ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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第3話 憧憬一途

こうして、美人の受付嬢から怒鳴られたクラウドはベルと共にヘスティア・ファミリアのホームへと向かっていた。

 

 

「クラウドさん、ロキ・ファミリアに居た頃って....どんな感じだったんですか?」

 

 

「どんな感じ? 随分とザックリした質問だな。ダンジョン探索とか、ファミリアの雰囲気がどうだったかとか、そんなのか?」

 

 

まあ、もはやさっきのギルドでの話で既にベルの意図は見えているようなもの。クラウドはちょっと弟分をからかいたくなった。

 

 

「えっと......まあ、それも聞きたいんですが......ついでに? ちょっとだけでいいので....アイズさんの話を......」

 

 

「しないからな」

 

 

下心見え見えの少年の試みは、意地悪なハーフエルフの青年によってへし折られた。

 

 

「そ、そんなぁ! あんまりですよ!」

 

 

「これ以上は個人情報だからな、知りたいなら直接会って聞いてみろよ? 意外と簡単に意気投合して、受け入れてくれるかもだぜ?」

 

 

「えっ、えええっ!? むむむ、無理ですよそんなの!! 面と向かって会ったりしたら頭の中真っ白になっちゃいますって!!」

 

 

「お前は奥手なのか女好きなのかどっちなんだ....?」

 

 

会ってからすぐに『ハーレムは男の浪漫』とか言ってたからてっきり女好きの健全な青少年かと思いきや、変なところで女々しいこの白髪の少年。

まあ、今日になって念願の『出会い』とやらが実現したのだから彼もテンションが上がっているのだろう。

 

 

「ま、でもちょっとは考えないといけないぜ? お前とアイズが別のファミリアに在籍してる以上、婚約とかは出来ないらしいからな」

 

 

チーン、という金属が高い音色を奏でる音が聞こえた気がした。隣を歩くベルは髪と同じくらい顔面を白く染めて落ち込んでいた。流石にやりすぎたかとフォローに入る。

 

 

「そんなに落ち込むなって。お互いに好きだって思ってるならある程度の障害なんざ気にすんな。

まずは友達にでもなって、それから段階を踏んで距離を縮めていけばいいんだよ」

 

 

その言葉でベルも少し前向きに考えたのだろう、いつか必ず憧れの存在に追い付いてみせると意気込んで「はいっ!!」と元気よく返事をした。

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

廃墟と化した教会――その地下にある1室がヘスティア・ファミリアのホームだ。本来ならちゃんとした家に住むべきなのだろうが、ヘスティア・ファミリアはまだ発足してから半月しか経っていない零細ファミリアだ。

クラウドもロキ・ファミリア脱退の際に個人資産の半分をロキに渡したので、蓄えをしなければならない分あまり贅沢は出来ないのだ。

ベルはまさにその地下の小部屋のドアを開けて階段を下る。

 

 

「神様ー! 今帰りました」

 

 

ベルが声を張り上げて部屋に入ると、ソファーの上に寝転がっていた少女がバッと上体を起こして立ち上がる。そして2人の元へ歩いてきた。

長い黒髪はツインテールにしており、髪を結わえているリボンには鐘がついている。身長はベルよりも結構低いため幼女と言っても差し支えないのだろうが、そのためか服の上からでも分かるくらい大きい胸元が強調されている。

彼女はヘスティア。2人の主神であり人知を超えた超越存在(デウスデア)だ。

 

 

「やぁやぁ、お帰りー。2人とも今日は早かったんだね」

 

 

「ちょっとダンジョンで死にかけちゃって....」

 

 

「おいおい、大丈夫かい? 痛くはないかい? 君に死なれたらボクはショックだよ」

 

 

ヘスティアはベルの身体を心配そうにペタペタ触るが、見かねたクラウドが彼女を後ろから優しく引き剥がす。

 

 

「別に怪我してたわけじゃないから、そんなに心配いらねぇよ」

 

 

「むぅ....そ、そうかい。それならいいんだ! あ、そうだ! 今日は2人にお土産があるんだよ! デデン!」

 

 

ヘスティアは気を取り直すと、テーブルの上を得意気に指さした。その先を見ると、そこにあったのは大量のジャガ丸くん。

 

 

「「そ、それは!?」」

 

 

「露店の売上げに貢献したということで、大量のジャガ丸くんを頂戴したんだ! 今日はこれでパーティーと洒落込もうじゃないか!」

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

「俺が死ぬ気で稼いでれば....あと何ヶ月かで現状は脱却出来るだろうからさ....ヘスティアは別にバイトしなくてもいいと思うぜ?

