ナザリック小話   作:こりど

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どう考えてもぷれぷれ風にならなかった m(_ _ )m


ソリュシャンの休日 2

 

 

 何日も洗ってないような薄汚れた服装、乞食と大差ない雰囲気の男達は目だけがギラギラと欲望に滾っていた。

 

「おいおい、姉ちゃん怖がらなくてもいいだろ」

「俺らが親切に案内してやるって言ってんだから仲良くしようぜ」

 

 伸ばした黄色い爪の指先が白い繊手にはねつけられる。「無礼者! 下がりなさいこの下郎!」染み一つ無い真っ白な顔を紅潮させて金髪の娘がヒステリックに叫んだ。ゲラゲラと笑い男達は気にも留めずじわりと獲物を路地へ追い詰めた。

 居丈高な口調とは裏腹に怖じ気ずいたように後ろに退がる娘の服装は仕立ても質も良く見るからに場違いだ、変装のつもりかマントと軽く顔を隠してはいたがスカートに入った深いスリットからチラリと白い肌が覗き男達は欲望に喉を鳴らしていた。

 このような場所でこんな扇情的な格好は商売女ですらありえない、どこぞのお嬢様が冒険心でも発揮したのだろうか、とんだ馬鹿な娘も居たものである。

 いずれにしろこんな美味しい状況はめったにないだろう、顔を隠してはいるがチラリと覗くのは見たことも無いような美人だ。捕まえて売るにしても自分達で楽しむにしてもまずは他の者が気が付く前に人目につかぬ場所に追いやりたかった。身勝手な者ばかりだったが、こんな時だけは目配せして阿吽の呼吸で包囲していく。

 

 女が追われる子鹿のように路地の奥に逃げ込む、だが男達に焦りは無い。どの顔もニヤニヤと嘲笑っている。その先はL字路の先であり行き止まりなのである。だが哀れな獲物を追い余裕を持ってゆっくりと角を曲がった男達の嗜虐心に満ちた顔はぎょっとした表情に変わった。女の姿が無い、煙のように消失したのだ。慌てて回りを見渡す。この路地はどこにも出口は無いはずなのに。

 

「消えた!? そんな馬鹿な」

「完全に行き止まりだぞ、どういうこった?」

「おい、待てここに服が置いてあるぞ」

 

 男の一人が路地の片隅に置かれた服を手に取った。あの女の服だ、だがお互いに顔を見合わせる。なぜ脱いでいる?逃げるにしても意味が不明だ全裸になれば身軽になると言うわけではあるまい目立つだけだ。その時男達の頭上から声がかかった。

「あらぁ、困りますわね。汚したく無いのでそこに置いておきましたのに、触らないでいただけますかしら?」

 男達が見上げると頭上からピンク色の巨大な何かが路地一杯にひろがって落ちてきた。中の一人は一瞬肉塊の上に先ほどの女の生首が乗ってるようなものが見えた気がしたが、男達の絶叫が上がったのはごく一瞬の事だった。やがてぐじぐじと言う音が静かに暗がりに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとお嬢様はご不在ですか」

「は、私としてもお嬢様の行方が知れなくなるのも今回が初めてではなく、恥を晒すようで恐縮なのですが……」

 

 セバスは頭を下げ立派な衣装の小太りの客を見送った、十分に距離が開いてから姿勢を戻しそっと嘆息する。

 まだ昼も来ないのに本日3件目の来客を玄関でお引取り願いである。彼女が居ない日に限って間の悪い事だ。それにしても大した用も無いのにその意欲だけは大したものである。

 先ほどの客はこの館を借り上げる時に会ったのみの建築組合の顔役である、だが今日は特に商談に来たわけでも無く、要するに色々と理由を付けてソリュシャンに会いに来ただけのようだ。

