最近デート・ア・ライブの方をやっていてこちらを更新していませんでした。それではどうぞ。
ベル達と合流した翌日。ロキ・ファミリアが出発する用意ができるまであと二日かかるらしいので今日はこの18階層で過ごすこととなった。
せっかくだからこの階層に構えられている店を回ろうということになったのだが――
「ヘスティア……言っておくが買わないからな」
「なっ! ボクは何も言っていないだろう!!」
「もしそうならその香水の瓶を持ったまま懇願してくるな!!」
ヘスティアが親にねだる子のように欲しがっている香水を持ってクラウドに詰め寄ってきたのだ。
もしこれがただの香水ならクラウドも渋々買ってやったが、この『リヴィラの街』はダンジョン内で物資の補給ができる分、値段が法外に高い。
流石にリリのバックパックやヴェルフの砥石は必要なものなのでクラウドが手持ちの金を払ってやったが、ヘスティアは本当にただ欲しがっているようにしか見えなかった。
「せめて地上に戻ってからにしてくれ。今ここで買ったら後々後悔するぞ。しかも消耗品だろ、それは」
「むぅー、だってベル君が『汗臭くて気の遣えない娘は嫌い』だなんて言うから……」
「嘘つけ、俺が前にそれ聞いたら『特に気にしませんよ』って言ってたぞ」
ベルは女性に情が移りやすいというか、女性に優しいところが大きい。普段の行動が悪くなければそんなことを考えもしないだろう。
「くっ、クラウド君だって好きな娘にはいつもいい匂いでいてほしくないのかい!?」
「確かにそういうところに気が回らないのはよくないが、それにこんな大金払えるわけないだろ。ただでさえうちは火の車だってのに……」
クラウドが頭を抱えていると一緒に来ていた他のメンバーが街の出口から外へ出ていくのが見えた。
流石にそろそろ戻るべきかと考えたが、このツインテールロリ巨乳様を放っぽりだして帰るわけにもいかない。
「仕方ない……今度バイト代から半分払えよ」
「買ってくれるのかい!?」
「そうでもしないとお前梃子でも動かんだろ。ほら、買ってこい」
「ありがとうっ! 恩に着るよ!」
ヘスティアはクラウドから財布を受け取ると一目散に会計しに行った。
本来なら彼女はクラウドの主神であって保護対象ではないのだが、あんな姿を見せられてはもはや少しマセた子供にしか見えなかった。
「平和だよな……本当に」
「どうしたんだい?」
「いや、何でも」
買い終えたヘスティアと一緒に皆のところへ戻ると、早速ヘスティアは香水のことをベルに自慢していた。
リリにはそんなのは勿体ないと怒られていたが。
「ねぇねぇ、みんなで水浴びしに行こう!」
ふと、一緒にいたアマゾネスのティオナがそう言った。昨日ダンジョンに到着してすぐに就寝となってしまったので、特に女性陣は気にしていたのだろう。
ティオナ、ティオネ、アイズと一緒にヘスティア、リリ、キリア、アスフィ、命、千草は近くの湖まで移動していった。
残った男性陣はそれぞれ適当にテントに戻ることにしたが、クラウドとベルの背後にヘルメスが顔を見せた。
「やあ、二人とも。ちょっといいかな?」
「何ですか?」
「実は二人に話があるんだ」
ヘルメスの胡散臭さを警戒して行かないという選択肢もあったが、一応何の話か聞いておくことにした。
「何の用事だ? 手伝いとかか?」
「いや、そうじゃないよ。見せたいものがあってね。今じゃないと見れないものだ」
「……?」
ヘルメスの含みのある言い方に首をかしげる。何にせよこの神の言うことだ。ロクなものじゃないことは確かだろう。
「俺は遠慮しとくよ。ベルは?」
「え? ああ、じゃあ僕が行きます。それじゃあ、また後で」
クラウドはやることもないので近くの木々の茂った原っぱに移動して、そこに寝転がった。
昨日の夜はあまり眠っていないので、実を言うと昼寝くらいはしたかった。日が当たって、仰向けになっているだけで眠気が襲ってくる。
「ふああああ……むうう」
