咲でテンプレ神様転生 作:ローレルサクラ
松実姉妹と麻雀をした翌日の事。
もちろん変わらず学校はあって、いつものように登校した僕なのだけれど。
教室に入った途端に松実さんと目があった。
「おは…」
よう、と挨拶しようとした時、ふと思った。
昨日まで特に会話もしていなかった二人が突然親しげにしていたらどうなるかと。
この年頃の子は特に男子女子の意識をしたてで、それゆえ過敏に反応してしまいがちになってしまう。
二言三言話しただけで、付き合ってるんだ結婚だと囃し立てられれば、僕はともかく松実さんのダメージは計り知れないものとなるだろう。
そんな風に思った僕は、挨拶の言葉を言い切る前にアイコンタクトを松実さんに送った。
この場は知らぬ存ぜぬの関係を装おうと。
そんな僕の気持ちが伝わったかは分からないが、小さく頷いて、明後日の方向へ視線をそらしてくれた。
ひとまず、息を吐いて、仲のいいクラスメイトに声を掛けるのだった。
「えと…。朝のはあれで…?」
放課後、一人帰路に着く松実さんに合流して歩き出したところ、そんな質問をされる。
ううむ。まだ幼いと言っていい年頃なのにちゃんと察しているあたり、侮れないものがある。
「うん、あのまま僕が挨拶して話しかけたら、クラスの連中が騒ぎ立てるに決まってるからね。僕も直前まで気付かなかったんだけどさ。松実さんも、クラスの奴らに質問攻めにされたくはなかっただろう?」
それを聞いた途端、松実さんは大きく体を震え上がらせた。
僕の意図は察していても、そこまでの想像はついていなかったようだ。
顔を真っ青にして自分の体を抱きしめている。
「そ、そんなの無理…。絶対無理…!
で、でも、確かにあのままだったらそうなってたかも…。
あ、ありがとう…」
「いやいや、僕もそういうのは嫌だしね。
じゃあ、僕らが知り合いだっていうのは、学校では秘密にしておこうか?」
決して、君と知り合いなのが周りに知られたくないとかそんなネガティブなことは微塵も考えてないよ!
という僕の気迫を練りこみつつ、彼女が目立たないような提案をしてみる。
松実さんは、少し考えた後、小さく頷いて。
「じ、じゃあ、うん。秘密に、しよう」
ここに二人だけの秘密がなったのだった。
もう一人の関係者、玄ちゃんはどうしようかって問題は、そもそも彼女と学校では会うことはほとんどなかったのだった。
学年も、性別も違うとなると、確かにどこで会えという話ではあるのだが。
それでも一応は、僕と松実さんの約束を教えて、学校では話さない約束をした。
そんな松実姉妹との関係は、週に一二度、麻雀をすることでつながっていた。
都合の悪い日などはそれとないアイコンタクトや、折りたたんだノートの切れ端に書いたメッセージを机やランドセルの中に入れたりして連絡をとりあった。
やることは三麻だったので、勝率は圧倒的に玄ちゃんが高かった。
三麻はドラが牌が少ない分乗りやすいのだ。
松実さんも安定して上手い麻雀を打ってくる。
技量的には三人の中で一番だろう。
そして僕はというと、まだ麻雀を打つことに慣れていないせいか、才能とやらを十全に使いこなせないでいた。
確かに、なんとなくはわかる。これがダメでこれがいい。
ここでポンしてこれをツモれ。
だけどその途中で急に分からなくなったり、
これだと思ってツモしようとしたら鳴かれたり。
おそらく、僕が麻雀に慣れていなくて馴染んでいないのと。
三麻というのが影響してるんだろう。推測でしかないんだけどね。
でも、三人で打つ麻雀はとてもとても楽しかった。
これからも、この楽しい日々が続いて、そのうちレジェンドの麻雀教室に誘われたりするのかなー?
なんてのんきに、考えていた。
東京に、行くらしい。
大変きれーな、家のおかーさま。
どうやら彼女は、世界的に有名なファッションデザイナーだったらしい。
子供が、つまり僕が生まれて一線を退いていたんだけど、復活を望む声があとを立たなくなって。
どうしたもんかと業界全体が悩んでいた時にお母様は「子供が小学校を卒業したら戻る!」と大々的に宣言して混乱を収めたそうだ。
というわけでお母様にとってのモラトリアムは終わり。彼女のマネージャーだった父さんはもちろん、僕も着いて行く他はないようだ。
少し、寂しい。
別れが、迫っていた。