 彼に限らず、たまと言う以上の頻度である事だ。セバスの主人の娘と言う触れ込みで、ソリュシャンが我侭なお嬢様という役割を演じている関係上相当きつい言葉を投げかけられては居るのだが、彼には理解し難い事にどうも一定数世の中にはいくら脈が無く罵られても言い寄る男と言うものが存在するようである。

 相手の事情を考えないのだろうか?まさか罵られる為に参上しているわけでもあるまいに、そうセバスは呆れるのだが真相は今の所不明である。やれやれと思う彼の背後の影から声がかかった。

 

 

「セバス様、護衛に付いた者どもより連絡です、ソリュシャン様の周りに今のところ異常ありません」

 文字通り姿は見えないがその声には上位者に対する敬意が感じられる影の悪魔(シャドウデーモン)である。

「ご苦労様です、そのまま護衛は続けて下さい、ですが距離を保って、必要以上に彼女との接触は避けるように」

「は、ご命令のままに。ですがあのお方の感知能力の高さから言って……我らの仲間が付いているのはいずれ隠しようがありませんが」

「ふむ、それは彼女の専門領域でありますし、仕方ありません。ですが監視の目があると言う事が彼女に知れる事がこの際は重要なのです」

 流石にソリュシャンを信じてはいるが、彼女の本性はれっきとした人食いである、用心に越した事は無い。

「了解致しました、では止めに入る条件は一般人への加害、もしくは力を示す事以上で間違いありませんな? それに抵触しない限りは『食事』などもお認めになると」

 セバスはじっと考えて返答をした。

「ソリュシャンは賢い、居なくなった事で周りが騒ぐような人間には手を出さないでしょう。また約束しましたので、そのような者に限っては手出し無用です。ですがそうですな、女子供や老人などは少し待って頂きたいですね。明確に指示は致しませんでしたがどうにも……申し訳ありませんがそのような方々に手を出そうと言う際には事前に止めに入って下さい、その場合私の名前を出して構いませんので」

「承知致しました、それではそのように」

 セバスの背後の陰は溶けるように屋敷の影に消えて行った。見上げると相変わらず天気は悪かった。

 

「さて困ったお嬢様が黙ってお忍びの外出をなさった……哀れな執事は隣近所ぐらいには相談しておくべきでしょうな」

 

 

 

 

 

「路地に入られたな」

「ああ、あっ吐いた……あー多すぎたんだな、濁ったミルクみたいなものがドバドバと」

 

 側溝、と言っても都市機能がそこまで発達していない中世レベルのこの世界ではまさしく地面を掘った溝と言うしか無い程度の所にえろえろと止め処無く吐き出される吐瀉物。

 水と反応してなのか、しゅうしゅうと白い煙が上がる。彼らが見たところでは量的には寸胴鍋で二つ三つ分、人間の成人男性の肉数人分と言った所だろうか。恐らくは刺激臭も出ているのであろう。美人の小さな唇が開き、豪雨の後の雨どいのようにそれらが大量に吐き出される様子はなかなか壮観だ。

 やがて彼らの護衛対象の美しい女性型の者は周囲を素早く見ると手近な板で蓋をしてその場を離れていた。

 影の者達は相談する。

「どうする? あれも処分するか?」

「いや、近くに小さいが川のようなものもある、そこに繋がってるようだ放っておこう」

「承知」

 異形の者とはいえ彼らもできれば吐瀉物(ゲロ)の処理は遠慮したかった、ましてそれが触れたら下手をすると彼らとてダメージを負いそうな代物なら尚更である。

 

 

 

「……うっぷ流石に4人踊り食いは無茶でしたわね、ナザリック地下大墳墓(ホーム)ならその辺りに戻してもエントマあたりが喜んで処分してくれそうなのですが」

 

