ダンジョンで銃を撃つのは間違っているだろうか   作:ソード.

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警告⚠ R-15くらいはあると思います(あくまで私の推測です)。ですから、健全な方はよく考えてどうするか判断してください。別に構わねぇという方は無視してどうぞお読みください。


第50話 嫉妬

「……」

 

 

「リュー、頼むから機嫌直してくれ」

 

 

クラウドは心なしか不機嫌そうな顔になっているリューに申し訳なさそうに謝罪する。

 

 

「怒っているわけではありません。ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

「クラウドさんは、優しすぎます」

 

 

リューの言わんとしていることはよくわからないが、彼女の機嫌が損ねられた原因ははっきりとわかっている。

自分たち二人の座っているベンチの横、もう一つのベンチに腰を下ろしている三人の少女たちのせいだろう。

 

 

「で、何でお前らあそこにいたんだ?」

 

 

「えーっと……偶然かな?」

 

 

「私はクラウド様の専属精霊ですから、お側に現れることは避けようのない事態です」

 

 

「……別に、尾行したりはしてないよ」

 

 

三人の少女――ラストル、キリア、アイズは苦笑いしたり、しれっとした顔で答える。

どういうわけか二人が寄った装具店にこの三人も付いてきていたことが発覚したのだ。

 

 

「いや、別に責めてるわけじゃなくてな。何でわざわざ隠れて移動してたのか聞きたいんだよ」

 

 

そう。これもどういうわけか、三人とも認識阻害系の魔法を使って尾行していたのだ。

偶然店に来たのならそんな大仰に隠れる必要などない。

 

 

「もう、バカ……」

 

 

「バカというより、唐変木でしょうね。クラウド様の場合は」

 

 

「……何でかは、自分で……考えて」

 

 

……ますますわからん。

 

 

「一緒に遊びたかったとか?」

 

 

「何か、合っているような……そうでないような……」

 

 

ラストルは苦々しそうに頭を抱える。もう降参したい。

 

 

「じゃあ、二人で一緒にご飯を食べてくれたら……許してあげる」

 

 

考えを巡らせているとアイズがおずおずと手を挙げて要求をしてきた。

一体何を許してもらうのか理解できなかったが、事態が収束するなら別にお安いご用だと乗っかることにした。

 

 

「そんなのでいいのか? なら今度――」

 

 

「だ、ダメ!」

 

 

今度はラストルが慌てて割り込んできた。

 

 

「アイズだけなんてずるいよ! 私にもお願い!」

 

 

「じゃあ、三人で……」

 

 

「「二人で!」」

 

 

「いや、だから何で?」

 

 

アイズもラストルも全く譲らない。三人で食べるのと二人で食べるのと何が違うんだ?

 

アイズとラストルが向かい合って睨み合う中、クラウドの服の裾をキリアがちょいちょいと引っ張ってきた。

 

 

「クラウド様、では間をとって今夜は私と同衾を……」

 

 

「寝るだけな。というか何の間だ」

 

 

さっきから繰り広げられている論争に当然リューも黙っていない。

 

 

「く、クラウドさんは私の――」

 

 

「リューは散々いい思いしてるじゃない! 私にもしてくれないと不公平!」

 

 

リューの参戦もラストルによって簡単に門前払いされてしまう。いつになく強気なのが何故か、クラウドには理解できていないが。

 

 

「それに! こんなに可愛い義理の妹がいるのに、キスもしないなんてクラウドはおかしいよ! ほら、クラウド! んー!」

 

 

ラストルはクラウドに詰め寄り、唇を尖らせながら近づいてくる。

 

何しようとしてんのお前!?

