なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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黒剣と絶剣と敗北と。

 

 

 

 ああもう、全く。どうしてこうなったのだろうか。

 

「ふ、ふふふ!」

 

 狂気じみた笑みを浮かべて、それは俺に斬りかかってくる。大気を裂く剣身は最短距離を走って首へと迫り、寸前で受け止めた短刀が火花を散らしながら軋みを上げる。つんざくような金属音が酷く五月蝿い。衝撃を利用して回し蹴りを放つも、あっさりと回避されて終わる。だがそれは折り込み済みであった。

 

「【閃鞘(せんさ)──」

 

 高速で振動する羽根によって身体が僅かに浮く。更なる回転で以て蹴撃を叩き込み、挟み込まれた剣を踏み台にして後方へ跳ぶ。

 

「──八房】」

 

 ばら蒔いておいた布石......即ち合計八の短刀が一見不規則(ランダム)な起動を描きながら飛翔する。俺が創った中でも比較的使いやすいオリジナルソードスキル(OSS)だ。難点は軌道が複雑なため配置に困る所くらいか。だが速度に関しては一、二を争うOSS、なのだが──。

 

「......バケモノめ」

 

 驚きはしたのだろう。しかし反則じみた反射神経が、その全てに対応することを可能としていた。その姿は某黒いハーレム野郎を彷彿とさせる。いや、純粋な反応速度のみで言えば奴すら上回るだろう。

 有り得ない姿勢から発動したソードスキルが短刀を叩き落とし、反動を利用して体勢を立て直した少女は静かに笑った。

 

「あは──凄い、凄いよ、シュピーゲル!」

 

 無邪気に、しかし貪欲なまでの殺意を迸らせる。思わず頬がひきつるのを自覚した。

 

「本当に"ボス"が言ってた通りだ。ねぇ、もっと戦おうよ! もっと、もっと──死ぬまで!」

 

 お帰りください。というか帰りたい。 

 年端もいかない少女が頬を染めながら執拗にねだる様は、まあ一定層の人間には需要がありそうだが......とりあえずその物騒な剣をしまってほしい。

 

「悪いな。俺、平和主義者なんだ」

「ふふ、じゃあ──」

 

 地が爆ぜる。瞬時に割り出した位置に短刀を配置すれば、ギリギリの所で剣を弾くことに成功する。伝わってくる衝撃からして一撃でも食らえば即死か。

 

「ボクが染めてあげる、よッ!」

「お断りだ......!」

 

 素のAGIの高さ、そしてそれを使いこなすだけの演算速度を保有してようやくこの超人と拮抗できる。全くこの世界はバケモノしかいないのだろうか。

......というか、どうしてコレと戦わねばならなくなったのだろうか。ここまでの経緯を思い出すべく、俺の意識は過去へと向けられるのだった。

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

「メリクリあけおめことよろうぇーい」

「時期が遅い、というか情報量が多い挨拶だな」

 

 頭痛が痛い、という顔をして桐ヶ谷がこちらを見る。どうやら自作PCをいじくり回していたらしい。そういえば一昨日くらいに真っ青な顔してブルースクリーンが出やがった、と騒いでいた気がしないでもない。もう丸ごと買い替えちまえよ。十万以上するけど。

 

「というかクリスマスの時お前いただろ」

「......ちょっと小生何言ってるのかわからない」

「忘れたとは言わせないぞ。リア充爆殺ツアーとかほざきながら半裸で走り回ってただろ!」

「バケツヘルムを被って聖火リレーする半裸集団......いやぁ、嫌な事件でしたね」

「主犯!!お前!!」

 

 確かに非リアを率いて煽って『敵は本能寺にあり!』とか言いながら松明と爆弾を街中に叩き込んで軽くテロった記憶が若干あるが、きっと気のせいだろう。

 

「オレは忘れねぇからな......! お前が『ハッピメリクリィ──! いい子にはサンタからプレゼンツ! でも君は顔からしてもう腹立つからはいギルティ! ビバ爆発!末期のハイクを詠め!』って言ってたのを忘れねぇからな......!」

「何だその頭おかしいサンタクロース」

「お前だよ!?」

 

 そんな昔のことは忘れた。口笛を吹きながらそっと目を逸らす。誤魔化しかたが古典的過ぎる、と桐ヶ谷が嘆息した。

 

「......うん、結局シノンにヘッドショットされてたしもういいや。で、何の用だ? というかどうやって入ってきたんだ?」

 

 合鍵なんて渡してないはずだけど、という言葉に頷く。そりゃそうだ、他人に家の合鍵をそう簡単に渡してたまるものか。......朝田はいつの間にか持ってたけど。どういうことなの......?