近くに誰もいないため、大きく欠伸をしてしまう。たまには一人で優々と過ごすのも悪くない。
「ん?」
しかし、そんな微睡みの中からはすぐに引っ張り出されることになった。
クラウドが横たわっている場所から見える一本の大きな木。その枝の一つに何かがいる。
どういうわけか、かなり見知った二人の人物が。
「何してんだあの二人は……」
さっき別れたヘルメスとベルだ。二人は枝の上に乗って下を見ている。見せたいものとやらは、あそこから見える景色ということか。
クラウドは彼らの視線を追って、その景色とやらを確認にかかる。
そこで、息が詰まった。
「まさかあいつら……ッ!」
二人の下には湖。そしてその岩の陰からほんの少し肌色が見えた。幸いと言うべきか、クラウドの位置からでは『彼らが見ているであろうもの』の全体像は見えなかった。
だが、彼らが何を見ているのか、それは確信できた。
「覗きかっ!!」
ヘルメスが言っていた『今じゃないと見れないもの』というのは、女性陣の水浴びの姿。つまりは裸だ。
あの男神様はウチのファミリアの団員を非行少年にする気か。
何より、あの場では大事な家族も水浴びしている。いくらベルでもそんなことを許すわけにはいかない。
「ちゃんと仕置きしないとな……!」
◼◼◼◼◼
「駄目ですって、ヘルメス様!」
ベルはヘルメスの意図に気づいた途端に降りようと抗議するも、ヘルメスは笑って流す。
「何でだい? 女の子たちが水浴びしているんだから、覗くに決まっているだろ?」
「決まってませんよ! こんなことしたら怒られますって!」
ベルも負けじと自分の姿勢を崩さないでいるが、ヘルメスは無駄に格好よく笑いながらベルの頭に手を置いた。
「ベル君、覗きは男の浪漫だぜ?」
かつて自分に出会いについての教えを説いたベルの祖父。彼も同じようなことを言っていたらしい。ベルは頭の中でやけに巻き舌になりながら浪漫について熱弁している祖父の幻影を頭を左右に振って掻き消した。
「で、でもこれは……その……」
「犯罪だろ」
「そう! 犯罪になりますよ! だから早く……って、あれ?」
ヘルメスじゃない誰かの声が背後から間に入った。聞き慣れた声が。
嫌な予感がして振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべたクラウドの姿があった。
「さて、降りようか。二人とも」
「「はい……」」
◼◼◼◼◼
クラウドからこってり絞られたベルはぐったりと地面に座って木にもたれかかっている。
ちなみにヘルメスの方は両手足を縄で縛って木に吊るした。反省しなさい。
「覗きは男の浪漫って……被害者からしたら犯罪だろ……」
せめて男の浪漫はハーレムとかで止まっててくれ。
つい昨日、事故とはいえ女性に身体的接触をしてしまったクラウドが言うのも気が引けたが、そこら辺は事故である分、比較的マシだと思ってほしい。
クラウドはひとまず女性陣の視覚的純潔が守られたことに安心しつつ、さっきまで昼寝していた場所に戻ることにした。
「さて……と?」
クラウドが再び日の当たる原っぱに辿り着くと、近くから水の跳ねる音がしていることに気づいた。
どこかから水滴でも落ちているのかと思ったが、さっきはこんな音はしていなかった。
「安眠妨害ばっかりしやがって……頼むから静かにしてくれよ」
正直に言うと、ヘルメスの覗き、昼寝の妨害で弱冠荒んだ気持ちになっている。
原因が何にせよ、止めさせようとクラウドは音のする方へ向かう。
「確かこの辺りに……」
数Mほど歩いたところで、ようやく音源の近くまで辿り着いた。
アイズたちの場所とは別に、こちらにも湖があるようだ。クラウドはその湖のほとりに足をつける。
そして、それが間違いだったと気づかされた。
「……! 誰だっ!!」
自分の顔面めがけて石が投げられる。クラウドは身を屈めてそれを回避する。
まさか、敵におびき寄せられた!?
