ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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感想欄でトリック見抜いてる人がいて本気で焦りました。まあ、少し知識があれば気づきますよね(^o^;)


第18話 不発

「あうっ!」

 

 

クラウドとベルがヘスティア・ナイフの紛失に気づいて(クラウドは最初から気づいていたが)数時間。メインストリートを走り回ってナイフを探しているが、一向に見つからない。

そのとき、路地から誰かが現れ足元に倒れ込んだ。

 

 

「り、リリ!?」

 

 

「どうした? 随分必死になってるみたいだけど」

 

 

「ふあ....ベル様....クラウド様も」

 

 

小柄な体躯に犬耳と尻尾が特徴的な犬人(シアンスロープ)の女の子。今日ベルとクラウドがサポーターとして雇った人物でもある。何やら焦ったように顔をあたふたさせて苦しそうに脇腹を押さえている。

 

 

「まさか、逃げられるとは....!」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよリュー!」

 

 

続けて、リリが現れたのと同じ路地からさらに2人。豊饒の女主人の店員のリューとシルが姿を見せた。

 

 

「よう、リュー。そんなに急いで何かあったのか?」

 

 

「クラウドさん、それにクラネルさんも。ちょうど良かった。実は....」

 

 

そこまで言って、リューは言葉を止めた。彼女の視線を追うと、そこには未だ地面に座り込んでいるリリがいた。

 

 

「リュー?」

 

 

「すみません。どうやら人違いのようです。追っていたパルゥムとそちらの犬人の方がとても似ていたもので」

 

 

「ああ....なるほどね」

 

 

リューは「そういえば....」と懐をゴソゴソ漁り始めた。差し出された彼女の右手にはヘスティア・ナイフとクラウドの愛用しているシルバーモデルの拳銃があった。

 

 

「これは貴方とクラネルさんのものではないですか?」

 

 

「そうだけど......何処にあったんだ、これ?」

 

 

「1人のパルゥムの男性が持っていました。彼を追ってここまで来たのですが....どうやら撒かれてしまったようです」

 

 

パルゥムの、しかも男性。種族も性別も違うとなれば絶対に別人だろう。それを理解してリリはリューから疑いをかけられずに済んだということか。

 

 

「もしかして、2人が取り返してくれたのか?」

 

 

「ああ、いえ。取り返せたのはリューのおかげです。ふふっ、リューったら、クラウドさんの持ち物だってわかった途端必死になってたんですよ」

 

 

「でっ、ですからシル! そういうことを言わないでください!」

 

 

それはそれとして、クラウドはリューの右手に握られているナイフと拳銃をゆっくり彼女の手から抜き取る。それから、素直に喜んだ表情で彼女にお礼の言葉を述べた。

 

 

「ありがとう、リュー。お前のおかげで助かった。今度改めて礼をするよ」

 

 

クラウドなりに率直な感謝をしてみた。てっきり「礼には及びません」みたいな感じで返されると思っていたが、どういうわけかリューは顔を赤くしてあわあわと口が開いたり閉じたりしている。

 

 

「....っ、とっ、当然のことをしたまでですから。クラウドさんはそこまで....その、気にしないで....」

 

 

恥ずかしいのか、嬉しいのか、とにかく慌てた様子でクラウドに返事をしていた。

少々場違いながらもそんな反応を可愛いと思ってしまったのはここだけの秘密だ。

 

 

「ほら、ベル。もう落とすなよ」

 

 

「はい! ああ、でもよかったぁ......本当にありがとうございます、リューさん」

 

 

クラウドは右手に銃を持ったままベルにヘスティア・ナイフを返した。ベルはそれをすぐにホルスターに戻したが、クラウドはチラッとリリの方へと視線を向ける。

 

 

「リリ。今日俺が渡した武器、まだ持ってるか?」

 

 

「え? ええっと....」

 

 

リリは自分のローブのポケットを確認するが、それらしき物体は見当たらない。やがてリリは首を左右に振って、持っていないことを知らせる。

 

 

「だったら、この銃って俺がリリに渡したヤツじゃないか?」

 

 

「あ、ああ....うっかり落としちゃってたみたいですね。多分リリが落としたそれを件のパルゥムが拾ったのでしょう」

 

 

