ハルへ   作:はるのいと

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第十六話「依存から生まれた思い 1」

「どうして、ここにいるんだい?」

 

 如月は自宅の玄関先で佇んでいた小夜に、うんざりした表情を向けた。すると彼女は不機嫌そうに眉をひそめ始める。

 

「何よ、そのいいぐさは。せっかく迎えに来てあげたのに……」

 

「頼んでないよ。それに現地集合のはずだろ?」

 

「早苗たちはね。でもうちらは別よ」

 

「昨日の話しでは、そんなこといってなかったじゃないか」

 

 如月は気怠そうに肩を落とすと、目の前で佇む小夜に視線を向けた。

 

「それにしても、今日は一段と派手だね……」

 

「昨日、買ったの。どう、似合う?」

 

 真っ赤なノースリーブのワンピースに身を包む小夜は、悪戯っぽく小首を傾げてみせた。その姿は今から雑誌の撮影を行うモデル、といっても通用するほどのオーラを放っていた。

 

「……気合入れ過ぎじゃないの?」

 

「まあね。でも()は妹系のツインテールだから、これくらいはしないと」

 

「敵の意味が全く理解できないんだけど」

 

 如月はそういいながらドアに鍵をかけると、小夜の横を通り過ぎ無言で朱里駅へと歩みを進めた。

 折角、オシャレしてきたっていうのに……少しは褒めてよねえ。もう、相変わらずのツンドラ対応なんだから。小夜は心の中で愚痴をもらすと、「ダーリン、待ってー」と、いってぶっきら棒な朴念仁を小走りで追いかけた。

 

 

 

 小夜は如月の華奢な腕を取ると、寄り添うように両腕を絡ませた。そして目の前で佇む男たちに鋭い視線を浴びせた。

 

「これ、彼氏なんだけど」

 

 場所は白狐駅前――本日は雲一つない快晴と週末ということも手伝ってか、駅前は待ち合わせをする人々たちで大混雑していた。そんな中、小夜は不機嫌そうな表情を浮かべながら、先程からしつこくナンパしてくる男たちを睨みつけていた。

 

「もう離れてもいいんじゃない?」

 

「いいや、だめよ」

 

「どうして?」

 

「あのねえ、如月君が隣にいるのに関わらず、私はさっきからチャラ男たちにナンパされまくりなのよ?」

 

「それはキミの容姿の問題だろ? 僕には全くもって関係のない話だね」

 

「普通は男連れなら、まずナンパなんてされないのっ! これはひとえに如月君が地味だからよ。だけどこうやって腕でも組んでたら、流石にあなたのこと彼氏だと思うでしょ?」

 

 小夜はそういって絡めた腕に力を込めてゆく。すると如月はうんざりした様子で顔をしかめてみせた。

 

「暑苦しいなあ。基礎体温が高いんじゃなのか?」

 

「……我慢しなさいよ、それくらいっ!」

 

 体温を上がらせてるのは、一体誰のせいだと思ってんのよ。はあ……こんなんじゃあ、この先が思いやられるわ。小夜が心の中で溜め息を漏らしている時だった、聞きなれた声が彼女の鼓膜に届いてきた。

 

「お待たせー」

 

 早苗は清水と妹の有紀を従えて颯爽と現れた。

 

「5分遅刻っ!」

 

「ごめん、ごめん。あれっ、それにしても随分と今日は仲がいいじゃん」

 

 早苗は如月の顔をにやけ顔で覗き込んだ。

 

「致し方なくだよ」

 

 如月は溜め息交じりでいうと、静かに小夜の腕を振りほどいた。

 

「もう、ダーリンったら照れちゃって」

 

「あははっ、ほんとほんと。照れるな照れるな」

 

 早苗は豪快に笑い声をあげると、如月の背中をからかうようになん度も叩いた。そして一頻り彼をちゃかしたあと、ゆっくりと親友に視線を移してゆく。

 

