ナザリック小話   作:こりど

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※時期はツアレの一件以前5巻前、王都に到着して二人が活動始めの頃なので二人とも友好的。


ソリュシャンの休日 1

 

 王都と言うのは自分が思っていた以上に陰鬱な雰囲気を漂わせている。窓から見える降りそう振らないどんよりとした空をちらりと見上げ、セバスは流麗な文字で現地のものにしては質の良い紙質の書面にペンを走らせていた、その内容は今現在セバスが抱いた天気についての感想では無論無い、彼の主たるアインズ・ウール・ゴウン、唯一にして最後に残られた慈悲深いナザリックの支配者に対しての報告、現地での情報収集の一環として収集している魔法についてなどだ。

 ちょっとした連絡程度ならば<伝言(メッセージ)>の方が利便性は高く早い、だがある程度の量をリストアップするなると、例えば他のこまごまな街の噂話――(アインズは下々のそういったちょっとした噂がえてして重要なのだとセバスに言い、セバス自身も小さき人々の声に耳を傾ける主の姿勢に感銘を受けていた)――などを含めやはり書面での報告が望ましいのだ。

 

 さてこのようなものでしょうか? 他に忘れた事などは、などとセバスが考えながら書面を見直しチェックしていると控えめなノックと共に「失礼します」と金髪を巻き、首のベルトや官能を感じさせる肉感的な黒いメイド服に身を包んだソリュシャンが飲み物をトレーに載せ入室して来た。

 ナザリックにおいて完璧な従者としての素養を身に着けているにもかかわらず、彼女が返事を待たずに入室したのは現在この館には彼女とセバスの二人しか存在しない(影の悪魔(シャドウデーモン)悪魔の像(ガーゴイル)などの警備兵は生活面では接触が無い)以上応答などが簡略化されている為だ。

 

「おや、ありがとうございます、毎回申し訳ありません、夢中になってしまって居ましたか。もうそんな時間ですかね」

「いえ、お時間はまだそれほどでも、それに勿体無いお言葉ですわセバス様、私も他にやれる事もございませんし、むしろこの程度はやらせて頂きたく思います」

 

 静かに配置された皿から暖かな湯気の上がる繊細な細工のされた陶器の器を手に取り、芳醇な香りを楽しみセバスは軽く飲み物を口に含んだ、確か現地の飲み物でマキャティアとか言ったものだっか、好みとしては多少セバスにとっては甘めだが、頭脳を使った後は体に心地よい、コンビとなってまだ期間は短いがこのソリュシャンは細かいところまで気の配れる者だ、彼は傍らに控える豊満な肢体をぴったりしたメイド服に包んだ美しい女性――中身は恐るべき不定形の粘液(食人スライム)だが――を評価していた。

 

「立場上貴方は私の主人と言う事になりますので普段からあまり込み入った仕事をさせるわけにはいきません」

「はい、ですが私としてもセバス様が対応されてる間に十分にドレスに着替えを出来ますので、もう少し何かお役に立ちたいのですが……」

「とは言え常日頃から屋敷の掃除などさせていては、ふいの来客の目に主の顔に汚れが付いていたなど目も当てられませんですからね」

「……なるほど、畏まりました」

 まぁ表層の汚れなど粘体である彼女であれば取り込んでしまえば即座に消えてしまうのだが、それが例え髪の部分であろうがでもである。だがそう思っても上位者たるセバスに殊更に異は唱えない。一応の説明の筋は通っており、今のやり取りにしても言ってみればやることが無さ過ぎて退屈過ぎた自分の愚痴だったと思わなくもないのだ、そうソリュシャンは考える。

 

「本来戦闘や暗殺が得意な戦闘メイドである貴女にはただじっとしている現在の任務の方が苦痛かもしれませんね、しかし待つのも任務です」

「申し訳ありませんセバス様、アインズ様にご命令頂いた事に不満を漏らすなど、元よりあってはならない事ですのに」

「解って頂ければ良ろしいのです、共に命を受けた者同士それぞれの領分で最善を尽くすとしましょう」

 

 心から反省していると言う顔つきのソリュシャンに厳しい顔つきを緩めセバスが微笑む、これは本人は意識していないのだろうが渋めの中高年を好む女性からすれば、年若きから妙齢に至るまで堪らないものだろう、深くお辞儀をしながらもソリュシャンはそう思った、種族は違えど女性としての嗜好を持つ彼女にもその程度の事はわかる。

 彼女の現在の直接の上司セバスは客観的に見ても執事としてほぼ完璧な素養を持つ人物だが問題があるとすれば、それはあまり自分の魅力を客観的に把握していない様子が見える所と、あとは少々気になるのは彼女から見て人間(下等生物)に甘い部分がある点にあった。まぁ前の部分はともかく後ろの点については自分が注意を払いサポートすべき事だろうか、そんな事を考えていると話題が転じた。

