なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。 作:あぽくりふ
死銃との乱闘、そして金属馬を用いての追撃戦を経て俺はシノンと合流することに成功した。
......まぁ合流も何も同盟すら組んでないという事実があったりするのだが、そこは置いとくとして。
「何とか振り切った......いや、逃げられたって言ったほうがよかったのかね、ありゃ」
銃撃から逃れられたと喜ぶべきか、まんまと敵前逃亡を許したと嘆くべきか。判断に困るところだが──。
「前向きに考えましょう。あの状況じゃ勝ち目も薄かったし、仕切り直せてむしろよかったわ」
「いや......うん、まぁ、そうだな」
考え方というのは事の他重要だ。希望も抱けない程に悲観するのは避けるべきだが、かといって愚鈍に過ぎるほど楽観であることも望ましくない。次に起こす行動へと繋げられるような前向きさが必要なのだ。
まぁ、要はマイナス思考を止めろということだ。シノンの言葉も最もだと俺は内心で頷いた。
「にしても、迎撃するのが砂漠のど真ん中とはね。大した慧眼だこって」
金属馬から降りたのが数分前。ぎらつく太陽の下、俺は洞窟の中から外へと顔を出してすぐに引っ込める。
「しょうがないじゃない、あの透明マント対策にはここが一番でしょう?」
そう言って、隣でシノンは口を尖らせた。......とは言え、別に俺は皮肉のつもりで言ったわけではなく、割と本気で感心していた。実際に光学迷彩を持っている身からすれば、こういった足跡がくっきりと残ったり踏み込めば音がなる地面は鬼門だ。
......逆説的に俺も使えなくなるから、思わず皮肉るような口調になってしまったが。
「ま、後はあの骸骨仮面が引っ掛かってくれるか、だな」
「......死銃はキリトと因縁がある。それも尋常でないモノよ。必ず現れるはずだわ」
その言葉は確信を滲ませている。キリトから何かを聞いたのだろうか、と考えつつ前方へと俺は視線をやる。
......ゲームの中とはいえ砂漠のど真ん中で真っ黒な装備とは見てるだけで暑くなってくる。お陰で見つけやすくはあるが、何故オタという存在は黒い装備を好むのだろうかと肩を竦めた。
「あー、あー。聞こえるか?」
『......ああ、聞こえるぞ』
「ん。異常は?」
波長を合わせた骨伝導ヘッドセットの向こうから響く声。俺がそう尋ねると、一拍置いて返事が返ってきた。
『今のところは、ない。けど見られてる感覚はする。シノンに警戒を緩めるなって言っといてくれよ』
「はいはい。......つーか、何だよその"感覚"って。お前は動物か何かか」
『しょうがないだろ、そうとしか言えないんだよ。ほら、殺気を感じたりすることってあるだろ?』
「ねーよ」
あるぇー?と届く声に対し、俺は盛大に溜め息を吐く。さすが主人公、意味のわからない直感を持っている。
「ったく、第六感でももってんのか」
『......《
「はいはい厨二乙。さすが銃の世界で剣振り回すだけあるぜ」
『二挺拳銃使ってるシュピーゲルには言われたくないぞ』
「うるせえ厨二とロマンを一緒にするんじゃねぇよ!」
ぎゃんぎゃんとアホみたいなやり取りをしていると、ふと隣から視線がびしびし突き刺さっているのを感じ──いや違う、これなんか物理的なもんが刺さってる。
「あ、あの......シノンさん? なんで弾を人の脇腹に刺してるんですかね?」
「......別に。何でもない」
何でもないなら狙撃用の弾でつっつくの止めてくれませんかね。地味に痛い。
何故かむくれるシノンを他所に、俺は再度前方を観察する。広がるのはひたすらに砂、砂、砂。
「一応警戒しとけよ。あいつがこっちに来る可能性もあるんだからな」
「あんたのこのぼろマントがあるなら大丈夫でしょ」
「......好きでぼろぼろにしたわけじゃねーよ。それ、性能は良いけど耐久度がガンガン減ってくんだって」
死銃と寸分違わぬ光学迷彩の外套。同種の切り札を持つからこそその弱点は隅々まで理解できている。
「キリトに関してのあーだこーだは知ったこっちゃないが──あいつはここで出て行かざるを得ない。そこを叩けば一丁上がりというわけだ」
口の端を僅かに歪め、そう断言した。明らかに罠だとわかっていても飛び込まざるを得ない状況だ。これ見よがしに立っているキリトを見れば誰だって罠を警戒する。だが時間はない。──ならば速攻でキリトを殺ればいい。
奴ならばそう考え、罠を内から食い破らんとするだろう。そこを確実に仕留めるのがシノンの役目、というわけである。
「......ほら見ろよ。予想より若干早いが────おいでなすったみたいだぜ?」
『──来た。二時の方角、狙撃ッ!』