「それにしても小夜……あんたちょっと気合入れ過ぎじゃないの?」

 

「そう? こんなの普通よ、普通」

 

「いやあ……マジでモデルさんみたいだなあ」

 

 清水は腕を組みながら小夜を見つめると、唸り声をあげながら、静かに溜め息を漏らした。

 

「ありがとっ」

 

 小夜はにこっと天使のような笑みを浮かべると、清水の隣で佇む小柄な少女に視線を移した。

 

「久しぶり。また一段と可愛くなったわね」

 

「小夜さんのほうこそ」

 

 清水有紀は小夜と同様に微笑みを浮かべた。

 

 中学生にしては小柄な体躯に、色白な肌と黒目がちな大きな瞳。加えて黒髪を二つ結にした髪型が、彼女の幼さを余計に際立たせていた。

 

「どう? 可愛いでしょ」

 

 小夜は隣で仏頂面を下げている如月に顔を向けた。

 

 すると彼は「ああ、そうだね」と、興味なさげに答えた。そして有紀に視線を移すと、当たり前のようにこう続けた。

 

「妹さん、こうして無事に出会えて良かったよ。それじゃ、僕はこれで」

 

 如月は有紀を一瞥すると、すぐさまその場をあとにしようとした。当然のことながら、早苗の手が彼の華奢な腕に素早く伸びてゆく。

 

「あれあれ、どこ行くのかな?」

 

「決まってるだろ、帰るんだよ」

 

「会ってまだ5分も経ってないんだけど」

 

「ああ、だけど会っただろ? 僕は約束を守ったよ」

 

「何なのよ、その屁理屈」

 

「僕に会うという妹さんの目的は達成されたんだ。だから僕は帰る。これのどこが屁理屈なんだい?」

 

「誰がどう聞いても屁理屈でしょうがっ!」

 

 早苗は周りの目など気にも留めずに、大声で叫んだ。丁度その時だった、先程まで清水の隣で佇んでいた有紀が、いきなり如月の胸に飛び込んでゆく。そして抱きつきながら、上目遣いで彼を見上げ始めた。呆気に取られる面々――だが当の如月だけは、無表情のまま有紀を見下ろしていた。

 

「何してるんだい?」

 

「抱きついてる」

 

 如月を見上げながら有紀はポツリと呟いた。その顔は彼と同様に無表情のままだった。

 

「その行動の理由は?」

 

「帰っちゃ嫌だから」

 

「公衆の面前。しかも実のお兄さんの目の前だよ?」

 

「うん、知ってる。でも海外じゃあ、こんなの当たり前だよ」

 

「なるほど。でもここは外国かい?」

 

「違うよ」

 

「なら離れなきゃ」

 

「じゃあ、帰らない?」

 

 有紀の問いかけに、如月は冷たい眼差しで答えた。それと同時に早苗の掌が、有紀の小さな頭に伸びてゆく。そしてパンという小気味よい音と共に、彼女は頭を抑えた。

 

「痛いよお……」

 

「あんた、何いきなり抱きついてんのよ」

 

「だってこの人がいきなり帰る、とかっていうから」

 

「口でいって止めればいいでしょ、口でっ!」

 

「口でいっても聞かなそうだったから、仕方なく行動に出たんだもんっ!」

 

 ほんと、この子は相変わらずねえ。まあ、口でいって聞かないってのは、いい得て妙けど……。小夜は呆れ顔で有紀を見つめると、ため息混じりで如月に視線を移した。

 

「有紀ちゃんもこういってることだしさあ……それに折角こうやって集まったんだから、もう少し遊んで行こうよ。ねっ、お願い」

 

「遊ぶって一体なにをして? いっとくけど人の多い場所は嫌だよ」

 

「分かってるって。如月くんに打って付けの場所があるから、黙って私に任せなさい」

 

 悪戯っぽく片目を瞑ると、小夜は自信満々に微笑みを浮かべた。

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