 

「それにしてもあまりよろしくない天気が続きますな」

 セバスが目を向け、つられて怪訝な目つきでソリュシャンも窓越しに空を見る、どんよりと曇ったいい天気だった。

「左様でしょうか? 私はこのような天候もそれほど嫌いではありませんが」

「……なるほどこれは失礼しました、このような空模様も取り様によっては趣深いかもしれませんね」

 

 どうも彼女の感想はセバスを勘違いさせたようだ。「いえ、私は基本粘体のスライムなのでむしろ湿気が多いのが望ましく、乾いた天候が続く方が好きでは無いのです」などと言う事をごく正常な感覚を所有する方に言うべきかどうか彼女が迷っていると、ふいにふいにセバスが額に手を当て急いで立ち上がった。

 その真剣な表情を見て即座に彼女もピンと背を伸ばし姿勢を正した。セバスが即座にそんな状態になる相手はこの世に一人しか存在しない、同格の階層守護者でもありえない、短いセバスの返事をする声とそれなりの時間が過ぎ、畏まりましたと空間に向かってお辞儀をしたセバスの視線が彼女に向いた。

 

「ソリュシャン、アインズ様からの新たな指令です」

「はい、何なりと」

 緊張の面持ちで頷いたソリュシャンはその後セバスから告げられた命令に思わず顔を上げ、彼女らしくも無く作り物の瞼を数度瞬かせた。

 

 

「は……休日を楽しめ、ですか?」

 予想外の成り行きに美貌があっけにとられポカンと小さく口を開けてしまった。

「そうです、アインズ様はナザリックにおける労働のあり方について深い懸念を示されておられます。ですので今回のお言葉をそのまま貴女にお伝えしますと……『王都と言う場所に居ながらずっと篭り切りと言うのは若い女性にとってあまりにも過酷過ぎるだろう』との事です、せめて一日でいいから強制的にでも休日を取らせるように、と仰せつかりました。まさしく最後に残られた慈悲深きお方に相応しい深きご配慮でしょう」

「で、ですが、その……セバス様、私は今の状態に何一つ不満など何もありません、いえあるとすれば現在でも成すべき事もせず無聊の日々、休むよりも働かせて頂きたく思っています」

 

 あまり表情が動かず冷静沈着を持ってする彼女からすると珍しい事だが、しどろもどろになりそうになる。至高の存在から直に下される任務と言う涎の出るようなご馳走を予想していたら、むしろ一番望んで無いものがもたらされ冷や水を浴びせられた気分と言うか一気に奈落に突き落とされた心地しかしない。

 だがソリュシャンは悪寒すら感じる自分の不快感が作っている表情と口調に出ないように注意しながらおずおずと思う所と願いを申し出た。

 

「無論それは解っております」

「では」

「ですがアインズ様のご慈悲を無為にする事など、それこそ最も不敬にあたります」

「……はい」

 

 期待を込めた要望は即座に却下され、動揺のためか僅かに作り物の表情に歪みが出る。何とかこれ以上の無為な時間を増やす事を回避したいソリュシャンの焦る様子を見て取ってセバスが例の人好きのするあるか無しかの微笑を浮かべ呟いた。

 

「ですのでこう考えなさいソリュシャン、若い女性しか獲得しえない町の声もあるでしょう、それを貴女にお願い致しましょう、アインズ様に報告する私のレポートもそれにより、より充実すると言うものです」

 その言葉を聞きゆっくりと咀嚼したソリュシャンの深いブルーの瞳に理解が浮かんだ。

「つまり情報収集を行って宜しいと言う事ですか?」

「それも含めてと捉えてよろしいでしょう、散策を楽しむ傍ら町の声を拾っても仮に人脈を作ったとしてもそれはアインズ様のお考えになる休日からそう離れはしないでしょう、それに考えて見れば我々の立場を考えても箱入りのお嬢様と言えどまったく姿を見せないのは返って世間の不審を招くかもしれないでしょう? アインズ様は全ては仰らないお方ですが、単なる休日と言うよりも、あるいは……この命令の真意はそのような深い所にあるのやもしれません」

 

「……なるほど、セバス様のおっしゃる事ご尤もです。深謀遠慮たるアインズ様ならそれも不思議ではありません」

 深い理解と共に頷く、なるほど人間に溶け込んでの任務では休む姿を見せるのも重要と考えるのは彼女には思いもよらなかった発想だ。金髪の縦ロールお嬢様と言う一見頭の軽そうな外面とは裏腹に知恵の回るソリュシャンは考える。他に主が期待する事、何が考えられるだろう? アインズから直々に活動資金もセバス宛に送られてくるのも彼女は知っているが、非常時の財源などいくらあっても良いはずだ。金銭を得るのも良い考えだろう或いは現地の信奉者、もしくは両方を兼ねる者。

