咲でテンプレ神様転生 作:ローレルサクラ
突然東京に行くことを告げられた翌日の朝。
学校への道を歩きながら少し考えていた。
確かに別れは哀しいし、覆したくもある。
しかし実際問題僕はまだ小学生で、親に養われている身だ。
普通に考えてそんな息子を一人置いての引っ越しなんてのはあり得ない。
つまりは、引っ越しは確定事項ってことだ。
まぁ、でもしょうがないよなーと一回生まれ変わった身としては思ってしまう。
お母様だって父さんだって、僕と友達の中を裂きたくて引っ越すわけではないのだから。
現に昨日は申し訳なさそうな顔をしていたし。
うん、ここは前向きに考えることにしよう。
東京と言えば、なんといっても未来の最強校白糸台があるところだしプロ雀士に出会う機会も多いかもしれない。
僕がこの世界で生きて、麻雀と関わっていくのだとしたら、この奈良県よりはるかにいい環境と言えるんじゃなかろうか。
うん。きっとそうだ。
あと心配なのは…。勿論松実姉妹の事。
でもこのまま卒業を迎えれば松実さんも玄ちゃんも原作通り阿知賀女子学院へと進学するんだろう。
当然女子高なので僕とは進路が分かれることになる。
小学校時代の友人と中学校が別々になり疎遠になる。なんて話はザラにある話だ。
それが少し早まったと思えば…。そんな大した話でもないのかも?しれない。
そんな風に思った僕は、気負わず、あくまでカラッと、転校の事を告げることにした。
そして、いつものように三麻を終えたところで、話を切り出してみる。
「えっとさ…。ちょっと話したいことがあるんだけど…」
「どうしたの?改まって?」
「だ、大事なお話?」
不思議そうに顔を傾げる松実姉妹。
僕は、事前に決めていた通りに心がけて言葉を紡いだ。
「ぼ、僕さー。小学校を卒業したら東京に引っ越すみたいなんだよねー」
しまったー!?ちょっとどもったー!?
ううむ…。僕も内心動揺してたのかな…?しっかり納得していたはずなんだけど…。
自分の精神も把握できてないようじゃ
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
「のわっ!?」
ちょっと反省していたら耳元で絶叫が!?
見ると、玄ちゃんが大きくその目を見開きながら立ち上がって詰め寄ってきていた。
「ほ、本当なの!?こ、ここからいなくなっちゃうの!?そ、そんなのダメ!絶対ダメ!そ、そんなの…。そんなの…」
「寂しすぎるよぉ……」
しくしく。しくしく。と玄ちゃんはその場に泣き崩れてしまった。
ああ、こんな。こんなつもりじゃなかったのに。
チリっと、胸の中で何かが痛んだ。一瞬の事だったので気のせいと流しつつ。
僕には、玄ちゃんの頭を撫でることしかできなかった。
「玄ちゃん」
「おねぇちゃん…」
そうだ。松実さん。
話す前では玄ちゃんより松実さんの事を心配していたような気がする。
うぬぼれでなければ、僕は彼女の数少ない友達だ。
その友達がいなくなったら、多少なりともショックを受けるだろうと。
しかし彼女は、目を潤ませながらも、毅然と、僕と玄ちゃんを見据えていた。
「お別れは、確かに、寂しいよ…?
でも、それで私たちが終わっちゃうなんてことは、きっとないって思うの。
私たちは、ちゃんと友達で、同好会の仲間だから。
だから泣かないで、見送ってあげよう?寂しいのは、一人になっちゃう彼なんだから」
「お、おねえちゃあん…。う゛ん…!」
そして、小学校卒業式。
着なれた私服から少し硬めの洋服に着替えた僕たちは、別れの日を迎えた。
式も終わって、写真も撮り終わり、この後どうしようかという空気に周りが包まれるのを感じながら、僕は両親に断り松実館を訪れていた。
そこには、阿知賀女子の制服を纏った松実さんと、少しフォーマルな格好の玄ちゃんが待っていた。
「卒業、おめでとう」
「うん。こちらこそ、おめでとう」
「二人とも、おめでとう!」
いつもの、慣れ親しんだ、僕らの空気。
だけどそれは、今日で、一旦終わりだ。
「楽しかった。あの日、松実さんのマフラーを拾ってからずっと!
ずっと、楽しかった」
「私も!お姉ちゃんと二人で!他の人と麻雀ができて!その人ともこんなに仲良くなれて!とっても!とっても楽しかった!」
「私は…。男の子の友達なんて出来ないってずっと思ってた。
でも、君がいて!玄ちゃんがいて!私がいて!そんな!そんな毎日が…。
とっても…。とってもあったかくて…。
とっても…。大好きで…」
松実さんは、泣いていた。静かに、静かに、泣いていた。
「わ、私は、君の事を忘れません!ぜったいぜったい忘れません!
だから、次会うときには…」
「宥って。名前で呼んでください…!」
「うん、絶対。呼ぶよ。
君の名前を」
その言葉を言い切って。
僕は、その場に留まることができなかった。
そうして僕らの、阿知賀麻雀同好会は、終わりを迎えたのだった。