なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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あけましておめでとうございます。今年もよろしくです。
では、新年初投稿の十五話です。ドゾー。






狂った歯車

 

 

 

 

「むっかつく......」

 

ガツン、と。

 

「......あの男!」

 

スニーカーの爪先で蹴り飛ばされたブランコの鉄柱が音を立て、俺は蹴った本人である朝田へと目を向ける。直後に「いったぁ......」と溢しながら少々涙目になっていたのはご愛嬌だろう。うん、そりゃ全力で鉄を蹴ったら痛いよね。

 

「......はぁ。とりあえず落ち着け。なんか飲むか?」

 

だが最後まで聞くことなく、不機嫌な朝田によって俺の左手から缶コーヒーがかっぱらわれる。いや、その、それ俺のなんですけど。別に俺のをやるとかそーゆー意味じゃなかったんだが。

そんな抗議の意味をこめて朝田に視線をやる──が、それに気付くことなく憐れ缶コーヒーは飲み干される。よくよく考えたらこれって間接なんとかな気がしないでもないが、本人が一切気にしてなさそうなのでスルーしておくことにした。

 

「にしても珍しいな。お前がそこまで言うなんて」

「だってさ......」

 

朝田詩乃、という少女は基本的に他人にそこまで興味がない。そもそも眼中にない、と言ってもいいだろう。故に他人に関してぐちぐち言うことはほとんどなかった。そもそも喋る相手がいない、というのもあるだろうが。

......あー、いや、別にお前がぼっちだとか言うつもりはないから。だからこっち睨まないでくださいごめんなさい。

そう心中で謝罪すると、朝田はふす、と鼻を鳴らして唇を尖らせる。そして、拗ねたように呟いた。

 

「......図々しくて、セクハラやろーで、カッコつけてて......だいたい、わざわざGGOに来てまで剣で闘わなくてもいいじゃないのよ」

 

ブツブツとそう文句を垂れ流しつつ、朝田は足下の小石を蹴り飛ばす。ついでに言うとその石は全部こっちに飛んできているためすこぶる痛かった。ええい的確に脛を狙うな。

 

「そのうえ、最初は女の子のフリして、私にショップを案内させたり装備選ばせたりしたのよ! 危うくお金まで貸しちゃうとこだったわよ。あ──もう、アイツにパーソナルカード渡しちゃったし......まったく、何が『リザインしてくれ』よ!」

「着実に攻略されてますな......」

「なんか言った!?」

「いえなんでもないですはい」

 

原作だとこうして朝田に興味を持たれ、そこからなし崩し的に攻略していったんだっけか。さすがキリトさん、ナチュラル女たらしはやはり健在か。というより、ああいうフェミニスト的な台詞を臆面もなく吐ける胆力がほんと凄い。もう見てる方が肌痒くなったわ。だが様になっているのがさすがと言うべきか。イケメンマジパねぇっす。

 

「......なによ?」

 

そんなことを考えながら朝田の横顔を見ていると、視線に気付いたのか訝しげな顔でこちらを向いてくる。それにどう答えたものかと考え、俺は口を開いた。

 

「んーにゃ? お前がそんなに他人のことを色々言うの初めてだろ?」

「......そう?」

「そうだろ。お前、普段全く興味なさそうだし」

 

言われてみれば、という表情になる朝田。それを見つつ、俺は本選開始まで後三時間だな──と他人事のように考えながら欠伸をした。

一回戦以後は全くと言っていいほど苦戦しなかったせいか、不完全燃焼めいた感じになっている。だがそんな精神とは裏腹に、体のほうは結構疲れている、というよりは凝っていた。そして長時間のダイブによる疲労を解消するために外に出たはいいが、こうして愚痴に付き合わされることになってしまったのは計算外であった。

 

......ほんと、なんでこうタイミング良く遭遇してしまうのだろうか。だがよくよく考えたらどちらにしろあっちで愚痴に付き合わされることになってただろうな、と思い当たり溜め息を吐く。

 

「......私、怒りっぽいのよ、これでも」

 