 自分の外見は至高の者により創造された最高級のものであると自負しているが、それを別にしてもその美貌が人間の男にどう作用するのかはこの短い期間であったが十分に学習している。

 あわよくば気前のいい馬鹿(パトロン)を捕まえるのも容易い事だろう。無論こちらの正体を晒すのは論外で絞りつくすのみの関係になるが、むしろそれは彼女の性癖からすれば望むところである肉体の喜びには及ばないが吸いつくされる獲物の精神は彼女に心地よいものをもたらすであろう。次第にそういう事に違いないと思い始める。彼女の様子を見て何を思うのかセバスも頷く。

 

「屋敷の留守の方は私がしっかりと守りましょうご安心下さい……いざと言う時の口裏合わせは、そうですな、窮屈な生活に飽き飽きしてお忍びで屋敷を抜け出したお嬢様、そんなところで背景(バックストーリー)は良いでしょう」

「畏まりました、現地人(下等生物)との避けれぬ交流がありました場合はその様に致します、それと万が一トラブルに巻き込まれた場合は、実力行使のお許しは頂けるのでしょうか?」

 

 ふむ、とセバスは言われて気が付いたように考えた。この屋敷のある周辺は比較的治安が良い場所だが、思いのほか王都と言う場所はたち(・・)の悪い場所が多かった。むしろ女子供が安心して往来を行き来できるのは大通りと限られた地区だけだと言えた、そのような場所であっても一歩裏通りに入ればたちまち犯罪に巻き込まれる、そんな印象をここ数日だけでもセバスはこの都市に見て取っていた、ましてやソリュシャンはこのまま表に出せば通り過ぎる男どころか女でも振り返る美貌である。

 

「確かに万が一よりも十分に考えられる事態です、ですが極力諍いごとは避けて下さい、良心的な人物には害を与えずむしろ好印象を持たれるように。いや今の設定貴女は我侭なお嬢様でしたな、では根は悪い人ではないと思われる、その程度は交流に努力をして下さい。そしてやむを得ぬ場合は……非合法に係わるような種類の人間、あるいは居なく成っても問題の無い人間については私もある程度は目を瞑りましょう」

 

 セバス自身がそう言った横暴な人間を好まないせいもありつ視線も口調も冷ややかになる。ナザリック以外でも善良な者は助けるべしが彼の信条であったが、不法を働く輩にはその限りではなく、むしろ断罪するのが彼の創造者たる『たっち・みー』から受け継いだ魂に刻まれた資質である。その言葉を聞いて上司のお墨付きが出たとソリュシャンの瞳にも喜色が浮かんだ。しかし表面上はそれと悟られぬ様冷静な表情に努める。

 

「畏まりました、ではそういった(・・・・・)人種についてのトラブルは私の判断で処理(・・)致します」

「宜しいでしょう現場の判断にお任せします、ですがくれぐれもお忘れ無きよう、基本方針は目立たず、友好的にです。 それを踏まえた上で……休日を楽しんできなさいソリュシャン・イプシロン」

 その紛れも無いナザリックの仲間に向けた優しげなものを含んだ言葉にソリュシャンも初めて美しくはあるが能面のような表情を変え、心から嬉しそうな笑顔で応えた。

 

「はい、セバス様、ソリュシャン・イプシロン、拝命致しました。目立たず、静かに、有意義な休日を楽しんでまいりたいと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ところでアインズ様質問して宜しいでしょうか?」
「許すぞユリ? 言ってみるがいい」
「では失礼致します、本当にスライムが疲労するなどと言う事がありえるのでしょうか?」
「フッ……愚問だなユリよ、スライムとて生物には違いないのだ、疲労は確実に存在する。私は実例を持って知っているが、へろへろさんが疲れ果てて居たのを私は何度も見てきたのだ」
「へろへろ様がっ?」
「スライムの最上種たる彼が疲労するのだから、その眷属であるスライム種のソリュシャンが疲れを溜めるのも道理だろう」
「な、成るほど、至高のお方がそのような事が、無知な自分を恥じるばかりですお許し下さい」
「全てを許すぞユリよ、思い出すな最後の時だってへろへろさんはさんは――」
(あれ?転移したら種族特性で疲労しなくなるんだっけ? そもそも異常耐性のアイテム付けてれば無効? 考えて見ればへろへろさんの疲れはリアルの引っ張ってるだけだったような……?)
「いかがされましたかアインズ様?」
「い、いや何でもないぞユリ……そういえばナザリックの労働形態など気にした事も無かったが一般メイドなどの労働形態も把握しておくべきかもしれんな……お前はどうだ?」
「私はアンデッドなのでそのような心配はご無用にございます」(キラン)
「そ、そうか、アンデッドなら仕方ないな……」(私はけっこう疲れるんだが…)
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