ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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注意! 今回オリキャラが出ます。いったい何人出るんだ……(おまいう)


第45話 幼馴染み

「……またかよ」

 

 

クラウドはため息混じりに呟く。焔蜂亭で和やかに飲んでいたのに、わざと水を差すような声が飛んできたからだ。

 

 

「ランクアップできたのも、ちびりながらミノタウロスから逃げおおせたからだって聞いたぜ? 流石『兎』だ、立派な才能だぜ!」

 

 

クラウドは目だけ動かして叫んでいる相手を確認した。隣のテーブルに座っている六人の冒険者の一人――ゲラゲラ笑う小人族(パルゥム)の男だ。

 

明らかにベルに向けて発せられている悪口にクラウドは心底イライラした。だが、同じテーブルに座るベルたちは大なり小なり苦々しそうな顔をしていても余計な争いを生まないように耐えている姿を見るとそれほど苦ではなかった。

 

 

「オイラ、知ってるぜ!『兎』とつるんでる連中もロクでもねぇ奴らばっかだって! 売れない下っ端の鍛冶師(スミス)にガキのサポーター、おかしな武器使ってるロキ・ファミリアの裏切り者だぜ!?」

 

 

パルゥムの言葉に、彼の同僚たちも大笑いする。

ベルは流石に見過ごせなかったのか、身体がピクリと反応した。無理もない。ベルにとっては仲間を貶されることは耐えがたいほど辛いはずだ。

 

クラウドはベルの肩に手を置いて気を沈めさせる。

 

 

「わざわざ聞いてやるな。あんな戯言を言う方が馬鹿だと思ってろ」

 

 

ベルはその言葉に少し表情が柔らかくなる。ヴェルフ、リリ、キリアも続けてフォローに入る。

 

 

「そうだぜ、気が済むまで言わせてやれ」

 

 

「ベル様、無視しておいてください」

 

 

「あのような的外れな評価、私達を理解できていない証拠です」

 

 

全員の姿勢にブレはない。どうせ相手は悪口しか言ってこない。滞りなく宴会を終わらせて帰ればいいんだ。

 

 

「ちっ」

 

 

結構大きな声で――多分こちらに聞こえるように放ったのだろう。パルゥムが盛大に舌打ちをしてきた。

こちらが反応してこないことが腹立だしかったのか。

 

パルゥムが軽く息を吸ってまた何か言おうとした。いくら悪口を言われてもまともに対応などしてやるか。

 

 

「威厳も尊厳もない女神が率いてるファミリアなんざたかが知れてるってもんだぜ! 主神が落ちこぼれだから眷族も腰抜けになるんだろうな!!」

 

 

椅子が、勢いよく倒れた。

横を見るとベルが今まで見たこともないほど怒りを露わにさせながら、件のパルゥムに詰め寄るのがわかった。

 

 

「取り消せ!!」

 

 

ベルは歯軋りしながらパルゥムを睨みつける。酒場は静まり返り、ベルに視線が集中する。リリ達はベルのそんな一面に驚き、言葉を失っていた。

クラウドにもベルが怒った理由も、その気持ちも痛いほど理解できた。ベルが叫ばなければ思わずクラウドも同じ言葉を発していた自信があるくらいだ。

 

パルゥムはベルの剣幕にすっかり怯え、目が泳いでいる。しかし、必死に取り繕うように馬鹿笑いを作った。

 

 

「なっ、何だよ、図星か!? あのチビが落ちこぼれだって本当は思ってるってことだろ!?」

 

 

パルゥムの更なる中傷にベルの怒りが増した。

 

 

「それ以上神様の悪口を言うな!! 今すぐ取り消して全部謝れ!!」

 

 

ベルはパルゥムを見下ろすように睨む。だが、相手は「誰がそんなことするか」と言わんばかりに鼻を鳴らす。

ベルはとうとう限界になったのか、その男の胸ぐらを掴もうと手を伸ばした。

クラウドは慌ててその手を掴もうとした。が、それより早くそのパルゥムの身体が横に蹴り飛ばされ、ベルの手も止まる。

 

 

「ぶびっ!?」

 

 

気持ち悪い悲鳴を上げてパルゥムは床を一回転して仰向けに倒れる。無様に鼻血を流しながら気絶していた。

真横に伸ばされた左足を追っていくと、蹴りを放った当人であるヴェルフはしれっとした顔で告げた。

 

 

「足が滑った」

 

 

白々しく笑うヴェルフ。それが合図になったかのようにパルゥムの座っていた席の仲間たち四人が立ち上がる。

 

 

「この野郎!!」

 

 

「ぶっ殺してやらあ!!」

 

 

店員は悲鳴を上げ、冒険者の客は声援や野次を飛ばす。野次馬に囲まれるような形で喧嘩場が生まれ、その中心で戦いが続いた。

 

クラウドはベルとヴェルフが喧嘩を始めてすぐに、リリとキリアを野次馬の後ろ辺りまで下がらせる。何とか野次馬の群れを掻き分けて喧嘩場に入ると、ベル達二人と相手の冒険者四人が激闘を繰り広げていた。ベル達の方が優勢のようだが、これ以上続けさせたら被害が広がってしまう。クラウドは仲裁に入ろうとした。

 

 

「……」

 

 

だが、そこで気づいた。あのパルゥムの六人の仲間、最後の一人の男が座ったままであることに。

男はゆっくりと立ち上がり、ヴェルフに接近。片手だけで彼を投げ飛ばした。

 

 

「ヴェルフ!」

 

 

ベルは思わずその男に殴りかかろうとするが、嘲笑うかのように簡単に躱され顔面に拳が叩き込まれそうになる。

クラウドはその男とベルの間に割って入り、拳を片手で受け止めた。

 

