なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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きっと、それは"もう一人"の思い出だ。





番外編/或いはそれは──。

 

 

 

 

 昔──そう、あれは十年も前のことだっただろうか。今でも鮮明に覚えている、一人の少年のことがふと思い出される。

 

 率直に言うと、私は箱入り娘という部類に入るのだろう。別に自慢する気などさらさらない──いや。こう言った方がむしろ嫌味に感じられるものなのかもしれない。しかし如何にお金持ちであり、裕福だと言えるとしても、当時の私は間違いなく"不幸"だったのだ。それは物質的な幸福尺度とはまた別の要因によるものであり、きっと私以外の誰にもわからない不幸だ。

 

 十年前、当時の私は七歳か六歳くらいだった。そして主観をなるべく排除して考えてみれば、その頃の私は間違いなく"出来た"子供だった。親の言い付けを素直に守り、我が儘を言うこともなく、多くの習い事をこなし、文句一つ言うことなく常に笑顔を浮かべている。誰しもが私を『偉い子』として扱い、その次には"それに比べてうちの子は"と苦笑する。成る程、確かに私はカシコイ子だったのだろう。

 

──だが。私はそうやって苦笑する他の親の後ろでむすっとしている子供の方こそ、余程羨ましかった。

 

 今になって考えてみれば、異常と言っても過言ではなかったはずだ。むしろその年頃の子供が我が儘や文句一つ言わず、ただ黙って親の後ろでニコニコと笑っている様はさぞかし不気味だったことだろう。

 そう──彼の言葉は何処までも正直で、また最もな話だったのだ。

 

「......気持ち悪っ」

 

 嫉妬なら理解は出来ただろう。悪意なら少なからず受けてきた。だがその少年の目に表れていたのは──時代錯誤な話だが、私の婚約者候補として紹介されたその少年の目に宿っていたのは、本当に純粋な生理的嫌悪感だった。

 

 そしてそれは、当時から容姿も整っていた私からすれば全く新鮮な言葉であった。

 

「............えっ」

 

 ずしり、と胸にくるようなストレート直球な罵倒。その言葉に思わず動揺し、表情を崩してしまったのも無理からぬ話だ。

 

「い、今なんて......」

「何も?」

 

 素知らぬ顔でそっぽを向く少年に対して湧いたのは、怒りでも悲しみでもなく"困惑"だった。私は完璧だったはず。完璧でなければならない。母さんや父さんにもいつも褒められている。なのに何故──?

 

「あ、あの」

「............」

 

 再び声をかけるも、今度は完全に無視。今度は流石にちょっと堪えたのか、幼い私は泣きそうになる。だがそんな私の顔を見て慌てるでもなく、婚約者候補であるはずの少年はむしろ心底嫌そうな顔で溜め息を吐いた。

 

「頼むから泣くなよ? めんどいから」

 

 その言葉に、思わず絶句する。

 だがそれでも、と私は彼との関係改善に努めようとはした──が。その後いくら声をかけても、その少年のコミュニケーションを取る気が欠片もない態度に変わりはなく、結局私はその日すごすごと自分の部屋に戻ったのだ。

 珍しく親の言い付けを──「子供同士で仲良くするように」という言い付けを破った形になった私は酷く落ち込み、その夜はびくびくしていたのをよく覚えている。

 

 

 だからこそ、翌日少年が再び私の家を訪ねて来ていたことには酷く驚かされた。

 

 あれほど私を嫌っていたのに何故来たのか──そこには彼の親の意向があったらしく、彼は渋々ながらではあるものの私と口をきいてくれるようになった。どうやら彼の親はこの婚約に乗り気らしく、彼はそれが随分と気にくわないらしい。と言うより、私が、らしいが。

 

「え、えっと......私の何が"気にくわない"の?」

「全部。特に言えば性格と顔」

 

 即答だった。私は二度目の絶句をすることになった。......ついでにちょっぴり泣いた。

 

「......あー、悪かったよ。少し口が過ぎたか」

 

 それでも"少し"なのが彼らしいと言うべきなのか。

 その後数日に渡って彼は私の家に通い続け、結果として顔をしかめずとも会話が成立する程度には仲良くなることに私は成功していた。『女の武器は涙』という格言は強ち間違いでもないらしい。

 