 

 

「――っ! 義理の妹なら、私も同じ……んー」

 

 

「家族間のスキンシップも大切です、クラウド様。ですから私にも」

 

 

アイズもキリアも同様に左右から唇を尖らせて近づいてくる。お前らもか。

 

 

「そ、そういうことは私と――」

 

 

「ですよねー」

 

 

最後にリュー。残った一つ、クラウドの背後から来た。四方を囲まれる形で美少女四人からキスをせがまれるなんてことが現実に起こり得るとは。

事実は小説より奇なり、とはこのことか。

 

 

「あー! もう!」

 

 

クラウドは膝を折ってしゃがみ、アイズとラストルの立ち位置の間、丁度潜り抜けられるほどの隙間から脱出する。

ここは一時撤退するのが得策だ。

 

 

「何か、飲み物でも買ってくるからそれまでに話纏めといてくれ!」

 

 

クラウドは両足のバネを全力で使い、走り出す。だが、それでよしとする四人でもない。

 

 

「あっ、こらクラウド!」

 

 

「敵前逃亡は、重罪です」

 

 

「……まだ、話は終わってない!」

 

 

「……逃がさない」

 

 

数分間の追跡合戦(デッドチェイス)の末、クラウドは何とか四人を振り切ることに成功した。

 

 

 

 

 

◼◼◼◼◼

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……よ、よし。撒いたか」

 

 

しつこかった。本当にしつこかった。戻ってくると言っているのだから素直に待っていればいいものを。

 

息を整えたクラウドは、目的地である商店街に足を運んだ。彼女たちのご機嫌取りにでもなれば幸いだ。

 

 

「最近暑くなってきたからな、あいつらも何か冷たい物でも飲んだら落ち着くだろ」

 

 

彼女たちの焦りや闘争心をまるでわかっていないクラウドは、呑気に軽食店に赴き、五人分の飲み物を注文する。

 

 

「……戻ろ」

 

 

初デートのはずがとんだ騒動になってしまった。客観的に見ればクラウドのせいだが。

クラウドは丁寧に紙袋に詰め込まれた飲み物のボトルを持ってそう呟く。

 

 

「あ! おーい、クーちゃーん!!」

 

 

「――?」

 

 

感傷的になりながら四人の元へ帰ろうとしたところに、背後から声をかけられた。声や呼び方から考えてクラウドの知り合いで該当する人物は一人しかいない。

 

 

「レイ……!」

 

 

「やっと会えたー! 探してたんだよ、ずっと」

 

 

レイシア・クロウフォード。つい二日前に再会した幼馴染みの少女だ。

レイシアは短めに揃えられた青白い髪をはためかせながら此方へたどり着いた。

 

 

「探してた? 俺に用でもあったのか?」

 

 

「う、うん。クーちゃんのファミリアにも寄ったんだけど、ベル君に留守だって言われちゃって」

 

 

「あ、そっか……悪かったな」

 

 

「ううん、大丈夫。気にしてないから。それより、その荷物どうしたの? 買い物?」

 

 

レイシアはクラウドが左手に持っている紙袋に視線を移す。

 

 

「ああ……ちょっといざこざというか……さっき知り合いと一悶着あってな。お詫びか気休めにでもと思ってジュース買っといたんだ」

 

 

「あはは……大変だね」

 

 

腕組みをして苦笑いするレイシア。そのせいで両腕の上に彼女の豊かな胸の膨らみが乗ってしまい、非常に目のやり場に困る。

目測の域を出ないが……ヘスティアと同じくらいあるんじゃなかろうか。

 

そんなクラウドの心境を知ってか知らずか、レイシアは訝しそうに目を細める。

 

 

「――! クーちゃん、何だか視線が厭らしいよ。どこ見てるの?」

 

 

「べっ、別にそんな風に見てないっての! ただ、お前も色々変わったなって思って……」

 

 

レイシアはきょとんと目を丸めた後、今度は顔を赤く染めて口元を手で覆う。

 

 

「クーちゃんの(たら)し癖の方は相変わらずみたいだね……あ、でもそういう台詞は他の娘に言わない方がいいよ。勘違いしちゃうだろうし」

 

 

「言ってるわけないだろ。お前くらいしか…………幼馴染みはいないんだからさ」

 

 

「……そうだね」

 

 

レイシアは嬉しそうにクスクスと笑う。その笑顔は紛れもない、昔と同じものだ。クラウドも懐かしさと和やかさで思わず頬が緩んでしまう。

 

 

「あ! そういえばまだ話してなかったね。ほら、本題はこれ」

 

 

レイシアは上着のポケットから一つの封筒を取り出す。弓矢と太陽のエンブレムの施された封筒を。

 