 彼氏の心臓に妙な細工する某閃光とかいうやべー奴もいるし、この世界の女はちょいと行動的すぎやしないだろうか。

 

「普通に開けて貰ったけど。お前の妹に」

「......直葉と知り合いなのか」

「いや、全く。つい三分前に知り合った仲だ」

 

 厳密にはALO内でリーファとしては会っているが、原則としてプライベートに踏み込むことがないため現時点としての俺はリーファ=桐ヶ谷直葉であることを"知らない事になっている"のだ。

 ちなみにALO内において俺は桐ヶ谷達とは別行動を取っている。レベルはコンバートにより引き継いだが、スキル自体はまっさらなため熟練度を一から上げなければならない。手伝おうか、と言われたものの元よりパーティー行動というものに慣れていない俺は丁重に辞退した。同じようにコンバートしたばかりの朝田(シノン)と共にスキル上げ中である。

 

「適当に手土産っぽいのは渡しといたけど......って、何だよ」

 

 ぎろっと此方を睨み上げる姿に眉をひそめる。何かやらかしたような記憶はないのだが──。

 

「言っとくが、うちの妹に手を出したら承知しないからな?」

 

「......は? それ桐ヶ谷が言う? 節操なしに現地嫁量産してるお前が言うの?」

「現地嫁って何だよ。というかシノンを差し置いていつの間にかアスナと仲良くなってる新川の方こそ大概だろ。自重しろよ」

「あ"?」

「ん"?」

 

 至近距離でメンチを切り合う。このクソハーレム野郎、言うにこと欠いて俺の方が女好きだと? ふざけた話もあったものだ。到底許せる言動ではない。

 

 

「「決闘(デュエル)だ!」」

 

「......え、どういう状況?」

 

 丁度上がってきた桐ヶ谷妹の困惑した声が部屋に響き渡った。なんかごめん。

 

 

 

 

「さて、話を戻すが」

 

 ひと悶着あったが、ここに一応休戦協定は結ばれた。全くもって納得できないが、とりあえず五分五分であるということで落ち着いたのだ。......全然納得できないが、話が進まないからしょうがない。

 

「用もなにも、お前が昨日変なLINE送ってきてたろ」

「あー、そうだっけ?」

 

 ずずず、と桐ヶ谷妹が持ってきてくれた緑茶を啜る。なぜに緑茶。普通ここはオレンジジュースとかではないのだろうか。なかなか個性豊かな少女である。流石ブラコン。

 

「ほら......"クッソ強いロリに負けた"みたいなこと言ってただろう」

「色々と酷い省略だけど、まあ、うん。そんなところだ」

 

 ふむ、と。憐れむような視線を桐ヶ谷に送る。案の定噛みつかれた。

 

「おい、何だよその目は」

「"どうせこいつ女だから手加減して負けたとか言うんだろうなー"って目」

「予想以上に具体的過ぎる」

 

 だが否定はしない、と────有罪(ギルティ)

 

「い、いやちょっと待て! でも途中からは本気だったんだ! 盾無しの片手剣でやたらと強くて!」

「それお前と同じスタイルじゃねぇか」

「ぐふっ」

 

 完全上位互換、ということなのだろうか。二刀流が本気であるとは言え非常に悲しい事実だった。

 

「む、ぐぐぐ............まあ、でも、戦ってみればわかる。滅茶苦茶強いぞ」

「そんなにか?」

「ああ、そんなにだ」

 

......ここまで言うからには、相当に強いのだろう。そして原作主人公に打ち勝つほどのキャラクターだ、モブなんぞではあるまい。相方から受け継いだ記憶の中にも、それらしき少女についてのものがある。

 

「あー、あとは......うん、何だろう」

「あん? まだあるのか」

「何というか、こういう言い方はあれかもしれないけどさ......邪悪な感じだった」

「はい?」

 

 思わず目を瞬かせた。なに言ってんだコイツ。

 

「邪悪って」

「いや、他に思い付かないんだよ。病んでるってわけでもないし、邪悪というか、邪ロリというか」

「邪ロリ」

「闇堕ちみたいな」

「闇堕ち」

 

