ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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今回は恋愛要素100%使用の回となっております。
苦手な方はブラウザバックを、構わないという方はぜひお好きな飲み物でも召し上がりながら優雅にご覧になってください。


第34話 会えてよかった

以前感じたのと同じ感覚。優しく包まれるような心地よい感覚が首から下を支配している。

重たい瞼を開くと何だか見覚えのある天井があった。「まさか......」と考えを巡らせていると、視界の左側からエルフ特有の尖った耳と端正な顔立ちをした金髪の少女が顔を出した。

 

 

「リュー......確認しとくけど、お前の部屋か?」

 

 

「そうですよ」

 

 

「......また厄介になったのか。悪いな、本当に」

 

 

「......気にしないでください」

 

 

「倒れてからどれくらい経ってるんだ? 半日くらいか?」

 

 

「いえ、そこまでは。およそ1時間程度です」

 

 

頭痛が激しく、手足が筋肉痛になったようにズキズキする。前に怪物祭の時にオッタルとの戦いの後に力尽きたのと同じ症状。呪装契約の解放による能力上昇の反動だ。

クラウドは重たい身体に鞭を打って上体を起こす。黒のジャケットはボロボロになっていたので、今は中の白いシャツだけのようだ。

 

 

「クラウドさん、教えてください。あの姿は......あのときの貴方は一体......」

 

 

リューは俯きながらクラウドが予期していた質問をしてきた。クラウドは顔を曇らせながら頭を掻いた。

 

 

「この期に及んで『教えられない』なんて言ったら納得行かないよな......それに、今更隠し通せないだろうしな。わかった、話すよ」

 

 

それからは包み隠さず彼女に自分の過去を明かした。

かつて自分が処刑人と呼ばれた暗殺者だったこと。何百もの悪人をこの手で葬ってきたことも。

リューは何も言わずに椅子に座ったまま両手を膝の上に置いて話に聞き入っていた。

 

 

「そうだったのですか......そんなことが......」

 

 

「ああ、悪かったな。聞き苦しい話しちゃってさ」

 

 

「いえ......教えてくださって嬉しかったです。真実を知ることができましたから」

 

 

リューが苦しそうに笑顔を作るのを見て、心が傷んでしまう。別に覚えていないわけではないのだ。

自分は少なからず彼女に酷いことをしたのだ。

 

 

「あの俺は......処刑人は別人格なんかじゃない。あれは5年前までの俺なんだ。

切り替わったんじゃなくて精神が過去に逆行して起こった状態だ」

 

 

「あのときの貴方が私を覚えていなかったのは、精神が引き戻されていたから、ということですか?」

 

 

「そう、なんだろうな。悪い、ファミリアのホーム――あの教会に帰ってきて、ヘスティア達の話を盗み聞きした辺りから記憶がバラバラなんだ。

桜花って奴を叩きのめして、師匠と戦って、お前が最後に止めに入った辺りまでの一連は所々映像としてあるんだけど。どんな会話をしていたかがほとんど思い出せない......」

 

 

何故かその瞬間にリューの顔が、むっとしたのが偶然目に入った。

やはり必死の説得を忘れたと言われるのは辛いのだろう。同じ立場なら俺だって辛い。

 

 

「俺、お前に酷いこと言ったんだろ? 何となく想像できる。

傷つけてごめん。それと、助けてくれてありがとう」

 

 

「......っ!? ありがとうございます......でも、私もそこまで気にしていません。クラウドさんが無事でしたから」

 

 

さっきの表情から一変。リューが少しは晴れやかな気分になったのがわかる。クラウドも愛想笑いを浮かべて「よっと」とベッドから降りようとする。

 

 

「うっ......」

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 

足をベッドの横に出して床につけて立ち上がろうとしたが、身体が重く全く安定しない。

 

 

「ああ......いや、結構しんどい」

 

 

「......無理をしないでください。まだ眠っていないと」

 

 

「いや、ここで寝てるわけにはいかないんだ。ベル達が今にも死にそうになってるかもしれない。一刻も早く助けに行かないと......」

 

 

無理をして足を踏み出そうとすると両足に激痛が走り、無理矢理ベッドに座る形になってしまう。

リューは心配そうにクラウドの肩を押してベッドに横たわらせる。

 

 

「クラネルさん達の救出は今夜の8時に集合です。それまでは休んでいてください。貴方がまともに戦えなければ本末転倒です」

 

 

「そうか......わかった」

 

 

8時までは2時間弱ある。それまで休んで体力を回復させた方がいいだろう。

クラウドは渋々さっきと同じように寝転がり、布団を掛けた。

 

 

「あのさ......リュー」

 

 

「......何ですか?」

 

 

「ごめん」

 

 

「......?」

 

 

「俺、結果的にお前を騙してたんだ。だからさ......本当に悪かった。俺はお前が思うほど誉められた人間じゃないんだ」

 

 

クラウドは自分でも嫌になるような謝罪の言葉を彼女に告げる。リューは呆気に取られたように固まり、黙り込んでしまう。

 

