オリキャラの紹介もなしに進みます。
たぶんわけわかめ。
「……て………きて…………」
遠く、遠く。
「起き……さい…………」
遠くから、掠れて声が聞こえる。
どこか聞き覚えのある、頭の芯によく響く声。
「いい加減起きなさい!」
声が間近で響いた瞬間、どん、という衝撃が身体を、意識を揺らし、私を覚醒へと引き戻す。
「……何だ」
「ようやく起きたんですか? まったく、呆れた人。いや……人じゃあない、か」
「……私は、要件を尋ねている」
「仕事です」
「仕事? 何を言っている? それに、お前は一体……」
せっかく、心地の良いまどろみに漂っていたというのに。
いきなり声に揺り起こされたと思えば、自分の膝に見慣れない女が乗っかっている。
この小娘は何者なのだろうか?
いや、そもそも。
私は誰なのだろうか?
ここはどこなのだろうか?
それさえすぐに思い出せないほど、私は長いまどろみに堕ちていたらしい。
どうにも寝起きが悪い。
考えがまとまらない。
私は情報を整理する他の手立てを見つけられず、仕方無く、視界の真ん中にいる女に言葉を投げ掛けた。
「あれ? まさか私の事、知らないなんて言いませんよね?」
「どうだろうな。しかし、そんな事より……」
そうだ。私はこの小娘の名前を知っている。
覚醒が深くなったからだろうか。
次第に、朝霧が晴れるように、頭にかかった靄が薄らぎ、様々な情報が輪郭を取り戻し始めた。
「私はどれくらいの時間、眠っていた?」
「そうですねぇ、一週間……くらいだったかもしれませんし、三年ほどだったかもしれません。或いは、もっと……」
「真面目に答えろ、麗亜」
「ふふ。ようやく呼んでくれましたね、名前」
「茶化していないで、質問に答えろ」
そう、この和装の女の名は『麗亜』だった。なんでも、『博麗の巫女』とかいう格式高い巫女である、なんて話を、いつだったか聞かされた覚えがある。
巫女とは、西洋で言うシスターや神父の類いであり、そして、この場所はその巫女が治める神社ーー西洋で言う、教会のようなもの、という話もその時にされたのだったか。
まったく、私のような『鬼』が教会に居座っているとは、我ながら笑えない。
しかし、何だろうか。
状況を克明に思い出すほど、言い知れぬ喪失感が、私の中で大きく膨れ上がっていく。
「答えろ答えろって……それじゃあ、まずは私の話を聞いてください」
「いいだろう、手短にな。もっとも、急く必要はないが」
私の思考を遮り、麗亜がまくし立てる。
全く、落ち着きのない女だ。
何をそんなに焦っているのだろうか。
「そうですね。吸血鬼である貴方にとっては、時間は余りあるものかもしれません。ですが、事態の逼迫している『私達』にとっては、そう時間に余裕はありません。なので、貴方の言う通り手短に」
「ああ」
「結論から言いましょう。今、この幻想郷は再び、過去に見舞われたとある怪異の只中にあります」
幻想郷。
誰からも忘れ去られ、必要とされなくなったものがやがて流れ着くという、この世界の呼び名。
そうか。
喪失感の正体はこれか。
私はなぜ、『ここにいる』のか。
闘争から闘争へ。
全て死に絶え、真っ平らになるまで。
歩き、歩き、歩き続け、行き着いた果て。
それが、この場所なのだとしたら。
私はなぜ、『ここにいる』のか。
わからない。
私はなぜ、『ここにいる』のか。
ここに辿り着いた経緯が、記憶が、欠落している。
何か、大切な事を忘れている気がする。
私は本当に、『ここにいていい』のか。
「あのー、聞いてます?」
「ああ……すまない。続けてくれ」
「では、要点だけ。湖のただ中にある洋館、『紅魔館』周辺で紅い霧が発生しているとのことです。貴方にはその原因の特定と、可能であれば排除をお願いします」
「紅い霧、だと……?」
「はい。もう、遠い昔の話になりますが、同様の怪異が発生したこともあるそうです」
「その時はどうしたんだ?」
「はい、その時は先代『博麗の巫女』が怪異の解決にあたり、無事その目的を達成したと聞いています」
「ならば今回も、その先代『博麗の巫女』とやらに行ってもらえばいい」
「何を言っているんですか!? 先代は、貴方がこの幻想郷に現れた時に……」
面倒事を押し付けられると思った私が、適当にあしらおうと中身のない返事を繰り返しているうち、急に目の前の巫女は声を荒げ、口を噤んだ。
「急に怒鳴るな、喧しい。そうか、そうだったな。先代とやらは……」
「先代の話は、もうやめましょう。それで、です。こんなこと、聞くまでもないとは思いますが……もちろん、やってくれますね?」
「お前も『博麗の巫女』なのだろう? それならば、自分でやったらどうだ?」
「そうできるなら、そうしています。あいにく私には、先代のように怪異を解決する『力』はない……でも」
そこまで言うと麗亜は、強い覚悟の篭った眼差しを私に向けた。
「私には、貴方がいる。闇の眷族……
「ほう……」
私はその瞳を見つめ返すと、意図せずにやりと笑っていた。
どこか、私の知っている誰かによく似た、強い光の宿る眼。
本当に、本当にいい眼だ。
「やって……くれますね? 従僕」
「フン……断る、と言いたいところだが、どうやらそうもいかんらしいな。いいだろう、博麗の巫女。
「はい……
「了解した……して、麗亜。もう一度聞こう。私はどれくらいの期間、眠っていた?」
「さぁ? 一週間……くらいだったかもしれませんし、三年ほどだったかもしれません。或いは、もっと長かったかも……」
「そうかい」