 よろよろと足元を恐怖公の遠い眷属が這い走る路地裏から歩み出ると口をソリュシャンは歩き出した。

 心持ち青ざめて見える。彼女にとって誤算だったのは食べた人間の処分の問題だった。

 曇り天気に足取りも気分よく貧民街(スラム)に入り、エントマ風に言うと食堂で軽い朝食をと言う感じで手ごろな人間を物色した。

 地味なスカーフで気休め程度に顔を隠しそれでもスタイルの良さと流れる金髪は隠そうとしなかったのは世間知らずのお嬢様を装ったわけなのだが。その甲斐あってか彼女は探すまでもなく、ほどなくにやけた顔の男達にに暗がりに追い込まれ、これを捕食してしまったわけである。

 そこまでは良かったのだが、それが理由の全てでは無いがどうも初めての事態だが少々一度に食するには獲物の量が多すぎたようだった。

 普段活きのいい人間を食べる機会に恵まれて無かった反動か、朝一番だと言うのにがっつき過ぎたか、これでは普段行き過ぎた行動して失敗するルプスレギナ辺りを笑えないではないか、二日酔いの人間のように顔を顰める。

「まったくこうなると……見られていると言うのも癪に障るわ」

 

 意識の先端に触れる影の悪魔(シャドウデーモン)にこの無様を見られているのを考えると忌々しい。ちゃんとこちらの事情を理解してるようで人間を襲っても降りてくる様子が無いのはセバスとの連絡が上手くいっている為だろうが現在のような事態になるとその目が気になる。

 

 暫くはお腹の中の反応を楽しみながら治安のよい通りに戻り、次の方針を考えながら散策でもしましょう。軽くそう思っていた矢先の事、想定以上に朝食が重かったようだ。体の方が消化に力を使い思考がぼんやりとして流れてしまっていた。こんな事になるとは、体型だけは彼女の特性をもって維持していたが下手をすると集中がゆるんで外見が崩れかねない(・・・・・・)

 通常彼女の体の内部にとりこまれた獲物は強力な酸によって溶かされ、彼女の調整次第で数時間から一日かけてゆっくりと溶かして吸収できる。収納もかなり自在だ。だが全てを消化するとなると肉はともかく骨の消化には予想以上に手間取った、これがなければここまでの事は無かったのだが。

 内圧を上げれば鉄をもへし曲げるのが可能な彼女は結局、頭蓋骨から細かい骨に至るまで全て圧し折ってしまったのだが、そこでも余計な体力を使ってしまった。

 本当はそれ以前に面倒になったのだがここはどれだけ治安が悪くても人間社会である。その辺りに人骨を放り出すわけにもいかずやむを得ず全てスープ状になるまでどろどろに溶かしてドブ川近くの路地に駆け込んで吐き出したのだ。

 ここまでの顛末はそんなところだった。まったくこれが地下大墳墓内ならアンデッドの材料にするなり、シャルティア様の領域に捨ててくるなり、それこそエントマや他の者達にお裾分けで済むだけの話なのだったが。幸先いいと思ったらとんだ失態であった。食事は少し控えよう先に情報を、と壁に寄りかかり少し汗を掻いた額に手をあてる、吐いて幾分すっきりはしたが気は晴れない。情報収集となると、まずは酒場辺りだろうか?壁から体を離し手で支える。思案しているソリュシャンに影が差した。

 

「もし、大丈夫ですか? 少し具合が悪そうに見えますが……」

「ああ?」

 

 年若い娘に不釣合いな口調で不機嫌そうに顔を上げる。半ば本当に気分が悪いので演技も必要無い。相手はそんなソリュシャンの態度よりも顔を見てその美貌に驚いたようだ。

 

「何よアンタは?」

「こ、これは失礼しました、私はこの国の兵士で治安を預かる者の端くれでクライムと申します。何かそのお困りのようでお役にたてましたらと思いまして……」

 短く刈り上げられた金髪。親切そうな外見の青年だが、ドギマギしたその様子と老人のようなしゃがれた声に若干ソリュシャンは眉を顰めた。見かけとかけ離れたその声は訓練によるものだろうか、兵士の見かけはむしろ少年から青年の中間点と言ったところにもかかわらずその声は見事に潰れていた。

