なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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※本編ではありません。引っ越し後忙しすぎて死ねるので許して下さい。エイプリルフールと称したIFのような何かです。









番外編/エイプリルフール企画

 

 

 

 

──都合のいい、夢を見ていた。

 

それは俺とオレが別離する話だ。双つの魂を抱えた異端者が、壊れずに元あるモノへと還る話だ。全く以って馬鹿らしい。

あれが──あんな少女が、オレを理解することなど出来るはずが無いというのに。

 

「本当に、救えない奴だ」

 

無駄に高い天井を睨みながら自嘲する。掛け時計が示す時刻は午前5時。いつも通り、悪夢のお陰で寝付けなかったようだ。

ただし今回のは、とびっきりに胸糞悪い、甘ったるい──吐き気がするほど都合の良い代物だったが。

 

「未練でもあるのか? 馬鹿が」

 

オレに理解者はいないし必要ない。これまでも、この先も。

今日の予定を思い起こし、オレは静かに嗤った。

 

 

 

 

『やぁ新川君。おおよそ十時間と四十二分振りの再会だね』

「いつもオレを観察している癖に、わざとらしいぞスペクター」

『いや失敬。電脳世界とこちらじゃ時間の流れというものが根本的に異なるからねぇ……人間性を保つためとでも考えてくれ。認識することで私は狂わずにいられる』

 

人間性? そんなものがあるとでも思っているのか。オレは鼻で嗤った。

奴は亡霊だ。人間のように見えて人間ではない。所詮は電子の産物、プログラムと数式によって情動があるかのように思わせる……或いは自身すらもそう思い込んでいる、救いようの無い人工物だ。

……確かあの男もこの類の人工知能を連れていたな、と思い返す。薄ら寒い家族ごっこを思い出して顔をしかめた。吐き気がする。オレは過剰適合者だが、電脳世界にああも入れ込む人間の神経がわからない。醜悪な現実逃避だ。

奴等に感情などない。あるのは水面下のプログラムによって弾き出された、厳密な計算結果のみだ。それでも感情があると思ってしまうのは、奴等がそう仕向けたからである──人はそれを“アナログハック”と呼ぶ。

 

「人は道具を使うんだ。使われるべきじゃない」

『ふむ……その道具とは私の事を指しているのかね?』

「嬉しいよ、自覚症状があって」

 

互いに虚ろな笑みを交わす。オレはこの電脳生命を利用し、こいつはオレを利用する。ギブアンドテイクな関係はこの世で最も信用できるものだ。少なくとも、肝心な場面で愛だの何だのを叫ぶより余程信じられる。

 

「さて……無駄話はここまでだ。スペクター、今日は何件だ?」

『無数にあるが、君の手を借りたいのは三つほどかな。どれから処理したい?』

「面倒なものから。オレは夏休みの宿題は早めに終わらせる性格でね」

 

首筋に触れる──否、首筋に存在するVR機器に触れる。ニューロリンカーと呼ばれ、世間に流通するそれの数世代先に存在するであろう“それ”を起動させた。

 

「フリズスキャルヴIII、起動」

《System_HLIDSKJALF III ver.6.31 // Activate》

 

《Welcome to The Accelerated World──》

 

 

 

フリズスキャルヴIII。それは言ってしまえばスーパーバイザー権限を有した、スペクター特製のプログラムを内包するVR機器である。オレの能力を最大限引き出すために調整された最新の機械であり、プロジェクトアリスの試験場に存在していたものを更に改良した事で体感時間を極限まで──千倍以上にすら引き伸ばす機能も存在している。オーバースペック極まりない物体だ。

だが、この仕事はこれがないと務まらない。現代においてVRネットワークはクロックコントロールされているのが当然であり、それぞれニューロリンカー保有者は独自のネットワークを……サーバーを構築している。それはいっそ個人所有の世界と言っても過言ではない。無数の世界が有機的に連結され、成り立っているのが今のザ・シード・ネットワークの実情だ。