轟き渡る銃声に、上体を反らしながら回避するキリト。恐らく不可視となったはずの死銃の狙撃を回避したのだろう。普通は避けようと思って避けられるようなものではないが、まぁあれは
「......さて。どう転がるかねぇ?」
原作であれば、キリトは勝った。しかしそれは俺の記憶が正しければ、シノンの援護あってのことである。
「
さあ、ここからだ。俺の復讐はここから始まる。
──陳腐な英雄劇なんて柄じゃない。
望むのはたった一つ。
「"尊厳ある生を。然らずんば、殉教者としての死を"............なんてな」
「......なんか言った?」
「んにゃ、別に」
ちらりとこちらを訝しげに見た後に、シノンは視線をスコープへと戻す。俺はその無防備な首筋を見つめて、薄く嗤う。
「さぁ、ショウ・タイムだ」
奇しくもかつてのSAO事件における殺人鬼と同様の言葉を口にし、俺は何の躊躇いもなくコンバットナイフを降り下ろした。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「くっ......!」
放たれる刺突。もはや目で追えない速度で急所へと迫る突きは、その一つ一つが確殺たらしめるものだ。その技量は尋常ではない。
──だからこそ。その悉くを回避する少年の技量、或いは本能的直感は異常という他になかった。
「......さすが、だな。黒の剣士の名は、伊達ではない、か」
「俺を、知ってるのか......!?」
キリトが右手に持つは光剣カゲミツであり、左手に握られるのは単発威力の高い拳銃として有名なファイブセブン。そして相対する骸骨面の男の獲物もそれに酷似している。狙撃に用いられた銃はストレージに収納されたのだろう。
援護はまだか。突如途絶した通信器に不安感を覚えるも、目の前の死神の猛攻を凌ぐだけで手一杯なのが現状だ。何が起きたかはわからないが、あちらで対処して貰うしかない──。
「考える、余裕が、あるとはな」
「っ──!」
舐められたものだ。
そう告げると同時に、更に速度を増した剣閃がキリトですら完全な回避が不可能な領域に到達する。まだ上がるのか、という畏れ──そしてその剣に乗った濃密な殺意に、キリトは僅かながらも恐怖を抱いている己を自覚する。
......いや、敢えて断言しよう。この骸骨面の男の剣の技量は、明らかに"
「......黒の剣士。SAO事件の立役者にして、VRMMOにおける、頂点に座すプレイヤー」
淡々と。
緻密な剣技、そして距離を取ろうとすればすかさず牽制する弾丸に苦い思いを抱くキリトを他所に、男は──"
「そんなお前のトラウマは『デスゲーム』、だ。妙な噂を流せばすぐに釣れると思っていたが、まさにその通りだったな」
「お前......!?」
いつになくそう流暢に語ると、骸骨面の奥の目が歪み、嗤った。視線に乗った殺気は仮想空間であるという事実すら越えてキリトへと突き刺さり、今度は明確にキリトを恐怖させた。純粋で濃密で、そしてこの年になるまで味わったことのない──吐き気がするほどの"怨恨"。恐怖するなという方が間違っている。
何せ、キリト......即ち桐ヶ谷和人はよくよく考えてみれば
しかし。それはあくまで
彼とて嫉妬や憎悪といった負の感情に晒されたことは何度もある。ネットゲームとはその坩堝と言っても過言ではない。その程度の誹謗中傷に傷ついていてはオンラインゲームなどやっていられない。
「"恐れた"な? ......ならばつまり、貴様はその程度だと言うことか」
だが、それでもやはり
誰もが生き足掻き、血を流し這いずり回りながら他人を地獄の底へと引き摺り落とそうとする煉獄。まさにこの世の底、情念と怨恨の渦、誰もが平等に正義でありながら悪でもある対等な殺戮演義。そんな本来
自身が殺した人間が紡いできた
「疾く死ね、黒の剣士」
突き出されるは神速の刺突剣。絶望的な速度で伸びる剣先は恐怖に飲まれた剣士の心臓を、容易く穿つ。
──寸前、其は轟音と共に叩き落とされた。
「......ク」
骸骨面の奥から笑みが零れる。
確かに恐怖に飲まれたことは事実だ。しかしそれで尚踏み込んでくるのが"黒の剣士"なのである。まさに天然の英雄、こればかりは模倣しようのない
意識的か無意識的かはともかく、黒い剣士は未だに健在。恐怖に塗れようとその瞳はしっかりと死銃を見据え、刺突を叩き落とした光剣のグリップは握られている。
「お、ぉおおオオオオ──ッ!」
咆哮と共に再開される剣撃と回避の乱舞。あるはずの支援はなく、黒の剣士は死神と踊る。
──幸か不幸か、桐ヶ谷和人はあまりに
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「おうおう、やってるっぽいな。......しかし、それにしても、だ」