知ってた。

 

その言葉を危うい所で飲み込み、「へぇー(棒)」と相槌を打っておく。我ながらファインプレーだったと思う。あのまま言ったら絶対怒られてた。

そうして「この借りは絶対倍返しにしてやる......!」とぶつぶつ呟いてるアブナイ人から目を逸らすと、俺はふと今回の目的について思い出す。俺がこの大会に参加した目的の四割はもうすでに達成されている。すなわち、主人公(キリト)との接触である。だが、欲を言うならばもう少し繋がりを持ちたい。より正確に言うならば、『キリトと戦いたい』。純粋なゲーマーとしても、俺はキリトと矛を交えることを楽しみにしていた。

 

──二年間、ひたすらに剣を振ってきた生粋の廃人ゲーマー。それと戦える機会なんざ滅多にない。折角本選まで来れたのだから、最高峰の剣技を生で体験してみたいと思うのは当然だ。

 

「............」

 

ちらり、と。横目で少女を見やり、俺は首を横に振る。この憤怒に口をへの字に曲げている少女も確かに強いが、何かが足りないのだ。あと一歩及ばない。強いっちゃ強いが、それはあいつらのような"振り切れた"強さではない。それは主人公補正とかそんなのではなく、ただ純然たる"差"。それはあと少しなのに、隔絶したような──届きそうで届かない、絶妙な壁だ。

 

ならば、その差はなんなのだろうか。いや、わかりかけてはきている。だが確信はない。自分もあちら側に──SAO生還者(サバイバー)達と同じような"廃人(バケモノ)"と呼ばれる側へと足を踏み入れつつあるのはわかっているが、何が違うのかはまだわかっていなかった。意志の力、だとか。魂の力、だとか。そんな綺麗なモノじゃないことは確かだ。そんな嘘臭い言葉で表せるものじゃなくて、これはきっと、恐ろしく単純なモノだという確信があった。

ひょっとすると、これは死銃(デス・ガン)とやらにも当てはまることなのかもしれない。だからこそ、奴とも会ってみたかった。

 

 

 

──だが、何故だろうか。俺はこの時、死銃に会うことを望みながらも、恐れていたのだ。理由などない──いや、本当はわかっていたのかもしれない。奴と会えば、何かがどうしようもなく終わってしまうことが。俺と奴は、致命的なまでに正しく天敵足り得るということが。

 

俺は、薄々勘づいていた筈なのだ。死銃というプレイヤーの正体に。

 

「......? どうしたのよ、そんなニヤニヤして。気持ち悪いわよ」

「さらっと酷くねぇか!?」

 

この時の俺は朝田の声によって誤魔化されてしまい、すぐにその違和感から目を逸らしてしまっていた。だがもしこの時、俺がこの矛盾に気付いていたら。自身に巣食う恐怖の原点をしっかりと見据えていたら、結末は違っていたのかもしれない。

だが、もう遅い。すでに俺は間違えたのだ。否、間違えるもなにも、最初から間違っていたのかもしれない。

 

「......じゃ、そろそろ帰りますかね」

 

物語は、どのような形であれ終わりを迎える。

 

──それが、最悪の終わり方(バッドエンド)だったとしても、である。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

バレットオブバレッツ──BoBの本選は、予選がタイマンの決闘であるのに対して複数人によるバトルロワイアルだ。直径十キロの、ほぼ円形な孤島を丸ごと用いて行われる総勢三十人の殺し合いである。

 

そして──その本選が始まって、既に三十分ほど経過しようとしていた。

 

「......そろそろか」

 

欠伸をしながら、樹上で端末を取り出して待機。そしてデジタルの時計が8時半になった瞬間、南から順にスキャニングが始まった。

......五秒ほどで完了したスキャン。それによって判明した現在の生存者は21。つまり、9人が既に死亡したということである。そのうち俺が始末したのは一人──俺が今いる森林地帯でトラップなどを仕掛けようとしていたプレイヤーを殺したのだ。神速で距離を詰めて頭蓋に二、三発叩き込んで速攻で沈めたが、そのお陰で森林地帯の安全はほぼ確保できたと言って良い。というか、俺が最も活躍できるのは障害物だらけの森林地帯くらいなのである。故にずっと此処にいたい気持ちはあるが、そろそろ移動するべきだろう。だが島の中では南東に位置する森林地帯を出るとしたらどちらに行けばいいのだろうか。