故にフルダイブすることで現代の人間は様々な世界を巡ることが出来るようになった。自分の世界はこんなのなんだぞ、とお披露目出来るようになったとも言える。

その“個々の世界”の規模はまさにピンからキリまでだ。4畳半にすら満たない部屋もあれば、グラウンドほどのものもある。中には都市一つすら厳密に創り上げた猛者もいるという。膨大な時間を用いて組み立てられた世界を巡るのはさぞ心踊ることだろう。

そして、人々は自分の世界を舞台にしたゲームを創った。

 

企業が創るVRMMOだけでなく、個人によるホラーゲーや音ゲーなどが無数に存在する仮想空間のネットワーク。それこそが、ザ・シードの成れの果てだ。

……まあ、それだけならば良かった。だが、当然のように弊害は発生した。

 

「心意システム……ね」

 

暗い回廊を進みながら、オレはぶんぶんと飛び回る妖精を横目で睨んだ。大体こいつのせいである。余計なシステムを組み込んだお陰だ。

 

『今回のケースはいつも通りだ。ただし、規模が大きい』

「ほお。具体的には」

『“巣”を二桁近く取り込んでいる』

 

ふざけてんのか。

舌打ちする。現実の肉体と同じ仮想体(アバター)の頰をゆっくりと撫で、思案する。クソ面倒な事案だ。

 

──“巣”。インターネットという言葉が蜘蛛の巣から連想されたものであるように、オレ達は各個人のネットワークサーバーをそう呼んでいる。

 

三年前だろうか。ある異常な事件が発生した。このザ・シード・ネットワークが普及して丁度一年経つかどうかの時点での事だ。まあ経緯を省いて端的に言うとすれば、それはフルダイブした人間の意識が戻らない──というものだ。

無論、いくら阿保と言えどもスペクターのベースとなった男が引き起こした史上最悪の電脳犯罪である“SAO事件”は忘れ去られていない。警視庁に設立されていた仮想課……今もあの英雄被れが所属している組織は調査を行った。ニューロリンカーに何かが仕込まれているのではないかと疑った。

 

だが、結果はシロ。何故意識が戻らないのか判明せず。そして続け様に全国各地で意識が戻らない事例が続出した。

しかし警察も無能という訳ではない。被害者の共通点はすぐに発覚した。それはある特定の“巣”に接続していたという事だった。

 

まあ簡単な話、被害者の精神はそこに囚われていたという事だ。ならばネットを切断すれば良いと思うかもしれないが、ニューロリンカーを物理的に無理矢理に切断すれば弊害が出る可能性がある。仮想課は直ちに元凶となる“巣”へ突入する事を決定し、何人かを送り込んだ。

が──その数人が帰ってくることは無かった。木乃伊取りが木乃伊になったのである。

 

「全く、嫌になるな」

 

仮想世界においてのプロフェッショナルが容易く取り込まれるような“巣”とは一体何なのか。結論から言えば、それは暴走した心意の結果だ。そこの阿保が心意によるプログラムの上書き(オーバーライド)などという傍迷惑なシステムを組み込んだお陰で、暴走した負の心意が流出。“巣”は人の負の心象風景と化し、周囲のネットワークを侵食しながら、さながら癌細胞のように増殖していったのである。

 

その結果が、仮想世界に意識を囚われた人間の量産だ。放置しておけば心意は互いに共鳴し、巨大な“巣”となって洒落にならない規模へと成長していく。とは言え大体はカーディナルシステムの自浄作用により強制排出(イジェクト)される。だが、中には取り除けない規模のものも存在する。

 

「それを切除するのがオレ、か。まるで医者だな」

『現実でも医師だろう? 君は』

「まあな」

 

