ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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お久しぶりです。気がついたら四ヶ月も間ができてしまい、大変申し訳なく思っています。

これからはまあまあ時間があるので投稿ペースを戻せると思います。それでは久々に最新話をどうぞ。


第39話 気持ち悪い

「……寝れん」

 

 

リューとの告白騒動のあった日の夜、クラウドはテントの中で一人で頭に手を置いて考え込んでいた。

 

 

(あいつ、意外と柔らかいんだな……色々と)

 

 

よく考えたら抱き締め合ったり、挙げ句には頬に口づけまでされたのだ。冒険者を十年以上やってきたが、あんな感覚は初めてだった。

 

 

(でも結局先延ばしにしちまったからなぁ……呆れられてないよな?)

 

 

こういった関係は案外壊れやすいと言うそうだし、ロクに答えを返さないのは失礼に当たるだろう。

 

 

「って、俺は何でこのことばっかり考えてんだ。それより、明日は……」

 

 

ロキ・ファミリアと一緒に地上へ帰るのが明日。彼らのような強豪ファミリアに限って万に一つもないだろうが、何かしらのトラブルで危険な目に遭わないとも言い切れない。

いざとなったらファミリアの先輩としてベル達の安全を守らなくてはならない。

 

 

「それ以上に、ラストルのこともあるよな……」

 

 

数日前、かつての妹分と対峙したクラウドだが、以前とは桁外れに強くなっていた彼女には大変な苦戦を強いられた。彼女の存在、いや、彼女があんな風に変わってしまった原因の一端が自分にあるのは確かだ。彼女を止める。そして、必ず過去に見切りを付ける。

 

 

「ますます、負けられなくなったな……」

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

 

翌日、不十分ではあったものの睡眠をとったクラウドは出向するロキ・ファミリアの面々を見送りに来ていた。

 

 

「アイズ、もう行くのか?」

 

 

「うん、私達は先達のパーティー。クラウドたちは後からだって」

 

 

18階層から17階層へと続く通路には、ロキ・ファミリアの幹部勢とその他の団員が並んでいる。

確かに大勢でゾロゾロ帰っていては連携も取りにくい。幸い後続のパーティーの戦力でも中層をやっていけるはずだ。

 

 

「ところでさ、アイズ」

 

 

「何?」

 

 

「昨日のことだけどさ……」

 

 

「昨日?」

 

 

アイズは何のことかわからないようで、首をかしげる。クラウドは気まずそうに人差し指で手招きする。

 

 

「水浴びの時のことだ」

 

 

「……っ!?」

 

 

アイズは思い出したのか顔を赤く染める。

うん、怒るよね。そりゃあね。

 

 

「ベルとかヘルメスに見られてない……よな? それが心配でさ……」

 

 

「多分……見られてない……と、思うよ」

 

 

だったらいいけどなあ……。何だかんだ言って兄ちゃん心配だよ。

 

 

「ああいうのには気をつけろよ。まあ、ベルは巻き込まれただけだからまだいいけど、世の中にはヘルメスみたいな変態覗き魔だっているんだ。

ただでさえお前は可愛いんだから、その辺りは警戒しておかないと」

 

 

「か、かわ……」

 

 

「アイズ?」

 

 

「……う、うん。気をつける」

 

 

やけに縮こまっているアイズ。ちょっと言い過ぎたかな。

 

 

「あと、聞きたいことがあるんだが……」

 

 

「何?」

 

 

「ベル達が何処に行ったか知らないか? 出発の準備しようと思ってさっきから探してるんだけど、見つからないんだ」

 

 

「ベルなら、さっき中央樹の東の方に行ってたけど……」

 

 

件の方角を確認する。距離はそこまでない。走れば間に合う。

 

 

「アイズ、ありがとな。気をつけて帰れよ」

 

 

クラウドはアイズの元を後にし、東を目指す。18階層に来たばかりのベルがここに詳しいはずはない。それに、これから出発なのにわざわざ出口とは逆方向に行くとは考えにくい。

 

嫌な予感がする。

 

 

「俺の杞憂であってくれよな……」

 

 