 

「アポロン・ファミリアからか?」

 

 

「うん。明後日アポロン・ファミリア主催の宴があるから、それの招待状。主神の方に渡しておいて」

 

 

宴、と聞いて嫌な予感がした。ただ自分達が運悪く最近アポロン・ファミリアと喧嘩をしただけかもしれないが、いきなり宴を開くと聞いて正直あまり乗り気になれない。

 

 

「しかも、今回すごいんだよ。神様だけじゃなくて、眷族も連れてきていいんだって! それも二人まで!」

 

 

「へぇ、それなら俺とベルとヘスティアの三人で丁度だな。ありがと、帰ってヘスティアに話つけとくよ」

 

 

「うん、お願い」

 

 

そう聞くと多少は気が乗った。ある程度生活に余裕が出来たとはいえ、ヘスティア・ファミリアの家計は苦しい。たまには豪華な宴の場で食費を浮かせることも大事だ。

 

そんなセコい考えを巡らせながらクラウドは招待状を受け取る。

 

 

「じゃあ、明後日楽しみにしてるから! じゃあね!」

 

 

「おう、気をつけて帰れよー」

 

 

レイシアはぴょんぴょんスキップしながら嬉しさ満点で帰っていった。

 

 

「さて、俺も行くか」

 

 

改めて四人を探しに歩を進めようとするが、レイシアと入れ違いに現れた人物によって遮られた。

 

 

「ここにいましたか。探しましたよ、クラウドさん」

 

 

「あっ、リュー」

 

 

さっき別れたリューが追いついてきたようだ。かなり走り回ったのか、額には汗が浮かんでいる。

 

 

「丁度よかった、今戻ろうとしてたんだよ。アイズたちは?」

 

 

「彼女たちは帰ってしまいました。今回は引き分け、だそうです」

 

 

「引き分け?」

 

 

「……わからないなら構いません」

 

 

呆れたようにため息をつかれた。と、思ったら急に「ところで」と話を変えられた。

 

 

「先程の女性は? 貴方の知人の方ですか?」

 

 

「ああ、レイのことか?」

 

 

どうやらレイシアと話していたところを見られていたようだ。クラウドは特に隠す必要もないので、あっさりと彼女のことを話した。

 

 

「あいつ、俺の幼馴染みでさ。今は別のファミリアにいるんだけど、この間偶然会ったんだ」

 

 

「……そうですか」

 

 

「なんで顔をしかめてるんだ?」

 

 

レイシアについて話した途端にむむっと顔をしかめられた。何か気に障ることでも言ってしまったのだろうか。

 

 

「クラウドさんの周りには女性の方々が多いです」

 

 

「そうか?」

 

 

「実際、ヴァレンシュタインさんたちの言動や行動には貴方への愛情がある。それはわかるでしょう?」

 

 

「愛情って……あいつらは俺の家族なんだから、普通じゃないのか?」

 

 

アイズも、ラストルも、キリアも自分に少なからず懐いてくれているのはわかるが、単純に『そういうのが普通』だと思っていた。だが、彼女の意見からするとそうではないように聞こえる。

 

 

「いえ、普通……少なくとも並大抵ではないと思います。それに、先程の方の反応も……」

 

 

「レイが? まあ幼馴染みなんだし、仲がいいのは確かだけど……」

 

 

「ですからっ! そういうことではないと言っているんです!!」

 

 

「……っ」

 

 

突然、プツンと糸が切れたようにリューが怒りを露わにする。だが、クラウドの胸の内に浮かんだ感情は反感ではなく、単純な疑問だった。

 

 

「ど、どうしたんだよ一体……何でそんなに……」

 

 

「…………申し訳ありません、つい、怒鳴ってしまって……」

 

 

「あ、ああ……」

 

 

彼女の表情が怒りから、哀しそうなものへと変わる。クラウドはついさっきまで彼女の怒りの原因がわからなかったが、今なんとなく察しがついた。

 

 

「……わかってはいるんです。こんな醜い感情は間違っていると。クラウドさんを……私の好きな貴方への信頼が、揺らいでいるような気になって……自分が嫌になります」

 

