デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 霧幻ノ影【ライドウ×P4】   作:ライ・ライホー

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第零章 始まりの霧
第0話 霧中に沈む影


貪欲(ドンヨク)ナル獣ノ王

 

日常ノ(コトワリ)ニ在ラザル物ノ怪ノ類

 

嘗テ信仰サレタ(イニシエ)ノ神々――――

 

其レラ異形ノ者共総ジテ

 

之『悪魔』ト呼称スル也

 

 

又―――――

 

 

其ノ『悪魔』ノ召喚ト

 

使役ヲ生業トスル者――――

 

之『悪魔召喚師(デビルサマナー)』と呼称スル也――――

 

 

『超國家機関 ヤタガラス』

ある公文書より抜粋

 

 

***

 

時は大正二十(・・)年――――

 

"古き良き和"と"刺激的な洋"が入り混じり、そこに人々の欲望が渦巻いた混沌の時代

 

 

国の中枢ともなる帝都では日々、人々の欲と恐怖に触発され『悪魔』と呼ばれる異形が発生していた。

帝都の闇から平和を脅かす異形共。しかし、そのような存在から民を護る為、日夜帝都の影で活躍する者たちがいた

 

 

敵である悪魔を従え、脅威となる魔を排除する『悪魔召還師(デビルサマナー)

 

彼らの中でも国の為、民の為に己を護国の刃として振るう者がいることを陽の下の民草は知らない。

 

 

悪魔召還師(デビルサマナー)』の中でも名家と称され、国を影ながらに守護する超國家機関『ヤタガラス』に所属する一族『葛葉』

その一族の一人にして、誇るべき『葛葉四天王』の一柱を襲名した青年――――――――

 

 

 

彼の名は葛葉ライドウ。この名を継いだ十四人目にして、一族の中でも歴代最強格のデビルサマナーである

 

 

 

***

 

某月某日

 

矢来区筑土町 銀楼閣

 

活気溢れる帝都にも肌寒さを感じさせる季節が到来した。

雨がしとしと降る帝都の一画、筑土町の中でも一際目立つビルチング「銀楼閣」と呼ばれる建築物の中にはとある探偵社が居を構えていた。

 

 

「…只今戻りました」

 

その探偵社に入って来たのは黒い学生服を纏った一人の青年である。その傍らには翡翠の瞳を持つ黒猫が寄り添っており、雨に濡れた事が不快なのか部屋に入るなり毛並みを整え始めていた。

 

「お、おかえりライドウ。雨降ってて冷えただろ?コーヒーでも飲むか?」

 

そんな青年を迎えた見た目が軽そうな男…帝都唯一の私立探偵であり、本人曰く「変わったの」を専門としている『鳴海探偵社』の所長「鳴海」はそう言うなりもう一つのコーヒーカップを持って立とうとした。

 

「いえ、大丈夫です。少し休んだら出掛けますので」

 

それをライドウと呼ばれた青年がやんわりと断れば少しむすっとした顔で青年を見返す。

 

「おいおい、折角上司が気ぃ使ってコーヒー入れるって言ってんだぞ?そこは有難く受け取っておくのが筋ってもんだぜ?

……それに、また出掛けるってことは『ヤタガラス』から依頼が来たって事だろ。休める時に休んどかなきゃ身体壊すぞ」

 

嫌味半分、気遣い半分の言葉を青年に言えば今度は有無を言わさずコーヒーをカップについで渡してやる。青年は探偵社にあるソファに座り渋々それを受け取った

 

「お前は帝都守護者のデビルサマナーだが、ウチの探偵見習いでもあるんだぜ。無理して倒れる真似だけはしないでくれよ」

 

当人を思って告げただろう一言にライドウは無言で頷く。

 

 

……が、去り際に「決まった…!」と決め顔で呟かれたのもしっかり聞かれていたせいか、青年の傍らにいる黒猫にひっそりと溜息をつかれていたのだった。

 

「にしても、最近よく雨が降るよなぁ…。そのせいで朝方とか霧が出て見え辛いのなんの……」

 

未だ降り注ぐ外の雨をちらりと見ながら鳴海がボヤく。事実、小雨ながらも降り続ける雨は昼頃から絶えず帝都を濡らしていた。もう既に陽も落ちたというのに水音だけが探偵社に鳴り響き渡る

 

「…もうそろそろ行きます。ありがとうございました」

「おう。今日も頑張って来いよ〜」

 

