なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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少し雰囲気を変えてみました。






GGO/鏡面模倣の双銃剣士
原作開始前


 

 

 

 

 

 ―――生きたい。

 

 ただそれだけの願いが膨れ上がっていく。かき消えそうな命の灯火。それに比例するように、再現なく生への渇望と死への拒絶が肥大化していく。

 

 ―――死にたくない。

 

 だがその願いが聞き届けられることはない。急速に低下していく体温と流れ出る膨大な血液は、避けようのない死の運命を宣告している。

 すでに痛みなどない。いや、痛むのかもしれないがそれを伝える神経が機能していない。もはや指一本すら動かせず、肉体はとうにその役目を放棄している。

 

 ―――嗚呼、無様な人生だった。

 

 脳裏を走り抜ける走馬灯を見ていると、そんな感想が浮かんだ。別段成功もしていなければ失敗もしていない人生。有り体に言えばつまらない、それでいてありふれているような人生。だがそれもここで終わりを告げる。それは、すでに確定している事象だ。

 

 ―――生きたかった。

 

 何も成さぬまま死んでいく。そのことが悔しくてたまらない。生きたい。生きたい。生きたい。なんでもいい、この人生が駄目なら来世でもいい。ただ生きたい。忘れられることが怖い。何かを刻みたい。オレという人間が生きていたことを証明するために。何かを成したい。オレという存在の価値を証明するために。

 生きたい。生きたい。生きたい。

オレはまだ、死にたくない―――。

 

 

 

 

『その願い―――聞き届けよう』

 

 

 

 

 これはきっと。

自然の摂理をねじ曲げた、愚か者の物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おい、恭二。手が止まってるぞ」

「あー、悪ぃ兄貴。もうエリア移動したのか」

 

 俺は慌てて止まっていた指を動かし、自分のキャラクターを操作する。つったかつったか走るその姿は信じられないくらいにヌルヌル動いていた。……時代の差を感じるなあ。さすがはプレステ6。

 ―――俺の前世はプレステ4までしかなかったんだけどなあ、と。そんなことを考えながら、キャラを操作していく。

 

 そう、俺はいわゆる"転生者"という奴である。前世の記憶は微妙にある。というのも、記憶があるにはあるのだが"前世の俺"の詳しい記憶のみが奇妙にぼやけてしまっているのだ。

 家族構成はわかる。だが名前と顔がわからない。

何処に住んでいたかはわかる。だが通っていた学校がわからない。

 ―――自分のかつての名前も、黒く塗り潰されたかのように消えているのはいっそ不気味だ。自分という存在の詳細に関してのみ、全く思い出せないのだ。明らかに作為的なものを感じる。

 

 ……ただ1つ。覚えていることがあるとするならば、俺はこの世界を知っているのだ。

 そう、この近未来の世界―――「ソードアート・オンライン」の世界を。

 

「このプレステ6っていくらしたんだっけ」

「大体十二万と少しじゃないか?」

 

 うわたっけえ、と俺は感想を漏らした。そしてこれをあっさりと買える我が家すげえ。これ以外にも最新型ゲーム機はほぼコンプしてるし。

 

「リメイク版のモンハン楽しいなあ……レウス業火種とか昔いなかったろうに」

「……昔を知ってるような言い種だな」

「レトロゲーもやってるしね。楽しいぜ?PSPのあのシャカシャカいう音」

「うるさいだけだろ」

「それを言っちゃおしまいよ」

 

 画質めっさ悪いしな。2ndGもリメイク出たからもはやただの化石扱いである。

 

「……なあ、恭二」

「なんだよ兄貴」

 

 カチカチとボタンを押す音だけが響く中、兄―――新川昌一は躊躇いがちにこう言った。

 

「ソードアート・オンラインって知ってるか?」

 

 ―――ソードアート・オンライン。通称SAOと呼ばれるそれは、近日発売予定のVRMMOゲームのタイトルである。前々から大々的に宣伝しているそれはかなり有名であり、βテストの時点で2ちゃんの鯖が落ちかねないほど話題が沸騰した、VR初のMMOゲーだ。

 ……まあ、ゲーマーが発狂する気持ちもわかる。30年前から夢見ていたVRMMOがついに現実(リアル)のものとなるのだ。そりゃ有名にもなる。しかもβテストでも生半可な出来ではないと太鼓判を押されたのだ。そりゃみんなこぞって手に入れようとするだろう。中には「一週間前から並ぶ」とかいう猛者もいるとか。多分ヤフーオークションだと一本50万は下るまい。なにせ、初回販売はきっかり一万本しかないのだから。

 

 ―――まあ、これがデスゲームになっちまうのを知っている身からするとアホらしくてしょうがない。

 

「……悪ぃ。テスト近いから多分できねえわ。最近親父も煩いし、ある程度やっとかなきゃな」

「そうか……」

 

 少し肩を落とす兄に苦笑し、俺は一応忠告してやることにした。

 

「……兄貴もテスト近いだろ?買うだけ買って、後からやればいいじゃん。というか俺のテストが終わるまで待ってくれねえか?」

「……すまん。だが、オレもゲーマーとしてこれは譲れない」

 

 だろうな、と俺は肩をすくめた。うちの兄貴は筋金入りのゲーマーだ。おそらくSAOを止めさせようとしても聞く耳を持つまい。デスゲームに巻き込まれるのを知っている身としては心苦しいが、まあ死なないのを期待して待っとくくらいしか出来ないだろう。

 

「了解。ま、先に兄貴だけでも楽しんどけって」

「しっかり楽しんでくるさ」

 

 再び、カチカチとボタンを押す音だけがリビングに響く。別に仲が悪いわけではないし、こんな兄弟もありなんじゃなかろうか。

 

 

 

 

 ―――ところで。新川恭二って名前聞いたことあるような気がするけど、気のせいだよな?

 






主人公の原作知識は曖昧。詳しい名前なんてほとんど覚えてません。

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