なんかバッドエンドしかないキャラに転生したようです。   作:あぽくりふ

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I am the only one, who can realize me.

 

 

 

 

 

「?」

 

 いつものように携帯端末で通知を無造作に消していると、ふとある文章が俺の眼に止まった。

 

 "うちのクラスのAちゃんってさ、人殺しらしいよ"

 

「…………」

 

 くだらない。そんな感想を抱くが、ふと気になってそのURLをクリックする。すると、連動して開かれたのはTwitterだった。

 

 "ほら、この事件"

 

 そう書いて下に張られていたのはとある地方新聞の記事の1つ。書かれていたのは―――"■■市郵便局強盗事件"。

 

 "小5の時に、強盗の男を銃で射ち殺したとか。"

 

 さらにそんなツイートが即座に下に表示される。まあ、十中八九サブアカウントを使った自演だろう。間隔が余りに短すぎる。

 

 "【悲報】うちの学校に殺人鬼がいる"

 

 リツイートが重ねられ、拡散されていく情報。尾ひれがつけられ、さらにクラスメイトがそれをリツイートしていく。ものの五分もしないうちに、情報は手の施しようがないほどに拡散されてしまっていた。

 

 "だれ?"

 "ほら、こいつ"

 

 ついには目の部分こそ黒線で消しているものの、個人の写真までばらまかれ始めた。そんな様を見て、俺は密かに嘆息しながらそのツイートを見ることなくTwitterを閉じた。

 

「…………」

 

 "Aちゃん"。おそらくこれは女子、さらに名字のイニシャルを指しているのだろう。

 ―――そして。うちのクラスには、"A"……すなわち"あ"から始まる名字を持つ女子は一人しかいない。

 

「……くだらねえ」

 

 静かにそう呟き、俺は携帯端末の画面を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――よう。遅かったな」

 

 六月に入った最初の週の月曜日。GGOを始めて丁度二ヶ月、朝田(シノン)からすれば一週間という節目が今日だ。

 だがそんな今日に限って、シノンは1時間以上も遅れて待ち合わせ場所に現れた。

 

「……ごめんなさい。少し、用事があって」

「……? そうか」

 

 感じた違和感。いつもに比べ、シノンの顔には翳りが見られる。……が、俺はあえてそれを無視して背を向けた。

 

「んじゃ、行こうぜ。あのスナイパー落とすまで周回するつもりなんだろ? ちゃちゃっと落として調整しようぜ」

「ええ……」

 

 ……心当たりは、ある。だがそれは俺が言い出すことではない。

 俺は肩を竦めて、グロッケン西に位置するゲートへと歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、2時間ほど経っただろうか。

 俺は誰にとも知れない説明をしつつ横を見る。俺の横で伏せ射ちをする少女は、現在進行形で明らかに不調であった。

 

「…………っ」

 

 タァン、という音と共に射出されるお馴染みのNATO弾。手にする銃はなかなかレアな狙撃銃であるワルサーWA2000である。セミオートの癖にボルトアクション式顔負けの命中精度を誇るこの銃は、その独特な形状からGGO内でも愛用するファンは非常に多い。とは言っても、やはりスナイパーライフルの代表格であるドラグノフには負けてしまうが。

 

 それはともかく、今俺たちがいるのは狙撃銃をの試し射ちに最適な場所と名高い廃墟―――それも高層ビルの屋上だ。先程ボスのランダムドロップによって、シノンが運良く一発で入手したこのワルサーWA2000。それの調整のために此処に来ていたのだが―――

 

「外れ、か。なんか今日は調子悪いな」

「…………」

 

 いつもなら噛みつくように返されるはずだが、返事はない。そのことにやはりおかしい、と確信しながらも俺はお馴染みの《FN-FAL》を構えた。

 ……強風があるものの、たかが500メートルの狙撃である。普段ならば10発撃てば10発をど真ん中に当てるほどの狙撃適性を持つシノンだが、今に限っては3発に一回は外すという絶不調である。

 しかも敵は比較的狙いやすいはずの鳥型モンスター。ここが"鴨射ち"と称される所以でもあるが―――それをこんなにも外すとなれば、明らかに集中出来ていない証拠だ。

 

「……ちッ」

 

 引き金を引く。だが俺もいらないことを考えていたせいか、アサルトライフルの有効射程範囲内であるにも関わらず外してしまう。屋上のひび割れたタイルの上を空になった薬莢が跳ね、銃口から漏れた燃焼ガスが風に吹き散らされていく。思わず溜め息を吐いた。そんな俺に目もくれず、淡々とシノンは引き金を引く。

 

 ―――当たり、当たり、当たり、外れ、当たり、外れ。弾装が空になり、シノンがようやくスコープから顔を上げる。自分でもわかっているのか、その表情は浮かないもの。無造作に取り出したマガジンを再装填(リロード)し、再び伏せ射ちを始める。

 タァン、タァン、タァン―――と。小気味良く、リズムを刻むように響く銃声を聞きながら俺は無言でその様子を見ていた。

 

「……ねぇ」

「なんだ」

 

 ふと、シノンが口を開く。その目はスコープの中に向けられ、伏せたままだが確かに俺に話しかけていた。

 

「あなた、聞いたんでしょ?」

「何を?」

「……私が、人を殺したってこと」

 

 直後に引かれる引き金(トリガー)。だが弾は外れ、シノンが嘆息する。

 

「……まあ、な」

「じゃあ、率直に聞かせてくれない?」

 

 ―――どう思った?