やがて数刻経った後に洗ったカップを元に戻して青年がそう言えば、鳴海は卓上の書類に目を向けつつ出て行く一人と一匹にひらひらと手を振ったのだった。

 

 

 

すっかり暗くなり人気も無くなった帝都の夜。

雨は大分収まったものの未だ霧雨のまま青年…ライドウの頭に降り注いでいた。

 

 

『―――ふん。鳴海の奴も気遣いと言う物が出来るようだな。下心はさて置くとして』

 

 

不意にライドウの足元から低い声が聞こえた。彼の足元には先の黒猫一匹しかおらず、しかしライドウは当たり前のように口を開いて応える。

 

「鳴海さんがどうあれ、随分と世話になっているのも確かだ」

『そうだな。一見無責任のように見えて時に鋭く、食えない男よ。実際、我らが『ヤタガラス』からの依頼を受けていたことに気づいていたようだしな』

 

黒猫の声を聞ける者は今この場にライドウ以外存在しない。

それもそうだ。この黒猫は悪魔召喚師―――つまり、『デビルサマナー』と呼ばれる者にしか認識出来ないのだから

 

 

デビルサマナーの間では知らない者はいない「葛葉ライドウ」という偉大なる名をこの青年が継いで二年以上が経とうとしている。

帝都の守護者を命じられた彼に与えられたのは悪魔を封印する「封魔管」に一族に伝わる名刀「赤口葛葉」、そして当時未熟だったライドウの補佐役として従者になった黒猫「ゴウトドウジ」であった。

 

これまでライドウは居候先の鳴海探偵社で探偵見習いとして働く一方、国の守護者として存在する超國家機関「ヤタガラス」に命じられ様々な悪魔を退けて来た。中には帝都を揺るがす程の災厄が何度も襲い掛かることもあった。

その度に葛葉ライドウは己の力と従えた悪魔達、そして周りの人々に支えられ窮地を乗り越える事が出来たのだ。

 

 

 

「――もうすぐ、例の依頼にあった橋だ」

『ああ…。しかし、ヤタガラスも奇妙な依頼を寄越すものだ。悪魔討伐ならまだしも、自然現象の調査をライドウに命ずるとは…』

「逆に言えばただの"自然現象"ではないから自分に依頼が回ったということだろう」

『ふむ。まあ、そうだがな』

 

一人と一匹は何時の間にか筑土町にある大橋「丑込め返り橋」までその歩みを進めていた。

幾ら花の帝都といえど夜遅くの時間帯では最早人の姿も見当たらない。

 

「『真夜中の12時丁度、丑込め返り橋が霧で包まれる』だったか。確かにこれだけだとただの噂話だな」

『同感だ。我も特にこれと言った危険性は感じていない。…強いて言えば、霧が悪魔の影響による物かどうか、という懸念くらいか』

「原因究明が今回の依頼だ。害が無いと分かればそれはそれで良い」

 

足元のゴウトにそれだけ言えば橋の欄干に背を預けそのまま待ちの姿勢に入る。

大分余裕を持って此処まで来たから噂の12時までまだ少し時間があったのだ。ゴウトもライドウの隣で座りこめば冷え込む帝都の夜を共に眺めた。

 

『”()”の事件から数ヶ月…帝都も元の平和を取り戻しつつあるな』

「……そうだな」

 

さあっと吹いた風がライドウの羽織うマントを揺らす。宵闇に静けさを保つ帝都は平和であることの証だ。それを噛み締めるように告げるゴウトと対照的にライドウはそう零しただけであった。

 

『…気にしているのか?あの時の事を』

「……」

 

此方を伺うように尋ねるゴウトの言葉にライドウは応えなかった。ただ、その思考を過去に飛ばして

 

 

 

今から数ヶ月前、帝都を脅かす厄災が人々に襲いかかった。

 

秘密結社”コドクノマレビト”事件―――――

 

表向きは賊が毒ガス散布と爆発行為を行い帝都を占拠しようとしたとされているこの事件。その実態は恐ろしき呪術と秘術、そして生贄を用いた秘密結社”コドクノマレビト”が人を悪魔へと変貌させ帝都を異界化し、そして強大な悪魔を召喚しようとした正に世界を揺るがしかねない事件だったのだ。

 

