ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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今回は場面転換が多いです。
言わなくてもいいかと思いますが、そのことを理解した上で見てくれると読みやすいかもしれません。

それから、お気に入り数かま200を突破しました! ありがとうございます!


怪物祭
第8話 美の神


「ベル君、クラウド君、ボクは何日か部屋を留守にするよ。構わないかな?」

 

 

朝、目を覚まして3人で朝食を食べ終えた頃ヘスティアはそう言った。ベルは何のことかわからなかったが、クラウドには合点がいっていた。今夜開催される神ガネーシャ主催の神の宴のことだろうと。

 

 

「元々行く気はなかったんだけど、やっぱりパーティーに顔を出してみんなに会いたいな、と思ってさ」

 

 

「だったら、遠慮なく行ってきてください」

 

 

「ああ、ヘスティアもたまには羽目を外すのもいいと思うぜ」

 

 

だけど、とクラウドはちょっと複雑そうな顔をしてヘスティアに言った。

 

 

「パーティーで出される食事をテイクアウトしたりするなよ」

 

 

「なっ! なんだってー!!」

 

 

信じられない、まさかそれを言うのかみたいな顔でヘスティアは飛び上がる。まあヘスティアがそれだけの目的で行くとは思えないが、この幼女姿の女神様はそれくらいやるだろうと見越しての忠告だ。少なくともヘスティアには神としての威厳を保ってもらいたいと。

 

 

「あははー、クラウド君も冗談が上手いなぁ。いくらボクでもそんな意地汚いことをするわけないじゃないかー」

 

 

「じゃあそのタッパーは何だ?」

 

 

クラウドはヘスティアがさりげなく隠しているタッパーを指さす。もう言い逃れできないだろ、こんなの。

 

 

「違うんだっ、これは....これはボクの、ボクにしかできない使命なんだぁぁぁぁ!!」

 

 

突然涙目で叫んだ神様はパーティー用の服と荷物を持って疾走していった。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「さっ! さっ! さっ!」

 

 

クラウドの予感は見事に的中した。ヘスティアはガネーシャ・ファミリアのホームで開かれている神の宴の最中、持参したタッパーに日持ちのよさそうな料理を詰めこんでいた。クラウドにああ言われた手前、罪悪感はあったが背に腹は代えられない。せっせとタッパーをパンパンにした。

 

 

「何やってんのよ、あんた....」

 

 

呆れたような声で後ろから話しかけられる。振り返ると真紅のドレスに身を包んだ赤い髪をした女神がいた。右目に大きな眼帯をつけた美しい女神。

 

 

「おお、ヘファイストス!」

 

 

「ええ、久しぶり」

 

 

ヘスティアの神友、ヘファイストスだ。因みにヘスティアがファミリア発足まで厄介になっていた相手でもある。

 

 

「良かった、来て正解だったよ」

 

 

「何? 言っておくけど、お金ならもう1ヴァリスだって貸さないからね」

 

 

「なっ、何おう! ボクはもうそんな廃れた生活からはオサラバしたんだ! 今はそんなことになんか困ってないぞっ!!」

 

 

「いや、思いっきりお持ち帰りしようとしてたじゃない....」

 

 

ムキーッ! と悔しがるヘスティアと呆れるヘファイストス。そんな2人の女神に近寄る神物がいた。

 

 

「相変わらず仲が良いのね」

 

 

「ええっ!? フレイヤ!?」

 

 

ヘスティアは驚いて声も出なかった。なぜ『美の神』が来ているのか、と。

彼女はフレイヤ。容姿の優れた神の仲でも一線を画する美しさを誇る女神。長い銀髪に金の刺繍が施されたドレスを着た彼女は見る者全てを魅了するほどの美麗さを放っていた。

 

 

「な、何で君がここに......」

 

 

「今日はちょっと用があって....もしかしてお邪魔だった?」

 

 

「いや、まあそんなことはないけど....」

 

 

ヘスティアはフレイヤのことが苦手なのだ。というか、美の神の性格はあまりいいとは言えない。ゆえにヘスティアも少々関わり合いたくないところがあった。

 

だが、そこでさらに関わり合いたくない神物が現れた。

階段を猛スピードでかけ降りてこちらへ走ってくる朱色の髪に華奢な体躯をした女神。そう、つまりはロキのことだ。

 

 

「おーい! ファイたーん、フレイヤー、ドチビー!!」

 

 

「久しぶりね、ロキ。」

 

 

「何の用だい?」

 

 

「なんや、ドチビ。理由がなかったら来たらあかんのか?」

 

 

むう、とヘスティアはむくれるがそういえばともう1つの用事を思い出す。

 

 

「ところでさ、ロキ」

 

 

「ああ? 何や?」

 

 

「君のファミリアの【剣姫】には付き合ってる男や伴侶はいるのかい?」

 

 

アイズの話題になった途端ロキは一変してヘスティアを見下ろし睨みつける。

 