ああベル、チーズ味とって」

 

 

「そうは言ってもねぇベル君、クラウド君。ボクとしては君たちに任せっきりにしちゃうのは心苦しいんだよ」

 

 

「いえ、僕は別に....そうなっても気にしませんよ。僕だって一生懸命やりますから。

はい、これがチーズ味です」

 

 

ちゃっかりチーズ味を渡してもらいながらファミリアの今後について語り合う3人。いくらクラウドが凄腕の冒険者でも、彼は主要武器である銃の手入れを結構頻繁にしているためそれに関する出費が多い。ダンジョンで稼いでもすぐに浪費してしまうのだ。

ロキ・ファミリアにいた頃は銃の修理や銃弾の自作に必要な材料は経費で落としていたが、今となってはそれも出来ない。つまりクラウドは結構頑張らないと逆に金がマイナスになることも有り得る。

 

 

「やっぱりボクが無名の神だからいけないのかなぁ....実際、どの神だろうと受ける恩恵なんて同じなのにさ」

 

 

ヘスティアの言う通り、神の恩恵そのものに違いはない。後は本人の努力次第というものだ。ヘスティアが悪いというわけではないのだ。

 

 

「大丈夫です神様。今は辛いかもしれませんけど、いつか僕たちがきっと神様に恩返しをしてみせます!」

 

 

「俺もだよ、ヘスティア。何か困ったことがあったら出来る限りサポートするって約束する」

 

 

「ベル君、クラウド君....ありがとう! ボクは幸せ者だよ君たちに会えて本当に良かった!

さて、それじゃあそのためにも【ステイタス】を更新しようか!」

 

 

ヘスティアは勢いよくソファーから立ち上がり奥のベッドのある部屋に行く。ベルとクラウドも互いに会釈しながらヘスティアのところへ向かい、上半身の服を全て脱ぐ。先にクラウドがベッドにうつ伏せになって、その上にヘスティアは座り込んで自分の指に針を刺して【神の血(イコル)】を垂らす。

クラウドとベルの背中に描かれている黒の文字群。これこそが【ステイタス】、そしてそれを示す文字が【神聖文字(ヒエログリフ)】だ。

ヘスティアはクラウドの素肌の背中を2度3度と撫でてステイタスを更新していく。

 

 

「うーん、やっぱりクラウド君は大して変化は無いね」

 

 

「まあ、そうだろうな。ここ数年そんなんだし」

 

 

「まあまあ、今まで通りやってくれたまえよ。君はまだ若いんだからさ」

 

 

クラウドは「俺もう21歳なんだけどな....」と心の中でツッコミを入れるが、ハーフエルフのそれもエルフである母親の特徴を色濃く受け継いでいる彼の寿命を考えれば、まだまだ若い方なのだろう。

クラウドは更新したステイタスの書かれた羊皮紙をヘスティアから受け取ると、ベッドから下りてさっきまで着ていた白のシャツを取る。シャツのボタンを上から順番に閉めるついでにステイタスの確認。

 

 

クラウド・レイン

 

Lv.5

 

力:A 809→A 810

耐久:B 768

器用:S 914→S 917

敏捷:S 919→S 921

魔力:S 907→S 909

 

 

「やっぱり耐久だよなあ....」

 

 

クラウドは基本的に中~遠距離での戦闘をするため、相手の攻撃を受けるのではなく避けるか流すかの2つであることが多い。無論ある程度の接近戦は出来るものの、純粋な戦士型の冒険者よりは耐久がやや劣る。

 

 

「さ、次はベル君の番だよ。横になって」

 

 

クラウドはソファーに座り、ベッドでうつ伏せになってステイタス更新を受けているベルを見た。

 

 

「そういえばベル君、今日ダンジョンで何かあったのかい? さっき死にかけたとか言っていたけど」

 

 

「ああ....えっと、実は....」

 

 

ベルはうつ伏せになっていながら一瞬横目でクラウドの方を見て助けを求める。しかし速効で目を逸らされ、諦めながら本当のことを話した。ミノタウロスに追いかけられたこと、そしてそれをアイズに助けられたことを。

 

 

「ベル君、大体君はダンジョンに夢を見すぎなんだよ。あんな所に君の思うような真っ白サラサラな生娘みたいな女の子がいると思うかい?」

 

 

「わ、わからないじゃないですか!? エルフなんて自分の認めた相手じゃないと体に触れさせないなんて聞きますよ!!」

 

 

この世界の住人はいくつかの種族に分かれている。ヒューマン、エルフ、ドワーフ、パルゥム、獣人などといったものだ。その中でもエルフは鋭利な耳と整った顔立ちをしているのが特徴で、一部には許可せず接触することを許さない者も居るという。そういうこともあってかベルはエルフが好みなのだとか。

 

 

「まあまあ、そう慌てるもんじゃないぜ? 確かにエルフみたいに潔癖な種族も実在してるから一概に否定できな....いのかな、うん」

 

 

「おいヘスティア。何か俺の方チラ見しなかったか?」

 

 

実際に横目で見ていた。確かにベルの言っていることは正しいのだが、エルフの血を半分引き継ぐクラウドの性格を考えてみると何だか断定するのが難しく感じられる。

 

