なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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私は世界に二人いる。
現実(こっち)過去(あっち)に一人ずつ──。











誤算

 

 

 

 

 【未來視(ディヴィジョン)/魔弾ノ射手(デア・フライシュッツ)】。

 

 大層な名をつけてはいるが、その能力の本質は人間の能力の延長線上にあるものだ。簡単に言えば空間把握能力に割くリソースを極限まで高めたものにすぎない。筋力に本来リミッターが存在するように、普段は稼働していない脳の演算領域のほぼ全てを導入しているのだ。......この芸当は彼のとある特異性(・・・)によるものが大きいが、今は割愛しておく。

 

 無論、そのような芸当をしでかせばどのような後遺症が残るかはわからない。下手をすれば前世どころかあらゆる記憶を喪失したとしてもおかしくはなかった。

 

「"予測演算(trigger)"、"完了(off)"──」

 

 リミッターを外すべく繰り返される自己暗示の詠唱。既に視界は赤く染まり、脳に走る鈍痛は一秒毎に増していく。明らかに正常ではない──だが、そこまでの危険性(リスク)を背負わなければ真性の天賦には追い付かない。

 しかしそれは、逆に言ってしまえば──追い付いた、追い付いてしまったということでもあった。

 

「その程度ならいくらでも当たるぞ?」

 

 双銃が吼え、放たれる弾丸は的確にキリトの体を食い破る。まさに魔弾(タスラム)──目線では全く判断できず、かといって引き金が引かれるまで弾道予測線は不可視のまま。剣を振るえど、たまに偶然のように防ぐ程度のもの。今やキリトに絶対的防御性は存在せず──英雄は凡人の領域へと零落する。

 

「そら、早くしないと......全員死ぬぜ?」

 

 足りぬモノは代償と努力で埋め、無双の剣士へと引き金を引く。その一挙手一投足が演算結果であり、確実に詰み(チェックメイト)へと歩を進めていく。キリトの得意とする近接戦に持ち込ませず、持ち込んだとしても銃撃手(ガンナー)とは思えないほど巧みな銃剣術により容易く凌がれる。攻守完璧に完成した男がそこに立っていた。

 

 いや、もしこれがキリトではなく他のプレイヤー......アサルトライフルやサブマシンガンを保有するプレイヤーならばこうも一方的にはならなかったのだろう。だがシュピーゲルは、最早謀ったかのように(・・・・・・・・)キリトを封殺しにきている。まさしく対キリト専用(英雄殺し)のスタイルなのだ。

 

「お前、どうしてそこまで......っ!」

 

 戸惑いながらもシュピーゲルの猛攻をギリギリで凌ぎ、キリトは疑問を口にした。

 何が彼をそこまで突き動かすのか理解不可能だった。シュピーゲルという男は"SAO生還者(サバイバー)"というわけでもなく、かと言ってピトフーイと呼ばれる狂人のように"SAO失敗者(ルーザー)"でもない。しかし一撃一撃に込められる執念──心意(ココロ)死銃(デス・ガン)にすら匹敵するという異質なもの。

 キリトのような天然の英雄であるわけでもなく、死銃(デス・ガン)のように殺人に魅せられたわけでもない。故に本来ステージに上がるはずのない少年は(ひとえ)に異質な存在感を放っていた。

 

(......それに、段々動きが良くなっている)

 

 否。段々、などというレベルではなかった。

 一瞬前にキリトが用いた体重移動、歩法、それを完璧に記憶したシュピーゲルは一秒毎にそれを自身の動きへ刷り合わせて(フィードバックして)いく。経験を飛び越え最適解を記憶し、蓄積した記録(ログ)模倣(トレース)することでシュピーゲルは進化──深化(・・)していくのだ。

 時間をかければかけるほどに英雄(キリト)は不利になっていく。【未來視(ディヴィジョン)】の完全記憶能力とはそういうものであり、鏡面(シュピーゲル)の名に違わず、まさしく鏡写しのようにシュピーゲルはキリトの体術を模倣していた。

 

「────!」

 

 一か八かで突貫する。だがそれすらも見透かしたかのように、薄ら笑いを浮かべながらシュピーゲルは対応した。

 

 片手剣突進技《レイジスパイク》を牽制射撃で封殺し、《ホリゾンタル》を懐に潜り込むことで回避。《シャープネイル》を肘の内側を打つことで停止させ、蛇の如く首へ伸びる銃剣──それを寸前で避けたキリトは胸中で毒づく。成る程、手の内は全て知られているわけか──と。

 

 しかし、忘れてはならない。この戦場にはもう一人存在しているのだ。

 