森の中を走るのでは見晴らしも悪い上に時間もかかる。クラウドはそびえ立つ木の枝に足を乗せ、枝伝いに跳躍を繰り返す。

 

 

「……! あれか!」

 

 

東の方角、一本水晶の近くの広場に人集りが出来ている。遠目から見てもベルやリリたちではない。

かなり平均年齢の高い冒険者の集団だ。

 

 

(ベルが突然いなくなったこと……あんな目立つ場所に、しかもベルが向かったのと同じ方向に中層に滞在していた冒険者の大半が集まっていること……偶然とは言い難いな)

 

 

何も関係ないにしろ、ベル達を何処かで見ている可能性も十分ある。後は着いてから考えよう。

 

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

 

広場へと続く道を走る。Lv.5のステイタスならばこの程度の距離では息切れもしない。

さっき遠くから見た通り、やはり人集りが出来ている。それも、広場の入口を塞ぐように。

 

 

「おい、ちょっといいか?」

 

 

人集りの最後尾に立つヒューマンの男に声をかける。

 

 

「ああ? 何の用だ?」

 

 

「ここら辺に……白髪に紅目の――例の《リトル・ルーキー》が居なかったか? さっきから探してるんだが」

 

 

「何だ、テメェもしかしてあのガキの連れか? てこたぁ、助けにでも来たってわけか」

 

 

は?

 

 

「おい、どういう意味だ」

 

 

「あのガキなら今頃モルドにぶちのめされてるだろうぜ。これであの兎野郎も思い知って――」

 

 

ヒュッ

 

 

軽く、鋭い風切り音。それと同時に『何か』が放物線を描いて飛んでいく。周りにいた取り巻きも思わずその『何か』を目で追ってしまう。『何か』はクラウドの立つ道の外れ、遥か下の森の中へと落ちていった。

 

クラウドの握られた左手が横凪ぎに振り抜かれていたこと、そして、さっきまでクラウドと話していた男の姿が消えていること。

 

 

「嘘だろ、こいつ……」

 

 

「一撃で……吹っ飛ばしやがった……!」

 

 

「バケモンだ……」

 

 

その場で、その光景を見ていた者達は一瞬で悟った。

 

 

「安心しろ、Lv.2ぐらいならあの高さで死なねぇよ」

 

 

明らかに格が違う。

 

 

「ベルは何処だ。他の連中は……ヘスティア達のことも、何か知ってるのか……」

 

 

クラウドは振り抜いていた左手をゆっくりと元の位置に戻す。右手で素早く拳銃を抜き、劇鉄を起こす。

 

 

「十秒以内に答えろ。そしたらウェルダンかローか、どちらか選ばせてやるよ」

 

 

「へ、へへっ、たった一人で粋がってんじゃねぇよ!」

 

 

「そ、そうだ! テメェら、囲んじまえ!!」

 

 

確かに数では相手が圧倒的に有利。多勢に無勢という奴か。

 

 

「せっかくの親切な忠告も聞く耳持たずかよ……」

 

 

新しく左手にも拳銃を握る。にやけ面の男達がにじり寄ってくるが、この程度は関係ない。

 

 

「こいつもぶっ殺して身ぐるみ剥いでやれぇ!!」

 

 

「おおらぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

仕方ない。肉の壁なら、焼き払って通してもらう。

 

 

「【消し炭にしろ】」

 

 

目に見える敵全てに照準を合わせる。もう逃げられんぞ、蛮族どもが。

 

 

「【クリムゾン・ボム】ッ!!」

 

 

二つの銃口から次々放たれる紅蓮の火球が迫り来る男達に炸裂し、燃え広がる。中にはそれを越えて一矢報いようとする者もいたが、クラウドが数歩後ろに下がるだけで攻撃は届かない。

 

 

「安心しろ、火加減はしといた。レアに仕上がってるはずだぜ」

 

 

一応全員軽い火傷しか負わせていない。むしろショックで気絶してくれれば好都合だろう。

 

数秒後には敵の半数は戦闘不能。奥にいるもう半分は後ろに下がったようだが、クラウドを恐れて向かってこない。

 

 

「次は?」

 