 大した語彙力だった。久々にこいつがオタクっぽいところを見た気がする。だが、そこはともかく。

 

「何でお前はその邪ロリと交戦するハメになったんだ? ナンパでもしたのかしたんだなうわー引くわー......」

「とりあえず自己完結してドン引きするのやめろ。してないから。全然してないから。だからスマホを置こう、な?」

「あ、すまん。もう結城に一報いれちゃったわ」

「ファック」

 

 ペットボトル投げられた。ごめんて。そして数秒も経たないうちに桐ヶ谷のスマホにLINE通知が浮かぶ。お互い真顔になった。

 ごめんて。

 

「......ん、んん。それはさておき、結局どういう経緯で戦ったんだ?」

「あとで覚えてろよお前......経緯も何も、広場で辻斬りしてたんだよ。だからつい、な」

 

 辻斬り。稀にいるが、要は金を賭けて決闘(デュエル)するプレイヤーのことだ。つまるところ腕試し、戦闘狂の類いである。

 

「成る程な、まあ理解は出来た。にしても桐ヶ谷が負けるほどの相手、か」

「一応新川にも負け越してるけどな」

「そりゃまあ、俺だからしょうがない」

「どういう意味だよ......」

 

 黙って肩を竦める。当然と言えば当然の話、俺の場合はいっそ狂気的なまでにこいつの情報(データ)を取り込んでいるからだ。対黒の剣士に関して俺の右に出るものはいない。むしろ勝率4割ギリギリを維持できているだけでも驚異的だろう。やはり【第六感】と【超反応】の組合わせは理不尽に過ぎる。演算出来ていても回避できない場合が多々ある。

......前者は過剰適合の能力と言うよりは、無意識に発現した心意の応用能力だが。

 

「まぁ、とにかく()ればわかる。まだいるだろうしちょっと行ってきてくれよ」

「仇討ちかな?」

「逆だ逆。負けてこい。オレだけ負けてるとかちょっと許せない」

「絶対それ本音だろ」

 

 苦笑する。桐ヶ谷が妙に拗ねたような雰囲気を漂わせているのは同じ剣の領分で敗北したからだろう。デスゲームという地獄を潜り抜けてきたこいつはゲーマーというよりは剣士に近い。故に自身の技術に誇りすら持っている。敗北を許容できないほど狭量と言うわけではないが、すっきりと受け入れる事はできない程度に大人ではないということだ。そこら辺は年齢相応なのかもしれない。

 

「まあ見てろって、俺が軽く倒してみてやっからよ──」

 

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

 

 

 

 

 そんなことを言っていた数時間前の俺を殴り飛ばしてやりたい。黒髪紅眼の少女を見据えながら胸中で悪態を吐く。

 

「【閃走・水月】」

 

 体術を基軸にしたOSSが起動する。緩急の切り返しにより超速の反射を以てしても俺を見失う。システムアシストとAGIの相互作用により瞬間的に音速すら越えて、俺は眼下の首筋へと短刀を降り下ろす。

 

──が。何故か寸前で察知され、皮一枚を切り裂くに終わる。真紅の瞳が俺を捉える。口元が弧を描いた。不味い。

 

「ちィ......!」

 

 空中にいるがために、放たれた回し蹴りを回避できない。咄嗟に防御を選択し、叩き付けられた衝撃に全身が軋んだ。だがその衝撃を利用し、飛行能力も全開にして跳ぶ。数度の回転を経て着地し、もし距離を取っていなければそのまま両断されていたであろう事を確信する。残心のままで少女が笑った。直後にその姿が消失する。

 

 そして、同時に俺も踏み込んでいた。

 

「【閃鞘・七夜】」

 

 神速の斬撃が激突する。単純な移動と抜刀斬りだが、突進の勢いがそのまま威力に直結した結果として拮抗していた。

 加えてAGIの差により、此方の方が後に発動したにも関わらず、少女のソードスキルの発生を強制的にキャンセルさせることに成功する。驚きに見開かれた瞳を睨み付けると、続けざまにスキルを発動させた。

 

「【閃鞘──」

 

 少女は地を蹴って後方へと跳躍しようと試みる。確かにここは片手剣の間合いではない。距離を取ろうとする選択は正解だ。しかしわざわざ取らせてやる義理はない。

 

「──一風】ッ!」

 