 

「リュー、お前……」

 

 

「ですが……ですが、いくら理屈で否定しても感情では全く納得できなくて……貴方の優しさが――私に向けてくれていた愛情が……誰かに奪われると思うと……胸が苦しくなって……」

 

 

嫉妬、か。

 

彼女はクラウドが他の女子と仲睦まじそうに接していることや、必要以上に情を注いでいることに我慢ならないのだ。

確かに、クラウドにもその感情は理解できた。もしリューが他の男と手を繋いだり、体を触られたりしていたらそんなことは絶対に認めたくない。想像するのも苦しいくらいだ。彼女はそんな光景を実際に見せられていたのだ。

 

 

「リュー」

 

 

「………何ですか」

 

 

クラウドはリューの右肩を掴んで正面を向かせた。リューはさして抵抗するでもなく、不思議そうにクラウドと目が合う位置に向き直る。

 

 

「く、クラウドさん……一体どうし、んむぅ!?」

 

 

クラウドは彼女の小ぶりな唇と自分のそれを重ねた。

リューは一瞬激しく動揺したが、やがて大人しく動きを止めた。だが、羞恥と動揺からか、身体がガチガチに固まって完全に受け身の体制になっている。

クラウドはそれを解すために彼女の肩から下――二の腕から前腕にかけてゆっくり(さす)っていく。

 

 

「ん……ふぅ……あ、ああ……」

 

 

(……可愛い)

 

 

身体をビクビクと震わせながら緩い摩擦の感覚に敏感に反応している。しかも、それを悟られないようにしようと耐えている姿が余計にそう思わせた。

 

 

「れろ……ちゅっ……ぺろ……」

 

 

「んんっ!」

 

 

唇の隙間から彼女の口の中に舌を入れていく。以前彼女にされたことへの意趣返しの意味も込めて実行してみた。

 

 

「はぁ……はぁ……ちゅる……ちゅぱっ……」

 

 

「うっ……や……ああ……」

 

 

脳が痺れそうだ。もう二人の感覚はお互いの相手の情報しか拾っていない。

クラウドが舌をリューのものと絡ませると、彼女もぎこちない動きではあるが舌を動かしてくる。

単純な気持ちよさよりも、彼女の健気さや彼女に対する愛おしさで胸が一杯になる。

 

 

「んっ……はあ……はあ……はあ………」

 

 

そして十分すぎるほど彼女とのキスを楽しんだところで、唇を離す。唾液が二人の唇の端を繋ぎ、途中で切れた。

名残惜しさに浸っていたところで、今も息を整えているリューに話しかけた。

 

 

「どうだった?」

 

 

「……はあ……はあ……一体、どういう……」

 

 

熱っぽい瞳で聞き返してくる彼女にクラウドは悪戯をするように尋ねた。

 

 

「気持ちよかったか?」

 

 

「なっ……!? し、知りません……」

 

 

リューは顔を真っ赤にして拗ねたように顔を背けた。

クラウドは今度は真剣な顔で彼女に聞く。

 

 

「お前が不安だって言うなら、いつでも言ってくれ。不安になんかさせない」

 

 

「……ですが、貴方は」

 

 

「わかってる。俺はアイズたちのことを大切に思ってる。命を懸けて守りたいくらい大事だ。だけど、将来を誓い合う相手はリューじゃないと駄目だ」

 

 

「……私が、ですか?」

 

 

「ああ、ずっとそう言ってきただろ?」

 

 

リューはさっきまでの表情から一変、顔を綻ばせる。クラウドも照れくさそうに頬を掻きながら笑みを浮かべた。

 

 

「でしたら、その……」

 

 

「ん?」

 

 

「今夜……今夜は一緒に……過ごしていただけますか?」

 

 

リューはもう今までの比ではないくらい顔を赤くしてお願いしてきた。

断れるわけがない。断る理由を見つけるなんて絶対に不可能だ。

 

 

「ああ、一緒にいよう」




この後、二人は何をしたんでしょうね(すっとぼけ)。
一応次回はダンス・パーティーに行く予定です。ようやく原作を進められる……

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