ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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第2話 ギルド

「ベル君....返り血を浴びたならシャワーくらい浴びてきなさいよ」

 

 

「すいません....」

 

 

ダンジョンの運営管理組織『ギルド』のロビーにあるソファでベルとクラウド、そしてベルの迷宮探索アドバイザーであるハーフエルフの女性、エイナ・チュールは向かい合って座っていた。

 

 

「あんな生臭くてぞっとしない格好のまま、ダンジョンから街を突っ切って来ちゃうなんて、私ちょっとキミの神経疑っちゃうなぁ」

 

 

そう、ベルはギルドの入口にいたエイナの所へミノタウロスから受けた返り血で全身を真っ赤にしたまま走ってきたのだ。いくらエイナでもそれには物言いをしたくなったのだろう。

 

 

「まあまあ、エイナ。それくらい誰もが経験する道だぜ? ヒューマンであれ亜人(デミ・ヒューマン)であれモンスターであれ、その身体に赤い血が流れていることを認識して理解し合う。そうやって皆大人になっていくんだ」

 

 

「全身血塗れの人が迫ってくる経験なんてしなくていいよね!?」

 

 

エイナはため息をついて頭を抱えると、ベルに向き直る。話題は勿論、ベルが5階層まで行ったことについてだ。

 

 

「それにしても、ベル君。駄目じゃない、勝手に5階層まで潜っただなんて」

 

 

「....はい。」

 

 

ベルはまだダンジョンに潜り始めて半月しか経っていない。所謂、駆け出しなのだ。そんな冒険者が5階層にまで潜るなど結構な危険が伴うことだと言っていい。

 

 

「まあ、反省してるならもういいよ。キミも生きて帰って来れたんだし」

 

 

エイナはそれで、と言葉を区切りベルに笑いながら話しかける。

 

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン氏の情報....だっけ?」

 

 

「は、はい!」

 

 

ベルは少し慌てながらエイナに詰め寄る。一体何のことだとクラウドは目を丸くするが、そこで合点がいった。

 

 

「ん? 何だベル、お前もしかしてアイズのこと好きになったのか?」

 

 

「あ、あはは....」

 

 

クラウドが意地悪そうにベルに尋ねると、ベルは口元をニヤつかせながら頭を掻いていた。どうやら的中らしい。

 

 

「そっ、それでエイナさん! 何か知りませんか。趣味とか、好きな食べ物とか....あと、その....」

 

 

「特定の相手が居るのか、とか?」

 

 

エイナは恥ずかしがるベルに笑いながら聞いてみせた。ベルは膝に両手を当てて「そうです!」と強く肯定。

 

 

「うーん、今までそういう話は聞いたことないなぁ。というか、そういう話は私よりクラウド君に聞いた方がいいんじゃないの?」

 

 

「え?」

 

 

「だって、クラウド君とヴァレンシュタイン氏って元同僚じゃない」

 

 

暫しの沈黙。ベルはまるで錆び付いた機械のように、グギギッと首を曲げ左に座っているクラウドの方を向く。

 

 

「きっ、聞かれないことには答えられねぇだろ」

 

 

「えええええぇぇぇぇ!?」

 

 

ベルの叫び声(ハウリング)がクラウドの右耳を叩き、仰け反らせる。声の大きさならその辺の冒険者にも負けないんじゃなかろうか。

 

 

「うるせぇよ、鼓膜が破れるだろうが!」

 

 

「だっ、だっ、だって、それならクラウドさんって....元ロキ・ファミリアの人だったってことじゃないですか!!」

 

 

まあ確かにベルが知らないのも無理はない。ベルはオラリオに来てまだ半月、3週間前にファミリアを出奔して、それ以来ロクに活動してないクラウドの噂はベルの耳には届いていないのだ。

 

 

「ってか、エイナ。勝手にベルに話すなよ。俺にアイズのこと聞かれてもそこまで詳しく答えられねぇよ」

 

 

「えー? 確かクラウド君って、前にヴァレンシュタイン氏と仲良さそうに買い物とかしてたじゃない?だからもしかして....」

 

 

エイナはクラウドにニヤニヤ笑いながら聞いてきた。そのエイナの笑みからベルが何を察したのかは当然言うまでもない。

 

 

「まっ、まさか....クラウドさんって、アイズさんのこいび」

 

 

「違うからな」

 

 

即座に否定した。考えるまでもなく条件反射レベルでそう答えていた。クラウドは右手で頭を抱えてベルに向き直る。

 

 

「あいつとは入団したときからの付き合いだし、色々と世話とかしてやったけどそういう対象としては見てねぇよ。ちょっと年の離れた妹みたいな感じだよ、少なくとも俺にとってはな」