「へぇ....こんなものの数時間で2つも稀少な武器を拾うなんて、随分と幸運な(、、、、、、)パルゥムだな」

 

 

クラウドは表情も仕草も変えることなくリリを見下ろしながらそう言った。リリは苦笑いしただけで、特にこれといった反応は見せていない。

 

 

「......そういえば、妙ですね」

 

 

突然、リューがクラウドが右手に持っている銃を見つめながら何か疑問がありそうな表情になる。

 

 

「何が?」

 

 

「いえ....そのパルゥムはクラウドさんの銃を持っていたのですから、私に応戦することも出来たのでは、と思いまして」

 

 

リューの意見はわからなくもなかった。確かにリューは並の冒険者を遥かに凌ぐ実力を持つが、クラウドの銃による攻撃を受ければ無傷とはいかない。そういう意味の言葉なのだろうが、クラウドはその意見をすぐに否定した。

そもそも、銃による強さはクラウドの高精度な射撃の腕によるものなので、他の人物に使わせたところでまともに標的を撃ち抜くのはほぼ不可能だ。

 

 

「撃たなかったんじゃなくて、撃てなかったみたいだぜ。ほら」

 

 

クラウドには簡単に合点がいった。銃の左側面を見れば原因は即座に理解できたからだ。

クラウドはリューとベルに銃の左側面のグリップの上方部分を指差した。

 

 

「ほら、ここの安全装置....俺はセーフティーって呼んでるんだけど、ここのレバーが上がりきってると引き金が動かなくなって撃てないんだ」

 

 

確かに、クラウドの言うように安全装置のレバーは上までスライドしている。クラウドは親指でレバーを押して発射可能にする。

 

 

「あれ? でも何でその安全装置が下げられてたんですか? そのパルゥムが自分でやったとか?」

 

 

ベルがまた質問してくるが、クラウドはその可能性もないだろうと否定する。

 

 

「もしそうなら、リューに追いかけられた時点でセーフティーを戻して攻撃に転ずるはずだ。多分、俺がリリに渡すときにうっかり(、、、、)セーフティーをかけたままにしてたんだろ」

 

 

「なるほど」とベルは納得したようだが、クラウドからすれば「いや違うだろ」とツッコミたいところだった。

そんな『うっかり』があったら今頃クラウドは軽く10回は死んでいる。

 

 

「何はともあれ、ありがとな。リュー」

 

 

「どういたしまして」

 

 

まだ買い出しの途中だったらしい2人は紙袋を抱えたまま歩いていった。何だかリリの彼女たちの背中を見る目がひどく怯えているように見えたのは気のせいではないだろう。

 

 

「クラウド様....あの人達は何者ですか?」

 

 

「俺達がよく行ってる豊饒の女主人って酒場の店員だよ。今度3人で行くか?」

 

 

悪戯っぽく笑いながらリリを見下ろし聞いてみると、ビクッと身体を震わせてブンブンと首を左右に振る。

 

 

「いえっ、結構です! というか、連れていかないでください、絶対に!!」

 

 

「はいはい、皆まで言うな。それはフリってヤツだろ?」

 

 

「フリじゃないです!! 本当にフリじゃないですからね!!」

 

 

そのときは、リリの必死の訴えにちょっと微笑ましくなってしまっていた。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

翌日、クラウド、ベル、リリの3人は朝早くからダンジョンに潜っていた。昨日のリリの働きから、クラウドとベルはリリを正式にサポーターとして雇い入れることにした。

 

 

「ベル様、あの黒いナイフはどこにしまったんですか?」

 

 

「うん、今度は落とさないようにプロテクターの中に鞘ごと収納してるんだ」

 

 

「ああ、確かエイナに買ってもらったヤツか? 役に立ってよかったな。あいつも喜んでると思うぜ」

 

 

クラウドは銃の弾倉に目を通して全弾が装填されていることを確認すると、両腰のホルスターにそれらを収めた。

 

 

「というかリリ、本当に契約金とかはいいの?」

 

 

「はい、構いませんよ。クラウド様から武器を頂きましたから、それで十分です」

 

 

昨日、クラウドは改めて自分の銃をリリに渡しておいた。無論、セーフティーは外しているのでリリも使うことはできる。

 

 

