HELL紅魔郷SING   作:跡瀬 音々

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思いの外この話が長くなってますが、読者さん達から見てダレてなければいいなぁ。

と、皆様の顔色を窺いつつの更新。

あ、あと、評価つけてくれた人達ありがとうございます。励みになってます。
この更新がその証拠ってことで、ひとつ。


Prière(5)

……。

…………。

 

「「「うぉああああぁぁぁああぁぁ!」」」

 

メイド隊の面々が進んでいく。

弾幕を放ちながら、亡者に斬り裂かれながら、貫かれながら。

それでもなお、ただひたすらに進んでいく。

 

「では、()()()()()!」

 

「私も()()()()! お達者で!」

 

「ええ……()()()()()()()()

 

メイド隊の面々が散っていく。

ある者は断末魔が如く弾幕を撒き散らしながら、ある者はその身体を貫かれたまま、体内で増幅した魔力を暴走、爆発させて。

 

ただ、道を拓くために散っていく。

 

そう、道を拓くために。

咲夜の刃が、アーカードを斬り裂くために。

 

「…………」

 

一方、アーカードは戦いに王手をかける寸前まで状況を掌握しているにも関わらず、未だ闘争の昂りを阻害する違和感に苛まれていた。

傍目には、高みの見物に興じているように映るその姿とは裏腹に、彼の心中に渦巻く漠然とした違和感。

 

不安にも似た()()は、『影』の亡者の『壁』の隙間から、不意に魔女(パチュリー)の『影』を目にした瞬間から加速度的に肥大化し、輪郭を帯び始めた。

 

そして、ほどなくして思い至った、()()正体。

 

()()()()()は、血を媒介とした()()()()であるはずなのに。

吸った者の存在()()()()を、無論、その記憶に至るまで()()得られるはずなのに。

何故か、自分は吸血鬼の少女達と戦う最中、そして、目の前の敵(メイド)の能力を探る時にも、あの魔女(パチュリー)の記憶を辿らなかった。

否、()()()()()()()()

今まで()()()()()()()()()()()()()()の記憶も同様に、まるでその術を知らなかったかのように、なぞる事はなかった。

 

それは、カレンダーに書き込んだ予定を一瞥するように、或いは、万華鏡を手に取り覗き込むように、容易く行えるはずなのに。

 

何故か()()しなかった。

それとも、もしかしたら()()()()()()のだろうか。

今まであまりにも当然に行ってきたが故に、見落としていた異変。

 

もっとも、その真相は、全ての()()()を解き放った今となっては、確かめようもない事であった。

 

あまつさえ、ここで、彼は自身の記憶が、()()()()を境に、ほとんど欠落していると言っても過言ではないほど、不鮮明であることを改めて自覚した。

()()()()以前の記憶は、深い深い靄の彼方にその影をちらつかせるばかりで、まるでその全容を捉えることができない。

 

積み重ねられた状況証拠によって輪郭を得た違和感は遂に、()()()疑念へと変貌した。

 

その疑念とは、彼が『紅魔館(ここ)』に来る直前、神社で目覚めた時に覚えた感覚と同質のものであった。

それは即ち、自身が()()()()()()()への不審。

 

不意に膨れ上がる、言い知れぬ焦燥感。

覗き込んではいけない深淵に目を遣るような不安。

 

アーカードは、その身に宿す『影』と等量の、膨大で不定形な鬼胎を抱いていた。

 

「今はただ、闘争を……」

 

覆い被さる蟠りを振り払うように、そして、自分に言い聞かせるように、彼は静かに呟く。

 

そう、雑多で歪な水平思考など、()()()()()()()()()()

 

「……待たせたわね、化物」

 

と、そこで、アーカードの耳に心地よく響く声。

彼は熟考を切り上げ、声の主を見据えた。

 

傷だらけで()()()()の、しかし、それでも凛と立つ一人の女。

 

