ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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今回はオリキャラが出ます。
あと、説明+コメディみたいな感じです。堅くならずに見てください。


第12話 専属精霊

見覚えのない天井。目が覚めて最初に視界に入ったのはそれだった。

 

 

「どこだ....ここ」

 

 

クラウドは眠たげに欠伸をして、辺りを見渡す。どうやら自分はどこかの個室のベッドに寝かされていたようだ。身体には毛布がかけられている。

そのまま上体だけ起こして、直前の記憶を思い返す。確か怪物祭の開催されている闘技場の地下室でオッタルと戦い、1度敗れて....

 

 

「そうだ....あの声、それにあの力。一体何だったんだ....」

 

 

突然体力と精神力が回復し、身体能力が上がり、魔法も変化した。そして、呪装契約という言葉。

 

 

「呪装契約....何だよそれ」

 

 

「それは貴方がアポフィス様に選ばれた契約者という証ですよ、クラウド様」

 

 

......声が聞こえた。かなーり近くから。正確に言うと、今自分にかけられている毛布の中から。しかも女の子の声で。

 

 

「いやまさかな、そんなわけない。そんなわけないんだよ。そうだな、夢だな。よし、もう一回寝よう。そして忘れよう」

 

 

クラウドは再びベッドに横になって目を閉じる。もしこれが現実ならば自分は女の子をベッドに引きずりこんで一緒に寝ていたことになる。

下手しなくても問題だ。こんなタチの悪い冗談は勘弁だ。

 

 

「現実から逃げないでください。それから無視しないでください。私、私です。覚えてないのですか?」

 

 

「ワタシワタシ詐欺か? 新しいシリーズ出すとは中々やるな」

 

 

「ワタシワタシ詐欺....私の知識には無い単語です。どういう意味なのですか」

 

 

「知り合いを装って金とか巻き上げるんだよ。レアな通信用の魔道具(マジックアイテム)使ってな」

 

 

目を瞑ったままクラウドは頑として動かなかった。このまま眠り、現状を打破しようと試みる。

 

 

「......」

 

 

謎の声の主も黙ったまま何も話さない。諦めたのか、それとも何処かへ行ったのか、はたまた今までのやり取りは自分の幻聴だったのか。

そんな考えが頭を巡ったが、突然自分の身体にのしっと何者かが体重をかけてきたため、ビックリして目を開けてしまう。

 

 

「おはようございます。やっとお目覚めですか、クラウド様」

 

 

そこには、自分の腹の上に跨がる1人の少女がいた。

年齢は10歳前後といったところか。雪のように白い肌に、腰まで滑らかに伸びている銀色の髪、翡翠色の瞳というとても美しい少女だ。服装は白い長袖のシャツに黒のスカート、その下には同じく黒のニーソックスを履いている。

ここまで理解して改めて思った。絶対に会ったことはない、と。

 

 

「えーっと....悪い。全く見覚えがないんだけど....何処かで会ったのか、俺たちは」

 

 

苦笑いしながら、それでいて当たり障りのないように質問してみる。ここがどこだかわからないが、悲鳴でも上げられて人が来ればその時点で社会的に死亡する。

クラウドが平静を装いながらも、内心では凄く焦っているのとは裏腹にその少女は可愛らしく首をかしげていた。

 

 

「....? ああ、なるほど。確かにこうして顔を合わせるのは初めてですね。ですが、声は何度か聞いているはずですよ。

とはいっても、戦闘中だったのできちんと覚えているのかは定かではありませんが」

 

 

戦闘中。その言葉が引っ掛かる。何だろう、確かに聞き覚えがある。彼女が発するこの綺麗な声は、確か....

