ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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いつもより間が空いてしまいましたね。
今回の話は箸休め的要素が多いです。

シリアス展開が……少なくてね……


第46話 料理

「今までどうだった? 元気だった?」

 

 

「ああ。というか、いきなりすぎて色々混乱してるんだけど……」

 

 

焔蜂亭を後にして――あれ以上店にいられるわけがないので――クラウドとレイシアはベルたちを連れて別の酒場を訪れていた。今は六人でテーブルに座って呑んでいる。

ちなみにヒュアキントスたちはレイシアが帰らせた。

 

 

「クラウドさん、そろそろ教えてほしいんですが……」

 

 

「それはリリも気になってました。どちら様なのですか?」

 

 

「クラウドの知り合いか?」

 

 

ベルたちもレイシアのことが気になるようだ。クラウドと仲睦まじく話していることといい、ベルとヴェルフを簡単にあしらったヒュアキントスを凌ぐほどの強さなのだ。

 

 

「えっと……クーちゃん、この人たちは? クーちゃんのファミリアの人?」

 

 

「いえ、ベル様はそうですが、リリ様とヴェルフ様は別のファミリアの方です」

 

 

レイシアの質問にはクラウドの右隣に座るキリアが答えた。キリアは何だかつまらなさそうにグラスに入ったジュースを小さな口で飲んでいる。

 

 

「クーちゃん、この子は?」

 

 

「ああ、俺のファミリアで預かってる子だよ。ちょっと事情があってな」

 

 

レイシアはふーん、と興味深そうにキリアを見つめながらジョッキに注がれたエールを飲む。

 

 

「って、自己紹介がまだだったね。私はレイシア・クロウフォード。アポロン・ファミリアの団員で、クーちゃんの幼馴染みだよ。よろしく」

 

 

レイシアは微笑みながら、座ったまま軽くお辞儀をする。クラウド以外の四人もレイシアに自己紹介を済ませると、話題は再びレイシアを中心としたものに戻る。

 

 

「私、元々はクーちゃんと同じファミリアにいたんだ。昔はよく一緒に遊んでたよね」

 

 

「同じって……ロキ・ファミリアのことですか? でも、だとしたら何でアポロン・ファミリアに?」

 

 

ベルの問いにレイシアは苦笑いし、クラウドは軽く頭を抱えてしまう。

 

 

「あー、そうじゃ……なくてね。私はクーちゃんの最初のファミリアにいたんだよ。つまり、アポフィス・ファミリアに」

 

 

レイシアが口にしたファミリアの名前にベル、リリ、ヴェルフ、キリアの四人は驚きを隠せなかった。

アポフィス・ファミリア。クラウドが八年前まで在籍していた、当時のオラリオで最強の暗殺者たちで構成されたファミリアだ。

 

その構成員ともなると、危険視されて当然だ。

だが、クラウドはそんな四人の心情を感じ取り、フォローに入った。

 

 

「落ち着け。レイは確かに元はアポフィスのとこの出身だけど、実際には孤児だったこいつを引き取って養成してただけだ。

それに、当時のこいつはまだ十歳。暗殺の任務の経験なんてない」

 

 

ベルたちはその言葉に納得したのか、少し表情が和らぐ。

 

 

「しっかし、俺とヒュアキントスの喧嘩を止めに入れたのには驚いたぞ。あれから成長したんだな」

 

 

「ふふん、まーね。急成長して今やLv.4だもん。もう立派な上級冒険者だよ」

 

 

レイシアは得意気に胸を張る。そのせいで、彼女の胸元の大きな二つの膨らみが服を内側から押し上げてしまう。

 

 

「……あ、ああ」

 

 

クラウドは予期せぬ光景に思わずドキッとしてしまう。ちなみに、キリアがその様を冷めた眼で見ていたが、クラウドは気づかなかった。

 

だが、ここで煮え切らないと言った感じでヴェルフが口を出した。

 

 