クラウドは腰の拳銃を抜いて銃口を敵へと向ける。そこでようやく気づいた。
それが誰なのか。
「り、リュー……?」
見惚れるほど美しい金髪のエルフの少女が、そこにいた。しかも昨日まで着ていた戦闘衣ではない。
湖に足の半ばまで浸かりその下までは見えないが、その上は何も身につけていなかった。
「クラウド…さん……」
白く透き通るような肌は水を弾き、足から腰にかけての脚線美、折れてしまいそうなほど細い手足。
リューは咄嗟に胸元と下腹部を両手で隠す。
クラウドはそこまで来て、自分の置かれている状況を理解できた。さっきまで見ていた彼女の裸体から目を逸らし、後ろを向いて両手を上げる。
「み、みみみ、見てません触ってません。ごめんなさい、重ね重ね失礼を働いて大変申し訳なく思っておりますので――」
「いいですからっ! 疚しいことがないのはわかっています……大方、水浴びの音を聞いて偶然見てしまったのでしょう……」
「……そうです」
駄目だ。俺は本当に駄目だ。
今後ろを振り向いてしまえば彼女の一糸纏わぬ姿を見ることができると考える健全な男としての自分と、妻や恋人でもない女性に対する猥褻行為で尊厳を傷つけることになると考える理性的な自分が戦っている。
前者は銃を、後者は小太刀を持って。
『事故って言えば多少は許されるんだよ! 遠慮しないで隅々まで見ちまえって!』
『見られた方がどれだけ傷つくか考えたことはないんですか!? そういったことは彼女との合意の元に行うべきです!』
『そんな古い考えだから21にもなって女の一人もできねぇんだっての! ここは強引に押し切りゃいいじゃねぇか!』
『そんな風に彼女を傷つけて手に入れた結果に何の意味があるというんです! 女性との関係はもっと正式な段階を踏むべきです!』
一進一退。どっちも全然引かない。というか二人ともクラウドと口調が全然違う。
クラウドは変わらず彼女に背を向けたまま膠着状態を続ける。
しばらく静寂が続くが、それをリューが破った。
「クラウドさん……服……」
「えっ? ふ、服?」
「はい……服を着ますから、まだ暫く目を瞑っていてください……」
まだ湖の水に浸かっているリューがクラウドの背に声をかけてくる。クラウドは彼女が湖から上がり、身体を拭くあたりまで何とか持ちこたえる。
だが、その辺りでまたもや心の中のクラウドたちは争いを激化させていく。
『今だ! 着替え中の無防備な半裸姿を目に焼き付けちまいな!』
『何を言ってるんですか、私を信頼してくれた彼女の気持ちを裏切るつもりですか!』
『こんだけ思わせぶりな状況で見ない方が失礼ってもんだろ! 見ーろ見ーろ!』
『駄目です! 見てはいけませんっ!! やめろおおおおおお!!』
大丈夫だ。この二人の戦いもリューが着替えを終えれば意味がなくなる。それまでの辛抱だ。
「もう……いいですよ」
「………よかった」
クラウドは両手を下ろして、後ろを振り向いた。リューは昨日と同じ戦闘衣へと着替えを終えていた。
健全で欲望に忠実であろうとした俺、お前の負けだ。
「本当にごめんな。こんなこと繰り返してるせいで説得力ないけど」
「邪な感情があってしたことならば確かに許しがたいでしょう。ですが、故意にやっているわけではないことはわかっています。
申し訳なく思っているのであれば、尚更に」
リューは頭を下げるクラウドを微笑みながら許してくれた。
あなたが神――いや、天使か。
「ですが……」
「え?」
「見ました……よね?」
リューが顔を赤らめて見つめてきた。あ、これはヤバい。
「一瞬だけ……その、見たような気がしないでもないような感じが……」
「見たんですか?」
「……少しだけ」
リューがさらに顔を赤くする。もう耳まで真っ赤だ。
クラウドは危険を察知して両手を顔の前で合わせて頭を下げる。
「ごめん! その……びっくりするくらい綺麗だったから……」
「……っ!?」
咄嗟に思ったことを口にしてしまった。しまった。こんなことを言えば不快感を増長させるだけだ。
完全に殴られる……!
「本当ですか? 本当に……そう思ってますか?」
思っていた衝撃はいつまでも来ない。理由はわからないが、リューは矛を納めてくれたらしい。
「本当だよ……あんまりこういう経験ないけど、そう思えるくらい……綺麗だった」
あれでは多分女神たちと同等以上の容姿だとも思える。クラウドの補正が入っている分、よりそう感じられた。
リューは心なしか嬉しそうに身を翻し、クラウドに「話すことがあります」と歩を進めていった。
最近の女性が寛大なのか、それとも彼女が優しいのか。できれば後者であってほしい、とこのときのクラウドは願ってしまった。
その理由はよくわからなかったが。
同時にデート・ア・ライブの方も投稿していますので、よろしければそちらもご覧になってください。何だか受けが悪いようなので……。愚痴みたいになりましたね。ごめんなさい。
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