「気をつけろよ、リリ。また俺が偶然にも(、、、、)手違いを起こしてるかもしれない。今度は不発じゃ済まない可能性だってあるからな」

 

 

偶然にも、の辺りを強調して後ろのリリに忠告しておく。クラウドなりに牽制をして動きを封じようということだ。

 

 

「はい、気をつけます。クラウド様には感謝していますよ。パーティーはお2人だけですし、それに......」

 

 

リリはそこで一旦言葉を区切り、ベルとクラウドの顔を下から覗きこむ。

 

 

「それに?」

 

 

 

 

「そちらの方が貴方達にも都合がよろしいでしょう?」

 

 

 

 

このときのリリの表情をクラウドは忘れなかっただろう。口角は僅かに上げて薄ら笑いを浮かべているものの、目元は鋭く冷めたように細くなっていた。

ベルは面喰らったように一瞬言葉を失っていたが、クラウドはそうではなかった。「なるほどね」と心の中で呟いただけで、表情に変化はなかった。

 

 

「さあ、行きましょう! 頑張って食いぶちを増やしてくださいね!」

 

 

リリはすぐにニコッと笑顔になり、2人の前を走っていく。今日のこのやり取りだけでも、クラウドにとっては収穫だった。

彼女の先程の言葉はサポーターゆえの決まり文句なのか、或いは彼女自身の本心の一部なのかはまだわからない。だが、彼女の持つ心の闇が何なのか、少しはその様相が見えてきたように思えた。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「....そんなことがあったんだ。ベル君もクラウド君も災難だったね」

 

 

「あはは....でも、リューさんがナイフを取り返してくれたからもう心配いりませんよ」

 

 

再びギルドのカウンター前。クラウドとベルはリリをギルドの入口前で待たせておき、アドバイザーのエイナと昨日の出来事について話していた。

 

 

「でも、パルゥムの盗人かぁ....私は心当りないし、やっぱり無所属(フリー)の人じゃないかな?」

 

 

「......そんな面倒なヤツがいるんなら早く捕まってほしいけどな」

 

 

「捕まるだけなら....いいんだけどね」

 

 

クラウドの呟きにエイナは何だか暗い表情をしてしまう。ベルはそんな彼女の仕草に違和感を覚えたようだ。

 

 

「だけなら?」

 

 

「え? ああ! 口に出てた!? ごめん....独り言だから、そもそもこんなのただの噂だし....」

 

 

やはり何かおかしい。彼女の取り乱し様はやや不自然とも思えた。

 

 

「噂って....何かあったんですか?」

 

 

「うん、本当にただの噂なんだけど....聞く?」

 

 

「余計に気になるから、話してくれよ」

 

 

「......2人は【処刑人(しょけいにん)】って聞いたことある?」

 

 

処刑人。名前だけでも物騒な意味合いの言葉であることが伺える。ベルは何のことかわからずに首を左右に振った。

 

 

「8年前にオラリオに現れた、名前、性別、種族、年齢、派閥どれも不明の冒険者。

どんな相手でも即殺する手際と実力、そして悪人だけを殺すことからついた通り名が【処刑人】」

 

 

「......えっと、もしかしてその人まだオラリオにいるんですか?」

 

 

「わかんないよ。目撃者の情報がいくつかあっただけだから。5年前からほとんど活動を辞めて、最近のそれらしい被害も年に数回くらい。

だけど、今もいるとしたらそのパルゥムが翌日大通りで死体になって発見......なんてこともありうるから」

 

 

エイナはカウンターにあるファイルを手に取って、件のページを開く。

 

 

「殺害人数は現在確認されている中でも500人以上。どれも殺人犯や悪徳商人、詐欺師なんかの危険人物が軒並み被害にあってるね。

『オラリオで悪事を働けば、処刑人の怒りを買う』っていう不文律があったくらい」

 

 

「....何というか、話が凄すぎて僕にはついていけないです。クラウドさんは....」

 

 

ベルはさっきから黙っているクラウドの顔を見る。当の本人は――

 

 

「......ベル、リリが待ってる。早く換金を済ませるぞ」

 

 

無表情を通り越して、無感情とも言えるほど感情の削がれた顔でクラウドはベルの手を引いて換金所へと向かう。

 

 

「(『最近の被害』....? 一体どうなってやがる)」




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