ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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ソードアート・オンラインの執筆も滞っているのに新しくダンまちを書いてしまった愚かな私をお許しください....
それではどうぞ。


冒険者
第1話 冒険者


迷宮都市オラリオ。そこのダンジョン14階層では、パァンッという何とも聞き慣れない乾いた音と共に絶命する真っ黒な犬型モンスター『ヘルハウンド』の姿があった。

 

 

「さあて、さっさと下に行くか」

 

 

ヘルハウンドを撃破した人物――名前をクラウド・レインという。黒のジャケットに同じく黒のパンツ、ジャケットの下には白のシャツを着ている。癖の無い真っ直ぐな銀髪の後ろ側は纏められており、整った顔立ちに色白の肌、碧眼ということもあってか一見すると女性のようにも見える。

何よりも目を引くのは耳――ヒューマンよりも尖ってはいるもののエルフほど鋭角ではない。すなわち両者から生まれた人種――ハーフエルフだ。

 

 

ハーフエルフの彼は武器をしまうと先程倒した数十体にも及ぶモンスターが残していった魔石を拾ってポーチに詰め込んでいく。しかし、そこで邪魔が入る。

 

 

「?」

 

 

何かの気配を感じた。そこそこ大型のモンスターが近づいてきている。

数秒後『それ』は現れた。牛の頭に自分の身長の倍以上はあろうかという程の巨躯。Lv.2クラスのモンスター『ミノタウロス』だ。

 

クラウドは少しも狼狽えず腰に付けたホルスターの右側から主要武器(メインウェポン)を取り出す。それはオラリオでも珍しい、いや唯一とも言っていいほどユニークな物だ。少し広がったL字型の外形に人差し指を掛けるトリガー、先端には円形の穴が開いている。色は銀色で、ずっしりと重い印象が伺える。

この武器は『銃』だ。正確に、彼が呼ぶ風に言えば『自動式拳銃』という名前らしい。

 

 

「少しは骨のありそうなヤツが来てくれたじゃねぇか。だが死ね」

 

 

ミノタウロスは彼を視界に捉えると猛スピードでこちらに突っ込んできた。彼は落ち着いて右手の銃をミノタウロスに向ける。

 

 

「焼き払え【フレイム・テンペスト】」

 

 

超短文詠唱と共にトリガーが引かれ弾丸が発射される。真っ赤な炎を纏ったそれは、ミノタウロスの胸の真ん中に吸い込まれ、命中。

命中と同時にミノタウロスの身体は燃え上がり、クラウドの元に辿り着く前に地面へと倒れ肉体は消滅。体内の魔石がゴロンとその場に転がる。

クラウドは銃をホルスターに納めて、ミノタウロスの魔石も回収した。しかし妙だった。通常なら15階層以下で出現するはずのミノタウロスとここで遭遇してしまったのは何故だろうか。

そして、その疑問はすぐに解消されることになる。自分が立っている場所とは反対にある15階層と14階層を繋ぐ階段からもう一体のミノタウロスが出てきた。

 

 

「懲りないヤツらだな、来るなら束になって来いってのッ!」

 

 

クラウドは悪態をつきながら再びホルスターの銃を抜き、照準を合わせる。

 

 

「鳴り響け【ヘル・ライトニング】」

 

 

今度は別の魔法。放たれた弾丸は青白い電光を散らしながら突き進む。先程が『炎』だったのに対してこれは『雷』だ。弾丸はミノタウロスの眉間を貫通し、凄まじい電光で身体は焼き焦がし命を奪う。

 

 

「まだいるのかよ....」

 

 

クラウドが倒したミノタウロスの陰にさらにもう一体。一体どれだけ来るつもりだよ、とため息をつくが今度は何かおかしかった。

ミノタウロスがこちらを見ていないのだ。まるで何かから逃げるように大急ぎで何処かへ走っていく。

 

 

「......どういうことだ? 何かから....逃げてる?」

 

 

クラウドはいなくなったのならいいか、と歩を進めようとするが、そこで何かに気づく。もしもあのミノタウロスがもっと上の層、つまりは『上層』にまで逃げ延びたとしたらどうだ?

 

 

「チッ、俺の杞憂であってくれよな!」

 

 

クラウドは少し遅れてミノタウロスの逃げた方向へ走る。ダンジョンには別の層へ繋がる階段は幾つかあるため、それの何処に逃げたのかはわからない。とりあえずは自分の弟子である白髪の少年のいる5階層を目指して安全を確かめることが先決だ。

 

 

「ベル....頼むから死ぬなよ」

 

 

13、12、11と階層を上へ上へと上っていくがミノタウロスの姿は見えない。やはり途中でどこか別の所へ行ったのか、偶然現れた上級冒険者に倒されたのか、そう思いながら6階層を回っていると運が悪かったと言うべきか遠くの方で牛頭のモンスターがちょうど5階層に続く階段を上っているのを見つけた。

 

 

「嘘だろ....ッ!!」

 

 

クラウドもその後を追い5階層へ辿り着く。ベルや下級冒険者の誰かと遭遇する前に倒せればいいが、と思ったのも束の間、自分の耳に聞き慣れた少年の叫び声が届いた。

クラウドはホルスターの銃を抜き、右に続く角を勢いよく曲がる。そこには逃げ惑う白髪に赤目の如何にも駆け出しという雰囲気の少年の冒険者と、それを追い回すミノタウロスの姿があった。

 

 

「ベル、今助けてやるから10秒くらい持ちこたえろ!!」

 

