正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第12話 日本の神殺し

Side 昴

 

朝食を食べ終えた僕はエリカさんと一緒に学校に向けて歩いている・・・腕を組んで・・・。

エリカさんが外国人・・・しかもとびっきりの美人という事もあって周囲からの視線を集めていた。

 

「エ、エリカさん、やっぱり恥ずかしいですよ・・・。」

「あら、昴は私と腕を組むのは嫌なのかしら?」

 

恥ずかしさと、男子生徒からの視線が厳しくて訴えてみたが・・・何も言い返せなかった。

確かに恥ずかしいけど・・・それ以上に嬉しいんだから仕方がない。

腕にエリカさんの柔らかさが伝わって暖かいし、それにエリカさんからはいい香りが漂ってくる。

僕の方が背が低い事が少し気になるけど、好きな人と腕を組んで歩いている事の方が嬉しく感じられる。

・・・そう思うと周囲の視線も気にならなくなって来たのだから現金な物だ。

 

 

 

今回の入学に当たって一つ注意を受けた。

それはこの学園に通っている1つ上の先輩・・・日本のカンピオーネ・草薙 護堂先輩に付いてだ。

 

僕が日本で活動する為に避けては通れない人・・・それが草薙先輩だ。

エリカさんは以前とある事件が切っ掛けで会った事があるらしい。

その時の話だと気性も穏やかでいきなり攻撃して来る人では無い様だ。

草薙先輩に仕えているエリカさんの幼馴染という人も普段は穏やかな人だと言っていたらしい。

 

だが、僕が突然神殺しだと公表したら彼の琴線に触れる事があるかもしれない。

その不安が拭えない以上やはり僕の正体は準備が整うまで隠す事に決まったのだ。

 

しかしエリカさんが以前顔を合わせている時点で彼との接触は免れない・・・しかも問題はもう1つある。

それは彼に仕えている内の1人に優秀な『霊視能力者』が居るという事だ。

彼女は魔力を敏感に感じられるらしく、もしかすると僕の正体が見破られる人かもしれないという事だ。

対策としては僕の『氣』を極力表に出さない様に・・・体の奥に押し込める事。

僕としてはそれだけで大丈夫なのかと心配になるが、エリカさんは・・・。

 

「昴の魔術コントロールは完璧よ・・・貴方が魔力を外に出さない限り気付かれる事はないと思うわ。

 でも一応、用心だけはしておいてね。」

 

・・・と言われた。

エリカさんが大丈夫と言うならと納得して、一応その先輩に対して注意だけはして置く事にした。

 

 

 

家を出て凡そ10分・・・漸く学院に到着した。

学院に着くとエリカさんは僕の腕から離れた・・・ちょっとさみしくなったのは秘密だ。

 

「それじゃあここでね、私は職員室に行かなくちゃならないから。

 学校が終わったら一緒に帰りましょうね。」

「でしたら放課後エリカさんの教室まで迎えに行きますね。」

「ええ、待ってるわ。」

 

僕の言葉に微笑むとエリカさんは行ってしまった。

僕も張り出されているクラスを確認して自分の教室に向かった。

教室に入ると同じ中学だった奴等に囲まれ質問攻めにされた。

 

「あの綺麗な人誰だよ!」「あの人イタリアでお前とデートしてた人じゃなかったか!」

 

旅行で一緒だった奴がエリカさんの事を覚えていた事もあり、入学早々クラス中から注目を浴びてしまった。

しかも騒ぎを聞きつけた他のクラスの男子からも質問攻めに合う始末。

僕は彼等の攻撃に耐え切れず・・・。

 

「彼女は僕の婚約者だよ!!」

 

と口を滑らしてしまい、クラス中が大騒ぎになった。

女子は婚約者と言う言葉に色めき立ち、男子は恨みがましく僕に罵詈雑言を飛ばして来る。

・・・それは担任の先生がやって来るまで続き、朝から凄く疲れた。

 

 

 

今日の予定は朝の内に簡単な連絡事項・・・上級生達はその間に始業式を行っている。

先生の話が終われば次は入学式だ。

大人の長い話を聞き終えると今日はもう解散・・・授業は明日から少しずつ始まる事になっている。

 

最後の担任の話を聞き終えると、僕は朝みたいになる前に教室を抜け出し、エリカさんの教室に向かった。

僕の予想通り後ろから「神藤が逃げたぞぉ!!」と声が聞こえたから逃げて正解だった。

 

二年生の教室のある階に行くとエリカさんのクラスが分からない事に気付いた。

けど、周りに居た先輩達が金髪の留学生の噂をしていたからすぐにわかった。

エリカさんのクラスに到着した僕は扉の所に立って居た先輩にエリカさんを呼んで貰おうと声を掛けた。

 