 

「あほぅ、アイズはうちのお気に入りや。手ぇ出す奴がおったら、八つ裂きにしたるわ」

 

 

「ちっ!」

 

 

ヘスティアは盛大に舌打ちをかます。どうせなら付き合っている男がいてくれれば良かったものを、と落胆する。

 

 

「ああ、そうや。ウチも聞きたいことがあんねん」

 

 

「....何だい?」

 

 

「白々しいなぁ、クラウドのことに決まっとるやろ」

 

 

クラウドの名前が出された瞬間、ヘスティアは少し居たたまれない気持ちになった。そうだ、クラウドはつい3週間前までロキ・ファミリア所属だった。よもや自分のところに改宗したことをロキが知っているとは思わなかったため、突然の質問に驚いてしまう。

 

 

「クラウドってもしかして....【銀の銃弾(シルバー・ブレット)】? 確かロキのファミリアの子でしょ? その子がどうかしたの?」

 

 

ヘファイストスがロキに尋ねるとロキは不機嫌そうにそれに答えた。

 

 

「聞いてビックリ、何とドチビのトコに改宗したんやって」

 

 

ヘファイストスは驚きを隠せずに言葉を失い、フレイヤは興味深そうに口元に手を当てる。

 

 

「一体どないな大災害が起こったらドチビのとこなんかに改宗するんや? そもそも、何で改宗したのかすらわからへんよ。本人に聞いても答えてくれへんし。なーんか、裏で回したんか?」

 

 

昨日の深夜、クラウドから話された過去についての話が脳裏をよぎる。しかし、クラウドからは事を大きくしないようなるべく内密にと言われている。ならば、話すことはない。

 

 

「失礼だな、クラウド君は優秀だからきっとボクの素晴らしさに気づいたってことじゃないのかい?」

 

 

相当憎たらしく笑みを浮かべてヘスティアは反論。当然ロキの煽り耐性の低さを知ってのことだ。

 

 

「あぁん!? 寝ぼけてんのかドチビィ!! 金も財力も人員も身長も無いドチビのどこがええねん!?」

 

 

「それなら君も同じだろ! 母性も胸も胸も胸も無い女神に愛想を尽かしたに決まってるっ!!」

 

 

「後半胸しか言うてへんやろがぁぁぁぁ!!」

 

 

ロキはヘスティアの両頬を掴んでむぎゅうううと引っ張る。負けじとヘスティアも両手をブンブンと振り回す。

 

そんな攻防(?)が数分続き、結果的にはロキが床に手をついて項垂れ、ヘスティアが引っ張られていた頬をさすって勝ち誇る姿があった。

理由は明白。ロキが頬を引っ張るたびにヘスティアの巨乳が揺れまくり、同時に自身の無乳(コンプレックス)を見せつけられたからだ。

 

 

「きょ、今日は....このへんにしといたるわ」

 

 

「ふん、今度会うときはそんな貧相な物をボクの視界に入れるんじゃないぞ!!」

 

 

ロキは涙目になりながら会場を後にし、周りの神も完全に面白がってその光景を見ていた。

 

 

「でも、良かったわねヘスティア。確かクラウドとベルって子がファミリアに入ったんでしょ? ロキの所のLv.5なんて、他のファミリアからすれば喉から手が出るほど欲しい人材なのに」

 

 

「まあねー、本当に2人ともボクにはもったいないくらいだよ」

 

 

ヘファイストスとヘスティアが嬉しそうに話す隣で、フレイヤが髪を翻し出口へと歩を進めた。

 

 

「それじゃあ、私もそろそろ外そうかしら。用事も済んだことだしね」

 

 

ヘスティアとヘファイストスに軽く挨拶をして、フレイヤは去っていく。そういえばヘスティアは彼女が何の用事でここに来たのか聞いていなかった。しかし、パーティーの最初から最後まで特別何かをしていたようにも見えなかったし、結局何をしに来たのだろうか。

 

 

「....ふふ、クラウド....ねぇ」

 

 

去り際に小声で呟いた美の神の声は誰にも届かなかった。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「おーい! 待つニャー、白髪頭に銀髪頭!」

 

 

「「?」」

 

 

ヘスティアが神の宴に出かけてから3日、その間クラウドとベルはいつものごとくダンジョンに行こうとメインストリートを通っていると、誰かに呼び止められた。

声のした方を見ると、豊饒の女主人の猫人の店員がこちらを手招きしていた。

 

 

「確か....アーニャだっけ? 俺たちに何か用なのか?」

 

 

「おお! ミャーの名前覚えてたのニャ、銀髪頭!」

 

 

「銀髪頭じゃなくてクラウドな。お前の方は聞いてないのかよ....」

 

 

アーニャは舌をペロッと出して頭を掻く。見た目だけなら可愛らしいものだが、クラウドからしてみれば非常に微妙な反応しか返せないのも事実。

 

 

「はい、コレ」

 

