ナザリック小話   作:こりど

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ソリュシャンの休日 3

 王都の大通りに面した立派な建物に白金の全身鎧(フルプレート)の戦士とその後に軽くスカーフで顔を隠した女性が吸い込まれる。

 お昼前で少々人が込み始めた店内はざわめいていたが好奇の視線が二人に集まった。きょろきょろと周りを見渡す若い戦士の方では無くその傍らの女性の放つ隠し切れない美しさと雰囲気に引かれてだ。

 しかしこの宿屋は王都でも最高級との評価を受けており客層も高位の冒険者やそれに相応した人物しか居ない空間だ。

 どこぞの場末の酒場のように美人だからと言って即座に言い寄る酔客も居らずトラブル無く表面上集まった視線は離れていった。珍しそうに周囲を見る謎の美女を時折チラ見したり様子を伺う気配はその道に長けた彼ら一流の冒険者なら未だに感じられるのだったが。

 

 「あれ? イビルアイさん独りですか?」

 

 目的の人物を見つけたクライムが連れを伴い近づいていく。珍しくと言うべきか王都で最高峰の冒険者グループの要とも言う人物は独り静かに店の奥の丸テーブルで書物を読んでいた。タイトルは見えないが小説風だ。イメージ的に魔法書みたいなものしか読まないんじゃないかと思っていたので彼女でもそんなものを読むんだなとクライムは意外に思った。

 

「そういうお前は女連れか、なかなかの美人じゃないか? ガガーランではないが童貞卒業か小僧」

 パタンとページを閉じ、やっと視線をこちらに向けた人物は仮面の為に表情は伺い知れない。じろじろと二人を、主に後ろの女性を探るように見つめた。

 彼女の知り合いには黄金の姫と呼ばれる絶世の美女と世間で言われる者やリーダーもなかなかの美人だが、クライム――イビルアイが小僧と呼んでいる青年が連れて来た者も中々彼女らにも引けをとらないレベルの美しさだった。やや大げさに言えば絶世の美女と言うやつだ。

 白い肌に深い青い瞳、軽く金髪は軽く巻いているのを除けばこの国では珍しく無いが、整い過ぎた顔の造形と周囲を見下しているような雰囲気を漂わせているのが印象的だ。一見して冒険者では無い、だが客を引くようなタイプの女にも見えない。どこぞの貴族の娘か何かだろうか。そう考えた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいイビルアイさん、誤解ですよ」

「安心しろ、ラナーには黙っておいてやる」

 まぁ逆に案外ラナーがこの小僧にあてがった(・・・・・)者かもしれないが、などと思う。イビルアイから見ても彼――クライムの主人の女性は何を考えているのか今ひとつ掴み難い人物だった。

 優しいラナーがこの小僧を部下の範疇を超えて好いているのは、そのような事に疎いイビルアイにも容易に知れたのだが。当然ながら姫と素性の知れない騎士見習いなど結ばれるはずが無い。知り合いの貴族の娘か?解らんな。とりあえず万が一も考えて人の耳は遠ざけておくか、そう考え懐の魔法の品(マジックアイテム)を作動させた。

 クライムとその連れが一瞬戸惑ったような顔をした。これで彼女達の会話はこれ以上周りに聞かれる心配は無い。

 

 仮面の下で思案する少女に慌てて釈明しようとするクライムを押しのけて件の女が前に出た。

 

「随分失礼な口を叩くのね、で、何なのコレ(・・)?」

 

 蔑むような目つきで見下ろし、青ざめる青年に説明を求める、と言うより挑発するソリュシャン。コレ扱いされた人物は一瞬怒気を巡らせたがそれと気がつかれる前に煙のようにそれを消した。

 

「……おい小僧、こいつはここがどこで私が誰なのか解ってないようだな、世間知らずのお嬢様に丁寧に説明してやれ、あと私にも説明しろ」

「あ、あの。この方はですね、この王国の最高峰のチームであるアダマンタイト級の冒険者グループ『蒼の薔薇』に属しておられる方でその中でも……」

 言葉の端々で戦端を開こうとする二人の女性の間で額に汗を感じながらクライムはしどろもどろに話始めた。

 

 

 

 

「へーそんな強い冒険者なんだ、こんなチンチクリンなのに」

 