飄々と。しかしながら僅かに焦りを滲ませながら、俺は呟いた。
「まさか
「......何を、言ってるの?」
降り下ろした筈のナイフを寸での所で回避され、直後に銃口を突き付けられホールドアップさせられた状態。まさに絶体絶命、呆れる程に裏目が出た様に俺は内心で呆れると同時に歯を噛み締める。
「別に。なかなか良い勘をしている、と思っただけのことさ。ここまで完璧に失敗した自分にほとほと呆れた所だ」
「......そう。で、何でこんな真似をしたの?」
此方を見つめる瞳から目を逸らし、俺は鼻を鳴らした。地面に転がるのは二挺の拳銃にアーミーナイフ──即ち今の俺は丸腰に等しい。逆転の目は、果たしてあるのか。
「何で......ねぇ。いや、ああまで露骨に隙だらけだとつい始末したくなったんだよ。別に俺は一言も、お前らの味方だと公言したことはなかっただろう?」
「そう、ね。確かに言ってなかったかもしれない」
「ああ、ただそれだけの事だ。元から隙さえありゃ寝首をかくつもりだったからな......それがたまたま今で、そして失敗しちまった」
苦笑いを口の端に浮かべ、俺は肩を竦める。格好がつかないにも程がある。大言壮語を吐いてあんな隙だらけの背後からの奇襲に失敗するなど──。
「嘘つき」
「──────」
思わず絶句し、吐き出しかけた息を飲んだ。
「じゃあ、なんであの時私を死銃から助けたの? 何で──このナイフには
震える声で指摘される事実。よもやそこまで観察されているとは思わず、顔が歪む。
「何故かは知らないけど、あんたは
「..................」
必死に思考を巡らせる。そんな俺を睨み、シノンは叫んだ。
「答えなさい......シュピーゲルッ!」
洞窟内に声が反響する。俺は微かに肩を揺らしながら、ハ、と声を漏らした。
「それを知ってどうするんだ、シノン。俺はただお前を背後から殺そうとした下手人だ。それで十分だろう?」
「......教えてくれる気は、ないのね」
「ああ、ない。だが、一つアドバイスをしておこう」
つくづく勘の良い女だ。だからこそ──邪魔されるわけにはいかないと、確信した。
「敵と喋るな。それも、俺のような奴が相手なら尚更に」
「なっ──!?」
特化したAGIにより瞬時に最高速へと移行し、跳躍と同時に銃口を蹴り飛ばす。高い敏捷値は接近戦でこそ真価を発揮する──こういった格闘戦に慣れていないシノンの弱点を突いた、一見無謀とも思える危機的状況からの戦闘だ。しかしこうまで彼我の距離が近いと、時に銃というものは足枷にも成りうる。
「例えば、こんな風に......な」
上空からの側頭部への蹴りが綺麗に決まり、シノンはもんどり打って地面へと転がる。しかし俺は容赦なくそこに追撃を加え、そして拾い上げたナイフを振るった。
時に銃を捨ててでも対応するべき状況になることもある。こうした経験の少なさ──狙撃手であるシノンの弱点が見事に露呈した形となったが、もしこの相手がピトフーイやキリトならばこう上手く事は運ばなかっただろう。
「ぐ......シュピー、ゲル......!」
「悪ぃな。お前にゃ少し動いて欲しくないんでね......なに、ほんの十分や十五分の辛抱だ」
そう告げると、麻痺ナイフを脇腹から引き抜いてベルトの鞘へと納めた。そして愛用の二挺拳銃を拾い上げ、俺は冷めた目で動かなくなった少女を見下ろす。しかし殺すわけにはいかない。『原作』では恐らくキリトとシノンの二人が同時優勝していたはず......可能な限り
──しかし、一瞬。ほんの一瞬胸が苦しくなった気がしたが、すぐにその違和感も消える。
そうして倒れ伏すシノンを視界から外すと、俺はメニュー画面を開いて時間を確認し、頷いた。
「少しヒヤリとさせられたが、まぁ......許容範囲内だ」
まだ間に合う。
恐らく今頃斬り合っているだろうキリトがいる方面へと顔を向け、ぼろ布のような光学迷彩を身に纏う。全てはこのためだったのだ。誰にも邪魔はさせない。させてなどやるものか。
人は生まれる時を選ぶことは出来ない。しかし、死ぬ時は選ぶことが出来る。そうして初めて、俺は俺であることを証明できるのだから──。
はい、と言うわけでモンハンのダブルクロスじゃなくて
正直ここからは色々とアレだな?と思うところも多々ありますが、これ以上ぐだぐだ書いては消してをひたすら繰り返していても埒が明かないので思いきって投稿することにしました。
一応エンディング......というかGGO編の終わりまでは見えたので投稿を少量ずつ投下していく予定です。色々とツッコミ所も多いしオリジナル要素満載ですが、暖かく見守ってくれたらなぁ、と思います。