 

 

「まさかお前、俺がオッタルに殺されかけたときの....」

 

 

「ピンポン。正解です」

 

 

少女はその幼い顔に笑みを浮かべて喜んでいた。クラウドは幼い女の子に興奮するような趣味はないが、今回はちょっとドキッとさせられてしまっていた。

クラウドはもう一度上体を起こして目の前の少女に向き直る。

 

 

「改めて自己紹介しますね。初めましてクラウド様。私はキリア。貴方の【専属精霊】を務めさせていただいています」

 

 

キリアと名乗った少女はスクッと立ち上がり丁寧にお辞儀をしてきた。

 

 

「クラウド様って....何でそんな呼び方なんだ?」

 

 

「ご不満でしたか? では、ご主人様とお呼びしましょうか?」

 

 

「それは色々問題があるから駄目だ」

 

 

「では、お父様と」

 

 

「もっと駄目だ」

 

 

「では、お兄ちゃんで」

 

 

「....クラウド様でいい」

 

 

頭が痛くなってきた。こんな小さな女の子に娘や妹を演じさせていたら完全にそっち方面の輩だと勘違いされる。

裏切り者とか、銃使いの変わり者とか言われるのは構わないが、流石にロリコンの変態として吊し上げられるのは耐えられない。

クラウドは頭を掻いて向かい合ったままキリアに質問をしてみた。

 

 

「ここはどこだ?」

 

 

「ここですか? 先程、金髪のエルフの女性がいらっしゃいました。ウェイトレスのような格好をしていましたから....何処かのお店の個室でしょう」

 

 

「金髪のエルフ....それにウェイトレスってことは....ああ、リューか。ってことはここは豊饒の女主人か?」

 

 

ということは豊饒の女主人の店員の誰かがここに運んでくれたのか。何にせよ、行き倒れにならずに助かった。ここを出たらちゃんとお礼を言わなければと頭に入れておいた。

クラウドは思考を切り替えて気になった部分を問いつめていく。

 

 

「あのさ、精霊って....あの精霊だよな?」

 

 

「はい。まあ私は、貴方とアポフィス様との契約に際して生み出された子供――アポフィス様曰く【専属精霊】。つまりは、貴方に仕える精霊ですので一般的なものとは少々異なります」

 

 

精霊。ヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)と同じく下界の住人なのだが、その数は極めて少なく、なおかつ『最も神に愛された子供』と称されるほど絶大な魔法の才能を持つ。

クラウドも知識としては知っている。しかし、実際にそれを見るのはこれが初めてだ。

 

 

「その契約っていうのは....やっぱり呪装契約のことか?」

 

 

「はい。そういえばそれについてお答えする、という用件でしたね。さあ、何でも質問してください。私は正直に答えますよ、今履いている下着の色でも答えます」

 

 

「それについては質問しないし、百歩譲って質問したとしても答えなくていいからな!!」

 

 

「正解は『履いてない』です」

 

 

「まさかの展開!? 履いてないってどういうこと!?」

 

 

「確か、私の知識によると世の中の男性の中には女性が服の中に下着を着用していないと認識することで妄想を広げる者もいると聞きます。クラウド様はそうではないのですか?」

 

 

クラウドは思わず口ごもってしまった。確かに興奮しないでもないが、こんな幼気(いたいけ)な女の子にそんなことを提言する度胸もない。

クラウドはキリアの履いてない宣言に思わず彼女の顔から足までを眺めてしまい、顔を赤くして目をそらす。

 

 

「ノーコメントだ。それから、下着はちゃんと履け。誰かに見られたら大変だろ?」

 

 

「大丈夫です。物質創造の魔法で衣類は作れますから」

 

 

「だったら何で俺とこうして顔を合わせる前にやってないんだよ....」

 

 

「その方が喜ぶかと思いまして」

 

 

「だから喜んだらアウトだって!!」

 

 

何だろう、目の前にいるのは明らかに自分より年下の少女なのにこうも翻弄されるのは。

クラウドは1度咳払いをしてキリアと向き合う。

 

 

「話が脱線したな。それで、呪装契約って何だ? まずはそれが聞きたい」

 

 

クラウドにとってはそれが一番気になっていた単語だった。呪装契約、Lv.5である自分が何故Lv.7のオッタルを倒すことができたのか。それは間違いなく呪装契約とやらが関係している。