「何で、私が嫌いなの?」

「能面みたいだからだよ。ずーっとニコニコしやがって、日本人形かっての」

「......笑ってるのが、いけないの?」

「そんなわけないだろ。そりゃ僕だって泣き顔と笑顔のどっちがいい?って聞かれたら迷わず後者を選ぶさ」

「なら......」

 

 小学生らしくもない口調で喋る少年は、そこで此方を見て溜め息を吐いた。

 

「いや、アンタ笑ってないし」

「え」

 

 笑ってない、という言葉に驚いてぺたぺたと自分の頬に触れる。私は笑えてなかったのだろうか。

 

「......いや、見た目だけなら笑ってるぜ? だけどさ、アンタの目だけ笑ってないんだよ」

 

 ぶるり、とおぞましいものに触れたかのように少年は身震いした。

 

「口は笑ってるけど目だけ硝子玉みたいなんだよ。ほんと日本人形みたいで......マジで怖いから止めて欲しい」

 

 目だけ笑っていない──。

 

 その言葉に目尻をなぞってみるも、実感がなくて少し首を傾げた。......いや、それよりも。

 

「まじ?」

「ああ、マジだ」

「......まじって何?」

 

 えっ。と驚いたように彼が顔を上げる。それに首を再び傾げれば、彼は妙なものでも見つけたかのようにじっと見つめてきた。

 

「アンタ、変なとこで常識ないんだな」

「......常識くらいあるもん。バイオリンだって弾けるし」

「それを常識って言うのはちと無理があるんじゃないかなぁ」

 

 そうぼやく彼は呆れてこそいたが、しかしそこに嘲りの色は全く無かった。だからなのだろうか、私は彼が時折溢す未知の言葉の意味を遠慮なく尋ねるようになり──それはいつしか常の事ととなっていた。

 

 "お嬢様"として扱われ続け、純粋培養の如く世間から切り離されていた私としては、スラングのような単語の数々は新鮮の一言に尽きる。また彼がたまにこっそりと持ち込む品の数々も、私にとって日々の潤いの一つとなっていった。

 

「何それ?」

「......PSP。もう化石みたいな代物だけど、何もないよりマシだろ?」

 

 この家には本しかないからな、と嘆くように彼は言う。それも娯楽のようなものではなく、意味があるのかもよくわからないビジネス系のものしかないのだから彼の言葉も当然だろう。唯一彼のようにゲーム類を持っていた兄は当時寮制の男子校へ通っていたためおらず、本当に"何もない"我が家で育った私はおっかなびっくりその電子機器に触れた。

 

「やってみるか?」

「うん!」

 

 そうして幾らかつついてみたはいいものの、やはりと言うべきか画面内の私は珍妙な動きばかりを繰り返すばかり。後ろで腹を抱えて笑う彼にゲーム機を突き返すと、私はむくれて唇を尖らせる。

 

「......もうやらない」

「くくっ......いや、初心者はそんなもんだって。何でも最初から出来たら苦労しないだろ?」

 

 再びPSPを私の手に握らせ、彼は今度は笑うことなく一つ一つ動かし方を指南していく。とは言えそれでも私のキャラクターは敵のモンスターに吹き飛ばされてばかりではいたが──。

 

「お、今の上手かったじゃん。アンタが今やったみたいに、ああいうのは判定範囲より内側に潜り込めば当たらないんだ」

 

 偉いぞ、と茶化しつつ彼は私の頭を乱雑に撫でる。その撫で方は本当に雑で、私はむすっとしながら髪を整え直したものだ。

 まるで犬猫に対するようなそれではあったが、そうやって褒められることが嫌だった......というわけではない。むしろそうやって気兼ねなく触れ合える友人もいなかった私からすれば、彼のような存在は本当に貴重で、そして有り難かったのだろう。

 

「......もう帰るの?」

「ああそうだよ、だから掴むな鬱陶しい」

 

 私の手を邪険に叩き落とすも、私はすがるようにその足の裾に手を伸ばす。彼が帰ってしまえば、またこの家は凍えるような静寂に包まれる。一人に戻ってしまう。それが堪らなく嫌で、彼が帰ろうとする度に引き留めるようになった。

 

「ずっと居てくれたらいいのに......」

「僕はやだね。この家無駄に広いから疲れるんだよ」

 

 確かにこの家は大きく、比例して私の部屋は広い。そしてそんな広い部屋に一人でいるのは、酷く寂しい。

 

「私の婚約者、なんでしょ?」

「あくまで候補な。てか放せ」

「■■くんならいいよ」

 