「邪魔すんじゃねェよ、骨野郎」

「ほざけ。そこの男は、死銃(デス・ガン)の名にかけて......私が、殺す」

 

「そうか。じゃ、まずは貴様(テメェ)から死ね」

 

 透明化した状態から放たれる弾丸をさも当然のように避け、カウンターとして精密な弾道描いて吐き出される拳銃弾。さらに其を回避し、死銃によってキリト諸共屠らんと引き金を引かれるライフル。

 

 透明化を容易く見破るシュピーゲルも異常だが、それに比肩する死銃も異常だ。どちらもある種狂気的とも言える修練と執念、そして仮想世界における怪物的才能によって昇華されている。そんな規格外が三人存在しているこの戦場はまさに魔境と化していた。

 

 

 

『元から素質はあった......んだろうけどね』

 

 寂しそうにソレは笑う。

 今となっては彼方(あちら)此方(こちら)、どちらに根差していたものなのかは分からない。太極図の如くはっきりと分かれていながらどうしようもなく混沌の如く混ざってしまっている以上、どちらのものかなど問うことすらバカらしい。

 だが、本来これは必要のないものだった。彼が望まなければ、その片鱗すら見せることなく凡庸に生きていたのだろう。人は誰しも特化した方向性があり、彼の場合それがたまたま(・・・・)仮想空間という肉体の制限無き世界で、才能として開花させたに過ぎない。

 

『才能はあった。時間もあった。そしてあろうことか、歪んでしまった(オレ)は鋼鉄の精神を得てしまった』

 

 歪であろうと皹が入っていようと、新川恭二に成り果てた(・・・・・)少年は怪物的な精神を持っている。如何に仮想世界と言えど数千数万に至る技術の修練は精神を磨り減らす。足りない手数を二挺拳銃という局所的実用性しか持ちえない武装で補い、ただ架空の英雄(原作のキリト)を真正面から打倒するためだけに特化した戦闘スタイルを確立させた。

 逆恨みでしかない復讐心は"世界そのものが違う"という絶対的孤独感によって育まれたもの。故に幼い頃から培われたその心意(ココロ)は絶対的強度を誇り、まさに負の極致へと到達している。

 

 二刀流の英雄(キリト)に相対するは二挺拳銃(トゥーハンド)鏡像(シュピーゲル)

 正と負。剣と銃。他人のために立ち上がる黒の剣士と独り善がりの復讐を突きつける鏡の銃士。

 

 まさしく何から何まで正反対に仕立て上げられたその少年だが──しかしながらその真意こそ『全力を尽くした上で敗北したい』『踏み台であろうと配役が欲しい』という捻れ狂った自己承認欲求なのだから本当に救いようがない。ここまで努力し、上り詰めたというのに実は最初から勝つ気がなかったなど呆れるどころか哀れみすら覚える程だ。

 

『......本当、馬鹿みたいな奴だよね。悪役(ヴィラン)を目指すどころかこれじゃ道化(ピエロ)だ。自ら英雄の踏み台を目指すやつが何処にいるんだ』

 

 ここにいるんだよなぁ、とソレは溜め息を吐く。救えない。救われる気が端からない。加えて救える(・・・)可能性が(・・・・)ある(・・)人物をあっさりと切り捨てるのだから、もう好きにしろとしか言えなかった。

 

『挙げ句の果てに馬車馬の如く酷使しやがって──酷い奴だね、(オレ)は』

 

 万華鏡(カレイドスコープ)のように乱反射する精神は異質の一言に尽きる。その瞳は相対する者を写し出す。観察者が覗く深淵には自身の姿があるのみ、あろうことか鏡そのものすら自分の本来の姿を忘却したのだ。

 これを道化と言わずして、何と言う──?

 

 

「は、ははははははは! どうした、その程度じゃないだろう!? まだ底は知れてない筈だ!」

 

 哄笑と共に猛威を振るう弾丸は恐ろしいほどの精度──しかしシュピーゲルはキリトならばそれを越えるだろうと期待している。切望している、と言ってもいいかもしれない。

 

「ほら──使えよ。お誂え向きの戦場は用意した。(オレ)を殺さなきゃ死銃が止められない、という大義名分もある。条件は整った」

 

──二刀流を解禁しろ。

 

 そう言外に告げ、マガジンを再装填(リロード)する。AGIに特化したアバターは蜘蛛の如く地を駆け、銃声が轟く度にキリトの体力は加速度的に減っていく。

 

「くっ......このッ!」

 