 

脅すように銃口を奥の敵に向ける。怯えている相手はまたジリジリと近づいてくる。その隙に後衛の魔法詠唱を済ませようという腹積もりか。無駄なことを。

 

第二弾を発射しようとするが、背後から複数の足音と声が耳に届く。

 

 

「クラウド様っ!」

 

 

「おいっ、一体何があった!?」

 

 

騒ぎを聞きつけたのか、リリ、ヴェルフ、リュー、命、桜花、千草が後ろから走ってきた。

 

 

「お前ら下がってろ、こいつら全員蹴散らしてベルを助けに行くぞ」

 

 

「いえ、それが……」

 

 

「何だ、リリ!? 話なら後で……」

 

 

「ヘスティア様が……」

 

 

ヘスティアがどうしたんだ?

 

そう聞くことはできなかった。半分だけ振り向いた先にいた『女神(ヘスティア)』に言葉を失ったからだ。

 

 

「やめろ……やめるんだ」

 

 

二つに結わえていた髪を下ろし、身体から青白い光を放つ女神はゆっくりと、神々しく歩を進める。

 

 

「子供たち、剣を引きなさい」

 

 

実感できていなかった。普段の彼女の行動からは想像できなかったが、彼女は下界の生物とは違う。神なのだ。

力を大幅に制限されているとはいえ、根元的な部分では自分達とは比べ物にならない。

この威圧感、これが噂に聞く――

 

 

「神威……か」

 

 

ヘスティアはクラウドの後ろから歩み寄り、横を通り過ぎる。クラウドに銃を向けられ怯えていただけの敵も慌てて走り去っていく。

 

瞬く間に道が開かれ、広場で相対する二人――ベルと以前、豊饒の女主人で揉めた男が目に入る。一進一退の攻防を繰り広げていた二人だったが、相手の男――恐らくモルドとか言う奴――は泡を食って逃げていった。

 

 

「ベル君っ!」

 

 

「か、かみさ……わっぷ!」

 

 

「ベル君、ベル君!!」

 

 

ヘスティアは広場に尻餅をついたベルに駆け寄り、抱きついた。ヘスティアにとっては感動の再会だろうが、ベルはどうやら彼女の胸元に顔を埋められて息苦しそうだ。羨ま可哀想に。

 

 

「……ベル、大丈夫か?」

 

 

「は、はい。ありがとうございます。助けに来てもらって……」

 

 

戦い疲れたベルに手を差し伸べ、起こさせた。

 

 

「なんというか、思わぬタイムロスになったな。多分ロキ・ファミリアの後続の奴らが待ってるはずだ。すぐに戻るぞ」

 

 

一騒動終わって安心した瞬間、まさにその時だった。

 

 

 

 

 

地面が、ダンジョンが、揺れた。

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

「……な、なんだ!?」

 

 

「これは……一体……」

 

 

全員動揺し、辺りを見渡すが原因はわからない。そもそもダンジョンで地震など起こるはずがない。

 

 

「……! 天井が……」

 

 

青い空を写す天井に闇の帳が差す。おかしい。夜の時間になるにはどう考えても早すぎる。

 

ダンジョンに何か異常が起こっている……?

 

18階層全体が闇に包まれると同時に天井の一ヶ所に(ひび)が入り、割れる。

 

 

「何だ、あれは……」

 

 

ダンジョンについてはかなり知っているという自負はあった。だが、こんな現象は知らない。

 

割れ目から落ちてきた黒い物体にはそう確信させるほどの異質感があった。

 

黒い肌と白い髪、隆々とした筋肉を備えた巨人。色合いこそ違えどあのモンスターには覚えがあった。

 

 

「黒い……ゴライアス……!」

 

 

17階層の出口を守る階層主。本来ならこの階層に現れるはずのない生物が出現したことに全員驚きを隠せない。

 

それも束の間、南の方角から何かが崩落するような音が耳に届く。音源の方へと振り向き、舌打ちをする。

 

17階層へと続く通路への入口を瓦礫が塞いでいる。逃げ道を潰された。

 

 

「あのモンスター……多分、今の神威に反応したんだ。それで……」

 