 

 

「はい。呪装契約とは、その名の通り、呪いによる契約です。これを話すには、まず経験値(エクセリア)に関する情報を明かさなければなりません」

 

 

キリアが人差し指をピンと立てて得意気に話し始めた。とはいえ、これでようやく気になっていたことが明らかになるのだから正直嬉しい。

 

 

「経験値って....ステイタスの上昇に必要な鍛練とか戦闘とかの経験のことだっけか?」

 

 

「その通りです。神はそれを神の恩恵(ファルナ)を以て自らの眷族のステイタスに反映させる、といった仕組みです。ですが、これには知られていない秘密があります」

 

 

「秘密?」

 

 

「はい。これは全ての眷族に言えることですが、彼らは多かれ少なかれ経験値を無駄にしています。ステイタスとして取り込むことができる割合が少ないと言った方が正しいでしょう」

 

 

クラウドはよくわからないと不思議そうに頭の上に疑問符を浮かべていた。それを察したのか、キリアは続けて説明してきた。

 

 

「簡単に申し上げますと、経験値から得た戦果の殆どがステイタスに反映されずに無駄になっている。そうですね....およそ2割しか反映されていないらしいです」

 

 

「そんなの初めて聞いたけど....お前の仮説か何かか?」

 

 

「私ではなく、アポフィス様の立てた仮説です。確かに聞いたことはないかもしれません。確たる証拠はありませんが、強いて言えばステイタス上昇やレベルアップに個人差があるから、でしょうか」

 

 

それにはクラウドも心当たりはある。パーティーを組んでダンジョンに潜り、戦闘でほぼ同程度の活躍をした者でもステイタス上昇には結構違いが出る。アポフィスはそれに理由があると考えたのだろうか。

 

 

「そして、ここからが本題です。呪装契約の力、それは『ステイタスに反映されなかった分の経験値(エクセリア)をチャージして限定的に行使できる』です」

 

 

言葉を失った。もし今キリアが言った説明の通りならば自分は今までの膨大な経験値を使用して戦っていたことになる。そうなればあのオッタルを倒せたことにも納得できる。

 

 

「8年前、アポフィスは天界に送還される前に俺にこの仕掛けをしたのか? 置き土産のつもりで」

 

 

「置き土産....というよりは言葉通りの呪いですよ。あの方は自分の自慢の子供が他の神の脅威になるのを天界から見たかったのでしょう。或いは、可愛い我が子を守ろうとする親心だったのかもしれません」

 

 

「だといいんだけどな」

 

 

あのアポフィスがそんな善意でこんなことをするのか、クラウドには疑問でならなかった。神が娯楽に飢えているのはほぼ全員に言えることだし、アポフィスも自分の眷族と他の派閥が争うのを楽しんでいたのだ。

 

 

「アポフィス様は私を作り出し、私と貴方の間に経路(パス)を繋いだ....貴方が3年前からアポフィス様の声が何度か聞こえるようになったのは、アポフィス様が私を通じて貴方にちょっかいをかけたからです」

 

 

「....なんてもん残してんだあのバトルジャンキー神が」

 

 

「....ばとるじゃんきー、とはなんですか?」

 

 

「知らなくていいからな」

 

 

キリアはコクリと頷いて、今度はクラウドの腰の辺りに座り込む。柔らかい太股の感触に少しドキッとしてしまうが意識しないよう思考を戻す。

 

 

「で、契約っていうのは?」

 

 

「....ごめんなさい。質問の意味がよく理解できません」

 

 

「契約っていうからには、俺もそれなりに支払わないといけない対価があるんだろ?」

 

 

そう、間接的とはいえ神と契約してしまったのだ。神の恩恵は強大な力を得るもののリスクは少ないが、契約となると話は違う。

契約とは互いの合意の上で成り立つ。相手が神、その上あれほどの力が使用できるとなれば死後の魂の拘束や奴隷化程度は覚悟しなければならないだろう。

 

 

「それは、今から貴方に支払ってもらいます」

 