 【超反応(ハイパーセンス)】──そうシュピーゲルが呼んでいる異能じみた反射速度。そして最早理屈すら越えた【第六感(シックスセンス)】が土壇場でようやく駆動し始めたのであろうか。振るわれた光剣、そしてファイブセブンによる異形の二刀流を手にしてキリトは全ての弾丸を回避しながら避ける。

 

「......ハ。それでいいんだよ」

 

 あり得ない筈の殺気を関知する【第六感(シックスセンス)】。その仕組みは大方シュピーゲルには理解できていた。これだけが魔弾ノ射手(デア・フライシュッツ)の唯一の攻略法であると理解し、そして敢えて残している。

 このまま、凄惨に鮮烈に敗北する......そんな己が望む未来を幻視し、彼は僅かに気を緩めた。これでいい。こうして倒されることが、新川恭二の──。

 

 

 

 

 

「──あ?」

 

 そして次の瞬間、何故か(・・・)地面に転がっている自分に疑問を抱いていた。

 

『なっ......クソ、そう言うことか!』

「何──?」

 

 脚は動く。だがよく見れば左手首から先が消失していた。どういう事だと混乱した頭を回転させるが。

 

 

『早く起きろ馬鹿ッ! 狙撃(・・)だ!』

 

 シュピーゲルの思考に空白が生まれる。

 シノンの狙撃か、と考えるもそれならばアバターが存在していることが有り得ない。対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)など掠めただけで人間など八つ裂きにしうる怪物的破壊力を誇るのだ。原型を留めている以上これは選択肢から外れる。

 

 ならば、何が。回る思考を遮るかのように悲鳴じみた叫びが脳内に響いた。

 

『最悪だ──(オレ)の言う通りだった! 死銃は(・・・)一人じゃない(・・・・・)! もう一人......いや、二人後方で待機している!』

「......はは。何だそりゃ」

 

 理解はするが、納得は出来ない。

 原作通りに事が進むと思えば妙なところで変化している。狙撃弾によって吹き飛ばされた左手首では最早銃を握ることは出来ず、残されたのは銃剣のみ。胸元に照射された弾道予測線を辿れば、その先にはフードを被った狙撃手(スナイパー)──蒼い瞳の骸骨面、即ちもう一人の死銃が数百メートル先にいるのがズームされた視界に僅かに映った。

 

 嘘から出た真とは言うが、まさかこんな幕切れだとは。新川恭二(シュピーゲル)は笑った。これは予測不可能だ。

 

「は、は──クソが。地獄に堕ちやがれ」

『っ、駄目だ。これじゃ不完全燃焼(・・・・・)みたいなものだ......!』

 

 こんな幕切れなど認められない。

 ここで新川恭二という男は全てを清算しなければならないのだ。さもなくば、この未練を死ぬまで引き摺ることになる。今度こそ、誰にも救えない深淵にまで新川恭二の精神は堕ちることになる。

 

──今後一切誰にも心を開くことなく、死ぬその瞬間まで仮面を被り続ける哀れな怪物。そんなモノに成り果てる折り返し不可能地点(point of no return)こそ、今この時この場所この瞬間なのだと彼は理解していた。

 

『起きろッ! まだ君は立てるだろうがッ!』

「......つっても、こりゃ完全に詰んだしな」

『────ッ!』

 

 ああそうだ。シュピーゲルが勝ち得る可能性は狙撃によって完全に潰えた。近接戦に如何に強かろうと遠距離にはどうしようもなく弱い──そんなシュピーゲルの弱点を謀ったかのように突いてきたのである。

 最早どう足掻こうと頭蓋を撃ち抜かれて即死する。その事実も理解し、彼は絶望する。新川恭二(シュピーゲル)は自嘲する。 

 

 そしてその次の瞬間、超遠距離から螺旋を描く弾丸が放たれ──。

 

 

 

 

「......何のつもりだ? 英雄(キリト)

「休戦だ。まずはあいつを......いや、あいつ()を撃破する」

 

 音速の軌道を読み切り、光剣により弾丸を蒸発させたキリトがシュピーゲルの目の前に立っていた。

 

(オレ)が素直に言うことを聞くとでも?」

「そうせざるを得ないだろうさ」

 

 指し示す先。そこには──。

 

「よぉおおお、キリトくゥん。覚えてますかァ──?」

「......ああ、思い出したよ"ジョニー・ブラック"」

 

 哄笑をあげ、死銃のそれと酷似した銃剣を手に男は嗤う。

 

 同じような骸骨の仮面、しかし顔の上半分のみを覆っていることにより怖気のするニタニタ笑いが露となっている。その横には死銃──ザザが立っており、仲間であることは容易に想像が付いた。

