なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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※本日投稿二話目





エピローグ

 

 

 

 

 これは、恐らく後日談というヤツになるのだろう。

 

 

 結局原作通り、シノンとキリトの同時優勝に落ち着いたBoB決勝戦から既に三日ほど経つが──俺は未だに経過観察処分的な意味合いで入院している。どうやら俺は殺人鬼の兄に襲われ筋弛緩剤を投与され、一度心臓が停止したものの奇跡的に蘇生した......ということになっているらしく、心身ともに正常であるとはいえ一応は入院しておかなければならないようだ。

 その事を聞いて若干の希望を抱いたものの、兄のことを尋ねれば担当医らしき男は無言で首を横に振った。どうやら、残されてしまったのは俺一人らしい。

 

 

「............」

 

 奇跡、何てものではないことはよくわかっている。俺を生かすために一人の人間が死んでいるのだ、奇跡だ何だと言われても違和感しかそこには無い。

 目覚めてから三日ほど経ったが──俺は未だに彼らの死を消化しきれずにいた。

 

「......俺は、お前のようには割り切れないよ」

 

 ぽつりと。

 そう呟くも、答えが返ってくることはもうない。十六年付き合い続けてきた声が聞こえないというのは酷く違和感があり、そして同時に何処か納得してしまっている自分がいる。恐らく、これが普通なのだ。一つの体に二つの魂──その状態が異常だというのは理解している。

 

 だからきっと、こうなるのは自然な流れだったのだ────と割り切ることが出来るような人間であれば、もう少し賢い生き方も出来たんだろうが。

 

「生きろ、ね。陳腐な話だが......随分と荷が重いもんだ」

 

 生きろ、そして足掻いて死ね。

 そんな言葉と一緒に記憶の全てを押し付けて逝った彼だったが、結局本当の名前はわからずじまいだ。彼は"新川恭二"として生きて、そして死ぬその瞬間までそう在り続けたのだ。少なくとも、俺はそう思っている。

 

 生きろ、と。そう吐いた彼もきっとまた新川恭二なのだから。どっちが本物でどちらが偽物だ、何て言葉は無粋に過ぎる。

 

 死にたい、と願った"僕"と。

 生きろ、と残した"俺"。

 きっとそれはどちらも正しく本音であり、その二つは矛盾なく成立しているのだから──。

 

「......っ、と。どちら様?」

 

 コンコン、という規則的なノックの音に思索の海から引き戻される。慌ててそう尋ねれば、返ってきたのは半ば想定通りの返答だった。

 

『私よ。いい?』

「......どうぞ」

 

 澄んだその声に思わず顔をしかめかけ、声が強張らないよう気を付けつつ返答をする。一拍置いて入ってきた彼女の顔を見ることが出来ないのは、恐らく罪悪感というものなのだろう──と俺の中の冷たい部分は分析していた。

 

「三日ぶり、ね」

「そうだな。三日ぶりだ」

 

 キィ、と面会者用の椅子が軋んだ音を立てる。

 一度は心配停止した身であるが故にここ三日間ほど面会謝絶だったため、今までこの椅子が使われたのは医師としてのコネでごり押しした親父が来たときだけだ。

......まあすぐに出ていったのだが。

 

「体は大丈夫なの? その......一度停まった、って聞いたんだけど」

「無事だよ。今すぐ退院したって問題ないくらいだ」

「そう。なら、良かった」

 

 朝田詩乃は安堵の溜め息を吐き、俺は居心地の悪さに窓の外へと目をやる。......正直、こういうふざけることも出来ない雰囲気は苦手だ。何とも言えない沈黙が部屋を満たし、耐えきれなくなった俺は言葉を選ぶように口を開いた。

 

「あー......何も聞かないんだな」

「なに、聞いて欲しいの?」

「いや別にそう言うわけじゃあないんだが」

 

 彼女が実は割と空気の読める少女であることはよく知っている。だからこそ、この雰囲気は──この微妙な雰囲気は意図的に作り出したものなのではないかと俺は邪推する。

 何というか、そう、つまり。

 