 更に踏み込む。

 手を突き込んだ先でプレートメイルの端を捉えた。服の一端、腕の掴み、何処であろうとこの技は発動する。ソードスキルだというのにただの体術に過ぎないこれは、相手の意表を突くという一点にのみ長けているOSSだ。

 つまるところ──速度こそおかしいが、ただの投げ技である。

 

 しかしこの"投げる"という技は一般人想像を遥かに越える威力を秘めている。冷静に考えてみてほしい。自身の全体重が一点に、それも頸椎にかかればどうなるだろうか? 加えて下が舗装された石畳だとしたら? 想像に難くない。

 故に、確実に殺せる。その確信と共に俺は少女を投げ飛ばす──

 

 

「な、に......!?」

 

 

 事は出来なかった。

 

 愕然として腕の先を見れば、そこには俺の腕を蛇のように捉える少女の細腕があった。驚愕に思わず息を呑んだ。

まさか、あの一瞬で──あの速度で、俺の腕を固めたとでも言うのだろうか。あまりの絶技に一瞬思考が停まる。紅い瞳が細められた。

 

──つ、か、ま、え、た。

 

 まるで恋人のような距離で囁かれた直後、右腕が破壊された。痛みはない。ペインアブソーバーは働いている。しかし故障した機械のごとく右腕は動かなくなり、腹に突き刺さる膝が俺を呆気なく吹き飛ばした。

 

「楽しかったよ、お兄さん──」

 

 回避は到底間に合わない。構えられた片手剣が闇色に染まり、完璧な敗北を前にして俺は内心で溜め息を吐く。

 

 

「【マザー・ハーロット】」

 

 

 十一連撃が描く漆黒の逆十字が放たれる。体中を貫く剣閃に耐えられるはずもなく。

 

 

 "You Lose"

 

 俺のHPバーは木っ端微塵に砕け散るのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふふ、すっごく楽しかったよ。でも、まさか投げに来るとは思わなかったかな」

「俺もまさか返されるとは思ってなかったよ」

「だろうね」

 

 少女はくつくつと笑う。敗北から学べることは多い。格闘系の技をもう一度再確認する必要がある。とは言え既存の体術スキルなんぞは見たところでなんの収穫もないだろう。腹立たしい話だが、あの毒鳥(ピトフーイ)にもう一度教えを請わねばならないかもしれない。

......と。そんなことを考えていると、少女は一つ伸びをして口を開いた。

 

「うん。ボクは満足したし、そろそろ戻ろっかな。お兄さんはどうする?」

「俺は反省会だな」

 

 久々の、完膚なきまでの敗北だった。要研究である。溜め息混じりに顔を上げれば、何故か少女は面白そうなものでも見るかのような視線を送ってくる。

 

「......ふぅん。ま、いっか。じゃあね、お兄さん」

「ああ」

 

 頷いた。次もまた広場にいたのならこちらから喧嘩を吹っ掛けてもいいかもしれない。そう考えて背を向ける。

 

 

 

 

「次は、"心意"を使って本気でヤろうね?」

 

「ッ──!?」

 

 

 ぞっとするような殺気に背筋が凍る。殺気、と言っても雰囲気だとかそんな曖昧な代物では断じてない。あまりに濃密な、吐き気がするほどの"負の心意"。

 反射的に短刀の柄に手を掛け、臨戦体勢で振り向く──が、既にそこに少女の姿はなかった。

 

「......ログアウトした、のか」

 

 冷や汗が頬を伝う錯覚に囚われる。しかしあくまで錯覚だ。このゲームにそんなものはない。そう思わせるほどに、あの殺気が凄まじかっただけだ。

 固く握り締めていた短刀の柄から指を剥がすのにさえ苦労しながら、俺は震える呼気を整える。邪悪とはよく言ったものだ。あの凄絶な負の心意の一端をキリトは感じ取っていたのかもしれない。

 

「ユウキ、か」

 

 奇しくも結城明日奈と同一の音だ。確かめるようにその名を何度か反芻する。

 

 そして。何故だろうか──俺はそう遠くない未来に再び刃を交えるであろうと、理由もなく確信していた。







このOSS、アリシゼーションに入ったら使えなくなるのよね(ボソッ
そろそろオリジナル設定塗れになってきたし、キャラ紹介みたいなのを新章入る前に一度挟んだ方がいいかもしれないと思った今日がサラダ記念日。

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