 

キリアの声からあまり感情は読み取れなかったが、クラウドは頬に冷や汗を流していた。

今から、だ。自分の命を助け、あれだけの強敵を倒す手助けをしてやったのだから見返りに、ということだろう。

キリアは自分の腰の上に座ったまま、こちらと目を合わせる。そして向かい合ったまま自分の両肩に手を静かに置いた。

 

 

 

 

「私を抱き締めてください」

 

 

 

 

「........は?」

 

 

ふと、オッタルが自分の最上級攻撃魔法【暴虐雷雨(サンダー・ストーム)】を受けて健在だったときの光景が浮かび上がった。確かその時もこんな素っ頓狂な声を出した気がする。

 

 

「私を抱き締めてください」

 

 

「........」

 

 

「抱き締めてください」

 

 

「....いや、聞こえてるぞ」

 

 

キリアはキョトンとしながらこちらを見つめてくる。きっと今自分はとんでもなく複雑で困った顔をしてるんだろうなと思いながら、クラウドはキリアに質問した。

 

 

「対価を払えって言われたのに、何で抱き締めるんだ?」

 

 

「それこそが対価だからです。そう、対価とは『私の世話をしてもらうこと』。つまりは、家族として可愛がってくれませんか? という意味です」

 

 

「....えーっと、それは、あれか? アポフィスの命令か?」

 

 

「はい。確か『いつか会うことになったらクラウドに可愛がってもらえ。あいつはきっと喜ぶだろ』と仰っていましたよ」

 

 

え? 対価ってそういうこと?

言っては何だが、さっきまでシリアス(?)な場面だったのでまさかのアポフィスの悪ふざけ的な証言についていけないのだ。

 

 

「それとも、私はクラウド様と一緒にいては....駄目、なんですか....?」

 

 

ほんのり頬を赤くしながら綺麗な目でこちらを見上げてくるキリアに、クラウドは「いや、その....」とたじろいでしまう。

ヘスティアより年下に見えるほどの少女に弄ばれているようで何だか情けなかったが、今は気にしないことにした。

 

 

「....そうじゃない。俺は別に構わないから、家族になること自体は」

 

 

「なるほど。やはりクラウド様は年下の女性を好むという情報は本当だったのですね」

 

 

「それ教えたの誰だ、俺が今すぐぶっ飛ばしてくる」

 

 

まさか誰かにすでにロリコン疑惑を立てられていたのか。何度か年下の女の子にアプローチされることもあったが、その相手に強く執着していたわけでもないのだからそんなことはないと思うが。

 

 

「では、気を取り直して」

 

 

今度はキリアが両手を大きく広げて待ち構える。飽くまでそちらからしてくださいね、という意味だろう。

 

 

「じゃ、じゃあ....するぞ」

 

 

クラウドは頭の中で色々弁明しながら右手を彼女の腰の裏に、左手を肩に伸ばしていった。

 

 

「(これは飽くまでも助けてもらった礼と契約に際しての交換条件を律儀に果たしているだけなんだ。

そうだ、俺はロリコンじゃない。可愛らしい年下の女の子を抱き締めることに抵抗を感じていない、ただの健全な若者に過ぎないんだ。あれ? それロリコンじゃね? ああ、もうわけわからん!!)」

 

 

そんな風に必死に言い訳しながら、キリアの細く柔らかい身体に手を回して自分の方に優しく引き寄せた。

 

 

「ほわぁ~....」

 

 

何だかキリアが気持ち良さそうな声を出している。心なしか表情が和やかにも思えてきた。

キリアの身体は幼い少女であるため、かなり小柄で手足も細い。力を込めたら折れてしまいそうなほどだ。

 

 

「もっとぎゅーっとしてください。胸元が寂しいため不満かもしれませんが」

 

 

「そんなこと気にしてねぇよ」

 

 

「....! 世の中にはこのような胸の乏しい少女を愛好する男性がいると聞きましたが....クラウド様もそうなのですか?」

 

 

