正義の魔王 [改稿版]   作:しらこつの

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第14話 日本の呪術界

Side 昴

 

入学式から幾日か経過した。

登校時には毎日エリカさんと腕を組んで登校。

既に学校中が僕とエリカさんの関係を知っている・・・噂が広がるのって早い。

女子の方達は微笑ましく見て来るだけだが、男子は日に日に殺気立って来ている。

教室に入ると学年の男子に囲まれ、授業が始まるまで耐える事が日課になりつつある。

 

 

昼食はエリカさんと食べる事にしている。

まだ少し風は冷たいが、屋上でエリカさんと合流しアンナさんの手作り弁当を食べる。

 

最初はエリカさんと2人きりで食べていたのだが、最近僕達以外に数人その中に加わる事が増えた。

それは例の草薙先輩御一行だ・・・何でも去年からお昼は屋上に集まって食べていたらしい。

最初は僕達の邪魔をしては悪いと思っていたそうだけど「せっかくだから」と一緒に食事する様になった。

 

最初は何処となく接し方がぎこちなかったけど、何度か一緒する度に普通に食事が出来る仲になった。

ぎこちなかったのは、エリカさん曰く・・・僕の情報を掴んで、警戒してたんじゃないか・・・という事だ。

僕は「彼等に近付かない方がいいのでは?」・・・と聞いてみたが、エリカさんは今のままでいいと言っていた。

理由として・・・急に距離を取ったら余計に怪しまれるとの事だった。

 

 

という事で、今日も僕達は草薙先輩達と昼食を摂っている。

何も変わった所のない、至って普通の食事風景だ・・・・・僕とエリカさんは。

 

最初見た時は普通に夫婦かと思った。

万里谷先輩とリリアナ先輩が甲斐甲斐しく草薙先輩のお世話をしているのだ。

しかも草薙先輩も満更じゃない・・・毎回の様にとっても甘い空間になるので、少し自重して欲しい。

 

 

・・・そして後もう2人。

 

 

1人は先輩達に囲まれた草薙先輩を睨み付けている。

その子は草薙 静花さん・・・草薙先輩の妹さんで、この学院の中等部3年生だ。

何でも去年から女の人を侍らし始めたお兄さんが、これ以上ふしだらにならない様に監視しているらしい。

・・・もう、手遅れじゃないかな??

最初はエリカさんを見て警戒していたけど、僕と婚約している事を知ってからは仲良くして貰っている。

年下だけどとってもしっかりしているお兄さん思いの優しい子だ。

・・・でも毎日の様にお兄さんの愚痴を言って来るのは勘弁して欲しい。

そしてどうやら彼女は先輩の正体は知らないらしい・・・まあ、簡単に話せる事じゃないか。

 

そしてもう1人は草薙先輩達の事を楽しそうに眺めながら食事を勤しんでいる。

彼女は万里谷ひかり、今年中等部に入学したばかりの1年生にして、万里谷先輩の妹さん。

エリカさんによると彼女は何年かに一人の貴重な魔術を使える逸材で優れた巫女でもあるらしい。

何でも、以前草薙先輩に助けられ、そして兄の様に慕っている先輩の後を追ってこの学院に入学したそうだ。

 

 

このメンバーで食事をしていると時折鋭い視線を感じる事がある。

・・・リリアナさんがじっとこっちを見ているのだ。

最初は全員があからさまに警戒している様子だったが、数日経てば収まった。

しかし、彼女は別だ・・・時折今の様に鋭い視線を僕に向けて来る。

それを見た草薙先輩が注意するまで続くので、結構疲れる。

しかし、ばれる訳にもいかないので、こればっかりは仕方がないと割り切り、無視する事にしている。

 

 

 

 

放課後になると部活に所属しない事に決めた僕はまっすぐ家に帰る・・・理由は道場があるからだ。

道場は現在、エリカさんの提案で僕が神殺しだと発表するまでは休む事に決めた。

本来ならば学校に慣れて来れば道場を再開しようと思っていたが、今は慎重に行動する時だと言われ、納得した。

 

