模擬戦もそろそろ中盤に差し掛かり、互いに一進一退の攻防を繰り広げてより過激さを増している。その中でも一際目立つのが時折見せるフェイトの笑顔だった。
「フェイトちゃん、いつにも増して楽しそうだね」
「せやなぁ……あそこまで生き生きして戦うフェイトちゃん見んのも久しぶりやで」
普段見せるものとはまた違う表情に、なのはとはやてはそんな感想を口にする。
「フェイトったら普段は落ち着いてるのにたまにあるのよねぇ。夢中になってやり過ぎちゃうってこと。誰に似たのかしら?」
「そりゃあほぼ間違いなくなのはちゃんやと思いますよ?」
はやての言葉に当人を除く全員が「ああ、なるほど」と納得の声を漏らした。
「え?わ、私?別に私はそこまで…」
「訓練とは言え、模擬戦で教官相手に
実はとある訓練でフェイトを含む三人で教官と模擬戦を行った際、なのはが何の躊躇いもなく全力の一撃を放ち、施設を半壊させて教官から大目玉をくらったことをはやては思い出す。
「あれは……えっと……そ、その場の勢いと言うかノリと言うか…」
「勢いやノリでとばっちり食らうこっちの身にもなってほしいもんや」
「に、にゃはは……はい、ほんとごめんなさい」
なのはが十分に反省したところで、新たに来訪者が現れる。
「ああ、やっぱりはやて達だったんだ」
「こんにちは、お邪魔しますね」
現れたのは管理局の制服を着たヴィータと白衣を纏ったシャマルの二人だった。
「あれ?ヴィータちゃん、それにシャマルさんもどうしたの?」
突然の来訪者になのはがそう声を掛ける。
「それがさ、今日はここで訓練する予定だったんだけど、急に使えなくなったからとりあえずモニターで見学してたんだよ」
「それでフェイトちゃんが戦ってるのが映ったんで、もしかしたらと思ってここに来たんです」
シャマルは最後に「あ、私はみんなの健康チェックと訓練後の治療のために呼ばれたんです」と付け足すと、ヴィータと一緒に一同の輪に入る。
「シグナムとザフィーラは一緒やないんか?」
「うん、シグナムならたぶん今頃はどっか別の世界で暴れてる大型魔導生物の撃退中。ザフィーラはその同伴」
はやての問い掛けにそう返しながらヴィータはガラス越しに模擬戦の様子を窺う。
「あれが昨日はやてが言ってた次元漂流者の二人組?」
「せや、名前は高嶺清麿くんとガッシュ・ベルくん。後で二人にも紹介するなぁ」
「シグナムとザフィーラはまた別の機会ですね」
その時、ヴィータはいつもはやての傍にいる小さな存在がいないことを不思議に思い、辺りを見回しながら訊ねる。
「あれ?リインは一緒じゃねぇの?」
「ん?ああ、リインにはちょう頼み事してあるからここにはおらんよ」
「ふーん、そうなんだ」
そんな会話を挟みつつ、新たにヴィータとシャマルを加た一同は模擬戦へと意識を戻す。
「それにしてもフェイトと互角に戦うなんて結構やるじゃん、あの二人」
「攻撃自体はCランクからBランク程度だけど、戦術や戦略がそれを何倍もの威力に引き上げているわ」
すると、リンディのその言葉に疑問を抱いたすずかが徐に手を挙げた。
「あの……戦術や戦略でそこまで変わるものなんですか?」
「勿論よ、戦闘に限らず戦術や戦略は個々の能力を引き上げることもできればその逆もある。簡単に言えば、使い方を誤った大魔法は使い方を工夫した小魔法に劣るということ」
そう言うとリンディは清麿に視線を落とし、その視線に釣られるようにアリサとすずかもそれを目で追う。
「彼の戦い方はまさに工夫された戦いそのものね。位置取り、タイミング、そして駆け引き。自分達の攻撃が最大限に活かせるよう上手く立ち回っているわ」
彼女がそう称賛の声を贈る一方で、どこか腑に落ちない様子で表情を浮かべる人物が一人いた。
「………………………」
「どうかしたの?アリサちゃん。何だか難しい顔してるよ?」
その人物であるアリサにいち早く気付いたすずかが問い掛ける。
「え?ああ……うん、別に大したことじゃないわ。ただちょっとあいつの戦い方が変だなって思っただけよ」
「変……ってどこが?」
「だってほら、せっかく二対一で有利なんだから二手に分かれた方がフェイトの注意を引くなり意識を逸らすなりできるでしょ?なのに何であいつはあんなにも前で戦ってるのかなって……」