「違うからな! 俺には決してそんな性犯罪者みたいな趣味はないから!」

 

 

「そうですか....残念です」

 

 

キリアはしゅん、としてしまうが、すぐにクラウドに体重を預けて頭をクラウドの左肩に乗せる。そのまま数秒間お互いに黙ったままでいたが、キリアがその沈黙を破る。

 

 

「では、次です」

 

 

「....まだやるのか?」

 

 

「当然です。目一杯可愛がってもらうと決めてましたから」

 

 

クラウドはキリアを抱き締めたまま溜め息を溢した。次は一体なんだろうとキリアの言葉を待っていたら、今度は彼女に左肩をトントンと叩かれた。離して、ということだろうか。クラウドは手を離しキリアの両肩を持って再び向かい合う。

 

 

 

 

「次は、私とキスしてください」

 

 

 

 

「フムグッ!!」

 

 

今度は驚きすぎて完全に意味不明な単語が口から出た。キス、つまりは唇と唇を合わせてほしい。そう言っているのだ。

それはちょっとさっき以上に待ってほしかった。何せ21歳にもなって女性と交際したこともない、物理的接触はロキ・ファミリア所属時の女性団員へのマッサージくらいしかない(アイズとの風呂は妹扱いなのでノーカン)男にいきなりキスしてほしいなどハードルが高すぎる。

ハーフエルフなので顔は美形だし、その上実力もあるので言い寄られることは何度かあった。しかし、その種族ゆえなのか彼も結構身持ちが堅い。

クラウドは大きく深呼吸をして、気を落ち着かせる。結局落ち着かなかったが。

 

 

「正直言って拒否したいわけじゃないけど、流石にそれはマズいだろ。そういうのはもっとこう....恋人同士とかですることだしさ」

 

 

「恋人......つまりは互いに愛し合っている者ということですか?」

 

 

キリアの問いの意図がよくわからなかったが、クラウドはとりあえず「ああ」と言っておいた。

 

 

「それなら....問題はありません。私は、クラウド様のことを愛しています」

 

 

ちょっと耳を疑った。愛している。愛情を向けられている。目の前の少女にそう言われたのだ。

クラウドは目を白黒させながら、僅かな可能性にかけてキリアに質問した。

 

 

「それは....あれか? 家族愛とか親愛とかの意味か? それとも隣人愛?」

 

 

そんな気持ちで言った言葉も彼女の真摯な眼差しと否定の言葉で掻き消された。

 

 

「いいえ。男女間の恋愛、ですよ。私は貴方が好きです。生涯の恋人や伴侶に選んでほしいと思うほどに....ですから、ね?」

 

 

キリアはクラウドと目を合わせて、目を輝かせながらそう告げた。

こうまではっきり言われれば、もう疑いようはない。告白されたのだ。目の前の少女に。クラウドが何か返す間もなくキリアは言葉を紡ぐ。

 

 

「クラウド様....」

 

 

ただ名前を呼ばれただけなのにまるで脳に痺れるような感覚が芽生えた。そのままキリアはそのピンク色の薄い唇をクラウドに近付けてくる。

 

 

「......」

 

 

不思議と、抵抗する気持ちは芽生えなかった。精霊特有の幻惑魔法でも使っているのかも知れなかったが、今のクラウドにはそんなことは頭になかった。

ゆっくりと2人の距離は縮まり、ついにその唇が重なる

 

 

 

 

――直前に、個室のドアが軽やかに開いた。

 

 

「クラウドさん、起きてますか? 今ミア母さんに頼んで消化のいいものを作って貰って....」

 

 

金髪にエルフ特有の長く尖った耳、美しく整った顔立ち。そして酒場のウェイトレスの服装に身を包んだ女性――先程話題に出ていたリュー・リオンというエルフだ。

彼女は小さな鍋と横に添えられた取り皿とスプーン、水の入ったコップが乗せられた木製のトレイを両手に持っている。きっと、体調を悪くしたクラウドに何か食べさせてやろうと思って作ってくれたのだろう。

だが、今はそれはどうでもいい。今自分は年端もいかない少女を抱き締めたままキスをしようとしていたのだ。こんなの誰がどう見てもただの変態にしか見えない。

クラウドはバッ、とキリアと距離をとり、動揺しながらも弁解を始めた。

 

 

「りゅ、リュー....これはな、違うぞ。けっして自発的に疚しい行為に及ぼうとしていたのではなくだな....」

 

 

すると、リューは何故か素早い動きで近くにあったテーブルにトレイの上に乗っていた者を素早く並べた。

 

あれ? 怒ってない?