エリカさんだが、放課後になると日本の魔術界の情報を集める為1人で何処かに行ってしまう。

その為下校時は1人で帰る事が多い。

いや・・・一度だけ、部活が休みだと言う静花さんと一緒に帰った事がある。

あの時も帰り道の間ずっと愚痴を聞いてあげたなぁ・・・大変だった。

 

 

 

家に帰るとまず道場に行く。

道場を開かないとしても僕自身の稽古は毎日しているからね・・・それに掃除だってしなくちゃいけない。

掃除を終えれば、びっしょり汗を掻く程体を酷使すれば、その日の稽古は終わりだ。

 

お風呂でゆっくり1日の疲れを取り、その後アンナさんの作った美味しい夕食を頂く。

・・・この時まだエリカさんは帰って来ていない。

エリカさんは毎日遅くまで動いてくれている。

「無理しなくてもいい」・・・と言った事があったが、彼女は首を横に振った。

「これは時間との勝負だから」・・・と言って毎日夜遅くに帰って来る。

 

僕は朝の稽古がある為エリカさんが帰宅する前に布団に入る。

そして・・・朝起きたら生まれたままの姿で僕の布団で眠るエリカさんの姿にドキドキする。

 

 

 

これが今の僕の日常だ。

 

 

 

4月最後の週の休日。

休日はお昼頃までゆっくりとしているエリカさんが、朝から慌しく出掛けて行った。

僕はと言うと、朝の稽古を終えゆっくりとした時間を過ごしていた。

そろそろ昼食の時間が迫りアンナさんがキッチンに向かった頃、エリカさんが帰って来た。

 

「昴、漸く情報が纏まったわ・・・今から少しいいかしら?」

「えぇ、今日は特に予定はないですから大丈夫ですよ。

 エリカさん、僕の為に・・・ありがとうございました。」

「お礼何て必要ないわ・・・貴方をサポートする為に私が居るんだから。」

 

僕のお礼に彼女は笑顔で答えてくれた。

エリカさんが僕の正面に座り資料を広げようとした所でアンナさんが昼食を持ってやって来た。

エリカさんの話は食事が終わってから・・・という事になった。

 

 

 

エリカさんが僕の為に行ってくれていた情報収取は真っ先にやるべき急務だった。

日本の呪術界の情報は海外では全くと言っていい程無い。

大手結社である『赤銅黒十字』を持ってしても、情報を持っていなかった位だ。

その為エリカさんは放課後から夜遅くに掛けて、毎日情報収集に明け暮れていた。

 

本来であれば学校を休んで情報を集めていればもっと早く情報を集める事が出来た。

しかし草薙先輩の近くで僕だけにするのは心配だという事でエリカさんも学校には毎日出席していたのだ。

その為情報を集めるのに1ヶ月近く掛かってしまったと言っていた。

 

 

 

食事を終えた僕達はリビングに移動してエリカさんの報告を聞く事にした。

 

「まず日本の呪術界に付いてわかった事を教えるわね。

 日本の呪術師や霊能者を統括しているのは『正史編纂委員会』と呼ばれる政府直属の秘密組織よ。

 彼等は魔術の関わった事件の情報操作等を行っていて、世間にばれない様にするのが主な仕事みたいね。

 国内の呪術師や霊能者はこの組織に協力する義務がある様ね。

 呪術師や霊能者に対して守秘義務を課しているみたいで、情報を集めるのに苦労したわ。」

「・・・本当にありがとうございました。」

 

エリカさんの険しい表情からも彼女の苦労が伺えた。

エリカさんは僕のお礼に1つ頷き続ける。

 