「そう言われてみれば……」
アリサの指摘通り、見れば清麿はガッシュから最大でも3メートル以上離れることはなく、明らかに前衛の姿勢を崩さず戦っている。
「お、ええとこに気ぃ付いたやん。まあ確かに普通は数の利を活かすならそうするべきなんやけど、残念なことに今回はそうも行かへんのや」
「
「せや。知っての通り、清麿くんとガッシュくんの戦闘スタイルは互いの存在が必要不可欠。どちらかが欠けた時点で必敗。仮にガッシュくんが単独で戦えたとしてもやっぱり呪文の力抜きやとどうしても限界がある」
「それはまあ分かるけど、結局その話とあいつが前で戦う理由にどんな関係があるって言うのよ?」
早くも痺れを切らし始めるアリサのために、はやてはより簡潔に自信の分析結果を纏め、解説を続ける。
「これまでの戦い振りを見る限り、スピードはフェイトちゃんの方が上。しかもこんな遮蔽物も無い空間ともなれば身を隠すことも不可能や」
はやてから引き継ぐようにここからはなのはとヴィータも解説に加わる。
「そんな状況でフェイトちゃんから距離を取るってことはね、自分を危険に晒すことと同じなの。まあそうすることでメリットがあるなら話は別なんだけど……」
「まずそれはねぇな。
「だよねぇ……そうなるとやっぱり」
「必然的にこうなるって訳だな」
こうして結論は巡りめぐってアリサの最初の疑問へと結び付く。
「はぁ……大体の理屈は分かったけど、生身の人間のくせによくそこまでやるわね」
そこまで理解すると同時にアリサは呆れた様子で溜め息を吐いた。
「それが、彼が決めた戦いに対する覚悟なんじゃないかしら」
不意に出たリンディの言葉に全員が注目する。
「ガッシュくんを王様にする。そのためなら、たとえ自分を危険に晒すことだとしても彼は迷わずその行動を取るでしょうね」
「あの、どうしてそこまで……?」
どこか確信を持った様子のリンディに疑問を抱いたはやてがそう訊ねる。
「気付かなかった?模擬戦が始まった瞬間、彼の雰囲気が変わったこと」
「えっと、はい……何となくではありますけど、一応は」
自信の無さからおぼろ気に答えるはやてにリンディは「十分よ」と返してから話を戻す。
「今の彼から感じられる雰囲気は熟練の魔導師のそれに近い。きっと相当な数の修羅場を潜り抜けてきたんでしょね」
「でも、ただの模擬戦でそこまでする必要は……」
すると、はやてが最後まで言い切る前にヴィータが話に割って入った。
「違うんだよ、はやて。そう言うことじゃねぇんだ」
「ヴィータ?」
先程とは打って変わって、いつになく真剣な表情のヴィータの様子が気になって振り返ってみればシャマルも同じような表情を浮かべていた。
「たぶんなんですけど、彼……色んなものを背負ってるんだと思います。背負ってるものが大きいから……負けられない想いがあるから、無意識に体が動いちゃうんじゃないでしょうか」
シャマルは清麿から感じ取った自分の見解をありのまま話す。
「何だか昔のヴィータちゃん達みたいだね」
「……まあな」
なのはは彼女達が闇の書の蒐集を行っていた頃を思い出すと、ヴィータもそれに同意する。
「つまり、彼は戦いに対してそれだけ必死なわけで、相当な覚悟が無いとできないこと。はやてさん達ならそれがどれだけ難しいことなのか、分かるんじゃないかしら?」
リンディに言われ、清麿の覚悟の重さを感じたはやて達はそれぞれ思うところがあるのか、口を開く者はいない。
「……と、まあ色々とあれこれ言ったけど、何も難しく考える必要は無いわ。と言うよりこればっかりは頭でどうこう考えるだけ無駄ね」
「おいおい、ここまで来て結局それかよ」
最終的に出た結論にヴィータが呆れていると、リンディは小さく笑みを浮かべてからこう答えた。
「だって、覚悟って言うのは
その一言が妙に説得力があるように聞こえたのはきっと気のせいではないだろう。
To Be Continued.
大変お待たせしました。
諸事情によりこんなに期間が空いてしまって申し訳ございません。
また、戦闘シーンが長くなってきたので、分割して今回は解説サイドのお話でした。次回こそは模擬戦の模様をお届けします。