 言われた方には表面上は変化が無い。

 ソリュシャンはクライムの説明を受け、表面上は馬鹿にしたような微笑を浮かべてイビルアイを見ていた。

 これは思わぬ収穫である。先ほどの魔法の品(マジックアイテム)といい、まさかこの国の最高レベルの冒険者チームと繋がりがあったとは。この青年はやはり拾い物(・・・)であったようだ。悟られぬようにだが注意深く改めて目前の怪しい仮面の人物を探ろうとする。

 先ほどからどうもこの少女らしき人物の声音がおかしいのはこの仮面自体が魔法の品(マジックアイテム)だからだろうか、よく見ると額に朱の宝石が見える。真っ黒なローブに包まれた体格は小柄でそれこそほんの子供のようでしかない。だが、所有しているアイテムの数々は興味深い。ナザリックに無いものならば持ち帰ればアインズ様もお喜びになるだろう。

 だがと探りを入れるソリュシャンの顔は微笑を浮かべていたが内心は戸惑っていた。

 こいつは…強い……?

 確定では無いが諜報に長けたソリュシャンは漠然とではあるが経験からイビルアイのおおよその強さが伺い知れた、この国で最高レベルの冒険者と言う事は最低でも情報にあった戦士長レベル程度はあると見ていいのだろう。だがこいつには恐らくそれ以上のものを感じる。レベル的には彼女と同等だろうか、もしくは上ではないか? とすら思う。そう考えると僅かに殺気が目に篭りそうになった。

 自分を見つめるソリュシャンの瞳に妙な力を感じてイビルアイもピクリと反応した。

 

「おい……」

「はぁ? 何よ?」

「お前実は冒険者なのか? 世の中にはうちのリーダーみたいなじゃじゃ馬も居るしな」

 ドレスも甲冑も着こなす女性と言うものは少数ではあるが確かに存在する。だが先ほどから観察していたが、仮にそうであったとしてもラキュースなどとは違い、この女の指は先までも傷一つも無く、白魚のような綺麗なものである。およそ剣どころか化粧皿以上に重たいものは持った事が無いと言ったところだ。少なくとも労働をしている者の指では無い、本当にただのお嬢様にしか見えないのだ。

 

 だがこの世界にあらゆる肉体の差を覆す魔法やタレントがある。女である彼女達があまたの男達を差し置いて王国で最強であるのもその証拠の一つである。見た目が綺麗な化け物はいくらでもいる、彼女は経験からそれを知っていた。ゆえに疑いの目は晴れない。あるいは魔法詠唱者(マジックキャスター)と言う線もある。

「……何でそうなるの? 私がそんな下賎な者達に見えるのかしら?」

「ふん下賎とは言ってくれるな、そういうお前はどこの何様だ?」

「ちょ、ちょっと待って下さい二人とも」

 

 おかしな話の成り行きに少々お待ち下さいとクライムはソリュシャンをその場に留めてイビルアイに耳打ちした。

「簡便して下さい、この方は素性は解りませんがスラムの近くで気分が悪そうにしてたの発見して保護しただけなんですから……」

 胡散臭そうな目つきでこちらを見る女性を見やる。

「スラム近くだと? やはり怪しいな……」

 イビルアイは呟いた。

「怪しいって……何がですか?」

 イビルアイはやれやれと首を振った。

「お前本気で言ってるのか? 性格はともかくとしてだ、これだけ見た目がいい女があんな格好で独りスラム近くをうろつく、怪しさ100%だろ?」

 

「え。   い、いえそれは……あまり世慣れしてないようですし、お連れの方とはぐれたそうで」

「ふん、どうだかな、まぁそう言ったんだろうな……だが本当にそうなのか? お前身元の確認はしたんだろうな?」

 あ、と言うクライムに。本当に呆れたのか、お前はそのうち女で酷い目に会いそうだとイビルアイはため息をついた。

「どうにも気になる、さっき感じた圧力は……」

 まるで一瞬大型のモンスターと相対したような気がした、と言う言葉を飲み込む。彼女自身あの女から受ける印象がちぐはぐしていた。そんなイビルアイに近づいてくる別の場所から声がかかった。

 

「よお待たせたな」

 見るといつの間にかガガーランの巨体がテーブルの近くに出現していた。珍しい物を見る目つきでソリュシャンの上から下までをじろじろと眺めている。

「何だこれ童貞のアレか? すっげぇ美人だな、やるじゃねぇか童貞、いや童貞卒業できたのか?」

 彼女からの怒涛のような問いかけに先刻と同じ流れになったと、だが流石に面識の浅い女性の前で童貞3連発は止めて欲しいとクライムもぶんぶんと赤い顔を振る。

 