 

 つまり死銃(デス・ガン)は一人どころか三人で一組の殺人犯だったということだ。いや、現実側を考えればもっと組織的な犯行なのかもしれない。原作の逆恨みにも似た殺人とも異なる、明確な目的を持った上での組織的支援を得た計画殺人だ。

 

......原作とは余りに解離した展開である。シュピーゲルは混乱しつつも立ち上がり、冷静に自分の状況の把握に努め──自身の破滅願望を邪魔した死銃に対して激怒していた。

 確かにこのままではキリトと戦うどころの話ではない。3対1対1では流石に勝負にならない。だとするならば、やはり組むしかないのだろう。

 

「お前はオレと戦いたいんだろう? だったら、まずはあいつらを片付けてからだ」

「......成る程ね、こりゃ無理だわ。勝てる気がしない」

「そうか?」

「そりゃそうだろ、(オレ)は負傷しているのに向こうは三人、加えて一人は遥か彼方の狙撃手(スナイパー)と来たもんだ。勝てる配置じゃない」

 

 その言葉に、かもな、とキリトは頷いた。

 

「じゃあ、背中は頼んだ」

「......貴様(テメェ)は話を聞いてたのか? それとも肩から上が飾りもんなのか?」

「酷い言い種だな」

 

 キリトは苦笑を浮かべる。

 

「第一、さっきまで殺意丸出しで殺しにかかってきた奴に背中は預けるとか脳ミソお花畑にも程があるだろうが」

「......それは、どうだろうな」

「んだと?」

 

 片腕の状態で勝利可能である未来を模索しつつ、怪訝そうにシュピーゲルは眉をひそめた。 

 

「お前はさ。きっとオレには分からない悩みを抱えてるんだろうけど......多分、本当は良い奴なんだと思う。だから、任せられるよ」

「成る程。貴様(テメェ)さては馬鹿だな」

 

 理論はなく、ただ直感に過ぎない意見を叩きつけられ顔をしかめる。というより純粋にイラッとした。しかし返答はなく、ただシュピーゲルは背後の男が笑ったことを理解した。

 

「それに......オレは勝算があるから言ってるんだが?」

『狙撃手は任せなさい──そこの馬鹿は後でゆっくり悲鳴を上げるまで締め上げるとして、今は協力してあげるわ』

 

 響き渡る轟音、そして唖然として見開かれるシュピーゲルの薄い色をした瞳。同時に脳内で誰かが溜め息を吐く。

 

 

「え──いや、おま、なんで」

『お生憎さまね。あんたが昔教えてくれたように、わざわざ用意してた貴重な解毒剤がようやく役に立ってくれたわよ』

「え"っ」

『後で覚えておきなさいよ?』

 

──なんでさ。

 

 凡ミスもいいところだ──いや、そもそもシノンは無駄を避ける兆候があるためまさかピンポイントでそのようなアイテムを持ち込んでいるとは思っていなかったのである。銃撃戦で毒を盛られる機会など通常ならば有り得ない。

 シュピーゲルの唯一の誤算は、昔の彼の適当な発言をシノンが真に受け、あろうことか今でも忠実に守っていたことだろう。変に律儀というか素直というのか──何とも言えず微妙な気分になりつつシュピーゲルは呻いた。

 

「オレはあいつを倒す。シノンは狙撃手(スナイパー)を、シュピーゲルはザザを頼んだ」

『ええ、任されたわ』

「......了解だ、クソッタレめ」

 

 何処まで計算が狂えば気が済むのだろうか。だがまあいい、とシュピーゲルは肩を利用して無事な白銃をリロードする。

 

死銃(ザザ)を殺して英雄(キリト)を殺せばいい。要はそれだけの話だろう──?」

 

 志半ばで殺られたとしても本望。魔弾の射手は死神へと引き金を引いた。






キリ「何こいつ弾丸避けらんない(※普通避けれません)」
シュピ「勝った!第三部完!(※フラグ)」
キリ「お、何となく避けられるようになったやで(※普通避けられません)」
シュピ「狙撃で左手吹っ飛んだフォイ(※即フラグ回収)」
死銃「ステンバーイ......ステンバーイ......」←今ココ




え、展開が早い? だから言ったじゃないですかもー。いや下手に引き延ばしてもあれだしぎゅっと圧縮したらこうなっちゃったというか(技術不足)
というわけでこんな感じで圧縮して第一部終了まで突っ走ります。

──ついて来れるか?(訳:色々とすいません)

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