 

 

「ああ、そ、そうなんですか....」

 

 

「流石に8年も家族同然の付き合いしてたのに今更恋愛対象には見れねぇからな。夕飯作ったり、稽古つけてやったり、風呂に入ったりもしたっけな」

 

 

再び沈黙。さっきはエイナは余裕そうに笑っていたが今度は彼女もベル同様ポカンと口を開けて固まっている。

 

 

「ふ、ふ、風呂ってまさか、あれですか?お互いに背中を流し合った的なアレですか?」

 

 

「的なって何だよ....アイズが1人で風呂に入れない時期があってさ、ロキが入れようとしたんだけど『クラウドと一緒に入りたい』って言うもんだから何回か身体とか髪とか洗ってたんだよ。

だからまあ、流石に俺はそのとき服は着てたから一緒に背中を流したなんてことは......」

 

 

そこで気づいた。ベルが俯いて震えていることに。もう次に何をするのか予想できてしまったが、ちょっと可哀想に見えてきたので甘んじて受けてやろうと敢えて動かなかった。

すると案の定、ベルはバッと顔を上げてクラウドの両肩を掴み凄く複雑な、本気で焦りまくった表情で睨んできた。

 

 

「クラウドさんだけズルいじゃないですかぁぁぁぁ!! 僕には『出会いなんか求めるな』とか言っておいて自分はちゃっかりアイズさんとぉぉぉぉ!!」

 

 

「落ち着けよ、ベル。そのときまだアイズは8歳だぞ8歳。そんな子供の裸見ても劣情なんか催さないって」

 

 

サラッと裸を見たと吐いてしまい、しまったと思うがもう遅い。オラリオ中の大半の男性と、彼女を溺愛しているどこぞの無乳の女神から計り知れないほどの嫉妬の念を受けるであろうその言葉は、目の前の少年にもダメージがあった。

 

 

「いくら、いくら8歳でもアイズさんですよ!! クラウドさんだけ羨ましすぎます!!」

 

 

「だーからそんな風に見てないんだよ、俺は! 飽くまでもあいつは家族だ、それ以上でもそれ以下でもねぇ!」

 

 

両肩を掴まれたまま凄い速度でユッサユッサ前後に揺すられて、クラウドはちょっと面倒になるがここでエイナが口を挟む。

 

 

「まあまあ、その辺にしておいて。ベル君もクラウド君も魔石の換金に行くんじゃないの?」

 

 

「ああ、そうだな。ベル、さっさと行くぞ。話はそれからだ。」

 

 

クラウドはベルの手を無理矢理剥がし、右手で2人分の荷物を持ち、左手でベルのシャツの後ろ側を掴んで引きずって換金所まで移動した。

ベルは引きずられながらも「うぅ~」と呻いているが完全に無視した。クラウドはベルと自分のバックの両方から魔石を取りだしカウンターに渡す。数秒後には結構な量の金貨の入った袋が渡される。

 

 

「えーっと......大体2万ヴァリスくらいか?」

 

 

まあまあいい収穫だろう、とクラウドは別の袋に金を半分入れてベルに手渡す。

 

 

「ほらベル、今日のお前の分け前。大事に使えよ」

 

 

「わぁ....ありがとうございます」

 

 

ベルも笑顔になったしこれで万事解決、とクラウドは苦笑いを隠せなかった。

 

 

「あのさ、ベル君」

 

 

「....何ですか?」

 

 

帰り際、ベルはエイナに呼び止められた。エイナは励ますように優しく微笑みながら口を開いた。

 

 

「女性は....やっぱり強くて頼りがいのある男性に魅力を感じると思うから、ベル君も強くなったらヴァレンシュタイン氏も振り向いてくれるかもしれないよ?」

 

 

彼女なりの大事な人へのアドバイス、と言ったところか。ベルは元気そうに「ありがとうございます!」と返事をして最後にとんでもない台詞を吐いた。

 

 

「エイナさん、大好きー!!」

 

 

「......えうっ!?」

 

 

突然の告白ともとれる言葉にエイナは顔を真っ赤に染めて狼狽えてしまう。そんなエイナの右肩に何者かがポンと手を置いた。

 

 

「ひゅーひゅー」

 

 

憎たらしいほど口角を吊り上げ、猫目でからかってくるハーフエルフ(クラウド)の姿がそこにあった。

その後、顔を真っ赤にして涙目になったエイナに怒鳴られてしまうのであった。




もしかしたら更新遅くなるかもですが、なるべく早くできるように頑張ります。
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