 

ヘスティアが歯軋りしながら呟く。ダンジョンが神の存在を察知し、刺客を送り込んだということか。

 

 

「クラウドさん、あれ!」

 

 

ベルが広場の下、ゴライアスが落下した辺りを指差す。そこにはついさっき逃げ帰ったモルドたちが必死にゴライアスから逃げ惑っている姿があった。

 

 

「は、早く助けないと!」

 

 

「……そうだな、俺が行ってくる。お前らは――」

 

 

クラウドは走り出そうとしたが、その左手を何者かが掴んだ。

 

 

「待ってください」

 

 

「……っ!? リュー?」

 

 

リューが神妙な面持ちでこちらを見つめてくる。彼女が腕を掴む力が少しだけ強まる。

 

 

「本当に彼らを助けにいくつもりですか? 一人で、あんな危険なところまで行くと?」

 

 

彼女の真意は十分理解できた。彼らはヘスティアとベルに危害を加えた主犯格だ。わざわざリスクを犯してまで助けるほどの価値が、パーティーの中でも主戦力に当たる人物が離れるほどの意味があるのか。

 

パーティーを管理する立場なら見捨てるのが妥当だ。

 

 

「そうだ」

 

 

クラウドの返答にリューは心なしか哀しげな表情になる。

 

 

「たとえ敵でも、嫌いな奴でも俺は死なせるつもりはない。俺の手が届く範囲なら誰だろうとな」

 

 

「…………」

 

 

「それに」

 

 

クラウドは不敵に笑ってリューの肩に手を置く。

 

 

「ちょっとくらいは格好つけさせてほしいんだよ」

 

 

「……っ!」

 

 

リューの顔が僅かに赤くなる。クラウドは彼女の手を優しく外す。

広場から飛び降り、華麗に受け身を取りながらゴライアスの足元へと走る。

 

 

「見つけたッ!!」

 

 

モルドとその取り巻きが何処からともなく現れた別のモンスターの群れに苦戦していてる様子が見えた。

 

 

「退いてろ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

モルドの首根っこを掴み、後ろに下がらせる。拳銃を抜き、迫ってくるモンスターの脳天に弾丸を撃ち込む。

 

 

「他の連中と一緒に森の外の見晴らしのいいとこに出てろ!」

 

 

「は? なん――」

 

 

「早くしろ! 死にたいのか!?」

 

 

クラウドの気迫に負けたモルドは仲間たちを連れてその場から離れる。

 

 

「よし、後は――」

 

 

 

 

 

 

ゾワッ

 

 

 

 

 

 

「~~~~!?」

 

 

寒気がした。敵意や殺意じゃない。純粋な好奇の視線。

無邪気な子供が初めて催し物に訪れたときのような、淀みのない、純粋すぎるほどの喜びや楽しみの気持ち。

 

 

人を殺すような禍禍しいものとは違う。気持ち悪く、気味が悪かった。

 

 

「誰だ!?」

 

 

視線の元へ銃口を向ける。自分の感覚が狂っていなければ相手は只者ではない。間違いなく今まで戦ってきた中で最も異常な相手だ。

 

 

「ひ・さ・し・ぶ・り」

 

 

薄暗い木々の隙間から返事があった。可愛らしい少女の声だ。頭の上にある三角形の耳、腰の辺りから伸びる長い尾、まっすぐ下ろした長髪、腰帯に差した刀。

嫌な予感がした。こんな声をした相手を(、、、、、、、、、、)こんな姿をした相手を(、、、、、、、、、、)、クラウドは一人しか知らない。

 

 

「く~ら~う~どぉ~!」

 

 

「ラストルッ……!!」




はい、ラストル再登場です。ちょっと駆け足気味になりましたが、ラストル登場を考えるとキリが悪くなりそうだったので急いで誘拐された話は終わらせています。ベルの活躍を書くのはさらに時間がかかりそうなのでご勘弁くださいヽ(´ー` )ノ

それでは、感想、質問などありましたら感想欄に、意見や要望、アイデアなどがありましたら活動報告にどちらも遠慮なくご記入ください。

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