「あ、あの・・・。」

「ん?・・・お前1年生か?入学早々2年生の教室に何の様だ?」

「こ、このクラスに転入してきた、エ、エリカ・ブランデッリさ・・・先輩は居られますか?」

 

先輩は僕の来訪に不審そうにしていたが、エリカさんの名前を聞いた瞬間、一気に不機嫌になった。

 

「エリカさん・・・そう、エリカさんだよ。

 あんな美人な人がどうして、よりにもよってまた草薙何だ!!あんな男の何処がいいと言うんだ!!」

 

突然大声で騒ぎだした先輩にどうすればいいか分からない。

しかも彼の声に周囲に居た男の先輩達が同意する様に一緒に騒ぎ始めてしまった。

戸惑っている僕に優しく声を掛けてくれたのは女の先輩達だった。

 

「1年生がこんな所でどうしたのかな?」

 

優しい微笑みに安心した僕は男子の先輩にしたお願いを彼女にした。

僕の口からエリカさんの名前が出た事に驚き、興味深そうな表情を浮かべながら僕のお願いに答えてくれた。

 

「ブランデッリさんだったら放課後に入るとすぐに草薙君達に連れられて屋上に方に向かったよ。

 ・・・って言うより君はブランデッリさんとはどういう関係なのかな?」

 

女性特有の勘で何かを嗅ぎ取ったのか、先輩は笑顔で僕ににじり寄って来た。

・・・先輩の笑顔が怖いです。

捕まったら逃げられないと悟った僕は全力でこの場から逃げる事にした。

 

「あ、ありがとうございました!!」

 

お礼を言うと共に踵を返し全力で走り去った。

後ろからは「あっ、ちょっと・・・」と声が聞こえた気がしたが振り返らなかった。

 

 

 

会談まで逃げた所で足を止め、上の階に視線を向ける。

あの先輩はエリカさんが草薙先輩と一緒に屋上に行ったって言っていた。

 

エリカさんの事だから大丈夫だと思うけど・・・やっぱり少し心配だな。

唯待つのも嫌だし・・・ちょっと様子を見に行くだけ行ってみよう。

 

そう判断した僕は改めて己の『氣』を奥に押し込めてから階段に足を掛けた。

屋上に続く扉の前に到着すると、扉の向こうから誰かが話してる声が聞こえた。

深呼吸をして覚悟を決めるとゆっくりと扉を開ける。

扉の先には、4人の人達が居た。

少し背の高い身体つきのしっかりしている男子生徒。

銀褐色の髪をポニーテールに纏めた妖精の様に可憐な女子生徒。

茶色身が強く長い髪をした、これぞ大和撫子という様な女子生徒。

最後にエリカさん・・・彼女は3人の生徒に囲まれて何かを話していた。

 

扉が開いた音に気付いた彼女達は僕に視線を向ける。

僕の姿を見たエリカさんは笑顔に、それ以外の人達は首を傾げた。

・・・恐らく入学早々屋上に来る1年生が珍しいのだろう。

僕は彼等の事を気にしない事にして、笑顔を向けているエリカさんに駆け寄った。

 

「エリカさん、探しましたよ。」

「ごめんなさい、少しこの人達とお話していたの。」

 

彼女に言われて改めて草薙先輩達に顔を向ける。

何故か全員僕とエリカさんのやり取りを見て呆気に取られていたが、気にせず挨拶をした。

 

「初めまして、1年生の神藤 昴です・・・これから宜しくお願いします、先輩方。」

 

最初は茫然としていた彼等だったが反射的に挨拶を返してくれた。

 

「あ、あぁ、俺は草薙 護堂だ・・・宜しくな、神藤。」

「万里谷 祐理と言います・・・こちらこそ宜しくお願いします。」

「リリアナ・クラニチャールだ・・・おい、エリカ、やけに親しそうだが・・・そいつは誰なんだ。」

 

草薙先輩と万里谷先輩は丁寧に挨拶してくれたが、クラニチャール先輩には「そいつ」呼ばわりされた。

確かこの人がエリカさんの幼馴染だったと思うんだけど・・・随分と性格が違うみたいだな。

 

「リリィ、彼に失礼な事言わないで頂戴。

 ごめんなさいね、昴・・・私の幼馴染なの、許してあげて。」

「気にしていないので大丈夫ですよ。

 これから宜しくお願いしますね、クラニチャール先輩。」

 