 

「ちっ」

 

 

「まさかお前とはな、ヒュアキントス」

 

 

クラウドは歯噛みするその男の前に立ち、ベルを下がらせた。

ヴェルフとベルを圧倒した目の前の男。纏められた長い茶髪に、長身。色白の肌と整った顔立ちをしたかなりの美声年だ。

ヒュアキントス・クリオ。アポロン・ファミリア団長を務めるLv.3。【太陽の光寵童(ポエブス・アポロ)】だ。

 

 

「これで満足か? さっさと消えろよ。俺に殴り飛ばされたくなかったらな」

 

 

「粗暴な奴だな。貴様の手下にも影響が出ているようだぞ、【銀の銃弾(シルバー・ブレット)】」

 

 

「手下じゃない、あいつらは仲間だ」

 

 

「どうでもいいことだな。ルアンに先に手を出したのは貴様らだ」

 

 

ルアン、あのパルゥムの名前だろうか。確かに先に攻撃をしたのは自分達だが、素直にこちらに非があると認められもしなかった。

 

 

「その前に、お前のところの奴がありもしないこと言ってたのが原因だろ。お前は自分の主神(アポロン)が貶されてても平気な顔してるつもりか?」

 

 

「……何だと?」

 

 

睨み合いが続く。互いに牽制し合い一歩も動かない。

だが、数十秒ほど経つとヒュアキントスは痺れを切らしクラウドの腹に下から拳を入れてきた。

 

 

「このっ!」

 

 

クラウドは拳を受け止め、逆にその手首を掴んで捻り上げる。ヒュアキントスは逆の手でクラウドの喉に掌底を入れようとするが、クラウドは体を捻って回避する。クラウドはヒュアキントスの胸元目掛けて左腕で肘鉄を放つ。ヒュアキントスは一瞬息が止まりそうになりながら、後ろに二歩三歩と後退する。

 

 

「ぐっ……」

 

 

「もう終わりか?」

 

 

「舐めるなっ!」

 

 

尚も向かってくるヒュアキントスにクラウドは格闘の姿勢に入った。

上等だ。完全に捻り潰してやる。

 

 

そんなクラウドの興を削ぐかのように、誰かがヒュアキントスの両腕を後ろから掴んで拘束した。

 

 

「……! 誰だっ!?」

 

 

ヒュアキントスを拘束したのは若い、まだ十代後半ほどのヒューマンの少女だった。

空のように青白い髪は肩の辺りで切り揃えられ、中折れ帽を深く被っているため目元が見えにくくなっている。服装はヒュアキントスと同じデザインのファミリアの制服。女性用なのか、下半身は太股の半ばあたりまでのスカートになっており、爪先から膝までは革のブーツを履いている。

 

 

「もう! 何があったか知らないけど、とにかく喧嘩は駄目でしょ、ヒュアキントス」

 

 

「うくっ……」

 

 

ヒュアキントスよりも上手なのか、全く拘束を緩ませない。その少女はクラウドにも視線を向けてきた。

と言っても、怒りや蔑みよりも親が子を叱るような雰囲気だ。

 

 

「あなたも! 乗せられたからって暴力はいけないから! わかった?」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

クラウドも少女に圧されて両手を下ろした。荒くれ者同士の喧嘩に止めを入れられたせいで何とも言えないやるせなさが残るが、この状態で彼女を無視して殴り合いをするほど好戦的でもない。

クラウドも痛みに苦しんでいるベルとヴェルフの元に駆け寄り、肩を貸して抱えた。

 

 

「………」

 

 

仲裁に入った少女の方も騒ぎを起こした団員達に代わって店主に謝罪しているようだ。

クラウド達も当事者なのだから同じように謝罪しなければ、とクラウドも少女と店主の元に向かった。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

 

 

「わ、わかりましたから……」

 

 

少女は何度も何度も頭を下げて謝っている。実際には彼女が喧嘩したわけではないのだが、あそこまで必死に謝っていると健気を通り越して少し怖い。店主の人もちょっと焦ってるし。

 

クラウドも彼女と一緒に謝ろうと彼女の横に立つ。その瞬間、彼女が深く被っていた中折れ帽が頭を上げ下げする勢いのせいで脱げて、床に落下する。

 

 

「あわっ」

 

 

頭から落ちた帽子はクラウドの足元に落下する。クラウドは彼女より早くそれを拾うと彼女と向き合う形で手渡した。

 

 

「ほら、落としたぞ」

 

 

「ああっ、ありがとうございます」

 

 

ほんの数秒、二人の目が合う。クラウドは帽子のなくなった彼女の素顔を見て、妙な既視感を覚えた。

 

誰だっけ? 確か昔こんな感じの世話焼きの女の子に会ったことがあるような……

 

 

「……? え……もしかして……だけど、クーちゃん?」

 

 

勘が当たった。クラウドの頭の中で昔会った少女と目の前の少女は同一人物だと確定してしまったのだ。

クラウドは頭を抱え、同じ様にかつての呼び名で返す。

 

 

「……その呼び方……レイ? レイシアか?」

 

 

「うん、うん! そうだよ。久しぶり、クーちゃん!」

 

 

日輪のような輝きの笑顔でレイシアは笑い、クラウドの両手を握って喜びを目一杯表現した。

クラウドは八年ぶりに会った幼馴染みの相変わらずな性格に苦笑いしながらも内心は嬉しくて堪らなかった。




はい。オリジナルの新ヒロインです。そこォ! 幼馴染みは負けフラグとか言わない! 思っちゃった人は好みの幼馴染みヒロインを言っておくように!
ちなみに私はインフィニット・ストラトスの鈴が好きです。

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