「正史編纂委員会には代々強い呪力と権力を持った『四家』と呼ばれる一族達がいるわ。

 主に彼等が日本の呪術界を仕切っているみたいなの。

 更にその上に『古老』と呼ばれる人達が居て・・・『四家』もこの人達の指示には逆らえないそうよ。

 まぁ滅多に動かないみたいだし、今は頭の片隅にでも止めて置けばいいわね。

 後は万里谷姉妹の様な『媛巫女』と呼ばれる存在ね。

 日本の呪術界の高位の巫女・・・恐らく何か1つに秀でた能力者の総称の様な物でしょう。

 『媛巫女』に付いてはあまり分からなかったわ・・・余程隠したい秘密でもあるのかしらね?」

 

ここでエリカさんは1つ息を吐く。

そして何やら意味深な笑みを浮かべながら僕に1枚の資料を渡してきた。

 

「貴方が以前挙げてくれた名前の中に・・・1人居たわよ・・・心強い味方になれる凄い力を持った人が。」

 

僕はエリカさんから渡された資料に目を通し・・・再び彼女に顔を向けた。

その時の僕は、それはもう驚愕の表情をしていた事だろう。

エリカさんは笑みを浮かべながら再び口を開いた。

 

「四家と呼ばれる一族達が日本の呪術界を仕切ってるって言ったでしょ?

 1つは清秋院家・・・武力と政治力を持っていて、草薙 護堂の近くにも清秋院家の者が1人仕えているわ。

 2つ目は九法塚家・・・日光東照宮の西天宮って所の守護を担っているそうよ。

 3つ目が連城家・・・そして最後の4つ目が私達にとって重要一族。

 この家は正史編纂委員会のトップを勤める智慧者の一族で・・・その名前は『沙耶宮家』。」

 

エリカさんの言葉に僕は何の反応も返す事が出来なかった。

何故なら僕の心は既に懐かしさと驚きで埋め尽くされていたんだから・・・。

 

「沙耶宮・・・『沙耶宮 馨』・・・『馨お姉ちゃん』??」

 

僕の呟きにエリカさんの笑みが深まった。

 

「そうよ、貴方が纏めた資料の中で真っ先に挙げた名前・・・『沙耶宮 馨』。

 彼女は現在、若くして『正史編纂委員会・東京分室・室長』を務めている程の人物よ。」

 

 

 

 

 

 

馨お姉ちゃんとは家の道場で知り合った。

当時両親を亡くして元気の無かった僕を気に掛けてくれたのが・・・馨お姉ちゃんだ。

落ち込んでいる僕に積極的に話し掛けてくれたり、一緒に稽古をしたり、時には一緒に遊んでくれたり・・・。

馨お姉ちゃんが居たから元気になる事が出来たと言ってもいい位、仲良くしてくれた。

 

最初は馨お姉ちゃんの事を男の子だと思っていたけど、ある時偶然着替えを見ちゃって女の子だと知った。

びっくりしたお姉ちゃんが大きな声を出した事により・・・その後お爺ちゃんにめちゃくちゃ怒られた。

でも馨お姉ちゃんは僕が謝ったら笑って許してくれた。

・・・その時頬を赤く染めていたお姉ちゃんにドキッとしたのを覚えている。

 

それから暫く経った頃、馨お姉ちゃんが家の用事で道場をやめる事になった。

一番仲が良かったし、当時の僕にとって心の支えでもあった馨お姉ちゃんが道場をやめる事が凄く嫌だった。

止めると聞いた時・・・泣きわめいて・・・大暴れして・・・道場の皆を困らせた事を覚えている。

お爺ちゃんに習い始めていた『神道流』まで使って暴れていた為、かなり危険だったそうだ。

 

その時は駆け付けたお爺ちゃんが僕を気絶させて事無きを得たが、目を覚ました僕は再び塞ぎ込んでしまった。

そんな僕にお爺ちゃんが「男なら女を悲しませる様な事をするな」と叱咤した。

顔を上げた先に見た馨お姉ちゃんの困った様な、悲しそうな表情・・・僕はそんな彼女の顔を見て決心したんだ。

 