そりゃそうだよな、と彼女とは逆の向きに寝返りをうつ。

そうやって油断していたのが誤りだった。突然布団が捲られ後ろから何かが侵入してきた。

何だ? と再び寝返りをうって仰向けになる。そこでその何かの正体に気づいた。リューが自分のベッドの右側に入ってきた。所謂、添い寝というものである。

 

 

「り、りりりりり、リューさん!? 何やってんの!? てか何なのこの状況!?」

 

 

「......動かないでください」

 

 

慌てて呂律が回らないクラウドに対し、リューは消え入りそうな声でそれを制した。2人の身体はぴったり密着しており、隔てているのは数枚の服の布地だけ。恥ずかしがっているのか、少し高い彼女の体温がシャツ越しに伝わり白く細い指が右肩に掛けられている。

 

同い年の、それも飛びきりの美人からこんなことをされて精神的に揺らがないほどクラウドは女性経験を積んでいない。今まで女子(家族を除く)と手を繋いだこともないような童貞野郎にはハードルが高過ぎる。

 

 

「クラウドさんは......女性と寝たことはあるんですか?」

 

 

「......ね、寝る? 一緒に眠るってことか? え、ええっと......だな......ないない。これが初めてです」

 

 

何故かちょっと敬語混じりの口調になってしまう。自分でも恥ずかしいくらい緊張しているのがわかる。

チラッと右を見るとリューの薄い唇がわずかに震え、ふうっと呼吸音が届いた。それに伴い彼女の息が頬や首筋を撫でる。もはや手足の痛みなど全く感じない。緊張と快感がない交ぜになり思考を絶え間なく阻害していく。

 

 

「そうですか......何だか嬉しいです」

 

 

「り、リュー? 何で嬉しそうに? それにこういうのは......その、俺も男なわけだから色々と......」

 

 

「嫌......でしたか?」

 

 

「嫌とかじゃなくて......こういう経験が皆無だからみっともなく緊張してるってことで」

 

 

「まだ時間がありますから、こうさせてください。嫌なら、すぐに出ていきます」

 

 

心臓が鼓動を早め、彼女にも聞こえてしまいそうなくらい自分の中で喚いている。

こんな状況になって劣情を抱いたり相手を邪な眼で見てしまうのは完全に不実だし、かといって煩悩を掻き消して無心になろうとしても現在も感じられる温もりと女性特有の良い香りが邪魔をする。

 

 

「お、お前もエルフなんだし......それに男にこういうことされるのは、嫌じゃない、のか?」

 

 

「クラウドさんとなら、嫌ではありません。ですから......今はこの温もりを味あわせてください」

 

 

下手に身体を動かして変なところを触ろうものなら、記憶が飛ぶほど殴られるのは間違いない。クラウドはなるべく彼女を意識しないように身体を強ばらせ、口をつぐんだ。

 

 

「クラウドさん......さっきの言葉、私は悪いなどと思ってはいませんよ」

 

 

「さっきのって......お前を騙してたってやつか?」

 

 

リューはそっと眼を閉じると肩に置いていた手を伸ばして首に回した。そのせいでただでさえ近い2人の距離がさらに接近する。

 

 

「リュー、ち、近いって!」

 

 

「......私だって恥ずかしいんです。それに......クラウドさんだからやっているんです」

 

 

リューの柔らかい金色の髪が肌を滑り、彼女の白い肌がより鮮明に映る。

 

 

「......クラウドさんは、私が貴方の過去を知ったくらいで幻滅すると思っているんですか」

 

 

「え?」

 

 

思わず間抜けな声で返してしまうと、リューはクラウドの耳元に唇を近づけて囁くように言った。

 

 

「私は貴方を――貴方に、会えてよかったと思っています。今までも、そしてこれからも」

 

 

彼女の言葉の意味を理解した途端に、お互いにその尖った耳に至るまで顔中を真っ赤に染めた。

 

 

「クラウドさんはどう思っているんですか......」

 

 

「......俺も、よかったと思ってるよ。だって――」

 

 

ドキドキしすぎて喉が渇いている。上手く言おうとしても何だか言葉がつっかえてしまう。

意を決して少し深呼吸をしてから続きを述べた。

 

 

「俺がお前に向けてる気持ちは他の奴らと違うから......何だろう、すごく安心できるって。そう、思えるからさ」

 

 

「......やはり、いつもの貴方ですね」

 

 

「何がだ?」

 

 

クラウドは何のことやらと首を僅かに彼女の方へ向けた。リューは自分と目が合うと普段の彼女が見せることのない可憐な笑みを浮かべた。

 

 

「......何でもありませんよ」

 

 

横に寝そべって密着しているリューが見惚れるほど美しく、それでいて可愛らしく思えた。

きっとクラウドはこの瞬間を二度と忘れないだろう。彼にとっても彼女は特別な存在になったと感じられたのだから。




信じられないだろ......この二人、付き合ってないんだぜ?
前回のプロポーズ紛いのことは鈍感で女誑しの唐変木の超次元的能力(ただの軽い記憶喪失とも言う)によってこんな感じになりました。

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