「ああ、そうね……」

 気の無さそうにソリュシャンは顔を軽く振る仕草をしながら縦巻き金髪の影で素早く思案した。額にあてた指の透き間から目を光らせ若い兵士の身なりを確かめる。

 

 一般兵士にしては装備が整っている、否、整い過ぎている。白金に見える全身鎧(フルプレート)は恐らくミスリルかオリハルコン製。現地人間にしては質の良さが飛び抜けて良い。物腰や仕草からして育ちは知れるが身分はさほど高く無く、金持ちでも無いだろう。だが不相応なその装備が物語る、青年が実力を持ってなる叩き上げと呼ばれる人種である事を。そこそこの地位の者に違いない。

 人の良さそうな顔を少し赤らめてるのは女性扱いに慣れていないせいだろう、資金源(パトロン)としては失格だが、案内が欲しいと思っていた所だ、こいつならばそれなりの場所を知っているだろう、ならば扱い易そうなこいつはちょうど良いではないか。そこまで考えを纏めると行動に移した。

 

「ああそうね、ちょうどいいわ。共の者とはぐれてしまったの、貴方ねとりあえず私が休める場所までエスコートしなさい」

 提案でもお願いでもない、吐き捨てるような命令である、言われた青年クライムはしばし面食らった。

「は? ええ? エスコートですか? し、しかし自分は今……」

 

 しわがれた声の青年クライムは言い淀んだ、一瞬任務中だからと断ろうとしたのだ、だが正式に町の警邏が任務ではない彼は正直に考えそして躊躇ってしまった。だがすでに彼の主人にも匹敵するかと思うような美女は勝手に宣言すると「早く!」と再度ヒステリックに言って足を踏んでいる。とてつもなく気が短い人のようだ。

 ちょっとした親切心のつもりがえらいお嬢様に声をかけてしまったのかもしれない。引きつった顔でクライムはそう思ったがもう後の祭りだ。

 キツイ目つきで睨み付ける美女は今にも何か声を上げそうだ。

 同じような美人でもと、限りない優しさを称えられる黄金の姫ラナーのたおやかな面差しが彼の脳裏に浮かんだ。これはえらい違いである。一瞬これも人生経験と言う事かと、知り合いの女性ながら男性よりも逞しい人が見たらそんな風に哄笑する様が想像された。「早くしなさい!」女性に再度促されて、やがて恐る恐る提案をする。

 

「で、ではあちらによく知る行きつけの宿屋……のようなものがありますので、まずはそちらの方に」

「はぁ? 宿屋ですって? 貴方私をそんな所に連れ込んで私に乱暴しようって言うのね!」

「ち、違います、一階は普通の酒場でして、と、とにかくそちらへ」

 

 人聞きが悪い、何て事を言うのだこの人は、とばかりに慌てふためき周りを気にして目をやるクライム。今日は彼女たちはあそこに居るだろうか?居て欲しいような居て欲しくないようなどちらともつかない考えが彼の頭を巡った。女性の扱いは女性にと言いたい所だが、こんな美人を連れて行って彼女らに見られたら当分からかわれるのは避けられないだろう。

 

 憤慨したように見せかけたソリュシャンはそんなクライムを見ながら面白い玩具が手に入ったと内心ほくそ笑んだ。慌てて踵を返し、こちらへ、と歩みを進めるその後に続いた。

 

 このような初心な者は無垢な魂を持つ者に次いで彼女の好みであった。セバスとの約束もあり善良そうな上役に立ちそうなので実行はできないのが残念だが。

 先ほど吐いたばかりだと言うのに、その背中を見ていると鎧の内部まで透えるようで食欲が刺激される。この若いバネのような鍛えた体なら取り込んだ時さぞや良い感じで暴れてくれるのだろうな、そう思いソリュシャンはチロリと艶っぽい唇を舐めた。

 

 

 

 

 

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