そう言うとクラニチャール先輩は罰の悪そうに表情を浮かべ、エリカさんは僕の頭を優しく撫でてくれた。

頭を撫でられる感触はとても気持ち良く、安心した。

けど・・・ここには僕達だけじゃないんだと気付き、慌てて彼女の手を振り解いた。

 

「ふふっ、相変わらずこういう所は可愛いわね。」

 

エリカさんは僕の様子を面白がりながら呟いた・・・恥ずかしいから止めて下さい。

僕とエリカさんのほのぼのとした空気に、呆気に取られていた彼等だったが、我に返り質問をぶつけて来た。

 

「それで、エリカさん・・・神藤さんとはいったいどういったご関係何でしょうか?」

「ああ、そうだったわね・・・彼が貴方達の質問の答えよ。」

「どういう事だ?」

 

草薙先輩が首を傾げている。

僕も何の話か分からないので黙っておく事にした・・・余計な事を言って正体がばれたら馬鹿みたいだしね。

 

「エリカ、お前ふざけているのか!!」

「落ち着きなさいリリィ・・・それにふざけて何かいないわ・・・彼こそが私が日本に来た理由よ。」

「だからどういう事だと聞いている!!」

 

クラニチャール先輩ははっきりと言わないエリカさんに対して随分と怒っているみたいだ。

エリカさんもエリカさんで、そんな彼女をからかって遊んでいる様に見えなくもない。

昔からこういう関係だとしたら・・・少しクラニチャール先輩が不憫に思えてきた。

 

「言葉通りに意味よ・・・だって彼、私の婚約者だもの。」

「「「・・・・・・・・・・えええええぇぇぇぇぇーーーーーー!!!」」」

 

エリカさんの爆弾発言により、一瞬の沈黙の後三人共大声を上げて驚いた。

3人の叫び声は大きく響き、恐らく学校中に伝わったのではなかろうか。

大和撫子な万里谷先輩まで大声を出す程驚いていた・・・僕は彼等の声に少し頭が痛くなってしまった。

そんなに僕がエリカさんの婚約者じゃおかしいかな・・・と少し傷付いた。

クラニチャール先輩が動揺しながらもエリカさんに話し掛ける。

 

「エ、エ、エリカ・・・お前に婚約者がいた何て聞いた事無いぞ・・・。」

「それはそうでしょうね・・・私だって最近知ったんだもの。」

「なっ!!お前はそれでいいのか!!」

「何も問題ないわ・・・私は今すぐ結婚したい位に彼の事を愛しているんだから。」

 

彼女の堂々とした物言いに草薙先輩達は何も言えなかった。

僕も彼女の言葉がとても嬉しかったのだが・・・は、恥ずかしい。

顔が赤くなっている僕を見てエリカさんは僕を抱き締めて来た。

 

「ほらこの反応を見て、出会ってからいつまで経っても初心なのよ・・・可愛いでしょ!!」

「エ、エリカさん、は、恥ずかしいですから、離して下さい。」

 

結構頑張ってもがいているのに、魔術を使い筋力を上げて抱き着いているエリカさんから抜け出せない。

僕は彼等の前で『氣』が使えないからどうする事も出来ず、恥ずかしさを誤魔化す為もがき続ける。

 

「エ、エリカさん、学内ですよ!!その様な行動は慎むべきです!!」

「エリカ・・・お前にいったい何があったんだ。」

「・・・・・・・・・・。」

 

いつまでも離れないエリカさんに万里谷先輩は注意を促す。

クラニチャール先輩は見た事の無い幼馴染の姿を心配そうに見つめ、溜息を零す。

草薙先輩は未だに呆然と僕達を見詰めている。

そして笑顔で僕を抱き締め続けているエリカさんと、脱出しようともがき続けている僕。

・・・傍から見ればとても可笑しな集団が出来上がっていた。

 

 

 

満足したエリカさんがやっと僕を離してくれた事により、漸く話が続けられた。

 

「それで・・・私が日本に来た理由は判って貰えたかしら?」

「あ、あぁ・・・つまり婚約者の傍にいる為に日本に来たって事でいいのか?」

「ええ、その通りよ・・・それよりも今回はこの辺りでいいかしら。

 私まだ日本に引っ越して来たばかりで家の片付けとか終わってないのよ。」

「あぁ、悪かったな・・・神藤もエリカをこんな所まで連れ出して悪かったな。」

 

エリカさんの言葉に草薙先輩は時計を見ると、申し訳なさそうに口を開いた。

草薙先輩の言葉にエリカさんが全くだという表情を見せると、僕の方を向く。

 