「ふん、やっと来たか胸筋、だがまぁちょうどいいか」

 何がだよ?と言う声を無視してイビルアイは声をかけた。

「おいお前、名前は何といったか?」

 ソリュシャンは僅かに逡巡して応えた。

 

「無礼ね……ふん、生憎だけど、私には名前を明かせない事情があるのよ。そのぐらい気を使いなさい」

 ふ、と笑い気にした様子も無くイビルアイは続ける。

「それは失礼したな、じゃあお嬢様でいいか。お前の共とやらを一緒に探してやるから今から私達と行こうか」

「は? 私は遊びに来たのよ、共ならこれ(クライム)が居るじゃない、何で貴女なんかと一緒に? 余計なお世話だわ」

 第一そんな人物は居ないのだ、どうやって煙に巻いてこの話題を切り上げるか適当な言い訳を考える。

 まだ自分もですかとクライムが情けない顔になる。

「……まぁそう言うな、その辺の案内もさせるからついでだ。お前みたいなのを放置しとくのも後でラナーから責任問題でも問われたら困る。タダでアタマンタイト級冒険者が護衛に付くんだ。そちらは勝手に好きなところを見てればいい、私らの事は風景と思ってろ」

 ラナー? 確かこの国の第三王女の名前だったはずだが何故その名前が出る?最高峰の冒険者ともなると国のトップとも顔を利くのか、考えるソリュシャンは口を噤んだ。

「……まぁ考えてあげてもいいわ、でも観光はするからね」

「いいだろう、じゃあちょっと待て、案内は小僧……このクライムにさせるから、少しこちらの打ち合わせがある」

 

 探る目つきのソリュシャンを放っておいてクライムと新たに現れたガガーランを招きよせる。

 

「な、何ですか? 彼女と一緒に行くってどういう事ですか? 意味が解りませんよ」

「おい、イビルアイ。 俺もわけが解らんが、話聞く限り素人を一緒に連れてく気か?」

「まぁ話せば長いが短く言うとだ、クライム。実はここ最近、私達蒼の薔薇のメンバーの周囲に妙な連中が探りを入れて来てるようでな、いや敵は多いし心当たりがあり過ぎて特定はできんのだが……ちょっとうっとおしくなってきたものでな。で誘ってみようかとそう計画してたとこだ」

「おう、今日はその予定だったはずだぜ、人通りの少ない方を二人で適当に流してみようかなって話」

「えっ……そんなの、なお更ダメじゃないですか、そんな危ない所に一般人を連れて行くなんて……」

 チラリと見ると、お嬢様はどうやら護衛の件だけは頷いたようだが、相変わらず不機嫌そうだ。

 

「ふん、だからクライムは私達の前を離れて行け、距離を置いて私らが付く。と言っても尾行じゃないからそんな距離は離れない。やばいと思ったらすぐにガードに入ってやるからお前らは後は任せて逃げていい」

 あれは戦力に見えないだろうし、むしろ我々を襲い易くなるだろうと補足する。

「おい、だから何でアレを連れて行くんだよ、そこの説明になってないだろうが」

 ガガーランの問いにイビルアイはそちらをチラリと見て言った。

「私の勘だが、どうもアレは怪しい、素性も知れないのはともかく、先程は妙な圧力も感じた、もしやアレが刺客もしくはそれに類する者なのかもしれない。存外クライムを使って直接コンタクトを図ってきたのかと、そう思ってな」

 自信ありげに呟くイビルアイ、ええっとクライムは目を丸くする。一方ガガーランは怪訝な目つきでソリュシャンの方を見た。

 

「あれがか? 圧力ぅ? お前別のプレッシャーを勘違いしたんじゃねぇの? まぁ確かに胸部の戦力差はお前とじゃ圧倒的だしな……」

「……何を言ってんだお前は?」

 ソリュシャンの見せ付けるように開いた服と誇示するような見事な胸を見るガガーランが可哀相なものを見る目つきで自分の胸元を見比べるを見て思わずイビルアイは唸った。

「余計なお世話だ、第一お前のだって脂肪じゃなくて筋肉だろうが、……いや何を言わせるんだ。

 ともかくだ、もしや襲撃されたらひょっとアレも正体を現すかもしれん。

 まぁそうなっても私とこいつなら大抵の事は何とかなるし見当違いのハズレだったら、お前にごめんなさいで終わりだ、諦めて付き合え小僧」

「まぁ確かにいきなり童貞が掴まえて来る女としては上玉過ぎて怪しいな……」

 妙な方面から納得されてクライムが顔を顰めた。

 