「......もしかして、怒ってらっしゃる?」

「?」

 

 そろっと伏せていた目を上げれば、そこには小首を傾げる女子高生の姿がある。......本当に怒っているわけではないらしい。だがそうでないならば理由がさっぱりわからない。

 

「その、何だ。悪かったな?」

「......どのコトで?」

 

 とりあえず謝罪から入ってみたはいいが、どうやら俺の罪状は複数存在するらしい。まさか『どれか』を聞かれるとは思っていなかった俺は一瞬言葉に詰まる。

 

「いや、どのってそりゃまあ......土壇場でお前裏切ったりしただろ」

「ああ、あれ? 別にいいわよ、そんなの」

 

──ん?

 

「いや、よかないだろ。自分で言うのも何だが我ながら最低な真似をしたと思ってるんだけど」

「そう?......確かに最初は結構キレてたかもしれないけど、もう別にどうでもいいわ」

 

──んん?

 

 いや待て待て待て、と冷や汗をかきつつ考える。何だこの別れ話を切り出す的な雰囲気。率直に言ってしまえば愛想尽かされちゃった的な空気。あれ? 俺なんかやらかしたっけ?と思い返すこと二秒──。

 

......やらかしたことしかなかったわー。

 

「......Oh」

 

 やだどうしよう、と窓から空を見上げつつ必死に思考するもどう考えても詰んでいる。超頑張れ、と笑顔でサムズアップする彼と兄の姿が青空に幻視された。俺のシリアスを返せ馬鹿野郎。いや、今現在進行形で友情破綻のシリアスシーン何だけども。

 

「......んん。いやまあ確かにそこんとこはしょうがないというか、色々と俺がアレだったわけなんだがそこんとこ考慮して頂きたい所であるという所存でしてね」

「そうね。だから、そろそろ私達の関係も整理すべきだと思うの」

 

 畜生......! 詠唱は考えてもないのにペラペラ出てくるくせしてろくな言い訳が出てこねえ......!

 このままぼっちに逆戻りしてなるものかと必死に舌を回すべく──あ、吊った。地味に超痛い。

 

「いや、ほっといていいんじゃないの? ほらパンの生地も寝かせるやん?」

「......人間関係とパンの生地に何の関連性があるのかさっぱりわからないけど、今のままっていうのもどうかと思うのよ」

「いやいやいやきっとそのままでいいから。人間自然体が一番ベストだから。偉い人だってそう言ってたし」

 

 現状維持万歳、と内心で叫ぶ。変わらなくてもいいじゃない、だって人間だもの。

 

「......あんた、どうしたの? 今日ちょっと変よ?」

「べべべべ別に変じゃないですしおすし。オールウェイズこの調子だし」

 

 不審に思ったのだろうか、朝田が眉根を寄せながらこちらの顔を覗きこんでくる。それに合わせて俺はひょいっと顔を背ける。

 

「............」

「............」

 

 ひょい、とまた目線を合わせようとしてくるため俺も再び顔を逆方向に背けた。

 

「..................!」

「..................!」

 

 ひょい、ひょい、ひょい、と回避行動を繰り返して撹乱すること数度。フハハハ馬鹿めその程度の動きなど止まって見えるわ!と余裕ぶっこいてるとフェイントをかけられあっさりと目が合ってしまった。こいつ、やりおる......!