 

「......へ?」

 

 

アーニャはベルの手をとると、そこにがま口の財布を握らせてきた。

 

 

「これをあのおっちょこちょいのシルに渡してほしいニャ」

 

 

「シルが? 何処に行ったんだよ?」

 

 

「アーニャ、それでは説明不足でしょう」

 

 

また1人、別のところから声がかかる。長く尖った両耳に綺麗な顔立ちをしたエルフの女性、リューだ。

 

 

「おはようございます、クラウドさん、クラネルさん」

 

 

「ああ、おはようリュー」

 

 

クラウドが笑顔で挨拶を返すと、心なしか嬉しそうになったリュー。因みにアーニャはそれを眺めて隠れながらニヤニヤしていた。

 

 

「シルが財布を忘れたまま、怪物祭(モンスターフィリア)に行ってしまったのでそれを届けてほしいということなのです。私達は店の準備で手が離せないので、お願いできますか?」

 

 

「ああ....そういうことね」

 

 

「えーっと....怪物祭(モンスターフィリア)って何ですか?」

 

 

ベルが不思議そうに尋ねてきた。そういえばベルはまだオラリオに来て日が浅い。そういった恒例行事については疎い方なのだ。

 

 

「そっか、ベルは知らないんだっけか。怪物祭っていうのは、ガネーシャ・ファミリア主催の年に一回の行事のことでな。闘技場に観客を呼んでモンスターを調教するまでの過程を見せるっていう、まあ見世物みたいな感じかな?」

 

 

「じゃあ、そこの闘技場の近くに行けば会えるんですか?」

 

 

「多分な、まあそこまで大変なことでもないみたいだし、任せてくれよ」

 

 

クラウドが了承するとアーニャとリューは嬉しそうにお辞儀をして2人を送り出した。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「で、今度は何企んどるんや? またどっかのファミリアの子に目ぇつけたんか?」

 

 

怪物祭の行われている闘技場へと向かう人の流れ、それを見下ろせる位置にある大通りに面した喫茶店の2階。そこの円テーブルに向かい合う形で2柱の女神が座っていた。

先程の言葉を発したのは朱色の髪に白のシャツと黒のパンツという服装をした女神、ロキ。そして彼女の後ろには金髪金眼の少女、ロキ・ファミリア所属の剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインが立っている。

 

 

「ったく、この色ボケ女神が。誰彼構わず手ぇ出して、諍いの種ばっか撒きよるなぁ」

 

 

「心外ね、これでも私ちゃんと選んでいるのよ?」

 

 

ロキの2度目の質問に話しかけられていた神物はようやく答えた。長い紺色のローブを羽織った女性で、顔の部分から白皙の肌と銀色の髪、そして他と隔絶した美貌が見てとれた。美の神、フレイヤだ。

 

 

「で? どないなヤツや、美の神のお眼鏡に叶ったその子供っちゅーのは?」

 

 

「正確には、2人なのだけれど」

 

 

ロキはその言葉を聞いた瞬間、頭を抱えて嘲笑してしまった。自分の予想外のことに笑いすらこみあげてきたからだ。

 

 

「かっ! なんや一気に2人もかいな! 恐いなぁ、年がら年中盛っとる女神様は。ほな、質問変えるで。その2人、一体どないなヤツらなんや?」

 

 

「1人は、とても頼り無くて、少しのことで泣いてしまう、そんな子」

 

 

でも、とそこでフレイヤは言葉を区切る。

 

 

「綺麗だった。透き通っていた。そう、本当にあの子の色は『透明』だったわ」

 

 

ロキもアイズもその様子を何とも言えない表情で見守っている。

 

 

「もう1人は....そうね。簡単には表現できないけれど、強いて言えば得体が知れないっていうことかしらね。強い部分はあっても、それ故にに弱さや、自分への劣等感が浮き彫りになっている....そんな子。

この子は、『灰色』に見えたわ。黒い部分と白い部分が綯い交ぜになったみたいに」

 

 

そう言ってフレイヤは視線を窓から見える人混みのある部分に向けた。銀髪のハーフエルフと白髪のヒューマンが一緒に歩いている姿を、目で追っていた。

通り過ぎていく2人を見つめながらフレイヤは席を立った。

 

 

「ごめんなさい、急用ができたわ」

 

 

「はぁっ?」

 

 

ロキは思わずフレイヤを呼び止めようとしたが、フレイヤはそれを無視して店を後にした。

 

 

「何やったんや一体? なーんか、意味深なこと言うとったけど....」

 

 

ロキはフレイヤの言葉の意味に頭を悩ませていると、アイズが窓の外を見ているのに気づいた。

 

 

「アイズ、どないした? 何かあったん?」

 

 

「....いえ、何も」

 

 

アイズも、あの銀髪の女神と同じくその2人を見つめていた。自分が兄のように慕うハーフエルフと、自分に助けられたヒューマンのことを。


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