 そういうのをはどうでもいいがと、実際彼女はらは敵が相当の腕利きとしても自分にガガーランも加えれば大抵の者は返り討ちにする自信がイビルアイにはあった。

 例えそれがこの国最強の戦士ガゼフ並だったとしてもだ、あの程度ならまだ自分の敵では無い、あんなのが何人も居るはずもなく、ガガーランではまだ厳しいだろうがあれ級に何人雑魚が集まっても自分と併せればそうそう遅れは取らないはずだ。

 まぁ狙われているのは自分達であるし探りを入れる人間の方がそこまで腕が立つとは思えない、普通そういうのは待ち伏せの襲撃側だろう。クライムもそこそこ腕は立つし、女が尻尾でも出せば儲けものだ。

 

「……やれやれ、考え過ぎだと思いますけど了解しました、それに考えて見れば彼女のお供の方もまだあの辺りを探しているかもしれませんね」

 元の場所で探せば良かったのか。とクライム。

「まぁあんな綺麗どころ連れてたら別のもんがわんさか寄って来そうだけどな」

「その場合は……お前が前に出れば男の方で逃げ出すだろ、話は以上だ」

 

 けっ酷え言い草だわ、そう言いながらもへいへいと動きガガーランはソリュシャンに軽く挨拶する、横柄な態度で了承した彼女の事は微妙な笑みで流していた。

 

 

「では行きましょうか」

 そうしてクライムが先導する形で一行は宿を出て大通りを出発した。

「まぁそんな心配すんなよ、そっちは自然に歩き回ってくれりゃいいしよ、こんな事したってそうそう事は起こらねぇんだ現実は、一応だよ一応」

「はぁ、解りました自分としてはなるべく早く切り上げて城に帰りたいですし」

 

 クライムとしてはまずは雑踏を避け、大人しく端の方を歩こうとしたのだが、保護対象の女性はまったく彼の事を意に介さず中央を行こうとする。正面にこられた通行人が驚いて彼女の堂々とした態度と美しさに思わず道を空ける。共に行くクライムの方が恐縮してしまった、王族であるラナーと一緒でもこんな事はありえない。

 なぜこうなってしまったのか、ロ・レンテ城の奥に居る彼の主人、彼にととっては信仰とも言える存在、ラナーに早く報告に行きたかった。そして日常に復帰したい。そう考え、それが故に城と言う単語に僅かに彼の方を伺ったソリュシャンの動きにも気が付かなかった。

 

 それにしてもとクライムは思う。この女性はまったく自分の美貌に無頓着である。

 通り過ぎる人の視線を感じないのだろうか、時折物珍しそうに周りを見るその美しい人形のような表情にはまったく気にしてなければ関心も無いように見えた。

 

 まあ生まれつき最初から綺麗な人間と言うのは自分の容姿について無頓着だと言うが、自分も同じぐらい美しいラナーが居なければどうなって居た事か、まさかではあるがこのような人物に惚れたら大変な事なっただろうなとはぼんやりと想像できる。今はどうか何事も起きませんようにとそれだけを心の内に願った。

 実際のところ彼の苦難続きの人生はラナーに関する事以外は期待はあまりと言うかほとんど適った事が無かったのだが、果たしてこの日もそうなのかは彼はまだ知る由も無い。

 何はともあれ女性が増えたので一対一で応対するよりはマシになっただろうと、クライムはそう考えようと努めるのだった。

 

 

 

 

 

 甘かった、イビルアイ達と分断され、彼が大人数の有象無象を相手にスラムの片隅を逃げ回る事になったのはそれから数時間後の事だった。

 




起承転……転まで行けたのか。もうお笑いとか諦めたのでそれっぽいのは次別話で。イビルアイとの面識はどうだったけ、確かユリとシズが相手だったはずと思って確認したらエントマ以外は仮面被ってたヤルダバオトGJ。
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