 

「君の言うヴァレン何某だって、そんなに美しいならお気に入りの男くらい居るんじゃないのかい?」

 

 

「あー....いる、かもしれませんね。ついさっき知りましたけど」

 

 

今度はベルからの視線。さっさと終わらせろよとクラウドはげんなりしながらソファーにもたれかかる。

 

 

「ん? 誰かから言われたのかい?」

 

 

「いや、クラウドさんが....アイズさんと仲が良いって....」

 

 

「なっ、なにーっ!?」

 

 

「でかい声出すなよヘスティア。それからベル、さっきの話は誤解だって言ったろ?」

 

 

正直クラウドとしては、8年間も世話を焼いた妹同然の相手を異性として意識するほど変態ではない。

それにクラウドとアイズの年齢差は5歳である。下手をすれば本当に変態として吊し上げられることも有り得る。

 

 

「俺としては、ベルにならアイズを任せてもいいって思ってるくらいなんだからな」

 

 

「クラウド君、縁起でもないことを言うもんじゃないぜ? いいじゃないか義理の妹と紡ぐ生活....まるで恋愛の物語みたいだよ」

 

 

「やめろ、本当に本心から本気で笑えないからやめろ」

 

 

「ま、それでもロキのファミリアに入ってる娘と婚約なんか出来ないんだけどね」

 

 

大抵、ファミリアに属している冒険者はファミリア内か無所属(フリー)の異性と結婚する。もし違うファミリアの者が結婚して子供が出来たとき、その子供の所属先についての判断が難しくなってしまうからだ。

 

 

「それよりもベル君は、もっと近くにある幸せを見つけるべきだよ」

 

 

「酷いです神様....」

 

 

ちょうどステイタス更新を終えてショボくれているベルにヘスティアは更新結果の書かれた羊皮紙を手渡す。クラウドもソファーから立ち上がってそれに目を通した。

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:I 77→I 82

耐久:I 13 

器用:I 93→I 96 

敏捷:H 148→H 172 

魔力:I 0

 

 

「敏捷....結構上がってますね」

 

 

「ミノタウロスに追いかけ回されてたからな。今思い出すだけでも危なかったんだぜ、お前は」

 

 

「あはは....面目ないです」

 

 

ベルが苦笑いして頭を掻くが、クラウドは微笑んで彼の頭に手を置いてグリグリ撫でてやった。目を回しているベルを余所にクラウドは再びステイタス用紙に目を通す。するとそこに奇妙な部分があった。

 

 

「(スキルの欄に消された跡....?)」

 

 

スキルが存在しないときは全くの空白なのだが、ステイタス用紙には判読不可能なように指で消した跡が残っていた。何かしらヘスティアが隠している可能性がある、とクラウドはベッドの少し離れたところにいるヘスティアの右隣に腰掛けベルには聞こえないよう小声で話しかける。

 

 

「ヘスティア」

 

 

「な、何だい?」

 

 

「このスキルの欄は?」

 

 

「ああ、それはちょっと手元が狂って....」

 

 

誤魔化された。クラウドは瞬時にそう判断した。まあその辺りまで想定してのことなのだが。

 

 

「違うだろ? 何かスキルが発現したんじゃないのか?」

 

 

「な、なんのことかなー」

 

 

澄まし顔になるヘスティアの頬には汗がタラリと流れていた。クラウドは意地悪そうに笑ってヘスティアの右肩を左手で掴む。

 

 

「ベルの背中に書かれてるステイタス――スキルの部分が変化してるぜ? 俺に神聖文字(ヒエログリフ)が読めないとでも思ったのかよ」

 

 

「....バレちゃったか」

 

 

「最初から隠すなよ。【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】って読むんだろ、あれは」

 

 

ヘスティアはやれやれとスキルの詳細を話した。

 

 

憧憬一途(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する

懸想(おもい)が続く限り効果持続。

懸想(おもい)の丈により効果向上。

 

 

「ああ....成る程ね。レアスキルか」

 

 

ヘスティアがベルにスキルのことを隠した理由はすぐに分かった。冒険者の中にはごく稀に固有のスキルが発現する者がいる。この憧憬一途もそれに該当するだろう。

それゆえ娯楽に飢えたハイエナとも言える神々は散々ちょっかいをかけたり、ファミリアの勧誘をしてくると相場が決まっている。

 

 

「下手にベルに教えてそこから情報が漏れたら危険だな、確かに」

 

 

「そうだろう? 君も出来る限りフォローしてやってくれないか?」

 

 

「善処するよ」

 

 

「うん、それじゃあ頼んだよ」

 

 

はいはい、と軽薄そうに答えたクラウドは器に1つだけ残っていたジャガ丸くんを口に放り込み咀嚼した。




まだアニメの第1話の半分程度....だとッ....!
テンポ遅くてすいません....

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