そう、咲夜は迫る絶望を掻き分け、同胞の屍を踏み進み、今一度アーカードと対峙するに至ったのだ。

 

「あの包囲網を突き破り、私の眼前に立ったか……流石だ、人間。今一度問おう。お前の名を」

 

「私は、咲夜……『紅魔館』のメイド長、十六夜咲夜よ!」

 

戦闘開始時はつっけんどんに切り捨てた問い掛けに、咲夜は高らかに名乗りを上げる。

それは、彼女がアーカードを命に代えてでも斃すべき敵と認めたことの現れであった。

 

「咲夜! いいぞ、いい名だ! いい目だ! 来い、人間(ヒューマン)!」

 

咲夜の名を聞くと、アーカードは拍手するように手を叩き、不敵な笑みを浮かべた。

 

「……終わりにしましょう。お嬢様が()()()()()()()いらっしゃる」

 

対する咲夜は懐から、大ぶりな懐中時計を取り出し、アーカードに向けて掲げる。

その勢いで時計に繋がる鎖が擦れ、金属音が涼やかに鳴った。

 

「ほう。それが、お前の切り札か」

 

「そうよ」

 

その懐中時計の天板の反対側、小物入れのようなスペースから取り出された、小瓶に詰まった液体。

 

「それは……まさか! お前()、化物になる気か!? 俺を、お前を、俺達の闘争を……彼岸の彼方へ追いやるつもりか? 俺のような化物は、()()()()()()()()()()()()()()弱い化け物は、人間に倒されなければならないんだ。やめろ人間! 化け物にはなるな……私のような!」

 

()()を見た瞬間、アーカードは血相を変えて喚き立てた。

 

いつかの光景が、ぼんやりと彼の脳裏を過る。

それは、かつて彼が今と同じように戦った一人の神父との、闘争の顛末。

 

やはり、はっきりとは思い出せないけれど。

()()に想いを馳せると、胸に穴が空くような、寂寞とした感情が襲い掛かる。

 

それはきっと、呆気ない幕切れ、望まない決着だったのだろう。

 

「これほど戦ったのに、まだ分からないかしら? 私は、ただの刃でいい。忠誠という名のナイフでいい。私は生まれながら、嵐なら良かった。恫喝ならば良かった。一つの信管ならば良かった。心無く涙も無い、ただの恐ろしい暴風なら良かった……かつては()()思っていたわ。でも、今は違う。私は、()()()()、アナタを斃し、お嬢様を護り抜いてみせる。これを飲み干すことで、それができるようになるのなら、()()するわ。さよなら、本当に大切な()()と出会えなかった()

 

アーカードの言葉を受けた咲夜は、険しい表情で歯噛みする彼に、哀れみにも似た視線を送る。

 

そして。

 

(ああ、(しゅ)よ。私は貴方の大敵である悪魔に、この魂を捧げ忠誠を誓った身。だけど、もし許されるのなら……あと一度だけ、力を貸してください。目の前の悪魔を、祓うために。AMEN(エイメン)

 

液体の蓋を器用に片手で外すと、一息に飲み干した。

 

「……!」

 

瞬間、彼女の脳裏を走馬燈のように駆け巡る、数々の記憶。

 

 

……。

…………。

 

「来い、化物ども。始末してやる」

 

来る日も来る日も、吸血鬼を狩り続けた毎日。

 

「化物はお前だろう。さっさと出て行け!」

 

その果てに、人々に迫害された日々。

 

「無様ね、人間。でも、とても……美しいわ」

 

人生の転機となった、一人の吸血鬼との出会い。

 

「望むなら、私の()()()にしてあげてもいいわ。もちろん、眷属としてではなく、よ」

 

「後悔するぞ……私は必ず、貴様を討つ」

 

気まぐれに結んだ、仮初の主従。

 

(確かに、神は居た。でも、残酷だった。祈っても、届かないなら。見守られるだけなら。私は、差し伸べられた手を取るわ。それがたとえ、悪魔の手でも)