規模を増大した悪性の“巣”──“悪夢(ナイトメア)”を破壊するには三つの条件がある。

ひとつ。カーディナルシステムにすら割り込める権限によって強制的に介入する必要がある。

ふたつ。内部は基本的に心意によって滅茶苦茶に染められているため、心意を扱えなければ対抗の仕様がない。そのため心意を扱えなければならない。

みっつ。“悪夢(ナイトメア)”を創り上げている人間の精神を──壊す、覚悟。

 

「これか」

『ああ。サポートは任せたまえ……フリズスキャルヴによる演算補助は完璧だ』

「わかってるよ。回収はよろしく」

 

暗い回廊の突き当たりに存在する、古ぼけたドアを睨みつける。じわじわとドアは蔦のようなもので侵食されていた。成る程、今回の“悪夢”は割とわかりやすい部類のようだ。そして、凶悪だ。

 

──実に喰い甲斐がある。

 

嗤う。どろりとした黒色がオレの足から発生し、全身を覆った。仮想体が戦闘用に換装されていく。形成されるのは死神の姿だ。左手には拳銃(グロック)、右手には刺突剣(エストック)

顔を覆うのは、死神の髑髏(デッドフェイス)

 

「はァ……!」

 

鉄底のブーツでドアを蹴り開ける。途端に臭気が嗅覚を刺激した。血と鉄──そして甘ったるい花の香り。あまりに濃いそれは噎せ返るほどであり、花によって全身に寄生された人間がぷらぷらと天井から吊り下がる風景はまさしく“悪夢”だ。

 

《ぷらぷら、ぷらぷら。おはなはゆれるよ》

 

声に合わせて死体が揺れる。鈴の如く揺れる。百を超える人間の死体が揺れるごとに血液が飛び散り、蔦で完全に埋め尽くされた地面に吸い込まれると花が咲く。咲きながらこちらに殺到してくる。

 

「地獄のような花園だな」

 

グロックが火を吹いた。だが量が量だ。早々に迎撃を諦めると、オレは心意を脚に纏わせることで大跳躍する。迸る黒と赤の雷電は負の心意であることを物語っており、しかしオレがそれを完璧に制御下に置いていることも示していた。

 

「さて、と。本体は……あれか」

 

花園の中央、巨大な木の真ん中に血の涙を流しながらぐるぐると目玉を回している女の顔がある。此方を向いた。笑みを浮かべ、あり得ない大きさにまで裂けた口で嗤う。

反射的に飛び退いた。そしてそれは正解だった。

 

「クソ、確かにこの規模は久々だ」

 

どれだけの悪意を溜め込んでいたのだろうか。二桁を超えるサーバーを取り込んだことで、“悪夢”は成長を遂げている。だが直感的にまだ倒せるレベルである事を理解した。刺突剣(エストック)を胸の前で構える。

 

「貴様を──」

 

 

全身から迸る心意に身を任せながら睨みつけた。詠唱など必要ない。全身は漆黒に染まり、死神の身体は拡散する。霧のように、風のようになった戦闘用仮想体(アバター)は花を、樹を、草を腐らせていく。

百病走躯(ペイルライダー)】。オレの心意(あくい)の一つだ。

 

 

「──削除(デリート)する」

 

髑髏の眼が紅く輝く。心意による異能(スキル)を複合発動させながら、オレは駆けた。

 

 

 

 

 

 

「新川先生? ああ、あの人は今日休みなのよねぇ……どのようなご用件で?」

「あ、えっと……大した用事がある訳じゃなくて」

 

ほう、と女は息を吐いた。彼が務める病院を探すのには予想以上に手間取った。仮想課にこっそり協力して貰わねば辿ることすら出来なかっただろう。だが、そんな執拗に痕跡を削除している形跡からある種の確信を得ている。

 

「昔の知人を、訪ねてきただけです」

あの男は、まだ戦い続けている。きっと、あの日からずっと。

 

眼鏡のフレームにかかる髪を掬い、女は唇を引き結ぶのだった。

 







OS編の更新は暫し待たれよ。四月中には更新できるよう鋭意努力する次第です。

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