 

そんな楽観的なことを一瞬でも考えた自分を呪った。

次の瞬間、自分とキリアの間を緑色の円形の物体が超高速で通過した。それは自分の横の壁に激突し、幾つのも木片と木の粉と化した。言わずもがな、リューがトレイを自分達の間に投擲したのだ。

クラウドは錆び付いた機械のようにギギギと首をリューの方へ向ける。

 

 

「リュー....さん? あの、一体....何を....」

 

 

「なるほど。私が来ても中々目覚めなかったのは、その方とイチャイチャできないからですかぁ」

 

 

「な....何に対して、お怒りに?」

 

 

「別に怒っていませんよ。クラウドさんが未だに女性と無縁なのは、そういったご趣味を持っているからとわかったことに関して、私が怒る要素などありませんからねぇ」

 

 

「絶対何か誤解してますよね!?」

 

 

誰、この人?

 

今のリューは瞳がまるで暗黒のように重く沈んだ色をしていた。威圧などではなく、本能的な恐怖。それがその視線からは感じられた。クラウドは直感的に感じた。このままだとタダでは済まされない、と。

 

 

「き、キリア! お前からも何とか言ってくれ!!」

 

 

未だ状況が掴めず2人の会話を眺めていたキリアに助けを求める。この状況を察してくれれば自分は多分助かるはずだ。

 

 

「簡単に申し上げますと、私はクラウド様の従者でして、先程この方に手を出されたので責任をとっていただこうとしていたのです」

 

 

悪化した。完全に断崖絶壁へと全力疾走している。クラウドは全力で否定してキリアに訂正を求めた。

 

 

「違うだろぉ!? ちゃんと正確に言って!!」

 

 

「正確に......? 可愛がってくれると宣言され、抱き締められてキスをされそうになりました」

 

 

とうとう断崖絶壁のその崖っぷちでダンスを踊り始めた。自ら死期を早めていこうとしている。

そしてそれに伴い、リューの顔からどんどん感情が消えていく。

 

 

「全く、私やクラネルさんたちが心配していたときに....まさか女を部屋に連れ込むとは、中々の胆力ではないですか」

 

 

リューはゆっくりとこちらに歩み寄り、両手の指をコキッと鳴らす。

 

 

「貴方くらいの男性ならば仕方のないことかもしれませんが、少々矯正が必要なようですねぇ?」

 

 

「ちょっと待って!! 落ち着いて俺の話聞いて!!」

 

 

「落ち着いてますよぉ。自分でも不思議なくらい落ち着いてます」

 

 

「いやそんな本気の落ち着きじゃなくて!! 冷静になって!! 一生のお願い!!」

 

 

クラウドの必死の弁明も空しく、リューはクラウドの前に立ち、右手を振りかぶる。

そして、一言。

 

 

「駄目ですよ。変態は犯罪ですから」

 

 

数瞬後、辺り一体に世にも恐ろしい悲鳴が響き渡った。




精霊の見た目とかは明言されてなかったと思うので、この作品では「幼い少女の姿」ってことにします。

それと完全に説明とか伏線回収みたいな感じなのに今までの話の中でずば抜けて文字数多いなんて....ビックリです。

前回の話を見れば今回はより理解できると思います。あと、できれば前回(11話)の感想がマジで欲しいです....(泣)
ワガママいってすいません、後悔はしてませんが反省してます。

感想、意見などありましたら遠慮なくご記入ください。

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