 でも唐突にフェイントかけてくるのは卑怯だと思うの。

 

「人と話す時は目を合わせること。......習わなかった?」

「アッハイ」

 

 あかん。これプチおこや。

 震えながら言われるままに目を合わせる。......が、やはり直ぐに逸らしてしまう。

 

「......うん、やっぱり少し変わったわね」

「え、何処が?」

 

 髪も切ってないし背が伸びたわけでもない。だが俺の瞳を覗きこみ、朝田志乃は微笑を浮かべた。

 

 

「──良かった。今度は、私のことちゃんと見てくれてる」

 

「............意味わからん」

「私がわかってるからそれでいいのよ」

 

 さいですか。

 俺は若干色々と諦めて溜め息を吐く。

 

「んで、結局俺にはどんな処断が下されるの? 絶交とかだったら流石に俺のメンタル的に辛いぞ」

「は、絶交? あんた何言ってんの?」

「え?」

「え?」

 

 揃って小首を傾げた。どうやら違うらしい。

 

「......なーんか変な勘違いしてるみたいだから言っておくけどね、別に関係を整理するとは言ってもそーゆーのじゃないわよ」

 

 ジト目でそう告げると、朝田はむすっとしながら指を突き付ける。

 

「あんたが私の心的外傷(トラウマ)を治すためにGGOに誘ってくれたのは、覚えてるわよね?」

「ああ......そう言えばそうだったな」

「お陰様で完治したわ。その事に関しては感謝してる」

 

 成る程──どうやら朝田詩乃は過去の清算を終えたらしい。そんな彼女から、俺は眩しいものでも見るかのように目線を外した。

 

「......そうか、良かったな」

「ええ、そうよ。そしてこれで私とあんたを繋いでいた楔はなくなった」

 

 俺と朝田志乃を繋いでいた一つの事実は消え去った。それはつまり、最早彼女に俺は必要ないということであり──。

 

「だから......改めて一つ聞きたいの。あんたは私のコト、どう思ってる?」

 

 そっと頬に触れた手に、俺はびくりと体を震わせた。

 

「そ、れは」

 

「好き? 嫌い? 友人? それとも......ただの、都合の良い女?」

 

 間近で囁かれる言葉に、俺は凍り付いたかのように動けない。

 しかし──頬に添えられた手は、何故か酷く熱く感じられた。

 

「どう思っててくれてもいい。でもね──私は少なくとも、次はあんたを助けたいって思ってる」

 

 救われてばかりじゃ割に合わないじゃない、と彼女は笑う。だからこそ──。

 

 

「だから今度は、私に貴方を救わせて下さい」

 

 

 

......嗚呼、と溜め息を吐く。いつだって、そうやって──だから(オレ)は、君が嫌いだ。

 

「朝田って、もっと距離の取り方が上手いヤツだと思ってたんだけど」

「そうね。でも、待っててもダメなんだなって何処かの誰かさんに気付かされたのよ」

 

 だから、少し踏み込んでみようかなって。

 

 そう告げる彼女に、俺は苦虫を噛み潰したかのような顔を向ける。

 

「きっと、その何処かの誰かさんは迷惑してると思うぞ」

「私だって、迷惑させられてるもの。お互い様よ」

 

 強情な女だ、と思う。

 だが同時に妙に素直であり、義理堅く、容赦がないように見えて情に脆く、そして警戒心は強いくせして案外ちょろい。

 

 

「............あのさ。一つ話を聞いて欲しいんだ」

「そう。それで、どんな話なの?」

 

 

 救わせてくれ、と珍妙な頼み事をしてきた"親友"の肩に額を預ける。彼女はそっと俺の髪を透く。

 

 

「これは俺の友達の友達から聞いた話なんだが──なぁ、朝田」

 

 

 これはきっと、ハッピーエンド何かじゃない。ましてやトゥルーエンド何かでもない。これから語るのは、間違えて、失って、最後の最後でようやく気付かされた馬鹿野郎の──。

 

 

 

「輪廻転生って言葉を、聞いたことがあるか?」

 

 

 バッドエンドでしかない、何処にでもあるような物語の結末だ。

 

 

 







勝った!第一部完ッ!

というわけで、ここまで読んで頂き本当にお疲れ様でした。ラストはもはや駆け足とかいうレベルじゃない超巻き巻き展開でしたが、これにて第一部は完結です。この後は閑話やら何やらを数話挟んでアリシゼーションへ。まだまだ続くんじゃよ。こんなハイペースには二度としないけどネ! やはりプロットって大事......!

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