 

......端末に表示される光点をタップして名前を確認していくと、判明した事実としてはまずシノンはこの森林地帯から南西にある山岳地帯をうろちょろしているということ。そして、我らがキリトはと言えば森林地帯から山岳地帯へと真っ直ぐ移動中だということだ。どうやら予想以上に近くにいたらしい。こっちに来なくてほっとしている反面、戦いにならなかったことを残念がる自分がいることに苦笑する。

 

......後は、《ペイルライダー》と《ダイン》が追いかけっこでもするかのように鉄橋方面へと森林地帯を突っ切っている、というところだろうか。うん、30人もいるだけあって結構プレイヤーが近くにいるようだ。割りと不意打ちを食らいそうで怖い。やはり移動するべきだろう。ひょっとすると、俺を始末するべく移動するプレイヤーもいるかもしれない。そんなに恨みを買ってるつもりはないが、良くも悪くも名が知られているのは認めざるをえない。

 

まぁ、それはともかく。

 

「......北の田園地帯か、川沿いに遺跡に行くか」

 

どちらにしようか、と唸る。単純にこの大会を勝ち進めるのが目的であれば、田園地帯をうろちょろしつつプレイヤーを間引きし、さらに北の砂漠地帯に向かうべきだろう。正直、遺跡地帯はなるべく避けたい。あのエリアは完全に狙撃兵(スナイパー)の独壇場だ。入り組んだ廃墟を利用して射線を限定させ、位置を割り出して殺す──なんていう高等テクは今の俺にはない。どちらかというと、俺はそうやって頭で考えるよりは特攻して叩き潰すタイプなのだ。おおまかな戦略レベルでは物を考えられても、戦術レベルでは無理だ。よって、遺跡は後回し──

 

「にしようと思ってたんだけどな」

 

今回はただ勝つだけではダメだ。キリト、そして死銃と呼ばれるイレギュラーと如何にして一対一に持ち込むか。つまり、戦況を俯瞰しつつ誘導しなければならない。今後のアリシゼーションなどの展開を考えれば最も避けねばならないのは俺の行動によって、キリトやシノンが死銃に殺されることだが──俺としても、この大会は負けられない。多少のリスクは無視して死銃と相対しなければならないのだ。

 

──そのためには、何人か死銃に殺されようが知ったこっちゃない。

 

「......とりま、こいつには死んでもらうかね」

 

死銃の正体はわからない。俺の足りない脳味噌を駆使しても、絞り込めた候補は五人程度。ならばその候補をしらみ潰しに殺していけば、いつかは奴に会える。

 

「──くは」

 

FN・FALの薬室に薬莢を送り込み、俺は自分が"舞台"に上がっているという事実に身震いする。これだ、これが欲しかったのだ。

俺の行動で、"物語"が変わる。俺にも"役割(ロール)"がある。もう背景(モブ)以下の俯瞰者ではない。

 

 

 

『......はは。うん、君がそれでいいなら、いいと思うよ。もうきっと止められない。(キミ)の壮大な自殺は、僕じゃ止めれない。だって、根幹の思いは同じだから』

 

 

何処かで、誰かが諦めたように笑う。きっとその正体にもわかっている。だが、俺はそれに気付かないフリをして黙殺した。

 

「......目指すは"遺跡地帯"。目標は"銃士X"」

 

たった一人の行動で、原作(モノガタリ)は狂っていく。

その事実に歓喜しながら──俺は田園地帯を突っ切るようなルートを脳裏に展開しつつ、アサルトライフルを構えて走り出した。

 

 

 







ついに本性を現し始めたシュピーゲル。死銃ってダレナンダロウナー(棒)。

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