「さっきの喧嘩と言えば……あいつらは一体何のつもりなんだ? 確かにベルに陰口叩くような連中は他にもいるが、あそこまでしつこいのはどうかしてるぞ」

 

 

多少話を蒸し返した感じはあったが、確かにそのことについては聞きたかった。

聞かれたレイシアは申し訳なさそうに暗い表情で答えた。

 

 

「……ごめんなさい。ルアン君が言ったことは気にしないで。私からも注意しておくから。

って、言っても納得できないよね……うん」

 

 

「いや、別に責めてるわけじゃ……」

 

 

「なあ、レイ」

 

 

ヴェルフとレイシアが話しているところへクラウドが口を挟む。

 

 

「な、何?」

 

 

「よく考えたら、今回の騒動はおかしな点があると思うんだが」

 

 

クラウドの意見に全員が首をかしげる。クラウドは「まずは」と切り出した。

 

 

「俺達とあいつらのテーブルの位置だ。あいつらは俺達が店に来たとき、予約していたテーブルの隣に座っていた。

これは、最初から俺達がこの店に来ることを知っていて、なおかつ俺達を煽ることを計画していたとしたら説明がつく。

隣のテーブルであんなことを言われれば否が応でも耳に入るからな」

 

 

クラウドとレイシア以外の四人は軽く頷いている。だが、リリが軽く身を乗り出しながら反論した。

 

 

「ですが、単純にこうは考えられませんか? 偶然リリたちと店で居合わせて、気紛れに煽った結果ああなってしまったのでは?」

 

 

「いや、そうとも言えない。そうだとしたら俺達にあそこまで言ったことへのリスクと釣り合わないからな」

 

 

今度はクラウドの言ったことがよくわからないのか、ベルが聞き返した。

 

 

「リスクって一体何なんですか?」

 

 

「考えても見ろ。あいつら六人はLv.1か2が五人とLv.3のヒュアキントスが一人だ。ベルとリリ、ヴェルフの三人とならともかく、俺やキリアもいたんだぞ」

 

 

「……確かに、妙ですね」

 

 

キリアが口許に手を当てて考え込む。

 

 

「実際に、先程の騒動、レイシア様が止めていなければクラウド様があの方を叩きのめしていたことは明白です」

 

 

「そうだろ? あいつらだって、俺達が仲間や主神のことを貶されれば激怒して喧嘩になることくらい予想できる。そうなれば不利になるのはあいつらだ。

そんなことも本当にわからないほどあいつらが馬鹿だったのか、それだけのリスクを侵しても俺達と喧嘩する理由があったのか、どっちかだろうな」

 

 

クラウドは流し目でレイシアを見つめる。レイシアは頬に汗を伝わせながら口ごもっていたが、突然思い立ったように言った。

 

 

「く、クーちゃん、考えすぎだよ。私たちが悪かったのは確かだけど、別に何も企んでないってば。偶然そうなっちゃっただけだと思うよ」

 

 

「……そっか、そうだよな」

 

 

クラウドは少しだけ哀しげな表情で笑顔を作る。何となくわかってしまったのだ。

少なくとも、今回の件は偶然起こったものではないと。

 

レイシアはそんな疑いの気配を感じ取ったように椅子から素早く立ち上がる。

 

 

「あー! もうこんな時間だ!」

 

 

「何だ、レイ。何か用事でもあるのか?」

 

 

「そうなんだよ! じゃあ皆、ここにお金置いておくから後は適当に飲んでて! じゃあね!」

 

 

レイシアは懐からヴァリス金貨の入った袋をテーブルに置き、そそくさと店から出て行った。

 

 

(あいつ……何を隠してるんだよ……俺にも、言えないのか……)

 

 

八年前は気安く話し合える友達だった。今となっては幼馴染みとも呼べる間柄だし、久しぶりに会っても変わらず明るい性格でいることが嬉しかった。

だが、それと同時に大事なことを隠されて、誤魔化されたことが悔しかった。

 