 

 

馨お姉ちゃんが道場に来る最後の日・・・その時にある約束をした。

 

「馨お姉ちゃん・・・僕、強くなるよ。

 馨お姉ちゃんを心配させない位・・・馨お姉ちゃんを守れる位・・・強く。」

「そうか・・・ならその時は頼りにさせてもらおうかな。」

 

その時見た馨お姉ちゃんの笑顔はとても嬉しそうで・・・とても綺麗だった。

 

 

 

その日から馨お姉ちゃんとは一度も会ってなかったが、この間初めて手紙が来た。

・・・お爺ちゃんが亡くなった事を知っての手紙だった。

葬式に出席出来なくて申し訳なかったと・・・何かあったら力になる、頼ってくれと手紙には書いてあった。

 

手紙の事を思い出した僕はリストの中の一番上に馨お姉ちゃんの名前を入れた。

僕の事を覚えていてくれたから・・・僕にとって何年経っても、たった1人のお姉ちゃんだから・・・。

今でも家族以外で一番信用出来る人だから・・・。

 

 

 

 

 

「昴、この人は本当に信用出来る人なのよね?」

 

確認する様に問い掛けて来るエリカさんに僕は自信を持って答える。

 

「はい、家族以外で一番信用出来る人です!!」

「あら、私が一番じゃないのね。」

 

僕の自信あり気な言葉が気に触ったらしく、エリカさんが少し拗ねてしまった。

そんな彼女を始めて見た僕は少し驚いたが、笑顔でちゃんと伝えてあげた。

 

「何言ってるんですか??エリカさんは僕の婚約者何ですから・・・もう家族も同然じゃないですか!!」

「そうね・・そうよね・・・ありがとう、とても嬉しいわ。」

 

エリカさんは僕の言葉に目を見開いて驚いたが、次の瞬間にはとても綺麗笑顔で微笑んでくれた。

そしてエリカさんは僕の隣に移動したかと思うと、僕に寄り掛かって来て僕に体重を預ける形になった。

心地いい重さと、すぐ近くから薫る甘い香り。

そして、自分が言った恥ずかしいセリフを思い出して顔を赤くしてしまったのは・・・仕方のない事だと思う。

 

「でも、幾つか心配な事があるのよ・・・例え貴方が信頼している人でもね。」

 

エリカさんはその甘える様な姿勢のまま続きを話し出した。

僕の心臓が持たないから少し離れてくれると助かるが・・・うん、諦めよう。

 

「馨お姉ちゃんがどうかしたんですか?」

「さっきも言ったでしょ、彼女は『正史編纂委員会・東京分室・室長』だって。

 という事は、既に草薙 護堂との面識があって、何度も彼等に協力しているって事よ。」

「・・・つまり、既に草薙先輩側に付いているから、協力してくれない可能性があるって事ですか??」

「簡単に言えばそう言う事よ。」

 

確かに言われてみればその通りだ。

草薙先輩は1年前から日本で活動している。

この辺りを管理している馨お姉ちゃんが先輩に協力しているのは確実だろう。

不安気な表情を浮かべた僕にエリカさんが優しく声を掛ける。

 

「でも、協力者となれば心強い人物でもあるわね。

 ハイリスク・ハイリターンではあるけれど、後は交渉次第でどうとでもなるわ。」

「じゃあ・・・。」

「昴の信頼出来る人何でしょう??なら取り敢えず一度会ってみましょう。

 協力して貰えなくても、昔可愛がっていた昴の事を危険に晒す様な事はしないと思うわ。

 もし危険だと判断したら・・・そこはカンピオーネとして命令すればいいのよ。」

 

そう言って笑っていたエリカさんの笑顔は少し怖かった・・・。

そして味方になればとても心強いという事と、僕の信頼する人という事で彼女に会う事になった。

・・・何年振りかに会う馨お姉ちゃんに今からドキドキしてきた。

 

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