ライドウはコドクノマレビトとの激闘を経て見事これを討伐し、結果帝都を護り通すことが出来た。

だが、護れたと言ってもその犠牲は決して少なくなかった。そして、その爪痕も…

 

『ヤタガラスの使者が言うには媛は依然目を覚まさぬものの体調の快方には向かってるらしい。状況は予想に反して大分良くなっていると言えるだろう』

「そうか…」

 

ゴウトが”媛”と呼ぶ少女も彼の戦いで犠牲になった一人だった。

我が身を投げ打ちライドウ達に勝機を齎した彼女は、未だヤタガラスの保護下で深い眠りについている。その回復状況は良くなっているものの、あの明るい笑顔を見ることは当分叶わないだろう。

 

 

色々なものを救い、色々なものを失った。

失うことなどこれ迄の戦いでも経験して来たつもりであった。犠牲無き戦いなど有り得ない。この手で斬り裂いてきた者たちも数多いる。

 

 

それでも

 

 

「自分は………」

 

 

――――――ザザッ

 

 

「……!」

『どうした、ライドウ。何か異変でも……っ!?』

 

 

雨に紛れるようにして微かに聞こえた物音にライドウの身体が強張る。その様子に気付き尋ねようとしたゴウトは視界にある筈の無いものを捉えた。

 

 

『……霧だと?』

 

そう。先程まで澄み渡っていた筈の橋の上の風景に急速に白い靄がかかり始めたのだ。

さながら”霧”の様に立ち込めるそれは驚く程の速さでライドウとゴウトを取り囲み、遂には一寸先ですら見えない程までに覆い尽くしてしまったのである。

 

『これが依頼にあった”12時に突如発生する霧”か。成る程、確かにこの発生の仕方は不自然そのものだ。それこそ、超常でしか説明がつかない』

「悪魔の可能性も十分有り得る。まずは状況把握からだ」

 

一面真っ白の世界を冷静に分析すれば、己の懐から一本の管を取り出す。

緑色の液体に満たされた管……これこそが『悪魔召還師』が悪魔を従える為に運用している封魔管である。

 

「……モー・ショボー」

 

管を構えその名を呼べば緑の閃光が迸り、ライドウの目の前に人型が形成される。

 

『きゃは!ひさしぶりのお呼ばれだ!!』

 

現れたのは赤い服を纏い髪の毛が翼のようになっている少女。

見た目は可愛らしいがれっきとした悪魔であり、伝承ではその容姿と裏腹に人の脳髄を吸いだすと言われる恐ろしい悪魔「モー・ショボー」である

 

「先にこの霧を晴らせるかどうか試してくれ」

『いいよー!張り切ってやっちゃうからね!』

 

ライドウに頼まれたのが余程嬉しかったのか、モー・ショボーが威勢良く返事をすれば髪を思い切りはためかせる。

と、途端に荒れ狂う程の暴風が辺り一帯に襲いかかり、ライドウ達は思わず吹き飛ばされないよう姿勢を低くせざるを得なくなってしまう。

 

『おい!この馬鹿者が!

我らまで吹き飛んだらどうする!』

『えー。猫はともかくライドウは大丈夫だって!』

『くっ…相変わらずこの小娘は…!』

『それよりさー、私が張り切ったのにこの靄全然消えないよー』

『…何?』

 

モー・ショボーの申告に驚いたように顔を上げれば確かに状況は何も変わらず白の世界のまま

しかも訪れた変化はそれだけでは無かった

 

「……不気味なまでに静かだな」

『ああ。人の声どころか自然の音一つ聞こえなくなっている。…どうやら”異界”に引き摺り込まれたようだ』

 

此処が帝都とは思えぬ程の静まり返った世界にゴウトが異界の気配を察知する。

 

”異界”とは人間の世界と表裏一体の悪魔の世界であり、この世界では悪魔が当たり前のように闊歩しているのだ。

 

「ならば慎重に付近一帯を調査しよう。此処を作り出した悪魔がいるなら討伐する必要もある」

『あ、じゃあ私が偵察してあげるね!』

『…恐ろしく不安だな』

 

とはいえ人間のライドウがこの霧を何の頼りもなく進むのは困難だ。

モー・ショボーの申し出を有難く受け取れば彼女を先導として歩き出した。

 

 

 

『…気付いたか、ライドウ。この霧の世界はどうやら筑土町ではないらしい』

「ああ。人どころか建築物一つ見当たらない」

『……用心せよ。異界を丸々一つ作り出すということは強大な悪魔の可能性がある』

 