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

 

レイシアと再会した翌日。ベルはヴェルフに武器と防具を新調してもらうため、二日間ダンジョン探索を休むことにしていた。

クラウドも18階層で失ったアイテムや銃の弾薬を補充したかったので丁度よかった。

そして、その日の夕方。

 

 

「いらっしゃいませ……あっ、クラウドさん! また来てくれたんですね」

 

 

「ああ」

 

 

クラウドは昨日と同じく豊饒の女主人へと足を運んでいた。因みに今日は一人だけだ。

普段はホームで夕飯を食べるのだが、今日はキリアがアイズとラストルの二人に誘われ、ヘスティアはベルと一緒にそれぞれ食事しに行ったのだ。

別にホームで済ませても良かったが、どうせなら大事な恋人の姿を拝みたいという気持ちもあった。

 

 

「最近よくウチの店に顔を出してますけど……やっぱりリューのこと心配なんですか? 変なちょっかいかけられてないかー、とか」

 

 

来店の挨拶をしてくれた店員――お気づきの通り、シルはニヤニヤしながらクラウドに聞いてきた。

クラウドとしてはその理由も否定できないが、そこまで彼女のプライバシーを侵すつもりもない。苦笑いして弁明した。

 

 

「確かに心配してるが……今までここの店員に変なちょっかい出して無事だった奴なんているのか?」

 

 

「いませんね。何処かの銀髪のハーフエルフの男性を除けば、ですけど」

 

 

「へぇ、そんな奴がいるのか、会ってみたいな」

 

 

シルの皮肉めいた返しにクラウドもしらばっくれてみせた。何だかシルが悔しそうな顔をしているように見えたが、わざわざいじる必要もないだろう。

 

 

「ま、とにかく席に案内してくれ。今日は特別に高い酒飲んでも大丈夫なくらい持ってきて――」

 

 

「さあこちらへどうぞお客様!」

 

 

シルは先程の表情から一変、光り輝くような笑顔で店のカウンターへ案内する。現金なやつめ。

 

 

「ん? アンタかい」

 

 

「ミアさん、えっと……昨日ぶりですね、あはは……」

 

 

カウンターに座った途端、ミアさんが奥の厨房からカウンターに移動してきた。

というか、いきなり現れないで。怖いから。

 

 

「今日は飯を食べに来たのかい? それとも――」

 

 

「食べに来たに決まってるじゃないですかやだー」

 

 

「なるほど、そうかい」

 

 

何だろう。確かに以前から態度の悪い客や営業妨害をする輩に対する威圧感は半端ではなかったが、リューと付き合い始めてからクラウドに対する態度が変わった気がする。

 

クラウドはシルに注文を済ませ、料理と酒が運ばれてくるのを気まずく待っていた。

あれ? こんなの予定にあったっけ?

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

目の前に運ばれてきた魚料理をナイフとフォークを使って口に運ぶ。葡萄酒の瓶を開け、グラスに注いで喉に流し込む。やはり、料理の出来も酒の品質も申し分ない。

 

気のせいか、魚料理の味付けが微妙に変わっていて少し焦げ臭かったことが疑問だったが。

 

クラウドが料理を完食し、残った葡萄酒を空いたグラスに注いで飲みきろうとしていたところに、声をかけられた。

 

 

「ちょっといいかい」

 

 

「?」

 

 

声の主はミアさんだった。何だろう、とグラスを置いて答える。

 

 

「さっきの料理美味かったかい?」

 

 

「? そりゃあ、まあ美味かったけど」

 

 

「そうかい、そりゃよかった」

 

 

「………何なんだ?」

 

 

いきなり料理の味の良し悪しを聞かれ、正直に答えたが、一体何だったんだろう。

ミアさんは「そういえば」と話を変える。

 

 

「さっき厨房に行ったときリューにアンタの話をしたら、閉店した後で付き合ってほしいことがあるんだとさ」

 

 

「リューが? 厨房で? 大丈夫なのか、それって」

 

 

クラウドはかなり心配になった。事実、リューの料理の腕は壊滅的と言っていい。

サンドイッチを炭化させ、チョコレートを鋼に変えるような力があるのだ。厨房を任せて本当に大丈夫か?

