてリンディは小さな笑みを零す。
「( あらあら、フェイトったらいつの間に仲良くなったのかしらねぇ )」
リンディはそんな事を思いつつ、その後は談笑を交えながら朝食の時間は過ぎていった。
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AM10:30
ハラオウン宅に昨日のメンバーが揃うと、全員は時空管理局の本局にある訓練スペースに足を運んでいた。
「結構広いんだな」
学校の体育館並の広さに清麿は率直に思ったことを口にする。
「本当はもっと大人数で訓練する時に使われるんだけど、今日は母さんが無理言って急遽貸し切りにしたんだって」
「えッ!?い、良いのかそんな事して……他の人に迷惑が掛かるんじゃ…」
「大丈夫だよ、ほんの一時間程度だから。それにみんな清麿達に興味あるみたいでモニターから観戦してるって」
「そんな大事になってるのかよ…」
予想外の事実に清麿は軽く頭を悩ませる。すると、耐魔法及び防弾ガラスで隔てられた管制室からマイクを通してリンディが声を掛ける。
『はい、こちらの準備はできました。そちらの様子は
「あ……俺達は問題ありません。いつでもどうぞ」
「私も大丈夫です」
清麿とフェイトが状況の報告を終えるとリンディは段取りを進める。
『それではこれよりフェイト・T・ハラオウンによる高嶺清麿、並びにガッシュ・ベルの能力測定を行います。ルールはDSAAルールを使用。どちらかのライフがゼロになった時点で模擬戦は終了です』
形式として再度ルールの確認を行い、加えて補足説明に移る。
『尚、今回は能力測定と言うことなので時間無制限の1ラウンド勝負となります。何か質問などはありますか?』
「えっと………いえ、ありません」
『分かりました。それでは清麿くんとガッシュくんは先ほど渡したデバイスを装着してください』
リンディの指示通りに清麿とガッシュは右手首にデバイスを装着し、起動させた。
高嶺清麿 LIFE 7500
ガッシュ・ベル LIFE 7500
すると、現れたホロウインドウに与えられたライフが表示される。
『フェイトも準備お願いね』
「うん。それは良いけど、今は一応公務中なんだから真面目にね」
清麿達とは違って自分に対する砕けた言葉遣いに一言だけ注意をするとフェイトは自身のデバイスを取り出す。
「行くよ、バルディッシュ」
《 Get set 》
そして、バルディッシュを起動させ、フェイトは防護服を展開してそれを身に纏った。
フェイト・T・ハラオウン LIFE 15000
同じくフェイトにもホロウインドウが現れ、準備は全て整う。
『こほん………それでは改めましてこれより模擬戦を開始します。各自、準備は良いですね?』
三人が無言で頷くのを確認したリンディは端末を操作する。
『 Stand By Ready………Count 3……2……1… 』
無機質な機械音声のカウトダウンが行われ、戦闘開始のブザーが訓練スペースに鳴り響く。
『 Battle Start!! 』
今ここで、史上初となる魔導師と魔物による前代未聞の戦いが幕を上げた。
◇◇------------------◇◇
模擬戦が開始されて数分が経過した頃、管制室ではその様子からアリサが不意にこんな疑問を投げ掛けた。
「ねぇ……今更なんだけど、清麿とガッシュって強いの?」
そのシンプルな疑問の答えを持っている人間は残念ながらこの場にはいないため、代わりにはやてが問い返す。
「急にどないしたんや?アリサちゃん」
「だって魔物とは言えガッシュはまだ子供だし、清麿に至っては私やすずかと同じ生身の人間なのよ?幾ら二人掛かりでもフェイトと勝負になるとは思えないんだけど」
アリサの主張に間違いは無い。だが、それだけで勝敗が決まるほど戦いは単純ではないことをなのはは主張する。
「強いかどうかはまだ分からないけど、かなり戦い慣れてるのは確かだよ」
「そうなの?なのはちゃん」
すずかがそう訊ねると、なのははこれまでの戦いで得られた限られた情報の中からその根拠となる材料を述べる。
「うん、清麿くんはしっかりフェイトちゃんの動きを捉えてるし、ガッシュくんも身の
「さすがなのはさんね、戦技教導官を目指してるだけあってよく見てるわ」
戦況を適切に見極めて分析するなのはにリンディは称賛の声を送った。
「ふーん……人は見掛けによらないのね」
「アリサちゃん、それかなり失礼だよ?」
毎度のことだが、アリサの物言いにすずかは苦笑いを浮かべる。
「まあまだ始まって数分や。今はお互いに相手の出方を窺ってるんやろ」
「そうね。そして、仕掛けるとするなら……そろそろかしらね」
はやてとリンディの言葉を確認するかのように全員は再び模擬戦へと視線を戻した。
◇◇------------------◇◇
拮抗状態が続く中、先に動きを見せたのはフェイトの方だった。
「バルディッシュ‼」
《 Yes, sir 》
清麿達から距離を取り、左手に魔力を集中させるフェイト。
「プラズマスマッシャー‼」
その手から放たれた砲撃は加速しながら一直線に清麿達を目指す。
「ザグルゼム‼」
その砲撃に目掛けて清麿は術を放ち、電撃のエネルギーを蓄積させるとすぐに次の呪文を唱える。
「ザケルガっ!!!」
そして、貫通力に優れた電撃がフェイトの砲撃を相殺した。
「やるね、清麿。それにガッシュも」
「そっちこそ、俺達の攻撃を全て躱すとか大したスピードじゃねぇか。正直驚いたよ」
「ウヌ、フェイト殿も凄く強いのだ‼」
互いに相手の実力を認めて称え合う。
「ありがとう。でも、だからと言って勝ちを譲るつもりは無いよ‼」
「上等だ‼それなら力尽くで頂いてやるよッ‼」
戦闘再開の合図とばかりに熱い言葉を交わし、心躍る戦いが続行される。
《 Plasma Lancer 》
「ファイア‼」
十発の魔力弾が形成されると、フェイトはそれらを一斉に発射した。
「第二の術、ラシルド‼」
その全ての攻撃を僅かに亀裂が入るも防御呪文で防ぎ、カウンターとして跳ね返す。
「ッ!?」
フェイトは間一髪の所でそのカウンターを躱し、さらに距離を取る。
「あの盾のカウンター……ちょっと厄介かもね」
《
「うん……分かってる。あの盾の防御力はそれほど高くはないみたいだし、跳ね返せても私には回避できるだけのスピードがある。それなら幾らでもやりようはあるよね」
《
「ありがとう、バルディッシュ」
愛機からの励ましの言葉に感謝しつつ、フェイトは眼前の
「まだ練習中だから上手くいくかは分からないけど、あれ……試してみよっか」
そして、不敵な笑みを浮かべてフェイトは清麿達に一泡吹かせる秘策を巡らせるのであった。
To Be Continued.
いつもより少ないですが、早めに書き上がったので投稿しました。
誤字・脱字・感想・ご意見などがあれば宜しくお願いします。