 

「た、助けてくださいクラウドさぁん!!」

 

 

ベルは必死に走ってミノタウロスとの間合いを詰めないよう頑張っているが、それも時間の問題だ。クラウドはミノタウロスの頭に狙いを定め、素早く詠唱を始めようとするが、そんなレンの横を誰かが凄まじい速度で駆け抜ける。

 

その人物はミノタウロスの背後に回り、その胴体を何度も切り刻む。腕も足も、そして首さえも切り落とされた牛頭のモンスターは崩れ落ちて肉体が消滅する。

ベルはミノタウロスの返り血を浴びたのか、頭から塗料を被ったかのように身体中が真っ赤になっていた。

 

 

「あの....大丈夫、ですか?」

 

 

ミノタウロスを切り伏せ、ベルに手を差しのべたのは女神と見紛う程の金髪金眼の美しい少女だった。青と白の軽装に腰には先程ミノタウロスを細切れにしたサーベルを差している。

【ロキ・ファミリア】所属のLv.5の冒険者。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

まさにその人だ。

 

 

「う、う、う、うああああぁぁぁぁッ!!」

 

 

ベルはワナワナと震えながら勢いよく飛び上がり脱兎の如く奔走し、何処かへと消えていった。

 

 

「....どうしたんだ? ベルのヤツ」

 

 

クラウドは銃をホルスターに仕舞ってポツンと残ったアイズに少し戸惑いながらも話しかける。

 

 

「えっと....アイズ、久しぶり」

 

 

こちらに気づいていなかったアイズはピクッと肩を震わせると、ゆっくりと振り返った。

 

 

「く......クラウド?」

 

 

そのときのアイズの表情は何とも形容し難かった。動揺、歓喜、疑念、そんな気持ちが顔に出ていた。

 

 

「本当にクラウドなの?」

 

 

「ああ、本物だ本物。何ならいくらでも質問してくれたっていいぜ?」

 

 

久々に軽口を交わしてみるが、アイズを見れば、むぅと少々不機嫌そうにしているのが見えた。

 

 

「ああ、ベルには後でちゃんと礼を言わせるからそんな顔するなって」

 

 

「うん、確かにそうなんだけど....それだけじゃ、なくて」

 

 

アイズは何だか思い詰めたような顔で彼女より少し背の高いクラウドの顔を見上げる。

 

 

「何処のファミリアに、入ったの?」

 

 

「ああ....その話か。言ってないもんな、うん」

 

 

「急に理由も言わずにホームから居なくなって....聞けなかったから」

 

 

そう、かつてクラウドは目の前の少女と同じ派閥――ロキ・ファミリアに所属していた。およそ3週間前にロキの了承を貰ってファミリアを出奔、その後改宗(コンバーション)したのだ。

 

 

「ヘスティア・ファミリアだよ、因みにさっきの白髪のヤツも所属してる」

 

 

「何でそんなことになったのか....聞かない方が、いいんだよね?」

 

 

「ああ、そうしてくれると助かる」

 

 

すると、ここで何人かがこちらに近づいてくるのが見えた。恐らくロキ・ファミリアのメンバーだろう。ここで鉢合わせになれば面倒だ、とクラウドは踵を返して逃げた白髪の少年を追うことにした。

 

 

「悪い、アイズ。俺そろそろ行かないと」

 

 

アイズに背を向けたまま走ろうとするが、グッと左手を後ろから握られる。顔だけ振り返ると、アイズが右手で自分の左手を握りながら悲しそうにこちらを見つめていた。

 

 

「......」

 

 

クラウドは苦笑いしながらアイズの頭を右手で優しく撫でる。アイズは少し驚いたが気持ち良さそうに目を細める。サラサラとした金髪は本当に触り心地が良かった。

 

 

「心配しなくても大丈夫だ。近い内にまた会えるからさ」

 

 

「....うん」

 

 

アイズはパアッと笑顔になりながら返事をした。クラウドもそれに微笑みながら握られていた左手の拘束をゆっくりと解いて、ベルを追いかけた。




作者は銃の構造とかの知識は乏しい方なので、できる限り努力して調べますがそれでも間違ってしまうかもです。そのときはやんわりとご指摘ください。
あと、オリジナル設定として『改宗』は主神が2人揃ってではなく自分の所属中のファミリアの主神が措置をしてくれればその後でも改宗はできる。ただし措置の後、改宗するまでの間は『神の恩恵』は無効化。
こんな感じにしてます。もしかしたら今後も原作に支障が出ない程度に設定の改変をしていくと思います。
それではまた次回。


キャラ設定

クラウド・レイン

種族:ハーフエルフ

年齢:21歳

身長:170セルチ

所属:ヘスティア・ファミリア

ステイタス:Lv.5

銀髪に碧眼、色白で細身の体形をした女性のように線の細い顔の青年。少し長めの髪を後ろで纏めていて、黒白系の服を好んで着ている。
父親から受け継いだ自動式拳銃を幾つも複製しており中~遠距離戦闘ではそれを使用している。魔法の才能にも優れており、火炎、氷雪、電撃など様々な魔法を駆使して戦う。
基本的には軽薄な態度が目立つが、面倒見がよく正義感が強い。


スキル

魔術装填(スペル・リロード)

・銃弾に魔法効果を付加させることが可能
・発動時の魔法の詠唱を省略可能
・詠唱が短いほど効果は減少する
・精神を集中させることにより効果は向上する

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