 

 

「あの娘は皿洗いとか野菜の皮剥きをやってるよ。流石にまだ料理の方は任せられないからね」

 

 

「あっ、そうなのか」

 

 

よくよく考えれば厨房と言っても調理以外にやることだってあるのだ。それなら不思議じゃない。

 

だが、次の瞬間にミアさんが放った言葉に度胆を抜かれた。

 

 

「アンタに出した料理以外はね」

 

 

「…………は?」

 

 

今なんと? もし聞き間違えでなければクラウドがさっき食べた魚料理はリューが調理したことになる。

そんなことが、ありえるのか?

 

 

「えっと……一応聞くけど、どの辺りを手伝ったんだ? 魚の鱗を取ったとか?」

 

 

「確かにそれもやったが……他の工程もあの娘一人だけさ。焼いて、煮て、味付けや盛り付けも全部」

 

 

今度こそ言葉を失った。

確かにそう考えたらさっきの料理を食べていたとき、少々味に違和感を感じたのも納得できる。

焦げが余分にあったし、味付けも少し濃かった。

 

 

「さっきの美味かっただろ? 驚いたかい?」

 

 

「そりゃあ驚くだろ……」

 

 

以前、いつか腕を磨いて料理を振る舞うと言っていたが、まさかこんな劇的な進歩を見せるとは。

 

 

「これで十分嫁に出せる娘になっただろ?」

 

 

「よ、よよよ嫁ぇっ!?」

 

 

突然の爆弾発言に動揺を隠せなかった。何を言ってるんだこの女将は。

 

 

「い、いくら何でも早すぎるだろ」

 

 

「色恋に早いも遅いもないだろ? それともあの娘と遊びで付き合ってるつもりかい?」

 

 

「……そんなわけない!」

 

 

反射的に叫んでいた。クラウドは強く反論した。

 

 

「俺はリューのことを一生かけて幸せにするって決めてる。だから、あいつを裏切るようなことは絶対にしない」

 

 

多分、今自分の表情は真剣そのものだろう。それくらい、自分の覚悟を疑われるのが嫌だと理解してほしいからだ。

だが、急にミアさんは得意気に笑いクラウドを見つめる。

 

 

「そうだよ、よくわかってるじゃないか」

 

 

「……あ」

 

 

しまった。嵌められた。

まさかそれなりに駆け引きを経験してきた自分が、こんなに簡単に口車に乗せられるとは。

途端に顔が熱くなり、俯き気味になってしまう。

 

 

「……俺がこう言うってわかってたのか?」

 

 

「さあね。ただ、もし情けないこと言ってたら殴り飛ばされてたのは確かだからね」

 

 

ミアさんはクラウドの右肩にカウンターを挟んで手を置く。リーチ長いなこの人!?

 

 

「合格だよ」

 

 

「……へ?」

 

 

「こんだけ言えるなら安心さ。あの娘のこと、幸せにしてやんな」

 

 

何故だろう。結婚の挨拶に来たみたいになってる。だとしたらミアさんは姑に当たるのだろうか。

 

 

「……はは」

 

 

気恥ずかしそうに頭を掻く。恋だの愛だのに縁はないと思っていたが、いざ自分がそうなったら馬鹿にできないな、とクラウドは顔を綻ばせる。

 

 

「ああ。リューは俺の恋人だからな」




今回こんな風な話にしたのは、次回に繋げるためです。次回は割と早めにできると思うので楽しみにしておいてください。

それでは、感想、質問などありましたら感想欄に、意見や要望、アイデアなどがありましたら活動報告にどちらも遠慮なくご記入ください。

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