「それじゃあ、帰りましょうか。

 私は教室まで鞄を取りに行かないといけないから、昴は先に校門の所で待っていてくれる?」

「はい、わかりました。

 先輩方、今日は話の途中で邪魔してしまってすみませんでした。」

 

頭を下げてから僕達は屋上を後にした。

 

 

 

その後エリカさんと別れた僕は靴を履き替え校門でエリカさんを持っていた。

幸運だったのは朝から興奮気味に僕に質問攻めにしていたクラスの人達が殆ど帰っていた事だ。

学校が終わって人が居ない校門でエリカさんを待つ事数分・・・彼女の気配に気づいて玄関の方に視線を向けた。

そこには笑顔で駆け寄って来るエリカさんの姿があった。

 

「ごめんなさい、遅くなってしまったわ・・・少しクラスの子達に捕まってしまって。」

「気にしていませんよ・・・それじゃあ、帰りましょうか。」

 

そして僕達は並んで歩き出す・・・勿論すぐにエリカさんに腕を組まれた。

暫く歩いているとエリカさんに話し掛けられた。

 

「そう言えば昴、彼等の事だけど・・・。」

「わかっています、草薙 護堂先輩・・・彼がカンピオーネですよね。

 でも、本当に資料の事をやって来た人とは思えませんでした・・・普通にいい人そうに見えましたけど?」

「ホントよね、私も初めて会った時には拍子抜けしたわ。

 彼は言ってる事とやってる事が一致してないにも程があるんですもの。」

「やっぱりエリカさん達の言う通り普段は争い事をあまり好まれない性格みたいですね。」

「それに付いては間違いなさそうね・・・でも、用心に越したことはないわ。

 今彼の琴線に触れて戦闘になれば日本で活動する事が出来なくなるのは確実・・・慎重に行きましょう。」

「わかってますよ・・・それより僕、ばれなかったですよね?」

 

優れた霊視能力者だと言う万里谷 祐理先輩・・・彼女にばれなかったのかが一番心配だった。

なるべく万里谷先輩に視線を向けない様にしていたし、内心ではビクビクしていた。

そして心配事はもう1つある・・・けど、それを伝える前にエリカさんが先に口を開いた。

 

「それは大丈夫だったんじゃないかしら?

 リリィは貴方が武術を嗜んでいる事に気付いたでしょうけど、恐らくそれだけだわ。

 それに朝も言ったけど貴方の魔術コントロールは完璧よ。

 幾ら優れた霊視能力者である万里谷 祐里だって貴方の事を見破る事は不可能な筈よ。」

「・・・そうだといいんですけど。」

 

僕の様子に何かを感じたのか、エリカさんが問い掛けて来る。

僕はもう一つの心配事を彼女に打ち明けた。

 

「何か心配事でもあるの?」

「はい・・・実を言うと草薙先輩を一目見た瞬間から彼が僕と同類だと気付きました。

 勘みたいな物・・だったんですけど・・・だから先輩も同じ事を感じ取っていたらやばいなぁって。」

 

そう、僕は先輩を見た瞬間に僕と同類だと気付いた。

なるべくそう言う仕草は見せなかったけど、あの感覚が神殺し特有の物だったとしたら彼も気付いた事になる。

 

「そう・・・カンピオーネの方々は直感が鋭くなるとは聞いていたけど、こういう事なのかしらね。」

「どういう事ですか?」

「カンピオーネになるって事は、神から与えられた権能に適応する為に体を造り替える事を言うの。

 それによって神と戦う為の体を手に入れるのよ。

 例えば、骨が鋼よりも固く強固になったり、呪力の量が増えたり。

 その中に獣の様に感覚が鋭くなる事があるらしいわ。」

「そうだったんですか・・・確かに身体能力や、氣の量が上がっただけで神に勝てる様になるとは思えません。」

「おそらくそういう事よ・・・ホント、貴方達の体って不思議よね。」

「自分で言うのも何ですけど・・・本当に化け物染みてますからね。

 ・・・それでばれてないでしょうか?」

「恐らくとしか言えないわね・・・彼の直感が何処までの物なのか。

 ・・・でも大丈夫でしょう。

 以前の彼の戦闘を見た時の感じだと、そういう事に関しては即断即決で行動するタイプだと思うのよ。

 あの時何も言わなかったってことは・・・・・。」

「確信が持てる程の物じゃなかったって事ですか?」

「そうだと思うわ・・・でも今後どうなるのかわからないから、時期が来るまでばれない様に気を付けてね。」

「わかりました、気を付けます。」

 

そうやって話している間に家に辿り着いた。

家に入れば優しさで出来た様なアンナさんの笑顔に迎えられて、僕達はほっこりした気持ちになったのだった。

 

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