 それは本心からの言葉で──そしてその言葉を聞いた瞬間、彼は驚きに目を見開き、そして直後に顔を険しくする。

 

「結婚、してもいいよ。だから──」

「僕は嫌だ」

 

 はっきりとした拒絶にびくりと体を震わせる。そんな私を見下ろして、彼は少し口調を緩めて告げた。

 

「......別にもう会えないってわけじゃないんだ。そのくらい我慢しろよ、な?」

「............うん」

 

 また会える。その言葉に納得し、私はそっとその手を裾から放す。別に会えなくなる、という訳ではないのだ──。

 

 

 

 

 しかし。

 その後、明日も、明後日も、明明後日も............一年が経っても彼は姿を現さず。

 私は酷く落胆し、それ以降より一層彼が"気持ち悪い"と形容した笑顔を浮かべるようになり──そして、やっぱり少し泣いたのだった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「──新、川?」

 

 その名前が対面する彼から飛び出た瞬間、私の息が少し停まった。

 

「ん? 知ってるのか、アスナ」

 

 GGOを震撼させた死銃事件、その顛末を聞く中で突如として出た名前に手が震える。いや、まだ別人の可能性もある──。

 

「う、ううん。......ちょっと、昔の知り合いに似たような名前の人がいたなって思って」

「そっか。まぁ、そろそろシノンが連れてくると思うし」

 

 ちらり、とキリトくんが見せた携帯端末には『あのバカは引き摺ってでも連れていくから』という素っ気ないメッセージが表示されている。それがどうにも彼女らしくて、私は思わずくすりと笑ってしまった。

 

「そろそろこれが送られてきてから一時間経つからな......着いてもおかしくない頃合じゃないかな?」

 

 そう言って、ドアの方へと視線を向ける。そして──。

 

『......っ、......加減に......っての』

『ちょ、やめ......メロォー!』

 

「凄いね、キリトくんの直感......」

「......うん、我ながら少し驚いた」

 

 扉の向こう側で言い争う声が所々漏れてくる。そしてその数秒後、木製の重厚な扉が勢いよく開かれた。

 

「だぁ──もぅ! さっさと歩きなさいよ!」

「馬っ鹿お前押してんじゃねぇよ──!?」

 

 ぜぇぜぇと荒い息を吐く朝田詩乃の前で見事にずっこけた少年が顔を上げ、視線が交錯する。黒というよりは茶に近い髪色、そして光の反射で万華鏡のように色が変わって見える薄い色の瞳──。

 

「えーと......初めまして?」

 

 立ち上がり、何故か疑問系で締め括る少年へと一歩近付く。

 

──きっとあれは愛と言うには淡すぎて。恋というには幼すぎた。だが、そんな感情に敢えて名付けるというのなら。

 

「久し振り......覚えてる? 新川くん」

 

 

 "初恋"だったのだろう、と。そう私は思ったのだ。

 

 

 

 






新川「誰やねん」

Q. 主人公いつの間にアスナちゃんにフラグ立てたんですか?
A. 記憶にございません。幼少期にまだ新川(本体)の自我が弱く新川(憑依)が主導権を握っており、表面にちょくちょく出ていた頃の話です。そのお陰で主人公は幼少期の記憶がちょくちょくすっぽぬけてます。

Q. もしかしてNTR?
A. ないです。んなことしたら本当にバッドエンドになります。

Q. 新川(憑依)は何故ロリアスナちゃんを拒絶したの?
A. 彼がオパーイ教徒──というわけではなく、単純に原作ブレイクを嫌いました。懸命な判断、正に紳士の鑑。

Q. もし主人公がSAOにログインしていたら......?
A. アスナルート突入します。が、その場合キリトが"英雄"に至ることもないのでSAOが地獄と化します。また黒の剣士が存在しないため連鎖的に米軍がアリスちゃんを確保。それを元にAIを複製して兵器として運用するもその人間的思考故に「人類滅ぶべし」の結論に到達したAIとの世界大戦、通称【厄祭戦】が勃発し──最終的に72機のガンダムフレームによって終結するもギャラルホルンによって地球が統治されることになる(かもしれない)。


Q. 第二部まだですか?
A. 暫し待たれよ。というかALOやOS編を挟む(予定な)ためアリシゼーションはどうしても先になる気がする。スクワッドジャムは......どうなんだろ......?

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