ゴウトの忠告により一層警戒心を強めれば霧の世界を進む

 

 

どれ程歩いたか。物もそうだが悪魔一匹出会わずにライドウ達は歩みを続けていた

 

『あれ?何か霧がちょっと薄くなってきてない?』

『む…。そう言えば少し見通しが良くなっているな。しかし…』

 

視界がある程度晴れたというのにゴウトの声は明るくならない。

それもそうだろう…ライドウの目に入る光景にはまるで見慣れない雑風景な一本道しか存在しなかったのだから

 

『何なのだこの異界は…。害を与える事もなくただ広がっているように見える』

『…むー。何か此処、凄くざわざわする!気持ち悪い!』

 

異界に引きずりこむ悪魔自身がそう主張する所を見るにかなりの異常事態らしい

ライドウは足元にある無機質な紅いタイルを見ながらどう行動すべきか考えようとしていた。

 

 

『あれ?誰かいる?』

 

ふと、モー・ショボーが呟いた言葉に反応し弾かれるように前方を見つめる。

濃霧に阻まれてよく見えないが、確かに遠くに何者かの人影があることをライドウにも確認出来た。

 

黒い人型である以外は何も確認出来ない。しかし、ライドウはその姿にざわりと胸打つ何かを感じられた。

 

『このような場所に人がいるとも思えぬ。警戒せよ、ライドウ』

 

ゴウトが毛を逆立てて忠告する。その様子を見るにライドウが感じる違和感を彼は知らないようにも見えた。

無言でゴウトに頷けば慎重に影へと近づいて行く。

 

一歩、また一歩

 

まるで物のように反応しない人影相手にライドウは徐々に距離を詰めて行く。その後ろで不安そうに見守るモー・ショボーだが、今の彼女は言いようのない不安を感じ取っていた。

 

『ねぇライドウ。アレ、ちょっと変な感じがする。あんまり近付かない方が良いよ〜』

「………」

 

モー・ショボーの言葉にもライドウは反応しない。それよりも今は人影に近付くごとに大きくなる”予感”に胸が急かされる方が重要だったのだ。

 

『ライドウ…?』

 

ゴウトがようやくその異変に気付いたと同時に、ライドウの目に人影の姿がぼんやりと映し出された。

 

 

ライドウと同じくらいの背丈

漆黒の書生服はよく見慣れた物と瓜二つ

そして深く被られた学生帽の下から此方へ向けられた二つの目は………

 

 

それを認めた瞬間、ライドウは己の中で時が止まったように感じられた。

有り得ない筈のその姿に背筋が凍ったような衝撃を受ける。

 

 

―――そうだ。此処に”彼”は居ない。その可能性は万に一つもない

 

 

何故なら、”彼”は己の手で……

 

 

 

霧に沈んだ"彼"が、学帽の下で笑みを浮かべた気がした

 

 

「せい―――――――――――――――――――ッッ!!!!」

 

 

 

開かれようとした口は、しかし言霊を発することは出来なかった。

その人影と目があった瞬間に鋭い衝撃がライドウの全身に襲いかかったのだ。

まるで何者かに突進されたかのような衝撃にライドウの身体は一本道を外れ宙へと投げ出される。

 

 

―――――ザーッ……

 

 

雨音のような、それでいて不快な雑音が耳に入る

身体に襲いかかる浮遊感が徐々に薄れるように意識もまた闇に堕ちて行く。

 

 

 

 

"――――――見せてくれ。人の子よ

君の辿る道を、選択する未来を…"

 

 

そんな誰かの声を遠くに聞きながら

 

 

 

 

これはほんの”きっかけ”。些細な始まりにすぎない

 

ただ、数多にある世界の内の一つで起きた、少しの変化の物語

 

蝶の羽ばたきが遠方で嵐を巻き起こすように、その変化が如何様な結果を招くのか――――

 

 

今はまだ、誰も知りえない




ペルソナ5のムービーにワクワクしつつ、今更ながらアニメに触発されペルソナ4クリアとコドクノマレビト全巻読破を同時達成したら書いていた習作です

このライドウは漫画版の影響を濃く受けていますのでゲーム版のアヴァンギャルド帝都無双の悪魔召喚皇なライ様をイメージしている方はご注意ください

見切り発車ですがよろしくお願いします
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