 

 そんな問いかけに、俺は面食らってシノンをまじまじと見つめた。スコープを覗きこむ彼女の表情はわからない。だが、声は恐ろしく平坦だった。

 

「……どう思ったか、ねえ」

 

 聞いた、というよりは読んだと言うべきだろう。だが、シノンの真意がわからない。どう答えるのが良いのだろうか。

 ……わかるわけがない。ただのぼっちにそんな会話スキルを求めるほうが間違っているのだ。

 

 そうして早々に考えることを破棄し、俺は素直に思ったまんまのことを言ってやることにした。

 

「―――今日、俺は朝食にパンを食べました」

「はぁ?」

 

 突然の脈絡のない発言に、シノンが振り返る。俺はさらに続けた。

 

「どう思う?」

「はぁ?……いや、どうって」

 

 ―――"それがなにか?"

 

 俺とシノンの発した言葉が重なる。俺はそれにうんうんと頷き、シノンを指差した。

 

「そ。それと同じ」

「お、同じって……」

 

 思わず絶句し、シノンが閉口する。俺は肩を竦め、FN・FALの表面を撫でた。

 

「俺はお前のトラウマの原点なんて興味ねえし、お前がリアルで人殺していようがなにしようが、俺の知ったことじゃない。それともあれか? "きゃー、この人殺し!"とでも言って欲しかったのか?」

 

 ふん、と俺は鼻を鳴らす。だがシノンは納得出来ないのか、しどろもどろになりながらも言葉を紡いだ。

 

「で、でも……人を、殺したのよ?」

「だから?」

 

 冷笑を浮かべながら答える。シノンが息を飲み、俺はスコープを覗き込んだ。

 

「誰かが死んだ。誰かが殺して殺された。―――で、なに? クソくだらねえ」

 

 弾道予測円が最小になった瞬間、躊躇いなく引き金を引く。頭を吹き飛ばされたMobが落下する様を見て、珍しいこともあったもんだと感心した。

 

「お前が過去に犯罪者を射ち殺していようが、俺には関係ないし関係したいとも思わない。他人(お前)の過去に首突っ込むほど暇じゃねえんだよ、俺は」

 

 実際、この事を知っても"そういえばそうだったな"程度の感想しか抱けなかった。

 

「というか。当事者でもない俺に、とやかく言う権利なんざないだろうに」

 

 自分を真に理解できるのは自分のみ。俺を理解できるのは俺だけだし、朝田詩乃を理解できるのは朝田詩乃だけだ。時には自分自身ですら自分のことがわからなくなってしまうことさえあるのである。たかが他人のためにリソースを割けるほど俺に余裕はないし、偽善者でもない。

 

「……そっか。そうよね」

 

 シノンは何処か納得したように頷き、再び前を向いて伏せ射ちの姿勢に入る。その様子を見て溜め息を吐き、俺は再度引き金を引いた。―――外れ。再び溜め息を吐いた。

 

「あのさ」

「んだよ」

「……ありがと」

「どういたしまして……?」

 

 つい疑問系にしてしまったのは、何か礼を言われるようなことをしただろうか、と首を捻ってしまったからだ。

 すると、シノンがくすりと笑った。やはりよくわからない。

 

「……ま、あれだ。いつかお前の悩み(トラウマ)を解決するような主人公サマが現れるだろうよ」

 

 無論、某黒の剣士こと正妻持ちのハーレム系主人公であるキリトのことだ。どうやら須郷も無事消されたようだし、いずれこちらにも来るだろうからもう少しの辛抱だろう。

 

「主人公、ね。あんたは違うの?」

「アホ吐かせ。俺はアレだ、ジョジョで言うなら精々ダイアーさんくらいのもんだ」

 

 間抜けがァー、とか言いながら割られる人である。波紋入りの薔薇は痛かろう……とか言いながらパリーンってなるやつ。……うん、割れるのは嫌だな。

 そんな事を考えていると、シノンが呆れたように笑う。

 

「……あんたってさ。やっぱり馬鹿よね」

「んだとこの野郎」

「自覚症状がないとこが馬鹿なのよ」

 

 馬鹿馬鹿言われて思わず閉口する。いや、テストの点そこまで悪くないはずなんですけど。というか、お前より成績良くないですかね?

 

 そう文句の1つでも言ってやろうと口を開く。が、その文句が発せられることはなかった。

 

「なによ?」

「……や、なんでもない」

 

 黄昏色の光を反射する水色の髪。加えて山猫を思わせる美貌を彩る微笑。

 

 

 

 ―――まさかお前に思わず見惚れてました、なんて言えるわけがなくて。

 

 俺は再び、口を閉じるしかなかったのだった。

 






かかったなアホが!>(*´ー`*)

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