 

幻想郷(ここ)に来た時の、諦観と誓い。

 

「それなら、アナタが私を()()()()()()()

 

いつか交わした約束。

 

「咲夜、アナタ最近おかしいわよ? すぐにぼうっとしたりして……」

 

音もなく忍び寄る不調。

 

「ま、時を弄んだ罰ってトコじゃない?」

 

「治療法は?」

 

「端的に言うと、ないわね」

 

永遠亭で突き付けられた現実。

 

「ねぇ、咲夜。貴女がどうしてもと言うなら、貴女を蓬莱人にすることだって……」

 

「それは、お断りします。それでは」

 

「ちょっと待って。これ、持って行きなさいな」

 

そこで受け入れた運命と、半ば押し付けられた秘薬。

 

そしてーー

 

……。

…………。

 

 

「何故……何故だ! 何故、お前()……!」

 

アーカードは歯軋りを響かせ、懐中時計を握り締めたまま蹲る咲夜に銃口を向けた。

 

ーー刹那、目にも留まらぬ一閃が、アーカードの首を刎ね飛ばす。

同じくして、引き金を引かれた彼の『ディンゴ』が火を噴き、咲夜の頭部を撃ち抜いた。

 

大きく仰け反った二人の体が、そのまま後方に傾き倒れるかに見えたその時、二人は自らの足で体勢を立て直していた。

アーカードの首元からは影が噴き上がり、吹き飛んだ筈の頭を形作る。

 

また、大部分を欠損した咲夜の頭部も、まるで時間を巻き戻すように元通りになっていく。

更に、負傷していた彼女の右腕も、頭部と同じように修復されていく。

しかも、それだけではない。

傷の修復を終えた彼女は、その容貌までもが、時間を巻き戻されたかのように()()()()いた。

 

同刻。

 

「貴女とこうして肩を並べて、背中を合わせて戦うなんて、何十……いいえ、何百年ぶりかしらね?」

 

「そうねぇ、月で大暴れした時以来かしら。昔過ぎて覚えていないわ」

 

「やっぱり、老け込んだんじゃない?」

 

「あらあら、手厳しいわね」

 

麗亜の傍ら、軽口を叩きながら群がる『影』を薙ぎ払い続ける幽香と紫。

 

「この気配は……咲夜!?」

 

その後ろで、レミリアは自分の使用人の変化を察知していた。

 

「ようやく、()()()になったみたいね」

 

()()、さっきの小娘の? それにしては……」

 

「私でも、わかります……これって」

 

「咲夜だ! 咲夜だよ!」

 

僅かに遅れて、他の者達も()()に気付き始める。

全てを掻き乱す魔力の渦の只中でも、確かにそれが感じられる異様に、紫を除いた一同は困惑と驚嘆の色を隠さなかった。

 

「紫……一体どういうことよ!? 何か知っているんでしょう!? 答えなさい!」

 

自身では文字通り手も足も出ない状況に焦れるばかりのレミリアは、その不満をぶつけるが如く、紫にがなり立てる。

 

「まさに彼女は、現在(いま)()()を賭けたのよ。掲げた矜持と共に生きてきた自身の過去、主人と歩むべき自身の未来……そして、それでもこの賭場に届かなかった分も借り出して、ね」

 

「だから、それはどういう……!」

 

「たとえそれが、この短い夜が明けて鶏が鳴けば身を滅ぼす、法外な利息を伴ったとしても、彼女は()()()との勝負に()()を賭けた……そう、言葉の通り()()を、賭けたのよ」

 

「まさか……」

 

紫の回答から、レミリアが思い至った恐ろしい結末。

それは、彼女にとって想像さえしたくない残酷な幕切れだった。

 

「さぁ、運命がカードを混ぜたわ。決着の時(コール)よ。賭場は一度、勝負は一度きり。相手は鬼札(ジョーカー)。それじゃあ、アナタは() かしら? ねぇ、十六夜咲夜……!」

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